ポケモン暮しの庭   作:ゲーマーN

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1日/3F 村廻

 おいしい。たったひと口食べただけで、それしか考えられなくなった。優しい甘さのあとに少しだけ広がる辛さがくせになって、スプーンが止まらない。じゃがいももにんじんも、噛むたびにほろりと崩れていく。エビフライはさくっと音がして、中はぷりぷり。リンゴはしゃくっと甘くて、口の中がすっきりする。

 いただきますから二十分も経った頃には、お皿の上はきれいさっぱり空っぽになっていた。

 

「ごちそうさま!」

 

 ぽっこり膨らんだお腹を撫でる。もう、いっぱい。何なら、限界以上に食べたかもしれない。でも、不思議と苦しくはなかった。むしろ体が軽く、たくさん食べた分だけ力が湧いてくるような感じさえする。

 

「また食べたいなぁ⋯⋯」

 

「ならアメさん、いつでもどうぞっス」

 

 歓迎してくれるのは嬉しい。けど――アメは財布の中身を思い出す。25ポケ。あるのは、たったそれだけ。今日だって、リンが奢ってくれたから食べられた。これからこの村で暮らしていくのなら――お金は絶対、必要になる。もちろん、またご飯を食べるためにも⋯⋯。う~ん、どうしよう⋯⋯。どうしたらいいのかな。そんなことを考えながら、コマコと一緒に店を出る。

 

「辻で待ち合わせって言ってたから⋯⋯そうだ、君にこれを渡さないといけないのを忘れてた」

 

 コマコは翼の下に抱えていた四つ折りの紙を取り出すと、翼の先でそれを器用に挟み、そのままこちらへ差し出してきた。

 

「これ、なに?」

 

「それは村の地図だよ。アメ、見てみて」

 

 紙を広げると、そこには彼ヶ津(カガツ)村を中心に、周囲の山や森、川などが詳しく描かれていた。村の内外に伸びる道や、建物、施設の位置まで丁寧に示され、茶碗亭や村長邸などのとりわけ重要そうな場所は黒い四角に白い字で、それ以外の地名は黒い細字で書き分けられている。

 ただ、ひとつだけ気になる点があった。山の奥に、大きく「穴」とだけ記された場所がある。しかも、位置からして――間違いない。自分が眠っていた、あの場所だ。なんであそこが⋯⋯?

 

「これで、村のどこに何があるか大まかにわかるね。確認したいことがあったら、地図を開いてみるといいよ」

 

「うん、わかった」

 

 とはいえ、考えていても仕方がない。いったん疑問は横に置いておいて、もう一度地図全体に目を通す。ふむふむ。しばらく眺めたあと、元通りに畳んでカバンのポケットへしまい込んだ。

 

「じゃあ、アメ。これから村を案内するんだけど⋯⋯そうだ、せっかくだし、村のみんなにも紹介しなきゃね。この時間なら、誰かしら外にいると思うから、お散歩しながら探しに行こう」

 

 村の入口の方へ戻り、ロゼリア雑貨店というお店の前を通り過ぎる。その店の脇、川との間に置かれたベンチに、右手に赤、左手に薄い青の薔薇の花を咲かせたポケモンが腰掛けていた。

 いばらポケモンのロゼリア。人間の女性めいた体つきをしており、胴体の前面を覆う、前掛けのような大きな葉っぱが特徴の草ポケモンだ。頭部には三本の大きなトゲが付いているほか、ジグザグとした前髪に似た模様も入っている。

 

「こんにちは、サザンカさん」

 

「あ、コマコじゃん。これからちょっと用事があるから。さっき、店閉めちゃったよ」

 

「大丈夫だよ、今日はお買い物じゃないから」

 

「なら、いいんだけど⋯⋯」

 

 そこでふと、サザンカは視線を横へ滑らせた。一拍置いて、訝しげに首を傾げる。

 

「ところでそれ……誰?」

 

「この子は、アメ。山で迷子になっちゃったみたいで⋯⋯」

 

「迷子⋯⋯? こんな山奥の辺鄙な場所に?」

 

 サザンカの反応も無理はない。地図だけでも、彼ヶ津(カガツ)村が豊かな自然に囲まれた僻地にあることは伝わってきた。村の住民である彼女なら、そのことはなおさら理解しているはずだ。

 

「だから私たちで、帰るお家を探してあげるんだよ」

 

「へぇ~、大変じゃん。がんばってね」

 

「うん! またね!」

 

 アメもペコリと頭を下げてサザンカと別れる。なんとなく川岸へ寄れば、ぴちょん、と水の跳ねる音が聞こえた。見れば下の水辺で、カエルを思わせる二足歩行のポケモンが釣りをしている。どくづきポケモンのグレッグル。糸の先を睨む眼差しは真剣そのもので、声をかけるのも躊躇われるほどだった。

 

「あっ⋯⋯トバリ⋯⋯こんにちは⋯⋯」

 

「⋯⋯」

 

「あ、あの⋯⋯」

 

「さっきリンが騒いでいたのは、その子のこと?」

 

「う、うん⋯⋯アメだよ」

 

 トバリは竿を引き戻すと、糸を巻き取り、釣り道具を手早く片付けた。作業の途中でアメを一瞥したものの、さして関心を払うでもなく背中を向け――

 

「あ⋯⋯」

 

「⋯⋯何?」

 

「な、なんでもないけど⋯⋯」

 

 ジロリ。無言の圧に、コマコの翼がびくりと震えた。”おどろかす”でもされたかのように、口をぱくぱくさせるばかりで言葉が出てこない。そうして二の句を継げずにいるうちに、トバリは足早に川沿いの釣り場から離れていった。

 

「⋯⋯うう、また怒らせちゃったな⋯⋯」

 

「っ⋯⋯」

 

「アメ? ありがとう⋯⋯」

 

 きゅっと翼を握られたコマコは、俯いていた顔を上げる。触れた掌の優しさから、励ましてくれているのだとわかり、胸の内に張り詰めていたものがゆるやかにほどけていく。⋯⋯よかった。なんとか、元気を取り戻してくれたみたい。と、アメもほっと息をつく。

 心機一転。次に二人が訪れたのは、桜の木々が枝を広げる広場。ひっそり、木陰に寄せて古びた石造りの台が据えられており、ぽつんとひとつ、ポケモンのタマゴが供えられていた。

 

「あ、コマコ。こんな時間に珍しい。なにしてるんだ?」

 

「スミレくん、ヨウちゃん、こんにちは。この子⋯⋯アメは山で迷ってて⋯⋯村まで連れてきたんだ」

 

「ふーん、なるほど、だから仕事を切り上げて戻ってきたんだ」

 

 スミレ――ウサギのように長く伸びた耳を持つポケモン、イーブイが納得したように頷いた。仲良しなのかな? コマコとスミレの間には、互いをよく知る者同士の気安さが滲んでいて、自然体で向き合う姿が親しげに見えた。

 

「二人はタマゴを見に来たのかな?」

 

「うん、この子、早く産まれてこないかなって」

 

「ヨウが、気になるって聞かなくて⋯⋯」

 

 もうひとつのタマゴ――いや、違う。卵の殻を着込んだ、短い四肢と頭にある五本の突起が特徴のポケモンが、無事に生まれるよう願うかのようにタマゴを撫でている。はりたまポケモンのトゲピー。他の誰かが発している優しさや楽しい気持ちを幸せとして殻の中に溜め込み、それを優しくしてくれた相手に分け与えると言われているポケモン。

 トゲピーがこんなに願ってくれるんだから、この子も幸せに生まれてくるんだろうなぁ……。

 

「それよりコマコはそいつと話していいの?」

 

「?」

 

「リンに怒られなかったか?」

 

「え⋯⋯うん。緊急事態だし、子どもだから⋯⋯」

 

「ふーん、なるほど」

 

 どうしてこっちを向いたんだろう? 視線の意味がわからず、きょとんと首を傾げる。

 

「じゃあ、アメの案内があるから⋯⋯」

 

「おう。次はどこに行くんだ?」

 

「ハスミさんのところに行くつもり」

 

 道中、コマコから聞かされた話によれば――ハスミという人は、スミレのお姉さんらしい。イーブイ診療所で、村の医者代わりをしてくれているリーフィアなのだとか。

 弟のスミレより一回り二回り大きな体。くさタイプらしく植物の要素が色濃く出ており、体の各部から芽が伸び、耳と尻尾も葉っぱの形をしている。ツンとくる……というほどではないが、青々とした草のような匂いを漂わせていて、どこかお医者さんらしい清潔感があった。

 

「こんにちは、ハスミさん」

 

「あら、こんにちは。コマコと⋯⋯」

 

「この子は、アメっていうの」

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 ⋯⋯また。アメは、心の中で呟いた。初めて会ったときのキスケも、同じように固まっていた。大人の人たちは、昔の自分を知っているのだろうか? じっと、ハスミの顔を見つめる。

 

「⋯⋯ハスミさん?」

 

「え、ええ、ごめんなさい。どこかで、会ったことがあるような気がしたので⋯⋯」

 

「もしかしたら、キスケさんが言ってた昔の尋ね人のチラシかも」

 

「そうかしら⋯⋯そうかもしれないですね⋯⋯」

 

 狼狽の色を残したまま、それを無理矢理飲み込んで、微笑みを取り繕うハスミ――

 

「アメ、この人がハスミさんだよ」

 

「コマコが言ってた、村のお医者さん?」

 

「え⋯⋯あ⋯⋯い、いえ⋯⋯それは⋯⋯」

 

 ――だったが、お医者さんという言葉を聞くや否や、またも顔を引き攣らせた。⋯⋯? 私、なにか変なことを言ったかな? 口を開いたまま、ハスミは答えに窮したようにあちこちへ視線を彷徨わせる。

 

「私は医者などではありませんよ⋯⋯。ただ、医学を少し学んだことがあり、漢方薬を調合できる程度で⋯⋯」

 

「でもハスミさんが塗ってくれるお薬は、すごくよく効くんだよ。私はよく怪我するから、いつもお世話になってるんだ⋯⋯」

 

「素人の手当てで構わないのであれば、遠慮しないで来てください。怪我を放置するほうが危険ですから」

 

「うん。怪我したら、ハスミさんのところに行くね」

 

 バイバイと手を振り、村巡りの続きへ。のんびり歩いていると、注連縄が巻かれた大きな岩と井戸のある建物が目に入った。そこでコマコは立ち止まり、何気なく空へ顔を向ける。

 

「そろそろリンとの約束の時間だね。リン、せっかちだからもう待ってると⋯⋯」

 

「おや、コマコちゃん。見慣れない子を連れてるね」

 

 そろそろ約束の時間――というところで二人の前に現れたのは、キバさそりポケモンのグライオン。鋭いキバを剥き出しにした、恐ろしげな外見とは裏腹に、ひどく朗らかな声で、気さくに話しかけてきた。

 

「こんにちは、ユータさん。この子はアメ。さっき村に来たばかりなの」

 

「じゃあ、ここに住むんだね! ここはいいところだよ~?」

 

「えっと⋯⋯」

 

 ここに住む。リンも手筈を整えると言っていたし、これから必要になるお金のことだって考えていた。⋯⋯だけど。たじろぐアメを見かねたのか、すかさずコマコが助け舟を出す。

 

「ち、違うよユータさん。この子は迷子なだけだから、お家を探してあげなきゃいけないの」

 

「えっ、せっかく来たんだから、ゆっくり村暮らしを楽しめばいいのに」

 

「確かに、お家が見つかるまでは住むことになっちゃうだろうけど⋯⋯」

 

「それは大変だ! 一度住めば、帰りたくなくなっちゃうだろうから!」

 

 本当にこの村が好きなんだろう。ユータの口から、村自慢が次から次へと飛び出してくる。

 

「ねえ、アメ。俺のことはユータって呼んで! 困ったことがあれば気軽に相談してね」

 

「うん。よろしくね、ユータ」

 

 ユータは倍以上ある身長差を埋めるように屈み込む。目と鼻の先まで下りてきた自分と同じくらい大きな紫色のハサミを、アメは怖がる素振りもなく小さな両手で掴んだ。

 これから用事があるというユータを見送り、それから改めてコマコと互いに視線を交わす。

 

「それじゃ、今度こそリンのところに行こっか」

 

「うん!」




名前 :アメ
性別 :メス
種族 :リオル
レベル:Lv.6
タイプ:かくとう
特性 :せいしんりょく / いたずらごころ / ???
持ち物:――
元ネタ:【ほの暮しの庭】より『アメ』

カバン(容量12個)
・25ポケ
・オレンの実



ポケモン紹介

名前 :サザンカ
性別 :メス
種族 :ロゼリア
タイプ:くさ / どく
特性 :しぜんかいふく
備考 :ロゼリア雑貨店の店主
元ネタ:【ほの暮しの庭】より『サザンカ』

名前 :トバリ
性別 :メス
種族 :グレッグル
タイプ:どく / かくとう
特性 :どくしゅ
元ネタ:【ほの暮しの庭】より『トバリ』

名前 :ヨウ
性別 :メス
種族 :トゲピー
タイプ:フェアリー
特性 :てんのめぐみ
元ネタ:【ほの暮しの庭】より『ヨウ』

名前 :スミレ
性別 :オス
種族 :イーブイ
タイプ:ノーマル
特性 :てきおうりょく
元ネタ:【ほの暮しの庭】より『スミレ』

名前 :ハスミ
性別 :メス
種族 :リーフィア
タイプ:くさ
特性 :リーフガード
備考 :イーブイ診療所で村の医者代わりをしている
元ネタ:【ほの暮しの庭】より『ハスミ』

名前 :ユータ
性別 :オス
種族 :グライオン
タイプ:じめん / ひこう
特性 :ポイズンヒール
備考 :みがまもグライオン
元ネタ:【ほの暮しの庭】より『ユータ』
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