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―――あなた方にはここで果てて頂きます。理由はおわかりですね?―――
―――どうせ確信犯なんだろ?話しても仕方ない―――
―――所詮は獣だ、人の言葉も解さんだろう―――
―――殺しすぎる…お前らは…―――
―――私の蒔いた種だ…刈らせてもらうぞ―――
懐かしい夢を見ていた。何度もくじけそうになった。何度もアセンをいじくりまわした。それでも勝てなくて一度目は誉を捨てて勝った。勿論それで終わりじゃない。別の依頼を受けてチップを集め、二段QBも練習して、APギリギリで勝利したと聞きの達成感は今でも脳にこびりついている。この先どんな人生であっても決して忘れられない大切な思い出たち。
そう例え世界が変わろうとも忘れられないのだ。
「―――! ――郎! もう朝よ、起きなさい!」
「ん……んぅ……あぁわかった。もう起きるよ、母さん」
今生の母親の声に夢から目覚めてのっそりとベッドから起き上がる。――つぅ……首がパキッて鳴りそうでならない。……まぁいいや。鳴らないなら無理にならす必要もない。顔洗って着替えてさっさとリビングに向かおう。
俺は二つを手早く終わらせてリビングに向かい、母さんが用意してくれた朝食を食べる。
「父さんはもう研究所?」
「えぇ、私ももうすぐ出るわ。いつも通りお皿は水につけておいてくれればいいから」
「わかった」
「それじゃあ、行ってくるわ。あなたも気を付けて学校行くのよ」
「うん。いってらっしゃい」
そういって母さんは俺の頭を一撫でして家を出ていった。両親とも同じ研究所に勤めていて本当に忙しそうだ。人によっては冷たいとか、子供一人放置して仕事にでかけるなんて、と思うかもしれないが俺にとってはこれくらいの距離感のほうが気楽で助かる。
今生の両親、どちらも子供思いで優しいのだが、二人とも若くして研究所の所長、副所長なもんで多少金銭感覚の面で違いがあったり、俺が前世の両親を忘れられないせいでちょっと俺のほうが遠慮……というか距離をとってしまっている状態だ。
「はぁ……ツラいわぁ。普通こういう転生とかってもっと人生絶望したやつとかが行くべきだろ。俺、前世結構幸せだったんだけどなぁ」
そう呟きながら朝食を片づけて鞄を背負う。そろそろいつものがやってくるはず……。
――ピンポーン――
そら来た。インターホンが鳴ったので踏み台を踏んで画面を見る。するとそこには茶髪のツインテールがぴょこぴょこと映っていた。
「おはよう」
『あ、おはよう、くー君! 一緒に学校行こう!』
「あぁ、ちょっと待ってて」
俺はインターホンを切って家の中を見て回り忘れていることがないかを確認して、俺がいつの間にか持っていたと両親に説明された二つのアクセサリーをお守り替わりにこっそりポケットにしまい、家を出る。
「くー君、おはよ!」
「あぁ、おはようなのは」
俺が家を出るとすぐに抱き着いてくるインターホンを押した少女。彼女の名前は高町なのは。うちの隣のこれまた大きな家に住んでいる女子だ。抱き着いてきたなのはの頭をなでながら視線を横に向けると高町家の玄関先でなのはのご両親がこちらを見て笑っていた。
俺は二人に向かって頭を下げた後、なのはと手をつないでバス停へと向かっていった。
「さ、バスが来るまで時間はあるけどのんびりとしてはいられない。さっさと行くぞ」
「うん!」
なのはとの付き合いは……五歳のころだったか? もともと住んでる家が隣ということもありそれなりの付き合いをしていたが、ある日夕暮れの公園で一人泣いているなのはを放っておけずに声をかけたのが始まりだったか。俺は自分の隣を笑顔で歩いているなのはに目を向ける。すると俺の視線に気が付いたのかなのはが俺のほうを見つめ返してくる。
「くー君、どうしたの?」
「……ごめんな、なのは。俺、昔みたいに優しくないだろ」
「くー君……」
あの時はまだ良かった。体が今よりも小さくていくら前世があるとは言ってもできることに限りがあった。いきなり転生とかいう訳のわからないことになって頭が混乱して現実を軽く受け入れられていなかった。だからこそ、周りに優しくできていた。
しかし今は小学生。ある程度一人でできることも増えた。増えてしまったのだ。図書館やインターネットで調べものもできる。そこで俺は正しくこの世界を認識してしまった。『この世界に俺の好きなものが何一つない』ということに。 子供の頃、夢みたヒーローはいなかった。夢に見る程興奮した物語は描かれなかった。夢中になったゲームは生まれなかった。俺の前世の家の土地は更地のままで、前世の家族は存在しなかった。
俺は笑えなくなった。世界から色が消え失せ、体から力が抜けた。もう、何もしたくなかった。
「ううん。確かにくー君、あんまり笑わなくなっちゃったけど今でも優しいままだよ」
なのはが俺の手を力強く握ってそう言い聞かせてくれる。
「だって本当に優しくなくなってたらそもそもそうやって謝らないの!」
「なのは……」
すでに生きる気力がなくなっていた俺が今もこうしてだらだらと生きているのはほかでもないなのはのおかげだった。『こんどはなのはがくー君を助けるの!』と宣言したなのはは俺の手をとって様々な遊びに誘い少しでも俺の気分が晴れるように尽力してくれた。
「……俺と友達でいてくれてありがとう」
「んふふふ、どういたしましてなの!」
最終的に俺の気力を再び立ち上がらせたのは両親が見せてくれた赤ん坊の俺がいつの間にか握っていたという二つのネックレス。パーツが細く尖っていて危ないからという理由で今までしまっていたらしい。
まるでサインのようにも見える赤い線のネックレスと惑星か分子を模した黄色い円形のネックレス。どちらも企業名はない、それでも俺はこの形だけでこのネックレスが何を意味するのかは理解できる。レイレナードとオーメル・サイエンス・テクノロジーのロゴだ。この世界にフロムは無かった。それならなぜこのネックレスは存在する? その理由はわからなかった。けどわからなくてもよかった。前世の思い出の欠片が俺の手の中に確かに存在した。それだけで当時の俺はうれしくて幸せだった。
「ほら、バスが来たぞ」
そんなわけで俺を元気づけたのは今もポケットに忍ばせている二つのネックレスだがなのはが俺のためにしてくれた努力は決して無駄なんかではなく今も楽しい思い出として俺の中に残っている。本当に俺には勿体ないぐらい素敵な友達だ。
なのはの手を取ってバスに乗ると2人の女子が俺たち二人に向かって手を振っていた。
「なのはちゃん、九郎くん!」
「なのは、九朗こっちよ!」
「おはよー! すずかちゃん、アリサちゃん!」
「おはようアリサ、すずか」
俺となのはに話しかけてきた金髪と暗めの紫髪の女子。金髪で勝気なアリサ・バニングスで紫髪でお淑やかそうなのが月村すずか。どちらもかなりのお嬢様で二人の家に初めて行ったときは開いた口が塞がらなかった。……新旧BFFの女王はきっと二人を成長させた感じなのだろうか……?
「どうしたのよ。その……人の顔見て考え込んで?」
「ん?」
アリサがじっと見ていたのに気が付いたのかモジモジと髪の毛の先を指で弄りながら聞いてくる。
「なんとなく、女王様ってこんな感じなのかなってアリサとすずかを見ていたら思って」
「なにそれ? どんな想像よ?」
「それなら九郎くんは私の従者になってくれるのかな?」
俺の言葉に二人のお嬢様はクスクスと笑う。んー、王小龍ルートは勘弁願いたい。
「ねぇ、なのはは? なのはは? お姫様って感じはしないの?」
「……しない」
「なっ!?」
「……ドジっ子メイド?」
どう考えても女王様って感じはしないな。良くてへっぽこ勇者がいいところだろう。
「もう、私そこまでドジじゃないよ!」
「と、申してますが」
「なのは、さすがにちょっと擁護できないわ」
「にゃ、にゃにおーー!?」
アリサの言葉になのはがショックを受けた顔をしてアリサとじゃれあいを始める。それをすずかと二人で笑いながら見守る。なんとも騒がしい登校になりそうだ。
私立聖祥大附属小学校3年生、烏丸九朗。転生生活それなりに楽しんでます。