────────────────────────
結局あのあと、俺は気絶しているなのはとユーノを背負ってすずかたちの元に戻った。ユーノを追っかけている最中になのはが転んで怪我をしたことにしてすずかに助けを求め、月村邸のベッドでなのはを寝かさせてもらった。
そのあとはなのはの家族に連絡して迎えに来てもらった。なのはの怪我は軽度の物で数日安静にしていればすぐに治るらしい。
そんなことがあった日の夜。俺は自室でなのはとユーノの二人と念話をしていた。
「(今日は色々あったね)」
「(うん……)」
俺はアルフのほうに勝ったから何ともないが、なのはとユーノの二人はフェイトに敗れ、ジュエルシードを奪われたのがショックだったようで結構気落ちしている。
「(くー君)」
「(ん?)」
「(あの子が前くー君が会ったっていう魔導士?)」
「(あぁ)」
「(九朗に話をされた時から予想はしていたけど、あのデバイスにバリアジャケット、使用している魔法体系、多分……ううん、間違いなく僕と同じ世界の住人だ)」
なんだっけ? 確かみっどちるだ? とかいう魔法体系だっけ?
「(ジュエルシード集めをしていたら、あの事またぶつかっちゃうのかな……)」
なのはが弱気な声でそんなことを言い出した。
「(間違いなくぶつかる。というか俺は既に遭遇三回目なんだが? 怖くなったか?)」
「(ううん。どうしてかはわからないけど……あの子のこと、怖くはないんだ)」
「(ほう?)」
「(え?)」
俺がなのはを見つけた状況からして結構派手にやられたと思うんだけど怖くない、とは。もしかしてなのはも思ったより好戦的なタイプなのか? だとしたら俺の抱えている問題が少しは片付いてくれるんだけど……。
「(また戦うことになるかも知れないことも、なんだか悲しいような……寂しいような……そんな複雑な気持ち……)」
んー……なんかちょっと違う感じかな。
「(……あのね、なのは、九朗。あれから考えたんだけど、やっぱりジュエルシード探しは僕一人で―――)」
「(ストップ!)」
「(はぁぁぁ!?)」
「(そこから先を言ったら怒るよユーノくん!)」
「(そうだぞ、ユーノ! まぁたお前はこんな楽しいことを独り占めしようっていうのか! ぶっ飛ばすぞ!)」
もぅ、あのフェレットもどきはまーた変な罪悪感を背負い込みやがって!
「(だってなのは! それに九朗も!)」
「(ジュエルシード集め、最初はユーノ君のお手伝いだったけど、今は違うの。私の意志で、やりたいからやってることなの。『自分なりの精一杯』じゃなくて、『本当の全力』で! だから一人でやるなんて言ったら怒るよ)」
……戦いに向けるスタンスはちょっと違うっぽいけど、全力で強くなろうとしている。これはいい傾向かも。
「(なのは、本当にいいの? 怪我もしたのに……)」
「(気にするなよユーノ。本人がやりたいって言ってるんだやらせてやれよ)」
「(うん。お願い私にやらせて。でも怪我しないように、みんなを心配させないようにならないといけないの。だから、ユーノ君。教えて、魔法の上手な使い方!)」
「(分かった!)」
「(レイジングハートもお願い!)」
「≪勿論です≫」
うまく話はまとまったみたいだな。
「(あと、くー君?)」
「(ん?)」
「(さっきの楽しいってどういう―――……ううん、やっぱりなんでもない! ごめんね、お休み、くー君!)」
「……あぁ? お休みなのは」
装威つて念話を終了させる。 んー? 結局なのはが何を言いたいのかわからなかったが……。ま、最後のほうは明るい声だったし大丈夫だろう。何かあればまた今度確かめてみればいい。
さてと……。
「問題は俺の方だよなぁ……」
ベッドにごろりと寝っ転がり天井を見つめる。考えるのは俺自身のこと。
「……俺は結局、戦いを楽しみたいだけだった。けど……その戦いすらも純粋に楽しめなくなってる」
俺の精神状態が問題だった。俺の根っこの部分、つまり本音としては『町も、友達も、家族もどうでもいい。ただ体が闘争を求めるままに戦い続けたい』のだ。しかし、それをするにはあまりにも建前が育ち過ぎたんだ。
「俺って、結構絆され易い性格だったんだなぁ……」
町が、家族が、すずかが、アリサが……なのはが、大好きに
「ぅぅぅぅぅ……」
自覚すると顔が一気に赤くなりたまらずうつ伏せになり、枕に顔を押し付けて恥ずかしさをごまかすように足をバタバタとさせる。
アリサやすずかを邪魔だと思いながらも、大好きで守りたいとも思ってしまい。なのはをイレギュラーとして倒したいと思いつつ、彼女が支えてくれた日々の思い出がそれを阻む。くす姉の存在を疎ましく思いながらも、愛おしく思う。純粋に闘争のみを楽しむには俺はあまりに人間性がありすぎた。そのあり過ぎる人間性が闘争に傾こうとする自身の心をどこまでも殴りつけてくる。
「……せめて中学生ぐらいまで闘争に出会ってなければ……」
それくらいまで決して満足することができない状態が続いていれば、あるいはそのくらいまでになのはの様な友人たちと出会えていなければ……なにかの拍子に弾けて人間性をもっと捨てることになり、今以上に闘争にのめりこんでいただろうと思う。
なのはに、すずかに、アリサに、家族に嫌われるのが怖い。戦うのが好きという本音をさらけ出して受け入れてもらえるのかがわからない。わからないから、怖い……。
戦いたい! でも大好き! こう文言だけなら随分アーマードコアって感じだけど……俺はマギー達のように吹っ切れることができない。
「人間性があり過ぎるが捨てることできず、失いたいとも思えない……」
どうしたら、良いんだろうなぁ……。
────────────────────────
俺は当てもなく、町を歩いていた。なのは達は温泉に着いた頃だろうか。少し前になのはから、というか高町家から旅行に誘われたが、ちょっとこの悩んでいる状態でなのは達と旅行するのは気まずくて今回は断らせてもらった。
まぁ、いつも学校では一緒だったしたまにはこうして一人で散歩するのも悪くない。
「……一人で、とか言いながら無意識でこの辺りに来ているあたり、自分の惚れっぽさにびっくりするよ」
あたりの景色に目を配る。少し大きめの道路、行きかう人々、少し前に新しい出会いをするきっかけになったバス停……。
ん? なんだか見覚えのある車椅子が……。って、マジか。なんとなく『会えたら良いな』と思って散歩していただけなのにドンピシャか。
俺は相手がこちらに気が付いていないのを確認して車椅子の後ろから徐々に近づく。ある程度近づくと車椅子に少しだけ寄りかかるようにしながら声をかける。
「今日はタイヤがハマっていないみたいだな。良かったよ」
「九朗くん!?」
俺が声をかけるとグリンッと上半身を車椅子の上でひねって俺のほうを向く車椅子の少女こと、八神はやて。
「久しぶり……っていうほど間は空いてないな。こんにちは、はやて」
「うん、こんにちは! 今日はどうしたん? 荷物からしてまたプールってわけとちゃうやろし……散歩? もしかして……このはやてちゃんに会いとうて探し回っとったとか?」
おぉ、はやては勘が良いみたいだな。
「その通り、正解だ」
「え、えぇ!? あ、そ、そうなん……」
「ああ、はやてに会いたかった―――ん? どうかしたか?」
途中ではやてが顔をそらしたので何かあったのかと正面に回るがそれでもはやては両手で自分の顔を必死に隠そうとしている。
「う、うへぇ……ちょ、ちょっと今こっち見んとって! ちょっと揶揄おうとしただけやのに、こんなまっすぐに返されるとは思わんかった……」
「はやて?」
詳しいことは分からないが車椅子に乗ってるしどこか体の調子が悪いのだろうか? なにかできることがあるなら手を貸してやっても良いんだが……。本人がそう言った不調や助けを口にしないなら大丈夫なの……か?
「――っし! もう平気! そうや、九朗くん! これから予定ある? なかったらお昼ご馳走さしてや! こないだのお礼っちゅうこって! 今から買いもんだしリクエストにも応えるわ!」
頬を数回叩いたはやては顔を上げて俺にそう提案してくる。……んー、確かに予定もないし、昼も一人の予定だったしそれでいいかも。
「それじゃぁ、お願いする。……あ、荷物持ちは俺がするから安心しろ」
「そう? 車椅子にのっけた方が楽やと思うけど?」
「それで足元が見え辛くなってまた溝にはまった方が大変だからな」
「あ、言うたなぁ!」
ゴスっとはやてが肘でつついてくる。たまらず俺は車椅子の後ろに回り込み車椅子を押すことで追撃を逃れる。そしてはやての指示通りに車椅子を進ませ、二人で買い物をするのだった。
────────────────────────
「いやー、九郎君がいて助かったでー。おかげでお一人様1パックの卵も二個買えたし、ありがとうな」
「それぐらいなら別に……」
買い物のあとはやてに連れられて彼女の家までやってきた。なのはたち以外の家にお邪魔するのって新鮮かも……。にしても―――
「そんならすぐにお昼の準備するからちょっと待っといてな」
「なにか手伝うか?」
ん? ええの、ええの。九郎君はお客様なんだしゆっくりしとって」
随分と人の気配がしない家だ。
「美味しい……」
「そう? お口に合ぉたみたいでなによりや」
それから少ししてはやての作った料理をご馳走になった。はやての料理の腕はびっくりするほど高くてとてもおいしかった。
「いや、本当においしい。ありがとう、はやて。きっと将来はやてと結婚する人は幸せだろうな」
「え、えへへへ、そう思うん?」
照れくさそうに頭を掻くはやて。流石にご馳走になってなにもしないわけにはいかないので二人で洗い物して、そのあと一緒にゲームしたりおしゃべりして夕方まで過ごした。時間も時間だしそろそろ帰ろうかと思って居た頃、はやてが俺の腕をつかんで衝撃的なことを言い出した。
「あ、あんな。今日、良かったら泊まっていかへん? 明日もお休みやろ? それにこんなに友達とお喋りしたりするの久々でその……もっと話しときたい、ちゅうか……。一緒におりたいくて……。お夕飯もご馳走するし、ほら! 九朗くん、ウチの料理を食べる人は幸せやて言うてくれたやろ? そやから、ね? ……あかん…かな?」
必死に引き留めるように早口になるはやて。この時間になっても姿を現さないはやての両親、いつも一人で買い物をしているはやて、この必死な様子、もしかして……。
「帰る」
「え、あ……そっか。ごめんな、引き留めて」
「急に泊まるってのも大変だからな、一度帰って俺の親に説明して着替えとか持ってくるよ」
「……! うん! お夕飯の準備して待ってるな!」
・闘争を楽しみたい、他のこと全部邪魔って心と邪魔なんかじゃない、彼女たちとの大切な思い出を思い出せって心の二つがある九朗君。
・もっと精神がギリギリまですり減ってて人間性が限界に近かったらドストレートに修羅と化せていた九朗くん。けどそうなるには『この九朗くん』はあまりに若く、人間性があり過ぎていた。
・狸少女、再びの登場。因みに最初のやり取り、九朗くんが車椅子に寄りかかるような体制のため、はやてちゃんは耳元近くでこう囁かれているわけです。ご存じの方はご存じかと思いますが九朗くんの見ぬ目は男性化させたウマ娘のドリームジャーニーをイメージしています。CV吉岡茉祐の低めボイスで耳元囁きASMRです。女子小学生に与えていい刺激か、これ?
・九朗くんはリクエストはしませんでしたが苦手なものだけ伝えておきました。オクラです。
・九朗くんはなのはの家やアリサ、すずかの家に泊まったこともあったためそこらへんの動揺はありません。