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「―――ということで数日か数週間家を空けたいんだ。……お願い!」
俺は夕飯の食卓で家族に管理局が用意してくれたカバーストーリーを話して家を空けさせてほしいことを話した。
「い……」
「い?」
話し終わると父さん、母さんは考え込んでいるがすぐに楠姉ががたがたと震え出した。
「嫌だァアアアアッッ! そンなン、絶対ェ認めねェぞ! もしそンなことになったらいっつも九朗の寝顔見てから朝練行くルーティンが出来なくなっちまうだろうがァ! あれがねェとやる気でねェんだよ……! 嫌だいやだ嫌だぁぁああ!」
「まって何それ初耳」
椅子から降りてまるでおもちゃを買ってもらえなくて駄々をこねる子供の用に床で転がる楠姉……。おい、あんた一応学園だとダウナーギャルキャラでその上、陸上部のトップエースで女子生徒からモテモテなのに……。キャラ崩壊ヤバいぞ。
「楠奈ほどではないが、九朗のしようとしていることは危ないかもしれないんだろ? やっぱり親としてはそういったことは避けてほしいというのが本音なんだが……」
父さんは腕を組みながらそう話す。
「うん、何となくだけど分かるよ、父さんの言いたいこと。大切な人に傷ついてほしくない、危険なことはできるだけ避けてほしいって気持ち」
「それが分かるなら私たちの言いたいことも分かるでしょう? それに大人の人もいるんだからその人たちに任せることはできないの?」
悪いな母さん。その……対応できる大人は俺がボコボコにしちゃったんだ。――とは口に出せない。
「任せることはできる……かもしれない。けど一度乗り掛かった舟なんだ。最後までやり遂げたい。それに……なのはを一人にできないんだ」
「なのはちゃん?」
俺がそういうと母さんが首をかしげる。
「うまくは言えないけどなのはも巻き込まれてるんだ、この一件。俺が行かなかったらなのはが一人で大人たちの間で頑張ることになる。一人で危ないことに向かっていく。あいつはどれだけ危険なことも『人の役に立てるなら』って突っ込んで行けちゃうある意味ヤバいやつなんだ。だからなのはの危険を少しでも減らしてやりたい」
「……父さんの話が少し分かるといったのはなのはちゃんの事か」
「うん」
顔を見合わせて再び考え込む両親。楠姉はまだ地面で転がっている。俺は両親に向かってもう一度頭を下げる。
「俺、初めてこんなに真剣に熱中できることを見つけたんだ。だからどうか、最後までやらせてほしい! なんか……こう、俺が生まれてきた意味、生きる目標とか色々大事なものの
「生まれた意味なんて親父とお袋がズッコンバッコンしたからに決ま――」
「楠奈、お口チャックよ」
楠姉ェ……。
「決意は、固いみたいだな」
「親父ィ!?」
「正直楠奈も弟離れしないとそろそろ大変だしね。丁度いいかしら」
「お袋ォ!?」
「条件がいくつかある。それが守れるなら行ってヨシ」
「分かった!」
父さんはそう言って真剣な表情で俺を見て楠姉が絶望して意気消沈した。
「一つ、周りの大人の言うことはよく聞くこと。二つ、途中で投げ出さず最後までやりきること。三つ、なのはちゃんと一緒に無事戻ってくること。この三つを守れるなら行って来い」
「うん。絶対守るよ!」
父さんと約束をしてギュッと手を握る。すると母さんが横から俺と父さんの手に自分の手を重ねてくる。
「四つ、最悪三つ目の約束を守るためなら一つ目と二つ目の約束は破ること。良いわね」
「うん」
確かになのはは絶対に守らないとな。
「五つ……終わったら姉ちゃんに沢山構うことォ~」
「く、楠姉……。分かったよ」
よろよろと楠姉が立ち上がってさらに約束を付け加えてきた。そんなこんなで俺は計5つの約束を家族としてジュエルシード捜索に加わることになった。
「さてと……もう一人、伝えなきゃいけないやつがいるよな」
俺は家族に協力してもらいその晩の内に長期滞在の荷物をまとめ家を出た。目的地はアースラではなく、少し離れた位置に住む、もう一つの家族のような関係になってしまった少女のところだ。
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「すまないな、急にお邪魔しちゃって」
「ええの、ええの! どうせ一人で暇してん、気にせんとって! なんやったらもっと来てもええんやで?」
俺は八神家にお邪魔していた。はやては夜更けに急に俺がやってきたにも関わらず笑顔で俺を出迎えてくれた。明らかに長期滞在用のキャリーバッグを見てから妙に機嫌が良いが……勘違いさせたかこれ? はやてが出してくれたお茶を頂きつつそんなことを思う。
「そやけどほんまええタイミングやったで。もう少し遅かったらお風呂入っててチャイムに出れへんかったかも」
「ま、それでも大丈夫だ。今日はどうしてもはやてに会いたかったからな。一時間置きにチャイムならして出てくるまで待ったさ」
「なんや? 九朗くん、はやてちゃんのこと大好きすぎへん?」
はやてはテーブルの反対側でくすくすと笑う。その手とって握りしめる。
「その通りだけど?」
「ピエッ」
「だから、はやて……今日は大事な話をしに来た」
俺にとってはやては既になのはやアリサ、すずかと同じくらいに大事で大好きな人間の内に入ってしまっている。だからこうして俺は伝えなくちゃいけない。
「だ、大事な話って一体なんやろ……。あれだけの大荷物に、私の大好きって言葉に反対しないってことは……ど、同棲!? 告白からの同棲コンボ!? いや、確かに私と九朗くんは裸の付き合いも同衾もしてんけど……は、早すぎへん!?
いや、嫌とちゃうで! うん、嫌やない! 私も九朗くんのこと大好きやし、一緒にいれるなら全然嬉しい! け、けどこ、心の準備がぁ! あぁ、そんな真剣な表情で見つめないでぇ……。わ、私、これからお風呂でなすすべなく身体中撫で洗われてトロトロになった後、ベッドで頂かれてまうんや……」
なぁんか、一人で物凄い百面相してる。
「その、はやて。いいか?」
「え、あ! うん! 全然ええょ!」
話を続けるためはやてに声を掛けて意識をこちらに戻す。意識の戻ったはやての手を改めて両手で握りなおす。するとはやても俺の手に自分の手を重ねて、2人で両手を握りしめ合う形に落ち着く。
一つ深呼吸をして決心する。そして口を開いた。
「ここには、もう来ないかもしれない」
「ふ、不束者ですがよろしくお願いします!」
……え?
「え?」
「へ?」
俺たちの間に長い沈黙が流れた。先に口を開いたのははやてだった。
「な、なんでなん……? 私、なんか嫌われるようなことしてもた? え? そやけどさっき九朗くん、私のこと好きって……あれ? ごめんな、ちょう待ちぃ。なんか、止まらへん……」
「ッッ、はやて!?」
俺の手を握っていた手は震え、目からポロポロと涙を溢すはやて。俺は急いで立ち上がりはやての隣まで行って彼女を抱きしめる。
「絶対はやては何か勘違いしてる! はやては嫌われるようなことなんかしてない! 俺ははやてのこと大好きだぞ! だから泣くなよ!」
「ほんま? 嘘とちゃうやんな? 嘘やったら私、もっと泣いてまうで?」
「ほんま、ほんま! 超ホンマ!」
そこまで言ってやっとはやては笑ってくれた。そうして自分の身体に回された俺の腕をしっかりと抱きしめ返してくる。
「あー、もうびっくりした。けど、ここに来れんくなるのはほんまなんやろ? ……引っ越し、してまうの?」
「……引っ越しでもないんだ」
「なら、どうして……?」
疑問に首をかしげるはやてから身を離す。……ちょっと名残惜しそうに小さく声を漏らすのやめて、俺の決心が鈍る。
「はやて、これからお前に俺の秘密の一つを打ち明ける。だけどどうか約束してほしい。絶対に誰にもこの秘密のことを話さないって。それが約束できないなら俺は何も言わずにここを去るしかない」
俺はテーブルから離れ、リビングの一番スペースのある部分に立つ。
「うん、約束する。絶対に誰にも喋らん。安心してええわ、はやてちゃんの口は堅いし、そもそも他人の秘密を告げ口するような相手も九朗くんしかおらへんから」
「そうか……じゃ、話そうか」
家族には無事に帰ることを約束した。けど、これからジュエルシード集めは過酷になるし、危険になる。なのはだけは意地でも無事に家に帰す。が、俺がどうなるかは分からない。
もし俺に何かあったとき、俺の家族にはなのはが、若しくはアースラの人がうまく説明してくれると思う。けど俺とはやての関係を知ってるのは俺だけ。うちの両親も『はやて』という新しい友達が俺にできたのは知ってるけどここの住所までは知らない。
だから、俺が帰れなくなったとしたら、はやてには誰も知らせに来ない。はやてはずっとこの家で永遠に来ない俺を待ち続けることになる。
だから全部話す。はやてにだけは全部話しておく。俺が一定期間この家を訪れなかったら俺のことをすっぱり諦められるように。忘れられるように。
「俺ってさ、実は魔法使いなんだよね」
「は? 九朗くん何言って―――」
デバイスの待機状態であるネックレスを握りしめる。俺の足元に
「な、なんやこれ……?」
その光はだんだん強くなり一瞬で俺の身体を覆い隠す。そして光が収まると俺はバリアジャケットを身に纏い、両手にデバイスを持っていた。
「九朗くんが……変身しおった……」
「これが魔法使いとしての俺の姿。……クラスのみんなには内緒だよ」
「お、驚いた~……。ほんまに魔法使いなんやね。ま、魔法の国に帰らなちゃいけなくなったとか? ものごっつ、固い皮やなぁ。……なんの動物の皮なんやろ?」
はやてはテーブルの前からこちらに寄ってきて物珍しそうに俺の周りをぐるぐるしたり、ペタペタとバリアジャケットを触ったりしている。
「俺はこの世界出身の魔法使いだよ。ただ……まあ、簡単に言うと悪い魔法使いと戦わなくちゃいけなくなった」
「……それでここに来れないかもしれないってことは―――」
「あぁ。最悪死ぬかもしれないから」
俺のバリアジャケットを触っていたはやての手が止まり、袖をギュっと握りしめられる。
「それは……九朗くんが戦わなあかんの?」
「あぁ」
なにせ対処するやつらは俺がぶっ飛ばしちゃったし。
「戦いから逃げることもできんの?」
「そしたらこの世界全体が危険になるだけなんだ」
「九朗くんのことが大好きで、九朗くんが大好きな女の子が行かんとってて言うても行くんか?」
「……行く。いや、行かなくちゃいけない」
はやてとまっすぐ見つめ合いそう告げる。
「……」
「……」
ただ無言で見つめ合うだけの時間が流れる。数秒だろうか? 数分だろうか? どれだけ時間がたったかもわからない頃、はやては笑顔を浮かべた。
「決意は変わらへんみたいやし。私はもう何も言わへん」
「悪いな」
「そんなん言うんやったら行かんといてほしいわ。まったく」
「お詫びと言っては何だけど……」
俺は部屋の電気を消してカーテンを開ける。すると広いリビングに月明りが差し込んできて青白く染まる。俺は月明りを背にはやての方に手を差し伸べる。
「魔法の絨毯は無くて悪いが、夜の空中散歩なんてどうかな?」
「ええな、お願いするわ。輝く世界を見してもらえるとええんやけど」
俺の手を取ったはやてを横抱きにして抱き上げる。そうして外出てはやての身体が冷えないようにと、風圧に負けないようにいくつかの魔法をかけてあげて一気に飛び立つ。
「お、おわぁぁぁぁあああッッ!?!?」
超スピードにはやては驚き面白い悲鳴を上げている。雲を突き抜けて星空の下まで一気に飛び出していく。
「ほら、ついたぞ」
「つ、ついたぞって、早すぎやろ!? 全然夜景も見れてへんしロマンチックの欠片もないんやけど!?」
「夜景は帰り路でいいだろう。それよりもほら上を見ろ」
「わぁ……!」
はやてはあたりを見回して満点の星空に目を奪われる。
「この高度はもう人口の光はほとんど届かない。その分星がきれいに見えるだろう?」
「うん。めっちゃ綺麗……。あ! あれ、しし座やで!あっちはおとめ座やと思う! 本で見るよりずっと綺麗やなぁ」
「ほぉーん。はやては星座にも詳しいのか?」
「ま、本を読む時間だけは有り余ってたから」
「成程」
それから俺たちははやての星座解説を聞きながら星空の下をゆっくりと飛行して回った。しばらくするとはやては少し黙りこんだあと、声色を変えて質問してきた。
「なぁ、九朗くん。さっきはああ言ってたけど、別に必ず死ぬわけやないんやろ?」
「もちろん」
「どれくらいで戻ってこれるん?」
どれくらい、かぁ……。星空を見上げながら考える。管理局の奴らの探知機械は高性能って聞いてたし残りのジュエルシードも12個。一日一個、計算で12日、何日か見つからない場合も考えて……。
「ま、3週間以内には帰ってこれると思う」
「3週間……」
「あぁ、終わり次第はやてのところにはまた顔見せる。逆に3週間たってもはやてのところに顔を出さなかったら……そういうことだと思ってくれ」
「分かったわ。……九朗くん、こっち向いて?」
「ん?」
はやてに呼ばれ顔を星空から彼女に移す。瞬間、彼女と俺の顔の距離がゼロになる。自分の唇に柔らかく甘いはやての唇が押し付けられてる。え? あ? キスされてる?
「会えなくなるかもしれへんなら今の内にやっておこうと思て。一緒に過ごしてくれて、思い出をくれて、ありがとう。こんな夢みたいな体験をありがとう。……あの時私を助けてくれてありがとうな。大好きやで、九朗くん。私の魔法使いさん」
「お、おぅ……」
色々言い終わった後、はやても落ち着いたのかそのあとは二人でドギマギしながら海鳴の夜景を楽しみ帰路につく。家に着いた後、ははやてと一緒に風呂に入って体を温めなおしてベッドに入る。
そして次の日の早朝、日の出前に俺は目覚めて隣で寝るはやてに今度は俺の方からキスをして置手紙を残しアースラへ向かうのだった。
・楠姉、学校では口数少ないボーイッシュダウナーギャルで通っている模様。そして陸上部エースなのでファンクラブもあったりする。しかし家では……。
・楠姉、久しぶりの登場なのにただジタバタ駄々を捏ねて終了……。リリカルなのはって家族キャラ動かし辛ェェ……。
・九朗くん「(約束は破るためにある!)」ただなのはは意地でも無事に返すつもり。
・今作のはやてちゃんの読書ジャンルは多岐にわたる。小説から図鑑、ちょっと過激な少女漫画まで……。つまり耳年増。
・九朗くんの魔力光は
・九朗くんのバリアジャケットは手足のアリーヤ風手甲、足甲以外は大体皮製。
その黒皮は丈夫ではあるが身を守るには軽装で、攻撃を受けきれるものではない。これには九朗の防御よりも、回避を優先している性格が表れている。夜に紛れ一気に急襲する、そのための装束である。
・スーパーヒロインタイムはやてちゃん。初期構想だとこのあと二回目のベッドイン(R18)の予定だった。だから初期構想時の俺は小学生二人にナニさせるつもりだったんだよ!