まのさば Restart 作:雪うさぎ
地下の廊下に着く頃には、もうすぐ就寝時間であるためか牢屋敷の中はすっかり静まり返っていた。
「…………」
監房が立ち並ぶ廊下には、もう監房の中にあるモニターくらいしか光っておらず。
昼間とは違う雰囲気に、なんとなく落ち着かない気持ちになりながら。僕は端末に表示された地図を見ながら、レイアさんの部屋へと向かっていた。
「えっと……ここでいいんだよね」
レイアさんの部屋の場所は、僕たちの監房からそれほど離れてはいなかった。
ただ2つ奥へと進むだけ。言ってしまえばそれだけのはずなのに。
(本当に……行くんだよね)
いざレイアちゃんの部屋の前に立ってみると、急に緊張してきてしまった。
『エマ君はそのまま、私の部屋においで』
「~~っ」
思い出しただけで、また額が熱くなった気がする。
「何で思い出しちゃうのかな……」
ぶんぶんと首を横に振る。別に、何か変なことをするために呼ばれたわけじゃない。……たぶん。
「……たぶん?」
自分で口にして、不安になってしまった。
そもそもレイアちゃんが言っていた『準備』が何なのか、僕は何も知らない。
就寝時間をどうするのかも任せてほしいと言われただけで、具体的には何一つ説明されていなくて。
「…………」
少しくらい、ちゃんと聞いておけば良かったかもしれない。そんなことを考えながら中に入ると。
「……あれ?」
2段ベッドの下の部分に、1人の少女が座っていた。
そこにいたのは黒を基調とした華やかなゴシックドレスに身を包んだ、綺麗な女の子だった。
大きく開いた胸元は幾重ものフリルで飾られていて、腰には灰色のコルセットが巻かれている。
幾重にもレースを重ねた短いスカートの裾からは白い脚が覗いていて、膝上まで伸びた黒いソックスがそれを包んでいた。
かなり目を引く格好をしており、少女自身もそれに負けないほどに整った容姿をしていた。けれど、その華やかな装いとは対照的に、どこか気弱そうな雰囲気を纏っている。
「……」
僕に気づいた少女は、驚いたように目を瞬かせた。けれども。すぐに少し困ったように眉を下げて、柔らかな笑みを浮かべる。
「えっと……君は桜羽エマちゃんだよね」
「うん。合ってる」
僕も端末で見た顔を思い出しながら、少女の名前を口にする。
「佐伯ミリアさん……だよね?」
「うん。そうだよ」
名前を覚えていたことが嬉しかったのか、ミリアさんは少しだけ頬を緩めた。
「良かった。間違ってなくて」
「僕のこと知ってたんだ」
「端末で見たからね。それに……少し噂にもなってたし」
「噂?」
「あ、いや!ぜんぜん悪い意味じゃないよ!?」
慌てたように両手を振られる。
「その……色々あったから。看守の攻撃で大怪我したり、シェリーちゃんに急いで運ばれたりしてたから……自然とね」
「……まぁ。そうだよね」
初日から、あんな大事になったのだ。それは話も広がるだろう。そう思うと、なんだか今更ながら恥ずかしくなってきた。
「それで……」
ミリアさんが僕の背後へ視線をやる。それから、すぐ近くにある扉を見て。
「もしかして……おじさんに何か用事があるのかな?」
「……おじさん?」
ずいぶん個性的な呼び方が気にはなったけれど。
「えっと。違うんだ。今日は……その……レイアさんに呼ばれたから来ただけで」
「あ……そうなんだ」
ミリアさんがぱちぱちと瞬きをする。
「ごめんね。勘違いしちゃった」
「ううん。大丈夫だよ」
そう答えると、ミリアさんはほっとしたように笑った。けれども。
「でも……」
「?」
ミリアさんの視線が、手元のスマホへ落ちる。
「もうすぐ就寝時間だし……少し日を改めた方が良いかな」
「え」
「レイアちゃんには私から伝えておくから。エマちゃんは早く自分の監房に戻った方がいいと思うよ」
「…………」
その言葉に、僕を咎めるような気配は少しもなかった。ただ純粋に。僕が規則を破って怒られないようにと、心配してくれているだけなのだと思う。
だからこそ。
(……帰りたい)
物凄く帰りたくなった。今ならまだ間に合う。
ミリアさんにお願いして、レイアちゃんとの約束を明日にしてもらえばいい。だけど。
『今日は……ヒロちゃんの部屋に戻らない』
ついさっき決めたことを思い出して。逃げ出したい気持ちをどうにか飲み込んで、僕はもう一度顔を上げた。
「感謝の気持ちなら、それこそ何時でも大丈夫というか……」
ミリアさんが困ったように眉を下げる。
「レイアちゃんは狭量じゃないし……別に少しくらい遅れても気にしないと思うよ!」
「う、うん。それは別に僕も分かってるんだけど……」
「そ、その……今回は少し事情が異なるというか」
どう説明したものか分からず、少し口籠もる。けれども。もう黙っているわけにもいかなくて。
「レイアさんに感謝の言葉を伝えて……それから御礼しようとしたら」
「うん」
「そしたら今夜。レイアさんの部屋に来るように言われたというか……」
「…………」
その言葉に、ミリアさんがぴたりと動きを止めた。
「……え?」
「だから。僕から言ったわけじゃなくて。その……レイアさんの方から――」
「え……!?」
「わっ」
突然、大きな声を出されて肩が跳ねてしまう。
ミリアさんは目を大きく見開いたまま、信じられないものでも見るように僕を見つめていた。
「ま、まだ出会ったばかりなのに……爛れすぎじゃないかな!?」
「た、ただれ……?」
予想外の言葉に、思わずきょとんとしてしまう。対するミリアさんは、何故だかみるみるうちに顔を赤くしていった。
「な、何でもない!」
「でも今――」
「何でもないから!」
「そ、そう……?」
よく分からない。けれど。何故かこれ以上聞いてはいけない気がして、口を閉じる。
「と、とにかく!」
ミリアさんは仕切り直すように、小さく咳払いをした。
「エマちゃんはそれで良いの……!?」
「え?」
「助けられたことには間違いないけど……だからって、それで部屋に来るように言われて……!」
「…………」
良いのか。そう聞かれると、少しだけ困ってしまう。
抵抗がないわけじゃない。今も苦しんでいるヒロの隣にいられないことは、やっぱり心残りだった。
それに結局。レイアさんが言っていた『準備』が何なのかも、僕はちゃんと聞けてもいない。けれども。
「……これもヒロちゃんのためだから」
「…………」
「……え?」
そう話すと瞬間。ミリアさんの顔から、さっと戸惑いが消えて。
「ヒロちゃんの……ため?」
「うん」
「…………」
代わりに。見る見るうちに、その眉間へ深い皺が寄っていく。
「ミ、ミリアさん……?」
「……最低だ」
「え?」
ぽつりと。聞き間違いかと思うほど小さな声が漏れた。
「最低だ……見損なったよ!レイアちゃん!」
「ええっ!?」
突然の言葉に、思わず声を上げた。
「な、何で!?」
「何でって……!」
ミリアさんが拳をぎゅっと握り締める。
「いくらなんでも、そんなやり方は酷すぎるよ!」
「や、やり方?」
「エマちゃんがヒロちゃんのことを大切にしてるからって……そこに付け込むなんて!」
「……?」
何の話をしているんだろう。
「ちょ、ちょっと待って!レイアさんは別に――」
「庇わなくていいよ!」
「庇う!?」
「エマちゃんは何も悪くないから!」
「ええっ!?」
ますます分からなくなってきた。僕はただヒロを守るために今夜は部屋へ戻らないと決めただけなのに。
「レイアさんは僕のことを心配して――」
「それで夜に自分の部屋に呼ぶの!?」
「そ、それは……」
そう言われてみると。
「………」
確かにそうではあるのだけど。
「ほら!やっぱり……!」
「た、確かにエマちゃんは凄く可愛いけど!だからって、こんな弱ってる時に付け込むなんて……!」
「ちょ、ちょっと待ってミリアさん!」
何か。物凄く大きな誤解が生まれている気がする。
「レイアさんはそんなつもりじゃ――」
「エマちゃんは分かってないんだよ!」
「何を!?」
「色々だよ!」
「色々!?」
全く説明になっていない。けれどもミリアさんは、すっかり何かを確信してしまったらしく。
「やっぱり駄目だよ。今日は戻ろう!」
「ええ!?」
「大丈夫。レイアちゃんには私から言っておくから!」
「で、でも約束しちゃったし!」
「そんな約束守らなくていいから!」
何故か。ほんの少し話をしただけだったはずなのに。僕は怒り心頭のミリアさんを相手に、必死にレイアさんを庇うことになってしまったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「つまりヒロちゃんの所は危険だから。レイアさんは……おじさん達の所にエマちゃんを連れてこようとしてたってこと?」
「う、うん。そういうこと」
「…………」
消灯時間を過ぎた監房の中。
明かりの落ちた薄暗い部屋で、僕は何故かミリアさんと同じベッドへ潜り込みながら、小さな声で話していた。
本当なら。僕はレイアさんのいる上のベッドへ行くはずだった。というか。たぶんレイアさん自身もそのつもりだったのだと思うのだけれど。
けれど。
『だ、駄目……!エマちゃんは絶対渡さないから!』
『完全に誤解なんだ。明日ちゃんと説明してあげるから、ひとまずエマ君を離してあげてくれないかな……?」
『ちょっと苦しいから辞め……!あ、あれ……もしかして必死過ぎて聞こえてな……!』
そんなやり取りの末。
ミリアさんが頑として僕を離そうとしなかったせいで、結局こうなってしまった。
「…………」
少しだけ視線を上へ向ける。二段ベッドの上段には、レイアさんがいる。
さっきまでいつもの穏やかな笑みを浮かべていたはずなのに。僕がミリアさんと一緒に下のベッドへ入ることになった瞬間。
なんとも言えない、とても悲しそうな顔をしながら上へ登っていったのが妙に印象に残っていた。
(……大丈夫かな)
少し気にはなるけれど。まぁ。それについては、とりあえず置いておくとして。
「ご、ごめんね……」
「え?」
「おじさん……物凄く勘違いしちゃってた」
隣から聞こえてきた声に、僕はミリアさんへと顔を向ける。
消灯後だからなのか。それとも、さっきまでの勢いが嘘みたいに消えてしまったからなのか。ミリアさんは布団を鼻元まで引き上げながら、しゅんと眉を下げていた。
「レイアちゃんが……その……エマちゃんに、とんでもない行為を強要してるのかと思って……」
「と、とんでもない行為?」
「な、何でもない!」
「すっごく気になるんだけど!?」
「そこは忘れて!」
「気になるんだけど……」
「お願いだから忘れて……!」
消え入りそうな声で懇願される。よく分からないけれど。どうやら本当に触れて欲しくない話らしいので。
「まぁ……でも」
少しでも安心してもらえるように、僕は柔らかく笑いかけた。
「大丈夫だよ」
「……怒ってない?」
「うん」
むしろ。
「そんなに心配してくれて……ちょっと嬉しかったかも」
「……ぇ」
「だって。僕達ちゃんと話したの、今日が初めてなのに」
「…………」
「それなのに、あんなに怒ってくれたから」
あの時は。いきなり抱き締められた上に、折れてしまいそうなくらい強く腕へ力を込めながら。
レイアさんのことを物凄い形相で睨んで。
『エマちゃんは渡さないから……!』
なんて言ってて。
正直。かなり大変ではあったのだけれど。それでも。そこまで僕のことを心配してくれたのだと思えば、決して嫌な気持ちは湧かなかった。
「だから。ありがとう、ミリアさん」
「…………」
暗くてよく見えないけれど。ミリアさんの頬が、少しだけ赤くなったような気がして。
「……エマちゃんって」
「ん?」
「そういうこと。普通に言っちゃうんだね……」
「そういうこと?」
「ううん。何でもない」
「?」
またよく分からない。けれど。
さっきまで申し訳なさそうにしていた顔も、少しだけ和らいでいて。それでもまだ少し涙目なのがなんだか可愛くて、思わず笑みが零れた。
そんな和やかな空気を遮るように。
「――誤解が解けたようで何よりだ」
「……!」
頭上から。小さな声が聞こえてきた。
「レイアちゃん?」
「ああ」
消灯時間を過ぎた後は、原則として囚人同士の私語は禁止。
だからなのだろう。レイアちゃんも、僕たちと同じように声を潜めて話していた。
「それじゃあ。不幸な行き違いも無くなったことだし。エマ君を上に――」
「い、嫌かも……」
「…………」
その瞬間。頭上から聞こえていた声が、ぴたりと途切れた。
「えっと……み、ミリアちゃん?」
「その……」
隣のミリアさんが申し訳なさそうに身体を縮こまらせながら、それでもおずおずと僕を抱きしめ直してくる。
「エマちゃんって……体温高くて」
「う、うん?」
「柔らかいし……」
「……?」
「すっごく良い匂いまでするから……」
「えっ」
何を言われているのか理解した瞬間。ぶわっと顔が熱くなる。
「なんだか普通に……離したくないというか……」
「は、恥ずかしくなるから……そういうこと言わないで貰えるかな!?」
「ご、ごめん……!」
小声のまま慌てて止める。けれども。そんな僕たちのやり取りを聞いていたらしい頭上から。
「…………」
なんだか。とても重たい沈黙が降ってきた。
「レ、レイアちゃん?」
「……ミリア君」
「ひゃい!?」
低い。物凄く低い声だった。
「君ってやつは……」
「な、なに……?」
「これからの付き合いを少し考え直さなきゃいけないようだね」
「ええっ!?」
「ちょ、ちょっと待って!」
慌てて声を潜めながら割って入る。
「こんな些細なことで仲違いしないで貰えないかな!?」
「……些細?」
「些細じゃないの!?」
「おじさんにとっては非常に重要な問題なんだけど」
「どこが!?」
「エマ君にはまだ難しい話かな」
「また子供扱いしてるよね!?」
「しーっ!」
「ちょっと理不尽すぎるかも!」
ミリアさんに口元へ指を立てられながらも、慌てて口を閉じる。
「…………」
「…………」
「…………」
三人揃って黙り込む。
廊下の向こうから、誰かが歩いてくる音が微かに聞こえた。規則通り看守が就寝時間の見回りをしているのかもしれない。
足音が遠ざかるまで息を潜めながら、ようやく聞こえなくなったところで。
「……もう」
僕は布団の中から、ようやく息を吐き出した。
「2人とも仲良くしてよ……」
「ちゃんと仲良くするつもりだったとも」
「お、おじさんもだよ……?」
「じゃあ何でさっき喧嘩しかけてたの!?」
「それは……」
「それは?」
「そこは本来……私の場所だったはずだからかな」
「え?」
思わず聞き返す。けれど。
「いや」
頭上から、また小さなため息が聞こえた。
「元々エマ君は、私のところへ来る約束だっただろう?」
「そ、それはそうだけど……」
「誤解で一度お預けになって。ようやく話が済んだと思ったら、今度は『離したくない』と来た」
「…………」
何も言い返せない。
確かに。レイアちゃんからすれば、ずっと待っていたのに横からミリアさんに僕を取られてしまったような形になっている。
「私にも少し……そう少しくらいは不満を言う権利があると思わないかい?」
「ご、ごめんね……」
隣で。ミリアさんがますます小さくなった。
さっきまで僕を離すまいとしていた腕からも、すっかり力が抜けていて。本気で申し訳なく思っているのが伝わってくる。
「まあ。いいさ」
もう一度。今度は先ほどよりも少しだけ柔らかなため息が、頭上から落ちてくる。
「今夜は君に譲ってあげることにしよう」
「……ほんと?」
「ああ」
その言葉に、ミリアさんがほっとしたように息を吐いた。
僕も少しだけ胸を撫で下ろす。これでようやく、二人が喧嘩することも――。
「その代わり」
「え?」
そう安心したのも束の間。レイアちゃんの声が、再び頭上から降ってくる。
「この埋め合わせは必ずしてもらうよ。エマ君」
「……僕!?」
思わず声が大きくなりかけて、慌てて口元を押さえる。
「な、何で僕なの!?」
「当然だろう? 私は君を待っていたんだから」
「で、でも原因は僕じゃ……」
「エマ君」
「な、なに?」
「約束してくれるね?」
「…………」
声はいつも通り穏やかなのに。何故だろう。絶対に断ってはいけないような圧を感じて。
「……何をすればいいの?」
「それはまた今度のお楽しみだ」
「余計に怖いんだけど!?」
小声で抗議する。すると。
「ふふっ」
頭上から、ようやくいつものレイアちゃんらしい笑い声が聞こえてきた。その声を聞いて、少しだけ肩の力が抜ける。
「心配しなくても、嫌なことをさせたりはしないさ」
「……本当?」
「ああ。君が嫌がることを無理強いする趣味はないよ」
「それなら……まあ」
まだ少しだけ不安ではあるけれど。
「……分かった。約束する」
「いい子だ」
「また子供扱いした!」
「ふふ。気のせいだとも」
「絶対違うよね!?」
「しーっ……!」
「あっ」
またミリアさんに窘められ、口を閉じて。
「…………」
そして今度こそ静寂が戻った。本当に誰も話さなくなる。
消灯された監房の中には、廊下から漏れ込む僅かな光しかなくて。先ほどまであれだけ騒がしかったせいか、急に訪れた静けさが妙に落ち着かなかった。
「…………」
けれど。
隣から伝わってくる体温は暖かくて。ミリアさんの腕も、さっきより随分と力が抜けている。
「……ミリアさん?」
「ん……?」
「もう寝そう?」
「……ちょっとだけ」
眠たそうな声だった。
「そっか」
「……エマちゃんは?」
「僕も……少し眠くなってきたかも」
そう答えながら、目を閉じる。今日は色々なことがありすぎた。
ヒロちゃんのこと。レイアちゃんに助けてもらったこと。今夜は自分の監房へ戻らないと決めたこと。
それから。
何故か初めてちゃんと話したミリアさんと、こうして同じ布団で眠ることになってしまったこと。
(……変な一日だったな)
そんなことを考えているうちに、だんだんと思考がぼやけていく。
「……エマちゃん」
「ん……?」
すぐ隣から、微かな声が聞こえた。
「今日は……ごめんね」
「…………」
「でも来てくれて……嬉しかった」
「……うん」
もう殆ど閉じかけた瞼のまま、小さく答える。
「僕も……ミリアさんと話せて良かったよ」
「……そっか」
少しだけ。嬉しそうな声がした。
「おやすみ……エマちゃん」
「うん……おやすみ。ミリアさん」
それから少し遅れて。
「おやすみ。レイアちゃん」
「……ああ」
頭上から返ってきた声は、先ほどまでとは違って穏やかだった。
「おやすみ、エマ君。ミリア君」
「お、おやすみ……レイアちゃん」
それを最後に。今度こそ監房の中から話し声が消える。
暗闇の中。すぐ隣の温もりと、微かに聞こえ始めた寝息を感じながら。僕はゆっくりと意識を手放していったのだった。