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そんなこんなで、第四話。
「頼むぜ! ヒノヤコマ!!」
ヒイロが繰り出したのは、ひのこポケモンのヒノヤコマ。ボールから飛び出した瞬間、翼を大きく広げ、そのまま俺たちの頭上を旋回する。
ヒイロは、勢いとスピードで正面突破するつもりなのだろう。その判断はたぶん正しい。なんていったって、相手の数が多いのだ。まともに相手をしていたら、いずれ押し体力が尽きてしまう。だったら、律儀に一人ずつ相手をするよりも、自在に動けるヒノヤコマで敵の注意を引きつけ、こちらの数的不利を少しでもごまかした方がいい。
……俺もぼんやりしている暇はない。すぐに腰のモンスターボールへと手を伸ばし、一番頼れる相棒を呼び出す。
「こい! ヨーテリー!」
弾けた光の中から現れたヨーテリーが、軽やかに地面へ着地した。ヒイロのヒノヤコマと比べたら、はるかに小さな身体。だけど俺にとっては、誰よりも頼れる相棒だ。ずっと一緒に育ってきたこいつなら、俺が何を考えているのか、次にどう動こうとしているのか、言葉を介さなくても絶対に分かってくれる。
特に今回みたいな乱戦ではそれが大きい。めまぐるしく変わる状況に、相手の動きを見てから指示を出していたのでは遅すぎる。だからこそ、俺たちの連携は大きなアドバンテージになるはずだ。
俺はヨーテリーの背中を軽く撫でる。
「頼むぞ」
「ワンッ!」
力強い返事だった。その頼もしい声に、強ばっていた身体の力が抜ける。
(——これならやれる!)
俺は周囲を見渡して、自分たちの状況をうかがう。敵は全部で五人。そのうち四人は、それぞれのポケモンを俺たちを取り囲むように配置していた。そして残る一人――店員さんの胸ぐらを掴んでいた、おそらく親玉と思われるあの男。その男のグラエナだけは、少し離れた場所に陣取り、ただ鋭い目で俺たちの動きを追っていた。今のところ、こちらへ飛び込んでくる様子はないが……。
(……気味が悪い)
グラエナの動向は気になるが、まずは目の前の四体をどうにかしよう、と気持ちを切り替えて、子分たちに視線を向けた。互いに距離をはかりあっていた俺たち、その静寂がついに破られる。
「ヤミカラス、『つつく』!」
最初に動いたのは、ヤミカラスだった。黒い翼が大きく羽ばたき、一直線にヒノヤコマへと迫る。
「『でんこうせっか』!」
ヒイロの指示とともに、ヒノヤコマの姿がふっと消え、ヤミカラスの攻撃は空を切った。
「お返しだ! ヒノヤコマ、『ニトロチャージ』!」
背後に回り込んだヒノヤコマが、一気に距離を詰める。炎をまとった一撃がヤミカラスを捉え、その身体を大きく弾き飛ばした。
けれど、相手も怯んではいない。間を埋めるように、今度は別のポケモンが飛びだしてきた。
「ズルッグ、『けたぐり』!」
「『たいあたり』で吹っ飛ばせ!」
「ワンッ!」
それを黙って見過ごす俺たちではない。地面を蹴ったヨーテリーが、ヒノヤコマへ迫っていたズルッグへ勢いよくぶつかる。
「グゥッ!」
予期せぬところからの攻撃に、たたらを踏むズルッグ。
「もう一回だ!」
そこへ間髪入れずに『たいあたり』で追撃すると、ズルッグが派手に地面を転がった。
「いいねぇ!」
ヒイロが赤い髪を揺らして楽しそうに笑う。
「やるじゃねえか、ハル!」
「ヒイロもな!」
俺も笑い返す。楽しかった。いや、楽しいなんて言葉じゃ言い表せないほど胸が弾んでいた。
ヒイロがヒノヤコマを動かす。それを見ると、次に何をすればいいのかが頭に浮かぶんだ。逆もしかりでヨーテリーを走らせれば、今度はヒノヤコマがその隙へ飛び込んでいく。
まるで俺たちの間に、見えない道があるかのようだった。さっき出会ったばかりなのに。初めて一緒に戦ったのに。
「ははっ……!」
ヨーテリーも、ヒノヤコマも、俺も、ヒイロも。全員が一つになって戦っている。そう思うと、胸の奥からまた熱いものが込み上げてきた。
(もっとこいつと戦っていたい!)
俺の中でその気持ちが、どんどん膨らんでいった。
先の戦闘で流れは完全に俺たちが掴んだ。このままならいける。焦る必要なんてない。今まで通り、一体ずつ崩していけば——。
「グルルルル……!」
そのとき、低い唸り声が聞こえた気がして、俺は思わず顔を上げる。離れたところにいるグラエナが、ゆっくりと頭を持ち上げているのが見えた。
「グラァァァァッ!」
雄叫びに呼応するように、相手のポケモンたちを赤い光が包み込む。『とおぼえ』による、味方の攻撃力上昇。ズルッグの拳も、ヤミカラスのついばみも、スコルピの攻撃も、アーボの締めつけも。これからは、その一撃一撃に、さらに重さが増すだろう。
「おいおい……!」
ヒイロが顔をしかめた。
「こりゃ、ちょっとまずいんじゃねえか?」
俺も息を呑む。味方全員を強化する『とおぼえ』。明らかに、多対一を想定した戦い方だ。グラエナが後ろから指示を出し、子分たちが一斉に襲いかかる。さっきまでバラバラだった四体が、今度はまるで一つの生き物みたいに動き始めたのだった。
「ハル、危ない!」
「っ……!」
声に反応して視界の端を見ると、相手のアーボがすぐそこまで迫ってきていた。相手の強化に呆気にとられて気づくのが遅れたのもあるが、アーボそのものの動きも速くなっていた。
「ヨーテリー!」
「ワンッ!」
ヨーテリーが間一髪で身体を捻り、横へ飛び退く。しかしその先には——。
「『けたぐり』で仕留めろ!」
「なっ……!」
ズルッグが待ち構えていた。ノーマルタイプのヨーテリーにとって、かくとうタイプの『けたぐり』は『効果バツグン』だ。あれを食らうわけにはいかない。
「かわせ!」
咄嗟に後ろへ跳ぶ。ズルッグの脚が目の前を通り過ぎる。だがその先にも、伏兵が待ち構えている。避ける。また避けては、隙を見つけて反撃する。だけど手応えがない。ヨーテリーの息が、少しずつ荒くなっていく。
(このままじゃ、ジリ貧だ)
このまま俺たち二人で四体を相手にしていたら、いずれ押し切られてしまうだろう。
(だというなら……!)
少し離れた場所にいるグラエナを一瞥する。頭を潰せば、やつらの連携も崩れるはずだ。あいつを倒すしか、活路はない。
「ヒイロ!」
「なんだー!」
「あいつらを引きつけててくれ!」
ヒイロが一瞬だけ目を見開く。どうやら俺が何を考えているのか、分かってくれたようだ。
「任せとけ! ……ヒノヤコマ!」
ヒノヤコマが地面すれすれまで降下する。
「『でんこうせっか』!」
赤い影が駆け抜ける。ヒノヤコマは四体のポケモンの間を縫うように飛び回り、その視線を次々と自分へ引きつけていく。
「今だ、ハル! 行け!」
「ヨーテリー!」
「ワンッ!」
その目に見据えるは、ただ一体、グラエナの首のみ。
「させるか!」
俺たちの動きを察した子分たちが、一斉にこちらへ向きを変える。それをむりやり突破するために、ヒイロに援護を頼んだのだ。
「お前らの相手は俺だ! ヒノヤコマ、『ニトロチャージ』!」
ヒノヤコマが急旋回し、ヨーテリーへ迫っていたヤミカラスを横から弾き飛ばした。さらに、追いすがろうとするスコルピの前へ炎が走る。
「『ひのこ』!」
炎が地面を駆け抜け、子分たちが足を止める。ヨーテリーの前に、道が開いた。
「走れ!」
ヨーテリーが地面を蹴る。残り数メートル。その先にいるグラエナへ、一直線に迫っていく。しかし、これまでずっと後ろに構え、俺たちの戦いを眺めているだけだったポケモンが、ついに動きを見せる。鋭い牙が覗いた。その目が、初めてヨーテリーを捉える。
瞬間、背筋に、嫌な感覚が走った。
(来る……!)
「グラァァッ!」
咆哮と同時に、『バークアウト』が放たれた。
「ヨーテリー!」
凄まじい衝撃波に、ヨーテリーの身体が吹き飛ばされ、地面を転がる。一度……二度……三度目でようやく勢いが止まった。だが休める暇などあるはずもなく——。
「っ……! 逃げろ!」
俺の叫びに、ヨーテリーが急いで立ち上がる。その視線の先には、もうグラエナが迫っていた。
「かわせ!」
ヨーテリーが咄嗟に体をひねり、グラエナの『かみくだく』をかわす。その鋭い牙は、ほんのわずかに毛先を掠めて空を噛んだ。
「もういいグラエナ! 深追いしすぎるな!」
まずい。また奥の方に引き込まられてしまう。なんとしてでもグラエナをここに留めなければ。
「そんな攻撃的な見た目してるのに、バトルスタイルはずいぶん弱気なんだな」
「俺はこう見えて慎重派なんだよ。それに、こうしてる方がお前たちには有効だろ」
その通りだ。前にいるやつらを倒したところで、こいつを倒さなければこのバトルは終わらないのだ。それが分かっているから、男はグラエナに戻ってこいと呼びかける。
しかしグラエナは指示が聞こえていないのか、俺たちの方に突っ込んできた。あまりに予想外の事態に反応が遅れる。
「っ……! 避けろ!」
ヨーテリーが力いっぱい大地を駆ける。それでも、グラエナの方が速く、少しずつ、少しずつ、距離が詰められていく。
(このままじゃ……)
俺はヒイロの方を振り向いた。ヒノヤコマは、いまだ四体を相手に必死に飛び回っている。炎を吐き、攻撃をいなし、隙を見て反撃する。こっちへ助けに来る余裕なんてあるはずもなかった。
(……くそ、どうすれば)
グラエナの攻撃を避け続けるだけじゃいずれ限界が来る。かといって、攻撃を仕掛けようにも体勢を立て直すことさえ許してくれない。このグラエナの猛攻を止める手段なんて――。
「ヒノヤコマ! 『ひのこ』!」
「グラァッ!」
突然、横から飛んできた炎に、グラエナはたまらず後ろへ飛び退く。
「っ……! ヨーテリー! ひけ!」
ヨーテリーがすぐさま距離を取る。ヒノヤコマがこちらへ一瞥を向ける。けれどすぐに反転し、再び乱戦へと飛び込んでいった。
「……助かった」
だがしかし、ヨーテリーは肩で荒く息をしていた。今のは運がよかっただけだ。二度目はない。……どうすればいい。このままでは勝てない。力も、速さも、全部相手の方が上だ。
それでも――。
ヨーテリーの目は、依然として闘志を宿したままだった。まだ負けていない。おれはまだやれるぞ、という声が聞こえた気がした。
ああ、そうだよな、相棒。
(勝つしかないよな……!)
ふと、男とグラエナの姿が目に飛び込んでくる。
「何やってんだ! 俺の指示を無視して勝手に追いかけやがって!」
「グラ……」
グラエナは不満そうに唸っていた。
(男の指示を無視して、ヨーテリーへの追撃を優先した……?)
そうだ、最初からおかしかったのだ。ヨーテリーを圧倒できるだけのパワーがあるなら、はなから後ろで構えずに俺たちを蹴散らしてしまえばよかったのに。——この男は一回もグラエナに技の指示をしなかった。まるで怯えているかのように、子分たちの後ろに隠れバトルの様子をうかがっていただけだ。そう、それは——。
バトルなんてしたことがない、みたいに。
「……ヒイロ!」
「なんだ?」
「次、俺が合図したら……」
必要な情報だけを簡潔に伝える。驚きのあまり、ヒイロは一瞬だけ目を丸くした。
「……なるほどな」
ニッと笑う。
「任せろ!」
その頼もしい笑顔に、俺も笑みを返す。
(これなら――勝てる!)
「ヨーテリー!」
「ワンッ!」
「『ふるいたてる』!」
満身創痍のヨーテリーが、それでも力いっぱい前足を踏みしめた。瞬間、自身が赤い光に包まれる。
そしてもう一度、グラエナへ向かって走り出した。
「また来るぞ!」
男が叫ぶ。
「グラエナ、迎え撃て!」
「グラァッ!」
グラエナが勢いよく突撃してくる。その目はまっすぐと、ヨーテリーだけを捉えていた。
「『たいあたり』!」
ヨーテリーが地面を蹴った。小さな身体が、グラエナへ一直線に向かっていく。
「グラエナ! 『バークアウト』!」
しかしその声が聞き入れられることはなく、グラエナは大きく口を開いて、『かみくだく』を構える。むかって来る敵を蹴散らさんと、鋭い牙が迫る。それでも、ヨーテリーは怯まない。
――もっとだ。
もっと引きつけろ。
「グラァッ!!」
ついに眼前にグラエナが迫ったとき——
「今だ!」
俺が叫ぶと、グラエナへ突撃していたヨーテリーが、大きく進路をずらした。
グラエナの目が、仕留めるはずだった獲物の行く先を、しっかりと辿っていく。
その先に何もないと知らずに——。
「グラ……?」
「『ニトロチャージ』!!」
声とともに、炎が飛び込んできた。
「グラァッ!?」
不意をつく一撃。完全にヨーテリーに気を取られたグラエナの横っ腹に、ヒノヤコマが炎を纏ったまま突っ込む。
ドゴォッ!!
凄まじい衝撃音が響き渡り、グラエナの身体が大きく吹き飛ばされる。
「グラエナー!!!」
男の叫び声もむなしく――地面に転がったグラエナは、そのまま目を回して倒れていた。
一瞬、辺りが静まり返る。
一連の様子を見ていた子分たちの動きも、ピタリと止まっていた。
「うそだろ……」
「親分が……負けた……?」
誰もが、目の前の光景を信じられないといった顔をしている。
そして――。
「逃げろぉ!」
一人が叫ぶと、その声を合図に、子分たちは一斉に駆け出していった。
「お、おい! 待ってくれ……!」
男の声が響く。だが、誰一人として振り返らない。あっという間に、その場には男と俺たちだけが残された。さっきまであれほど大勢に囲まれていたというのに、今の男は、ひどく小さく見えた。俺は少し迷ってから、男に声をかける。
「そのグラエナさ、人からもらったもんだろ」
「なんでそれを……」
「見りゃわかるさ。バトル中も指示を聞いてなかったし。それに――」
俺は倒れているグラエナを見る。
「何より、あんたがバトル慣れしてなさすぎる」
「……そうか」
男は俯いた。
「バレていたのか」
さっきまでの威勢は、もうどこにもなかった。しばらく黙り込んだあと、男はぽつりぽつりと話し始めた。
「俺、こんな見た目だからよ」
自分の顔を指でなぞるようにして、苦笑する。
「昔から、友達ができなくてな。どこへ行っても怖がられる。俺が何もしてなくても、勝手に避けられるんだ」
男は一度、遠くへ視線を向けた。
「だからよ……だったら、いっそのこと本当に怖い奴になっちまえばいいって思ったんだ」
拳を握る。
「悪そうな顔して、怖そうな態度とって……そうしてたら、あいつらが寄ってきた」
さっきまで一緒にいた子分たち。男にとっては、きっと初めてできた「仲間」だったのだろう。
「本当はよ、喧嘩なんてしたこともねえ。ポケモンバトルだって、ほとんどやったことがねえんだ」
乾いた笑いが漏れる。
「それでも、あいつらは俺を親分って呼んでくれた。俺が強い奴だって、勝手に思ってくれた」
そこで男の声が少し震えた。
「……だから、言えなかった」
強そうに振る舞うことをやめられなかった。本当の自分を知られるのが怖かった。何より――それを知られたら、また一人になる気がした。
「いつかバレるとは思ってた。いつか、俺が大した奴じゃないって気づかれるってな」
男は苦笑する。
「でも……そうか」
そして、逃げていった子分たちの背中を見つめた。
「それが、今日だったか」
しばらく、誰も何も言わなかった。
俺には、男と子分たちが本当はどういう関係だったのかなんて分からない。男が店員さんにしたことだって、決して許されることじゃない。だから、同情だけで全部を許していいとは思わない。
「……あんたが店員さんにしたことはいけないことだ。それに、子分たちとどういう関係なのかも俺には分かんねえ」
男が黙って俺を見る。
「だけどさ――」
俺は、男の隣に視線を向けた。
「グラエナは、あんたと一緒にいたいみたいだぜ」
「……え?」
男が振り返る。
倒れていたグラエナが、ゆっくりと身体を起こしていた。まだ少しふらついている。それでもグラエナは男のほうへ歩いていき、その足元に頭を擦りつけた。
「……グラエナ」
男は、呆然とその姿を見つめる。そして――大きな手で、そっとグラエナの頭を撫でるのだった。
その様子を見届けると、俺はヨーテリーのもとへ駆け寄った。
「ヨーテリー!」
「ワン……!」
疲れ切っている。身体中が傷だらけで息も荒い。それでも、褒めてくれと言わんばかりに、尻尾だけは小さく揺れていた。
「……よくやったな」
俺はしゃがみ込み、戦い抜いた相棒をねぎらうため、その身体をそっと撫でる。少し遅れて、ヒイロもこちらへ歩いてきた。
「すげえ作戦だったな、ハル!」
「ありがとう! でも、すごいのはヒイロだよ!」
俺は顔を上げる。
「四体も同時に相手にしてたのに、よくこっちに来てくれたな」
あの状況で、ヒイロがこっちに来てくれなかったら、この作戦は成立しなかった。
俺が考えていたのは、ヨーテリーで最後まで戦うと思わせることだった。相手からすれば、今までずっと戦ってきた相手が向かってきたら、当然そこへ意識が向く。横にそれて何かしようとすれば、なおさらだ。だからこそ、その瞬間が狙い目だった。相手の意識がヨーテリーに集中したところへ、ヒノヤコマを突っ込ませる。ヨーテリーの攻撃力では決めきれなくても、ヒノヤコマなら違う。四体を相手にしていたヒイロが、あの一瞬で俺の狙いを理解してくれたからこそ、不意を突く強烈な一撃を叩き込めたのだった。
思い返してみればかなり無茶な作戦だけど、それでも上手くいったのは、きっとヒイロとヒノヤコマが、俺の考えを信じて動いてくれたからだ。まったくこいつは、会ったばかりだというのに、どうしてそこまで人を信用できるのか。
「当たり前だろ!」
ヒイロは、いつものようにニッと笑った。
「俺はヒーローだからな!」
「……ははっ」
思わず笑ってしまう。
やっぱり、こいつはすごい。あんな状況でも、最後まで諦めずに自分の役割を果たして、俺を庇う余裕すらあった。ヒイロがいたからこそ、俺たちは勝てたんだ。
(こいつと組んでよかった)
さっきまでの激しいバトルが嘘みたいに、胸の中には不思議なくらい清々しい気持ちが広がっていた。
「ぐぅ~~~~」
静まり返った場所に、やけに大きな音が響く。顔を上げると、ヒイロが気まずそうに笑いながら腹をさすっていた。
「腹が減った……!」
「ぷっ……あはははは!」
「なっ……笑うんじゃねえよ!」
あんなにカッコつけてたくせに、最後はこれか。さっきまでの緊張感なんて、すっかり吹き飛んでしまった。でも、なんだか、それが心地よかった。激しいバトルのあとだというのに、こうしてくだらないことで笑える。
ヒイロと出会って、まだそれほど時間は経っていない。それでも、今日の戦いを通して、少しだけこいつのことが分かった気がする。
「よし! 飯だ飯! ハルも一緒に食うか?」
「おう! ヒイロのおごりな!」
「いやだよ!?」
俺たちは顔を見合わせ、またゲラゲラと笑った。
腹が減った。
だから、飯を食う。
そんな当たり前のことが、今は妙に嬉しかったのだった。
To be continued ……
人からもらったポケモンは言うことを聞かない……というのは、ポケモンではお決まりですね。ハルがいきなり強敵を倒してしまってもアレなので、まずは軽めのジャブから。
とはいえ、ハル一人では勝てなかった相手をヒイロと力を合わせて倒す。今回はそんな「一人から二人へ」のお話でもありました。
次回はいよいよジムチャレンジの受付です!少しずつセイラン地方の世界観を明かしていくつもりなので、乞うご期待!
それでは、また次回!