これまで明言していませんでしたが、セイラン地方はガラル地方によく似た場所だと思ってください。
これは完全に私の好みなので、「そういう世界観なんだな」くらいにふわっと流していただければ幸いです。
ハルたちがガラル御三家をパートナーにしているのも、そのあたりが理由だったりします。
そして今回は、いよいよジムチャレンジの受付です!
それでは今回も、どうぞお楽しみください!
バトルを終えた俺たちは、そのまま海鮮料理屋『ナマズン』へと向かった。クスノキ博士ご用達の店だというから高級料理店かと身構えていたけれど、実際のところはいたって感じのよい街の食堂といった感じだ。
「それでよ、あの時のハルがキレッキレでさ〜!」
「いやいや、ヒイロこそ俺の意図を一瞬で読み取ってくれてすごかったって!」
「この短時間で何回その話するのよ」
「男子ってほんとばかだね……」
リナやマカロンと合流し、今は先程のバトルの感想をヒイロと熱く語り合っているところだった。呆れ顔のリナには悪いと思うが、仕方ないだろ。完璧な連携が決まった瞬間のあの快感には、それだけ胸が踊ったんだよ。
「それにしても……リナちゃん、めちゃくちゃ食べるなあ」
「ん〜……!」
口いっぱいに料理を詰め込み、声にならない声をあげて頬を赤らめるリナさん。彼女が食べることが好きなのは昔から知っていたが、まさかここまでとは……俺とマカロンもマンタイン号のときに初めて知ったくらいだ。今も隣に十皿以上積み上がっている彼女を見て、ヒイロは度肝を抜かれる……どころか、なぜか闘志を燃やし始めた。
「ぐぬぬ……俺も負けてられん! おばちゃん、おかわりー!」
「なんの対抗心なんだよ!」
「ヒーローは、レディを守れるように強くないといけないのだ!」
「今関係ないだろ! でも、ちょっとイケメン……」
あのマカロンがツッコミに回るしかない……だと!? まったく恐ろしい男だぜ……。
「そういえばさ」
「ん〜、どうした?」
「ずっと『ヒーロー』って言ってるけど、どうしてなんだ?」
ふとバトルの時から疑問に思っていたことをヒイロにぶつけてみる。
確かにヒーローはかっこいい。困っている人の前に立って、誰かを助けて、悪いやつらをやっつける。でもヒイロが口にしている「ヒーロー」は、単なる幼い憧れとは少し違うように見えたのだ。
「どうしてって……そうだな」
「あ、嫌な記憶とかなら無理に答えなくて大丈夫だから!」
ずっと快活に笑っていたヒイロの瞳が、一瞬だけどこか遠くを見つめた気がした。けれど、すぐにいつもの調子を取り戻して話し始める。
「……ガキの頃に、約束したやつがいるんだ」
「ヒーローになるって?」
「ああ。だから俺は強くなんなきゃいけねえ。みんなを守れるようにな」
ヒイロはそう言って、まっすぐ前を見つめる。そこには、さっきまでの気さくな笑顔とは少し違う、本気の眼差しがあった。
「俺はこれからジムバッジを集めて、その先にいるチャンピオンをぶっ倒す!」
「チャンピオンを……」
驚いた様子のリナが、俺とヒイロを交互に見比べる。先程あんなにすごい戦いを見せた男が、俺と同じ夢を掲げていると知って、少しだけ戸惑っているようだった。
「それで俺の名前をセイラン中に轟かせるんだ!」
「……それとヒーローにどういう関係があるのよ」
「大アリだぞ、マカロン! 誰もが俺の名前を知ってるくらいになれば、困ってるやつがどこにいようと『助けてヒイロ!』って言ってもらえるだろ?」
その言葉にマカロンは「なるほど」と深く頷く。
「だから俺は強くなる。そんで絶対チャンピオンになる! そして――」
ヒイロが強く拳を握りしめる。いつのまにか息をのんで耳を傾けていた店内の客たちが、次の言葉をじっと待っていた。充満する熱気にあてられ、俺の背中を静かに汗が伝う。
「セイランで一番有名で最強のヒーローになるんだ!!!」
「「「うおおおおお!!!」」」
店内に響き渡る歓声。
……ハマナシティで受付をやっているわけだから、どこかにいるとは思っていた。が、それがまさか先ほど共闘した相手だとは。
それよりも、だ。ということはこいつが俺のライバルになるんだ。だとしたら、絶対に負けていられない。こんな熱を叩きつけられて、昂らないわけがなかった!
「悪いけど——」
俺の声がヒイロの言葉を遮る。
全てを察した群衆がスッと静まり返り、次の雄叫びの準備を始めた。リナとマカロンからの視線を感じる。『やっちゃえ!』――そう言われた気がして背中を押された俺は、立ち上がっていたヒイロと向き合うように勢いよく立ち上がった!
「——姉ちゃんを超えて、チャンピオンになるのは俺だ!!!」
「「「うおおおお!!!」」」
店内が爆発せんばかりに揺れる。これから始まる二人の大勝負に、居合わせた全員が心を震わせていた。
「じゃあ俺たちライバルだな!」
「おう! 勝つのは俺だ!」
言葉と同時に、俺たちはガツンと熱いグータッチを交わした。
こうして四人で飯を食っていると、今日初めて会ったばかりだということが不思議に思えてくる。
もっとこいつと話していたい。次はこいつと戦いたい。胸の奥でメラメラと燃える熱を感じながら、そんなことを考えていた。
——————
店を出る頃には、すっかり日が落ちかけていて、外は暗いオレンジ色に染まっていた。トラブルがあったとはいえ、予定以上に観光を楽しんでしまったからか、少しお疲れ気味のリナさんに急かされながら、俺たちはジムチャレンジの受付所へ向かうことになった。
しばらく歩いていると、ふとヒイロが足を止める。
「——じゃあ俺はこの辺で」
「え? ヒイロは一緒に来ないのか?」
「ああ! 俺はあのバトルの前に受付を済ませてたんだよ」
「あ、そっか……」
少しだけ声が小さくなる。俺の顔を見たヒイロは、それに気づいたのかいたずらっぽい笑みを返した。
「なにそんな落ち込んでんだよ! さっきみたいに怖いやつらに絡まれたら、いつでもヒーローが助けてやるぜ〜」
「なっ……別に怖くなかったし!」
「ハハハ! そうかそうか!」
反射的に言い返してしまったが、ヒイロは全部分かっていたのだ。あの時、怖気づいていた俺を心配して、一緒に戦ってくれたんだ。サンキューな、ヒイロ。
「それに、予選はもう始まってんだ。だから先に行って待ってるぜ!」
「予選ってなんだよ」
「まあ詳しい話は、受付で聞けばわかるさ! じゃあなハル、リナちゃん、マカロン!」
「おう! 気をつけろよ!」
ヒイロは大きく手を振ると、そのまま勢いよく走り出した。鮮やかな赤い髪が、夕暮れの街並みの向こうへどんどん遠ざかっていく。やがて、その小さな背中さえ見えなくなった。
「行っちゃったね……」
「嵐みたいな人だったなー」
リナとマカロンは笑いながらヒイロを見送っていた。俺はヒイロの見えない背中を、もう一度だけ見つめる。「先に行って待ってる」——その言葉が、妙に胸の奥に焼き付いていた。
(俺たちも急がないとな)
パンっと、両頬を軽く叩く。
「よし!」
自分の中で「姉を超える」ということとはまた違う、新しいライバルという目標が出来たのを感じながら、俺は二人に向き直った。
「俺たちも行くか!」
——————
「「たのもーーーっ!!!」」
「ちょっと二人とも、恥ずかしいからやめて!」
俺たちはハマナシティの中でも一際大きな存在感を放つ建物、ハマナスタジアムに到着していた。
一歩足を踏み入れると、ロビーには大勢のジムチャレンジャーたちが緊張感を漂わせて待機していた。リナがピークの時間帯を避けてくれたおかげで、受付はそこまで長蛇の列になっていなかったのがラッキーだな。それでも十人くらいは並んでいるが、毎年五百人近く参加する大イベントであることを思えば、めちゃくちゃ空いている方だろう。
「空いててよかったねー!」
「そうだね! 私たちも並ぼっか!」
「おう!」
「ねえねえカグヤ! 早く行こうよ〜」
「ちょっと待ちなモモ! 前見てないと危ないよ」
「え〜大丈夫だよ……って、わ!」
俺たち三人が列の最後尾に並ぼうと歩き出したところ、前から走ってきた小さな影とぶつかった。
見たところ十二歳くらいだろうか。桃色の髪を小さなお団子ふたつで可愛らしくまとめた少女が、赤い瞳をうるうると揺らしてこちらを覗いていた。……今にも泣きだしそうな顔になったぞ。なんでだ!?俺ってそんなに怖い顔してたかな。
まあいい。こういう時に言うセリフは、相場が決まっているのだ。
「ごっ……ごめんなさ……」
「悪ぃな、嬢ちゃん。俺のズボンがアイス食っちまった……」
(くぅ〜決まった! 親父直伝『いつか言ってみたいセリフ』その56が、ついに!!!)
「アッ……アイス?」
「もーー! ハル、変なこと言って女の子困らせちゃだめでしょ!」
「大丈夫? 怪我はない?」
「だいじょぶ、です……」
困惑する少女のフォローへ即座に入るリナとマカロン。尻もちをついていた女の子は、リナの手を借りてゆっくりと立ち上がった。
「お姉ちゃん、ありがとう……!」
「……なにこの子めっちゃかわいい! ねえ君うちの子にならない!?」
「リナまで変なこと言いだした!?」
そういえばリナは、ミサキ島でも小さい子たちによく懐かれていたっけ。「面倒見のいい美人なお姉さんが甘やかしてくれる」と大人気だったのを思い出し、俺は一人で妙に納得してしまった。
「お兄さんたち、ごめんなさい!」
今度は薄紫色の髪を、ポニーテールにした女の子が走ってきた。年は俺にぶつかってきた子と同じくらいに見えが、黒いローブのようなマントが一際目をひいた。
「いや気にしなくていいよ。それよりここにいるってことは……」
「うん! モモもカグヤもジムチャレンジャーだよ!」
自分のことを『モモ』と呼ぶ桃髪の少女が、笑顔全開で答えてくれた。警戒心ゼロといった感じの、天真爛漫さだ。一方、『カグヤ』と呼ばれたマントの少女は素性の知れない俺たちを、まだ少し怪しんでいるようだった。
「俺はハルジオン! ハルって呼んでくれ! よろしくな、モモ、カグヤ!」
そう言って笑いかけながら手を伸ばす。その素直な態度に少しだけ毒気を抜かれたのか、カグヤは緊張を解いて柔らかな笑みを浮かべ、差し出した俺の手を握り返してくれた。
「あたしはカグヤ! で、こっちがモモ! よろしくね、ハル!」
「おう!」
しっかりとお互いに握手を交わす。
「ねえねえ、お姉ちゃんたちは〜?」
「私はリナリア! リナでいいよ、よろしくねモモちゃん」
「わたしはマカロン! マカロンお姉様と呼びなさい!……ってリナ痛い痛い!」
調子に乗ったマカロンの頬を、リナが無言でギューッとつねり上げる。相変わらず容赦がない。
それにしても、この二人……。
「小さいよなあ」
「……聞こえてるんですけど」
「え……あ、ごめん!」
心の声が漏れてしまい、頬をぷくっと膨らませたカグヤに即座に突っ込まれてしまった。俺の胸あたりまでしか背丈がないのが新鮮で、つい言葉に出てしまったのだ。
「まあ、慣れてるからいいけどさ……こう見えてあたしは十六だし、モモだって十四歳だからね」
「え、カグヤって俺と同い年だったの!?」
本気で驚く俺を見て、カグヤは口をへの字に曲げ、ジトっとした目でこちらを見上げてくる。その仕草は妙に様になっていて、どこか達観した雰囲気さえ感じられた。
「というか、モモが十四かあ……」
「ハル、言いたいことは分かるよ」
「おまえと意気投合するなんて珍しいじゃねえか」
リナのお仕置きから解放されたマカロンが、いつの間にか腕を組みながら隣に並んでいた。俺の言葉に「うんうん」と深く頷きながら、俺たちはモモに対して芽生えた『心の声』を同時に爆発させる!
「「かんわいい〜〜〜!!」」
「あの天真爛漫な笑顔に、ふわふわとした無邪気さ!」
「実年齢に似合わない小柄さに、あのもちもちのボディ!」
「「くぅ〜! たまんね〜!」」
「ちょっ……ハルもマカロンもやめてよ! 急にどうしたの!?」
「ふふん、二人ともよく分かってんじゃ〜ん! でもモモはうちの子だから手出しちゃダメ!」
「カグヤまで乗っからないで!?」
しばらくそんな賑やかなやり取りを繰り広げているうちに、ついに俺たちの受付の順番が回ってきたのだった。
「あ、二人とも、私たちの番みたいだよ」
「んー、やっとかー! 結構待ったな!」
「空いてる時間にきてよかったよー」
受付のスタッフに呼ばれた俺たちと同時に、カグヤとモモも立ち上がった。
「じゃあ、あたしたちはそろそろ行くね!」
「もうすっかり暗いけど、大丈夫か?」
「さすがにワイルドエリアに入るのは明日にするけど、近くのコテージまでは行こうかなって!」
「明日から大冒険を始めるのだー!」
「ってことで、みんなまたね!」
「ばいばーい!」
元気に手を振りながら去っていく二人を見送る。
先刻のヒイロといい、モモやカグヤといい、ここには個性豊かなライバルたちが続々と集まってきている。それを今、身をもって体感していた。
これこそがセイランの祭典――これこそが、ジムチャレンジだ!
「燃えてきたあー!」
「せいやっ! せいやっ! せいやーっ!」
「ちょっと二人とも、うるさい!」
ハルとマカロンの奇行に呆れるリナの怒号が響く中、俺たちはカウンターへと足を進めた。
——————
「お待たせ致しました。ジムチャレンジへの参加ご希望でお間違えないでしょうか? それでは皆様、推薦状のご提示をお願いします」
リーグスタッフのお姉さんに促され、俺たち三人はバッグから封筒を取り出し、カウンターへ差し出す。
お姉さんは手際よく三通の推薦状を確認し、推薦者の署名を見るために封筒を裏返したところで、ピタリと手を止めた。
「……ア、アイリ様からの推薦ですか!?」
「姉ちゃんを知ってるんですか!」
「知ってるも何も、大ファンですよ!」
お姉さんの目が、みるみるうちに輝き出す。
「私は十年前の伝説の試合でアイリ様に憧れて、このポケモンリーグの仕事を目指したんです! まさかアイリ様の弟さんに出会えるなんて……!」
「え、ええ……」
「私、もうこの仕事に一切の悔いはありません!」
「なんだか癖が強い人だね」
「もうキャパオーバー……」
隣でマカロンとリナが呆れたようにヒソヒソと囁き合っている。早口でまくしたてられて、俺もなんて返せばいいのか戸惑うばかりだ。
――どこに行っても、姉ちゃんの話になるとみんな同じ反応をする。『すごい人だった』『強かった』『私の憧れなんだ』と。
そう言われるのは素直に嬉しかったし、自分の姉を誇らしくも思う。だけど――ほんの少しだけ、胸の奥がチクリと痛む気がした。
「はっ……と、とにかく! 推薦状は三名ともたしかに確認いたしました!」
お姉さんはハッと正気に戻り、コホンと大袈裟に咳払いをすると、カウンターの下から一冊の厚い冊子を取り出した。
「それではここから、ジムチャレンジのルールと予選についてご説明いたしますね!」
「お願いします!」
思わず身を乗り出す。いよいよだ。ずっと憧れていたセイラン地方のチャンピオン——そのための第一歩が、今始まる。そう思うと、さっき感じた胸の痛みなんか、もうすっかり忘れてしまっていた。
「まず、セイラン地方のジムチャレンジには、予選がございます」
「予選……ですか?」
「はい。セイランのジムチャレンジは、世界中から優秀なトレーナーが集まることで知られていまして。毎年、本当にたくさんの方がエントリーされるんです」
思っていた以上の規模に、俺は思わず目を丸くした。
「そのため、すべての参加者がそのままジムに挑戦する、というわけにはいかないんです。そこで、ジムチャレンジに挑むにふさわしい実力があるかどうかを、まず予選で見させていただきます」
ガラル地方のジムチャレンジにも負けないほど人気があるなら、それだけ挑戦者も多いということか。
「予選の内容は、また後ほどご説明しますね」
「へぇ……ジムリーダーとのバトルだけじゃないんですね」
「ジムチャレンジは、単純にポケモンバトルが強ければ突破できるものではありませんから」
なるほど。ポケモンの強さだけじゃなく、トレーナーとしての判断力や、相棒との信頼関係――そういうものまで含めて、俺自身の力が試されるってわけか。
そう考えると、なんだかますます楽しみになってきたぞ。
「そして、晴れて予選を突破した方には、ジムチャレンジ本戦への参加資格が与えられます。こちらをご覧ください」
お姉さんが冊子を開き、そこに描かれた八つのマークを指差した。
「本戦では、セイラン地方各地に点在する八つのジムへ挑戦していただきます。見事、すべてのジムバッジを集めた方には――」
ページがめくられる。
「ファイナルトーナメントへの出場資格が与えられます」
「ファイナルトーナメント?」
「はい。ジムチャレンジを突破したトレーナーたちによる、最終選抜戦です。ここで優勝した一名だけが――」
そこまで聞いて、俺はぐっと身を乗り出した。
「チャンピオンに挑戦できるんですか!?」
「いいえ」
「……え?」
予想外の答えに、俺は思わずポカンと口を開けてしまう。お姉さんは楽しそうにニッコリと笑うと、さらに一枚ページをめくった。
「まだまだ先がありますよ」
そこに大きく書かれていたのは――チャンピオンリーグの文字。
「ファイナルトーナメントの優勝者に与えられるのは、チャンピオンリーグへの挑戦権です」
「チャンピオンリーグ……」
「はい。そして、ここからが本当のスタートラインです」
お姉さんの声が、少しだけ熱を帯びる。
「チャンピオンリーグでは、皆さんがこれまで挑戦してきたジムリーダーたちと、トーナメント戦をしていただきます」
「なるほど……?」
「ただし――今度は試す立場としてではありません」
「……!」
背筋がぞくりとした。
「チャンピオンを目指す一人のポケモントレーナーとして、本気のジムリーダーたちが皆さんに襲い掛かります!もちろん、使用するポケモンも手加減一切なしのガチ戦術! ジム戦とは比べ物になりませんよ」
ジムリーダーたちが、本気で俺を倒しに来る。その状況を想像しただけで、胸の奥がカッと熱くなった。でも、それだけじゃない。
「そして、チャンピオンリーグを勝ち抜いた方には――」
「チャンピオンマッチですか!?」
「いいえ、まだまだ続きます」
くすくすと笑いながら、お姉さんが最後のページを開く。
「四天王への挑戦権が与えられます」
「四天王……!」
「そして四天王を全員突破した、その先に待っているのが、ようやく――」
お姉さんが冊子から顔を上げる。
「現チャンピオン・キョウカさんとのタイトルマッチです」
その言葉が、妙に重く響いた。
予選、八つのジム、ファイナルトーナメント、チャンピオンリーグ、四天王、そして現チャンピオン。思っていたより、はるかに遠く、果てしない道のりだ。
だけど――だからこそ、燃える!
当たり前だろ! 遠ければ遠いほど、高ければ高いほど――そこへ辿り着いたときに見える『頂の景色』は、何万倍も気持ちいいはずなんだから!
「ふふ、ねえ、ハル。今すっごく楽しそうな顔してるよ」
リナが朗らかに笑う。
「そりゃそうだろ!」
俺はグッと拳を握りしめる。この体の底から湧き上がる高鳴りを、抑える理由なんてどこにもない!
「トーナメントも、本気のジムリーダーも、四天王も……全部俺がぶっ倒す!!」
一つずつ、目の前に立ちはだかる高い壁を思い浮かべる。その壁を全部ぶち破って、その先にいる最高峰を――!
「そんで、絶対姉ちゃんを超えて、俺がチャンピオンになるんだ!!」
「いや、なるのはわたしだよ!」
横からマカロンが割り込んできた。その瞳は、さっきまで以上にギラギラと輝いている。こいつもきっと――俺と同じ気持ちなんだ。
「私だって絶対に負けないからね!」
「おう! 望むところだ!」
そこにリナも混ざってきて、俺も負けじと拳を突き出す。
「三人で競い合って、最強になるぞ!」
「「おーーー!!」」
俺たちの威勢の良い叫びが、受付所に気持ちよく響き渡った。
「ふふっ。いいですねぇ」
その様子を見ていたお姉さんは、実に頼もしそうに微笑んでいる。
――ついに始まるんだ。俺たちの、最高のジムチャレンジが!
「では最後に、予選についてご説明させていただきますね」
「お願いします!」
俺はグッと姿勢を正す。さっきからずっと気になっていたのだ。予選とは一体、どんな試験が待っているんだろう? バトルか? それとも、何か特殊な課題でもあるのだろうか?
固唾を飲んで、次の言葉を待つ。すると、お姉さんはニッコリと微笑んで――。
「試験内容は――開会式が行われる前日までに、アサヒナシティまで辿り着くことです!」
「……え?」
「「「ええええええっ!?!?」」」
受付所に、俺たち三人の素っ頓狂な叫び声が響き渡った。
「それだけ!?」
「はい!」
お姉さんは満面の笑みで大きく頷く。
……本当に、それだけなのか? いや、そんなはずはない。ただ目的地へ向かうだけなら、試験と呼ぶにはあまりにも簡単すぎる。おそらく、そこへ辿り着くまでの『過程』そのものが試験なのだろう。
俺は思わず苦笑しながらスマホロトムを取り出し、アサヒナシティまでの道のりを確認する。
画面上の地図を見て、すぐにピンと来た。さっきモモとカグヤが話していた――『ワイルドエリア』。どうやらアサヒナシティへ向かうには、そこを通るのが最短……というより、他にまともなルートがないらしい。
「なるほどな……」
大勢の参加者を、厳しく広い大自然の中へ放り込む。そこで相棒と協力して険しい道を切り拓き、限られた時間の中で目的地を目指す。――そう考えれば、トレーナーの素質を試す予選としては、案外理にかなっているのかもしれない。
明日、そこで何が起きるかは分からない。
この先にどんな困難や強敵が待っているのかも、まだ何一つ知らない。
だけど――今、この瞬間。
俺たちのジムチャレンジ、その予選の火蓋が切って落とされたのだった!
To be continued……
読了ありがとうございます!
【モモとカグヤ】
ヒイロに続き、ライバル登場です!
モモは桃色の髪、カグヤは特徴的なマント…一体二人は何タイプ使いなのでしょう?
【アイスを食うズボン】
モクモクとした渋いおじさんですね。このネタをハルの親父が知っていた理由に深いものはないので、ハルとお父さんの仲の良さを楽しんでください。
【予選】
サブタイトルだけでなく、展開までハンタに似てしまいました。いつか無慈悲の咆哮とかやるかもしれませんね。
それではまた次回!