ラヴァ化した日本国 作:そぼろ丼
西暦2015年1月中旬、日本国......いや、
中央暦1639年1月24日午前8時
クワ・トイネ公国軍第六飛龍隊
その日は快晴な空が広がっていた。ワイバーンと呼ばれる飛龍を操り、竜騎士であるマールパティマは、公国北東方向の警戒任務についていた。
公国北東方向には、国は何もない。東に行っても、海が広がるばかりであり、幾多の冒険者が東方向へ新天地を求めて進行していったが、今まで帰ってきた者はいない。
哨戒勤務の必要性、それは最近ロウリア王国と緊張状態が続いているため、軍船による迂回、奇襲が行われた場合に早期に探知、対策をとるため、彼は相棒を公国北東の空へ飛ばしていた。
......ここまでは同じだったのだ。
「なんだ!あれは!?」
マールパティマは自分より遥か高く飛ぶ、白いワイバーンを発見した。
彼はすぐさま通信用魔法具を用いて司令部に報告する。
「第6飛竜隊所属のマールパティマだ!」
「こちら管制塔、聞こえているぞ。」
「我、未確認飛竜を発見せり!クッソ!未確認騎は飛行高度も飛行速度も我が公国のワイバーンを大きく越えている!迎撃も不可能だ!」
「なんだと!?第6飛竜隊総員に告ぐ!」
衝撃の渦に包まれた管制塔は全ワイバーンの出撃を命令するも、未確認騎を追うことは一切叶わなかった。
「クソッ!あいつらマイ・ハーク方面に...!」
その時、未確認騎は飛行高度を下げ、飛竜隊に見せつけるように数百m先を横切った。
刹那、マールパティマは悟った。
————死にたくない。
横切った未確認騎は非常に速く、最低でもクワ・トイネが保有するワイバーンの8倍程度は速かった。未確認騎から発せられた
「ダメだ!落ちる!」
「耐えろ!手綱を強く握れ!」
高度が上がるにつれて、当然気圧も下がる。戦闘中、気圧のせいで耳の痛みに悩まされ、それが原因で戦闘に敗北するということが無いようにするためクワ・トイネ公国では専用の耳栓が用意されている。そのためソニックブームによる爆音により鼓膜が破られることはなかった。しかしそのソニックブームは飛行中であるワイバーンを揺らし、違和感を覚えたワイバーンは体を揺さぶる。そのせいで騎乗兵は落ちかけ、中には実際に落ちてしまった人間も居る。
「大丈夫か!?,.wigh3si,ade41dj」
「うっ...助かった。感謝する」
このようにソニックブームによりワイバーンから落ちる事例は今までのクワ・トイネでは観測されなかったが、騎乗兵がワイバーンから振り落とされる事例は当然存在している。その為、クワ・トイネでは独自に飛行魔法を開発している。それを他人に対して行うことも当然可能である。
「心臓が止まったかと...?未確認騎は...?」
「....お前が落ちてる間に帰ったらしいな。」
「なんだったんだ.....」
未確認騎は巣に帰っていった。仕事を終えた第6飛竜隊は地上へ帰還し、普通の生活へ戻った
......残り少ない、普通の生活を。
西暦2015年......
中央暦1639年1月24日午後1時
「それで?どうだったのか?」
第97代日本国首相である武田首相は国防大臣に問いかける。
「もうそろそろ偵察部隊は帰還すると聞いたが?」
「今のところ情報は入ってきては...」
丁度、国防大臣の携帯が鳴る。
「失礼。なんだ?そうか、わかった。すぐ向かう。
どうやら偵察部隊が帰還したようです。申し訳ございませんが、私はこれで。」
「承知した。すぐ情報を伝えてくれたまえ。」
「わかりました、すぐに情報をお持ちしますよ。」
国防大臣は執務室を退室した。武田首相はため息をつく。
「めんどくせぇ。」
「もうそろそろ俺の任期も終わる頃なのになんでこんな事態に。しゃらくせぇ世界にも来てしまうしな...」
「だが丁度いい。こっちも
「こんなちっぽけな列島に5億人なんか入らねぇしな。」
日本国。概ね徳川政権下までは史実通り進んでいるものの、徳川政権は史実より医療関連に投資し、そのおかげで出産時の胎児生存率が上昇し、死亡率は史実と比べ劇的に下がった。米の品種改良も同時に進んだことで明治維新時には日本列島に既に6500万人程度の人間が住んでおり、そこから徐々に増え、史実との良いズレが重なり、人口は5億人にまで増えた。食料自給率は5%も無いが、中国やロシアからの搾取によりなんとか生活は成り立っている。
「眠ぃしちゃっちゃと仕事終わらせっか。あぁめんどくせぇ....」
武田総理が嘆いている最中、クワ・トイネ公国は酷く混乱していた。クワ・トイネ公国の首相であるカナタには同日午前8時に発生した未確認騎による領空侵犯問題の報告を受け、緊急政治部会を招集し軍務郷や情報分析部からの情報を聞いていた。
「中央歴1639年1月24日午前8時、第6飛竜隊は公国北東部を哨戒中、領空侵犯騎を発見。領空侵犯騎を追うもあまりの速度に振り切られ、第6飛竜隊総員を空へ飛ばすも領空侵犯騎から受けた謎の攻撃により転落しかける。その直後、領空侵犯騎は大東洋へ...との報告を第6飛竜隊及び同部隊管制塔から受けました。」
「この未確認騎の特徴は、
・我が国が保有するワイバーンとは比べ物にもならない速度で飛行。
・未確認騎は黒色に覆われ、翼に灰色の円がある。
・射程が数百mの風魔法を使用できる。
・ムー連邦の飛行機械と酷似している。
とのこと。情報分析部には既にこの報告が届いているでしょう。分析の結果、なにか判明したことはありますか?」
情報分析部が発言する。
「我々の分析の結果ですが...もしこの情報が大まかに正しい場合、この未確認騎は神竜の可能性があると思います。」
政治部会全体がざわめく。この世界には数多くの竜が存在するが、その中でも神竜種は桁外れた防御力と攻撃力を保有する。
風竜種や亜神竜種ですら公国を破壊しうる能力を持っているにも関わらず、神竜種ともなれば大陸全体を火の海にすることだって可能である。
.....もしその神竜が大陸全体に牙を向いたら?
「神竜だと?」
「まさか...そんなことが...」
「有り得るはずが...」
カナタが会話を切り出す。
「神竜...ですか...第6飛竜隊によると、形はムー連邦の飛行機械に酷似していると報告を受けましたが?」
「報告書にはそう記述されていますが、ムー連邦において開発されている飛行機械は最新のものでも最高速力が時速350km程度です。しかし、今回の飛行物体は.......」
情報分析部が黙る。
「どんな荒唐無稽でもいい。話してくれ。」
「.......第6飛竜隊からの報告書や実際に遭遇した兵との会話等から我々は、未確認騎の飛行速度は最低でも時速2400km.....音速を越えています。」
「なるほど。だから神竜か。どの神竜かはわかるか?」
「どの神竜かまでは判明させることは出来ませんでした。」
「ですが、自然発生した神竜ではなく、古の魔法帝国が風竜種を品種改良した型であろうという推測は立ちました。」
「古の魔法帝国が品種改良した神竜の中にはムー連邦の飛行機械と似通った形の神竜が存在することが確認されており、この情報は神聖ミリシアル帝国でも確認されています。」
カナタは悔しさからか拳を握りしめる。
「...わかった。クイラ王国にはその情報をすぐ共有してくれ。」
「.........パーパルディア皇国経由でロウリア王国にも、だ。」
「承知しました。それでは........」
政治部会が解散しようとする時、遠くから走ってくる人間が見えた。
「突然のご無礼失礼します!」
「なんだね君は!....って...急にどうした、第二艦隊司令よ」
第二艦隊司令は息を切らしながら話し始めた。
「港に超大型船舶を発見!臨検を行った所、搭乗員らは日本国という新興国の特使と名乗りました!」
「彼らはどうやら会談を要求しているらしく....」
「わかった。私が行こう。」
「カナタ首相!おやめください!情報分析部が言うにはかの神竜は古の魔法帝国が開発したものなのでしょう!?」
外務卿は必死にカナタを止める。当然であろう、古の魔法帝国が品種改良を行い誕生した神竜であれば従属魔法がかけられているのは確実。ではもしその日本国が神竜を従属させており、そこからクワ・トイネ公国へ飛ばしていたら?はたまた古の魔法帝国が国名を日本国に変態させていたら?
そもそもの話、首相という国のトップが一つの国家の特使と会談するというのもおかしな話である。
「それでも...」
「もしどうしてもというなら私も付きます。公国の未来の責任を全て自分1人で抱え込む必要はありません!」
「....ありがとう。それじゃあついてきてくれるか?」
「当然です。カナタ首相。」
政治部会解散後、カナタ首相と外務卿は多数の外交官をつれて日本国特使との会談に挑んだ。
「遅いですね...」
「だな。」
「こんなちんけな国のためにこれだけ時間をかけてくださる。クワ・トイネ公国でしたかな?あやつらは日本国への誠意が足りん。」
「やめましょう菊池さん。相手は我が国をまだ知らないんですから。」
クワ・トイネへの日本国特使に選ばれた田中外交官と菊池外交官は不満を垂れていた。...遅い、といってもまだ20分程度しか経っていない。
「足音が聞こえてきたな。もうそろそろだろう。」
「ですね...久しぶりですよ。この感覚は。」
「そうだな、外交官なりたての頃を思い出すよ。」
部屋の扉が開き、公国首相や外務卿、その他外交官が入室する。
「お待たせして申し訳ございません。クワ・トイネ公国首相のカナタと申します」
「そうだぞ!我々は....」
「いえいえ、こちらこそ突然の会談申し訳ございません。」
田中が菊池を制し、会談を進める。
(なるほど....田中さんの方は礼節はしっかりしている...)
外交官に求められるのは冷静さと判断力である。相手国が繰り出すあらゆる魔の手に対して冷静に一つ一つ返答し、国家機密に値する情報を見極める。
その点、田中は比較的地球での「旧時代」と似た理念を持っている。だが、菊池は既に新時代の理念に染まりきってしまった。
「それでは本題に入りましょう。」
「我が国日本国政府は貴国の保有する全ての情報と継続的な食料輸出を要求します。」
「保有する全ての情報...ですか...」
「例えばどのような情報ですか?」
「全てと言ったら全....」
田中が菊池を制する。菊池はムスっとしたまま、会議の行く末を田中に任せることにした。
「貴国の食料自給率・漁獲量や近隣国家の情報、この世界の地理、生息する生物などの基本的な情報を共有していただければと。」
「はぁ...世界の地理...ですか...」
「なぜそのようなものを?」
「我々は数日前、この世界に転移してきたので、この世界の情報を把握し切れていないんです。」
「転移...?」
「転移だと!?そんな滅茶苦茶なこと...」
外務卿が口を挟む。当然であろう、この世界で転移国家を自称する国は一カ国のみ存在する。それは確かだが、その国家が転移を自称する理由は神話に基づいた話であり、他国からは荒唐無稽な法螺話と思われている。それは転移したと言われる古の魔法帝国であっても、だ。
しかし相手の国力は未知数だ。200mクラス、またはそれ以上のクラスの艦艇を外交で使用できるのは神聖ミリシアル帝国及びムー連邦のみである。嘘のように聞こえる情報でもそれを蔑ろにするのではなく、肯定し出来る限り相手から情報を引き出す。首相カナタはそういった方針を取ることにした。
(外務卿、一度ここは転移を信じるふりをしてください...)
(...?あ...あぁ...わかった。)
「なるほど。転移国家だから情報が少ない......
特使の皆さんが聞き及んでいるかはわかりませんが、先程音速を越えた速度で動く生物を見つけました。
もしかしてそれは貴国が周辺海域の地理を調べるため派遣した竜...ということですか?」
「生物...竜....?生物や竜の類ではありませんが...そうですね、それは我々の航空機だと思います。」
(航空機...?あぁ、飛行機械のことか。)
「航空機ですと!まさか音速を超える航空機が存在し得るとは思いませんでした。」
(あの神竜は飛行機械だと......なんて国だ.....)
菊池の携帯が鳴る。
「すまない、離席する。」
「...今のはなんです?」
「電話ですね。遠距離での会話が可能になります。」
「遠距離での会話....魔信みたいなものですかね?」
(魔信.......電信と同義と考えていいだろう。.....この世界の技術はあまりにチグハグだな....)
「ははは...それでは話を戻しましょう。先程発言した通り情報開示と食料輸出、これが我が国が要求するものです。」
「食料輸出......どれほどの量の食料を輸出すれば....」
「そうですね....年間6億トンほど輸出していただければ幸いです。」
年間6億トンという数字はクワ・トイネ公国ですら賄いきれない数である。そのような要求は当然認めることは出来ない。
この要求を最初に否定したのは外務卿であった。
「我が国には6億トンの農作物を新たに輸出することは出来ませぬ!」
「とは言われましても.....我が国も困窮しているのです。早急に輸入先を整えなければ我が国は飢饉に陥ります。」
「だが......」
「外務卿、落ち着いてください。日本国の皆さんは我が国の年間生産量をご存じですか?」
「いえ。ですから先ほど情報を要求したのです。」
「残念ですが、我が国の年間生産量は1億にギリギリ達する程度しかありません。貴国の需要を満たすには到底足りませぬ。」
「...なるほど。1億に達するほどの農地が十分です。」
「十分...とは?」
カナタはこれまでの日本国の発言に懐疑的な目線を向けていた。その理由ははっきりと理解できなかった。
だが、この発言で確信した。日本国は公国を好き勝手改造しようとしていると。
「ここに来るまでの間、私が見聞きした限りでは、貴国の農業は全て手作業で行われているということで。」
「えぇ、そうですが......」
「我が国の機械製品を用いれば、種植えも収穫も従来の何百倍の速度で行うことが出来ます。そうなれば貴国の年間生産量を大幅に増加させることも可能になります。」
「.....冗談ですよね?」
「仮にそれが事実だとして、機械製品を使用し生産量を向上させても、その農作物を貴国に輸出する手段がないのです。」
「それでは機械製品の輸出や農作物の輸入を行うため、輸送網整備の一環として港湾整備や鉄道敷設、道路拡充を我が国が行いましょう。」
「...上昇させることが可能とおっしゃいましたが、具体的にはどれほど?」
「最低でも現状貴国が行っている食料の輸出入と消費、そして新たに我が国へ輸出する6億トン程度は余裕で賄えるでしょう。」
....ムーやミリシアルと比べるのがおこがましいほどの技術差だ...
部屋のドアが開く。菊池が帰ってきた。
(おい、田中。)
(どうしました?菊池さん。)
(本国からの連絡が来た...どうやら..........だそうだ。)
(そうですか、わかりました。)
カナタが発言する。ひそひそと話していた田中は彼の方へ体を向けた。
「本当に出来るのであれば、多少の情報開示と食料輸出は可能です。」
「ですが、実際に出来るというのを国民は信じられないでしょう。.....その国民には私も含まれます。」
「当然ながら我が国もそれを理解しています。」
「その為、貴国の近代化促進として一部都市の農場で農業の機械化を我が国が行いましょう。」
「そうなれば貴国の国民や政治部会は否が応でも納得せざるを得なくなる。」
首相カナタは終始圧倒されていた。日本国が要求する内容は最悪の場合、政権崩壊にも関わるような要求だ。カナタとしてそれは出来る限り避けたいが、譲歩を求めようとするとそれをのらりくらりと躱し、最終的に全ての要求を認めさせようとする日本国の姿勢にカナタは重い圧力を感じていた。
「....えぇ、承知しました。ですが、農作物の輸出は出来ても国民や政治部会が完全に納得するまで全国的な農政改革はできないかと....」
「十分です。ですが、その状況が数ヶ月も続くとなると困ります。出来る限り早急に行えるよう、お願いしますね。」
「........えぇ。当然、国内への根回しは勿論。」
「...それと、軍需品や武器等の輸出を視野に入れることは可能ですか?」
「武器...ですか。少数であれば可能です。貴国には近代的すぎて扱いづらいでしょう。同時に軍事顧問団も派遣します。」
「それは本当ですか!?近年、ロウリア王国との衝突が激化しているので助かります。」
「なるほど........それでしたら心配しないでください。」
「.....なんでしょう?」
「ロウリア王国......でしたか?彼の国はどうやら我々との会談を拒否したらしいのです。」
「......きっとそれは我が国とも交渉していることが関係しているでしょう。ロウリア王国は亜人の根絶を掲げていますので。」
「えぇ、その通りです。亜人関連で亀裂が入ったようです。」
「我が国のせいで貴国に迷惑をかけてしまいましたね。お詫び申し上げます。」
「いえいえ......理由はどうであれ、彼の王国は我が国との対話を拒否したわけで。」
「我々は対話を望む者には
「...つまり....」
「考えている通りだと思いますよ。今からロウリア王国は我々の手によって破滅を迎えます。」
「貴国の不安要素は明日から一つ、消えるでしょうな。」
この作品では日本皇室は多分登場しません。流石に横暴な皇室を見たくないし創作したくない...
何より登場させた場合感想が怖い事になりそうですし...