『Devil May Cry』
――ある日のデビルメイクライ。
事務所の中には、いつも通り気の抜けた空気が流れていた。
テレビからは適当な映画の音が流れ、普段ならソファーにはダンテが寝転がっている。
「……。」
だが、今日のダンテはいつもと少し違っていた。
手にしているのは、一本のショットガン。
一般的な散弾銃に見える。
しかし、よく見れば細部が明らかに普通ではない。
フォアエンドがバレルに合わせて横に広い。コッキングレバーがついている。マガジンが二つになっている。ボルトが後退するストッパーがない。上げたらきりがなかった。
そして何より。
ダンテ自身が、その銃を分解しては組み立て、何度も調整していた。
「……よし。」
最後の部品を取り付ける。
カチッ。
ダンテは銃を持ち上げ、全体を眺めた。
「完成だ。」
その瞬間。
ガチャッ。
事務所の扉が開いた。
「お邪魔するよ。」
入ってきたのはシードだった。
「……。」
ダンテは顔だけを向ける。
「よう、シード。」
「こんにちは、ダンテ。」
シードは事務所へ入ると、そのまま周囲を見回した。
「今日は私が当番だからね。」
「ああ。」
「何の当番か分かってる?」
「俺についての情報収集だろ?」
「正解。」
シードが笑う。
防衛軍とダンテの間で交わされた約束。
それによって、オボルス小隊のメンバーは定期的にダンテの事務所を訪れ、悪魔についての情報を聞き出すことになっていた。
今日の担当がシードというわけだ。
「それじゃあ、さっそく――」
「悪い。」
ダンテが手を上げる。
「ちょっと待ってくれ。」
「ん?」
ダンテは手元の銃を指差した。
「こいつを仕上げたい。」
シードが興味深そうに近づいてくる。
「銃?」
「ああ。」
ダンテは銃を持ち上げた。
「ショットガンだ。」
「……普通のショットガンに見えるけど。」
「まあ、見た目はな。」
ダンテはニヤリと笑う。
「へぇ。」
シードの目が輝く。
「見せて。」
「いいぜ。」
ダンテはあっさりと銃を差し出した。
「ほら。」
「ありがとう。」
シードは両手で受け取る。
「……。」
そして。
「…………。」
動きが止まった。
「……どうした?」
ダンテが尋ねる。
「……ダンテ。」
「ん?」
「これ。」
「何だ?」
「本当に銃?」
「ショットガンだって言っただろ。」
「そういう意味じゃない。」
シードは銃を裏返す。
そして、反対側から覗き込む。
「……。」
さらに分解された内部を確認する。
「…………。」
沈黙。
「どうだ?」
「……。」
シードの表情が引きつる。
「これ。」
「うん。」
「どういう設計思想?」
「設計思想?」
ダンテは首を傾げる。
「悪魔をぶっ飛ばせるようにした。」
「それだけ?」
「ああ。」
「……。」
シードは再び銃を見る。
「これ、普通のショットガンを改造したんだよね?」
「そうだ。」
「どこをどうしたら、こんなことになるの?」
「色々いじったらこうなった。」
「色々……。」
シードは頭を抱えた。
「……。」
銃の内部には、複雑な機構がいくつも組み込まれていた。
一見すると無駄にも思えるほど複雑。
しかし、それぞれの部品には明確な役割があるらしい。
シードはしばらくそれを眺めていた。
そして。
「……これ。」
「ん?」
「数学に例えるなら。」
シードは真顔で言った。
「一行で済む公式を、わざわざ百行くらい使って証明してるようなものだよ。」
「……。」
ダンテは少し考える。
「前同じことを別人に言われたぜ。」
「つまり。」
シードはコヨーテ・Aを持ち上げる。
「無駄に複雑。」
「……。」
「無駄に凝ってる。」
「……。」
「無駄に高性能。」
「……。」
ダンテは少しだけ眉を動かした。
「褒めてる?」
「全然。」
即答だった。
「これはね。」
シードはコヨーテ・Aをしげしげと眺める。
「けしからん武器だよ。」
「けしからん?」
「うん。」
「どの辺が?」
「普通のショットガンなら、もっとシンプルに作れるでしょ?」
「そうだな。」
「なのに、どうしてこんなに複雑なの?」
「その方が面白いから。」
「…………。」
シードは頭を抱えた。
「やっぱりダンテだ。」
「何だよ。」
「理屈より勢いで武器を作ってる。」
「失礼だな。」
「でも。」
シードは再びコヨーテ・Aを見る。
「……嫌いじゃない。」
「お。」
ダンテが笑う。
「気に入ったか?」
「気に入ったというより……。」
シードは銃を構えてみる。
「ちょっと興味が出てきた。」
「だろ?」
「実際に撃ってみたい。」
「いいぜ。」
ダンテが立ち上がる。
「外で試してみるか?」
「いいの?」
「ああ。」
ダンテはコヨーテ・Aを受け取る。
「こいつは悪魔用に作ってあるからな。」
「悪魔用?」
「ああ。」
ダンテは銃身を軽く叩く。
「普通のショットガンより威力が高い。」
「なるほど。」
「それに。」
ダンテが笑う。
「悪魔の肉体を吹き飛ばすために、色々仕込んである。」
「色々……。」
シードが少し遠い目をする。
「その『色々』が怖いんだけど。」
「気にするな。」
「気になるよ。」
その時だった。
「……。」
シードが何かを思い出したようにダンテを見る。
「そういえば。」
「ん?」
「今日は情報を聞きに来たんだった。」
「あ。」
ダンテが固まる。
「忘れてた。」
「私も銃に夢中になって忘れてた。」
「じゃあ今日はこれで終わりってことで。」
「ダメ。」
シードが即答する。
「チッ。」
「舌打ちした?」
「してない。」
「したよね?」
「気のせいだ。」
シードは笑いながらソファーへ腰掛ける。
「じゃあ、始めようか。」
「悪魔について。」
「またか。」
「当然でしょ。」
「軍の奴らにも散々話したぞ。」
「私たちはまだ全部聞いてないからね。」
「……。」
ダンテはソファーへ座り直す。
「分かったよ。」
「ありがとう。」
「その代わり。」
ダンテが指を一本立てる。
「終わったらコヨーテ・Aを撃ってみていいぜ。」
シードの目が輝く。
「本当に?」
「ああ。」
「約束だよ?」
「約束だ。」
シードは満足そうに頷いた。
「じゃあ、頑張って聞こうかな。」
「現金だなぁ。」
「何とでも言って。」
シードは楽しそうに笑った。
――それからしばらくして。
「つまり。」
シードは端末に情報を入力しながら言う。
「悪魔にはそれぞれ固有の能力がある。」
「ああ。」
「そして強い悪魔ほど、人間とは比較にならない身体能力を持っている。」
「そうだ。」
「魔具になることもある。」
「その通り。」
「……。」
シードは端末を見る。
「情報量、多いなぁ。」
「まだまだあるぜ。」
「本当に?」
「ああ。」
「……。」
シードが苦笑する。
「今日は長くなりそうだね。」
「だからピザを頼もうぜ。」
「やっぱりダンテだね。」
そんなやり取りをしながら。
二人の時間はゆっくりと過ぎていった。
――そして。
情報収集が終わった頃。
シードは約束通り、コヨーテ・Aを手にしていた。
「じゃあ。」
ダンテが笑う。
「試してみるか。」
「うん。」
シードは銃を構える。
「……。」
その姿を見ながら、ダンテは楽しそうに笑った。
「気をつけろよ。」
「何で?」
「そいつ。」
「かなりじゃじゃ馬だからな。」
「……。」
シードはコヨーテ・Aを見る。
そして。
「……ますます気に入った。」
「だろ?」
「でも。」
シードは少しだけ笑う。
「やっぱり。」
「この武器。」
「けしからんね。」
「ははっ。」
ダンテが笑う。
「最高の褒め言葉だ。」
「褒めてないってば。」
デビルメイクライの事務所に。
二人の笑い声が響いた。
――こうして。
シードはコヨーテ・Aという。
恐ろしく複雑で。
無駄に凝っていて。
しかし確実に強力なショットガンを知ることになった。
そして彼女の中で。
この銃に対する第一印象は。
最後まで変わらなかった。
――けしからん武器。
それが。
シードにとっての。
コヨーテ・Aだった。
なんだこの話?