悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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Wanna know the name?

『Devil May Cry』


第九話 コヨーテ・A

 

 

 

――ある日のデビルメイクライ。

 

事務所の中には、いつも通り気の抜けた空気が流れていた。

 

テレビからは適当な映画の音が流れ、普段ならソファーにはダンテが寝転がっている。

 

「……。」

 

だが、今日のダンテはいつもと少し違っていた。

 

手にしているのは、一本のショットガン。

 

一般的な散弾銃に見える。

 

しかし、よく見れば細部が明らかに普通ではない。

 

フォアエンドがバレルに合わせて横に広い。コッキングレバーがついている。マガジンが二つになっている。ボルトが後退するストッパーがない。上げたらきりがなかった。

 

そして何より。

 

ダンテ自身が、その銃を分解しては組み立て、何度も調整していた。

 

「……よし。」

 

最後の部品を取り付ける。

 

カチッ。

 

ダンテは銃を持ち上げ、全体を眺めた。

 

「完成だ。」

 

その瞬間。

 

ガチャッ。

 

事務所の扉が開いた。

 

「お邪魔するよ。」

 

入ってきたのはシードだった。

 

「……。」

 

ダンテは顔だけを向ける。

 

「よう、シード。」

 

「こんにちは、ダンテ。」

 

シードは事務所へ入ると、そのまま周囲を見回した。

 

「今日は私が当番だからね。」

 

「ああ。」

 

「何の当番か分かってる?」

 

「俺についての情報収集だろ?」

 

「正解。」

 

シードが笑う。

 

防衛軍とダンテの間で交わされた約束。

 

それによって、オボルス小隊のメンバーは定期的にダンテの事務所を訪れ、悪魔についての情報を聞き出すことになっていた。

 

今日の担当がシードというわけだ。

 

「それじゃあ、さっそく――」

 

「悪い。」

 

ダンテが手を上げる。

 

「ちょっと待ってくれ。」

 

「ん?」

 

ダンテは手元の銃を指差した。

 

「こいつを仕上げたい。」

 

シードが興味深そうに近づいてくる。

 

「銃?」

 

「ああ。」

 

ダンテは銃を持ち上げた。

 

「ショットガンだ。」

 

「……普通のショットガンに見えるけど。」

 

「まあ、見た目はな。」

 

ダンテはニヤリと笑う。

 

「へぇ。」

 

シードの目が輝く。

 

「見せて。」

 

「いいぜ。」

 

ダンテはあっさりと銃を差し出した。

 

「ほら。」

 

「ありがとう。」

 

シードは両手で受け取る。

 

「……。」

 

そして。

 

「…………。」

 

動きが止まった。

 

「……どうした?」

 

ダンテが尋ねる。

 

「……ダンテ。」

 

「ん?」

 

「これ。」

 

「何だ?」

 

「本当に銃?」

 

「ショットガンだって言っただろ。」

 

「そういう意味じゃない。」

 

シードは銃を裏返す。

 

そして、反対側から覗き込む。

 

「……。」

 

さらに分解された内部を確認する。

 

「…………。」

 

沈黙。

 

「どうだ?」

 

「……。」

 

シードの表情が引きつる。

 

「これ。」

 

「うん。」

 

「どういう設計思想?」

 

「設計思想?」

 

ダンテは首を傾げる。

 

「悪魔をぶっ飛ばせるようにした。」

 

「それだけ?」

 

「ああ。」

 

「……。」

 

シードは再び銃を見る。

 

「これ、普通のショットガンを改造したんだよね?」

 

「そうだ。」

 

「どこをどうしたら、こんなことになるの?」

 

「色々いじったらこうなった。」

 

「色々……。」

 

シードは頭を抱えた。

 

「……。」

 

銃の内部には、複雑な機構がいくつも組み込まれていた。

 

一見すると無駄にも思えるほど複雑。

 

しかし、それぞれの部品には明確な役割があるらしい。

 

シードはしばらくそれを眺めていた。

 

そして。

 

「……これ。」

 

「ん?」

 

「数学に例えるなら。」

 

シードは真顔で言った。

 

「一行で済む公式を、わざわざ百行くらい使って証明してるようなものだよ。」

 

「……。」

 

ダンテは少し考える。

 

「前同じことを別人に言われたぜ。」

 

「つまり。」

 

シードはコヨーテ・Aを持ち上げる。

 

「無駄に複雑。」

 

「……。」

 

「無駄に凝ってる。」

 

「……。」

 

「無駄に高性能。」

 

「……。」

 

ダンテは少しだけ眉を動かした。

 

「褒めてる?」

 

「全然。」

 

即答だった。

 

「これはね。」

 

シードはコヨーテ・Aをしげしげと眺める。

 

「けしからん武器だよ。」

 

「けしからん?」

 

「うん。」

 

「どの辺が?」

 

「普通のショットガンなら、もっとシンプルに作れるでしょ?」

 

「そうだな。」

 

「なのに、どうしてこんなに複雑なの?」

 

「その方が面白いから。」

 

「…………。」

 

シードは頭を抱えた。

 

「やっぱりダンテだ。」

 

「何だよ。」

 

「理屈より勢いで武器を作ってる。」

 

「失礼だな。」

 

「でも。」

 

シードは再びコヨーテ・Aを見る。

 

「……嫌いじゃない。」

 

「お。」

 

ダンテが笑う。

 

「気に入ったか?」

 

「気に入ったというより……。」

 

シードは銃を構えてみる。

 

「ちょっと興味が出てきた。」

 

「だろ?」

 

「実際に撃ってみたい。」

 

「いいぜ。」

 

ダンテが立ち上がる。

 

「外で試してみるか?」

 

「いいの?」

 

「ああ。」

 

ダンテはコヨーテ・Aを受け取る。

 

「こいつは悪魔用に作ってあるからな。」

 

「悪魔用?」

 

「ああ。」

 

ダンテは銃身を軽く叩く。

 

「普通のショットガンより威力が高い。」

 

「なるほど。」

 

「それに。」

 

ダンテが笑う。

 

「悪魔の肉体を吹き飛ばすために、色々仕込んである。」

 

「色々……。」

 

シードが少し遠い目をする。

 

「その『色々』が怖いんだけど。」

 

「気にするな。」

 

「気になるよ。」

 

その時だった。

 

「……。」

 

シードが何かを思い出したようにダンテを見る。

 

「そういえば。」

 

「ん?」

 

「今日は情報を聞きに来たんだった。」

 

「あ。」

 

ダンテが固まる。

 

「忘れてた。」

 

「私も銃に夢中になって忘れてた。」

 

「じゃあ今日はこれで終わりってことで。」

 

「ダメ。」

 

シードが即答する。

 

「チッ。」

 

「舌打ちした?」

 

「してない。」

 

「したよね?」

 

「気のせいだ。」

 

シードは笑いながらソファーへ腰掛ける。

 

「じゃあ、始めようか。」

 

「悪魔について。」

 

「またか。」

 

「当然でしょ。」

 

「軍の奴らにも散々話したぞ。」

 

「私たちはまだ全部聞いてないからね。」

 

「……。」

 

ダンテはソファーへ座り直す。

 

「分かったよ。」

 

「ありがとう。」

 

「その代わり。」

 

ダンテが指を一本立てる。

 

「終わったらコヨーテ・Aを撃ってみていいぜ。」

 

シードの目が輝く。

 

「本当に?」

 

「ああ。」

 

「約束だよ?」

 

「約束だ。」

 

シードは満足そうに頷いた。

 

「じゃあ、頑張って聞こうかな。」

 

「現金だなぁ。」

 

「何とでも言って。」

 

シードは楽しそうに笑った。

 

――それからしばらくして。

 

「つまり。」

 

シードは端末に情報を入力しながら言う。

 

「悪魔にはそれぞれ固有の能力がある。」

 

「ああ。」

 

「そして強い悪魔ほど、人間とは比較にならない身体能力を持っている。」

 

「そうだ。」

 

「魔具になることもある。」

 

「その通り。」

 

「……。」

 

シードは端末を見る。

 

「情報量、多いなぁ。」

 

「まだまだあるぜ。」

 

「本当に?」

 

「ああ。」

 

「……。」

 

シードが苦笑する。

 

「今日は長くなりそうだね。」

 

「だからピザを頼もうぜ。」

 

「やっぱりダンテだね。」

 

そんなやり取りをしながら。

 

二人の時間はゆっくりと過ぎていった。

 

――そして。

 

情報収集が終わった頃。

 

シードは約束通り、コヨーテ・Aを手にしていた。

 

「じゃあ。」

 

ダンテが笑う。

 

「試してみるか。」

 

「うん。」

 

シードは銃を構える。

 

「……。」

 

その姿を見ながら、ダンテは楽しそうに笑った。

 

「気をつけろよ。」

 

「何で?」

 

「そいつ。」

 

「かなりじゃじゃ馬だからな。」

 

「……。」

 

シードはコヨーテ・Aを見る。

 

そして。

 

「……ますます気に入った。」

 

「だろ?」

 

「でも。」

 

シードは少しだけ笑う。

 

「やっぱり。」

 

「この武器。」

 

「けしからんね。」

 

「ははっ。」

 

ダンテが笑う。

 

「最高の褒め言葉だ。」

 

「褒めてないってば。」

 

デビルメイクライの事務所に。

 

二人の笑い声が響いた。

 

――こうして。

 

シードはコヨーテ・Aという。

 

恐ろしく複雑で。

 

無駄に凝っていて。

 

しかし確実に強力なショットガンを知ることになった。

 

そして彼女の中で。

 

この銃に対する第一印象は。

 

最後まで変わらなかった。

 

――けしからん武器。

 

それが。

 

シードにとっての。

 

コヨーテ・Aだった。

 




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