『Devil May Cry』
――新エリー都防衛軍駐屯地。
駐屯地内に設けられた射撃訓練場では、今日も兵士たちが訓練を行っていた。
その一角。
トリガーもまた、射撃訓練を続けていた。
「……。」
プレゲトーンを構え、正面の的へ照準を合わせる。
パンッ!
乾いた銃声。
弾丸は的の中央付近へ命中した。
「……。」
トリガーは端末に表示されたスコアを確認する。
「……また、この程度ですか。」
最近、どうにもスコアが伸びない。
射撃そのものに問題があるわけではない。
命中率も十分に高い。
だが。
以前なら簡単に出せていた記録を、ここ最近はどうしても更新できずにいた。
「……。」
トリガーは小さく息を吐く。
「少し休みましょう。」
銃を下ろし、肩の力を抜く。
その時だった。
――ズドォォォォォォォン!!
「……!?」
突然、射撃場全体を揺らすような轟音が響いた。
トリガーの身体が僅かに跳ねる。
「……。」
耳を澄ます。
――ズドォォォォォォォン!!
再び。
「……。」
今の音は。
明らかに普通の銃声ではない。
「何ですか、今の……。」
トリガーは音のした方向を見る。
そこには一つの射撃レーンがあった。
だが。
そのレーンだけではない。
その隣。
さらにその隣の的まで。
何故か穴が開いている。
「……。」
トリガーが目を細める。
「どういうことですか?」
彼女は銃を置くと、音のしたレーンへ向かって歩き始めた。
そして。
「……。」
その人物を見つけた瞬間。
トリガーは言葉を失った。
「……ダンテさん?」
そこにいたのは。
赤いコートを着た男。
ダンテだった。
「お。」
ダンテが振り返る。
「よう、トリガー。」
「……。」
トリガーの視線が、ダンテの手元へ移る。
そこにあったのは。
巨大な銃だった。
長い銃身。
巨大なマガジン
そして、明らかに一般的な銃器とは比較にならない大きさの機関部。
「……それは?」
「こいつか?」
ダンテは銃を軽く持ち上げる。
「スパイラル。」
「スパイラル……。」
トリガーはその名前を繰り返す。
「この前依頼を受けたときにホロウから拾ってきた大口径の対戦車ライフルを改造した銃器だ。」
「……。」
トリガーの目が少しだけ大きくなる。
「対戦車ライフル。」
「そう。」
ダンテは何でもないことのように答える。
「悪魔相手に使いやすいように色々いじった。」
「……。」
トリガーは銃を見る。
そして、改めて周囲を見る。
最初にダンテが撃った的。
その的には大きな穴が開いている。
しかし。
その後ろにあった的にも穴がある。
さらに、その奥にも。
「……貫通している?」
「その通り。」
ダンテが笑う。
「こいつの弾は硬い奴にもよく効く。」
「……。」
トリガーはしばらく黙っていた。
そして。
「なぜ。」
「ん?」
「なぜ、それを腰で撃っているんですか?」
ダンテは自分の姿を見る。
スパイラルは、本来なら両手でしっかりと構えるべき大型火器。
それをダンテは。
片手を添えただけの腰だめに近い姿勢で構えていた。
「こっちの方が楽だから。」
「……。」
トリガーの眉が僅かに動く。
「普通は楽ではありません。」
「そうか?」
「はい。」
「まあ、俺だからな。」
「それは理由になっていません。」
「細かいことは気にするな。」
「……。」
トリガーが黙る。
その間にも。
ダンテはスパイラルを再び構えた。
「じゃ、もう一発いくぜ。」
「待ってください。」
「ん?」
「何を狙っているんですか?」
ダンテは正面を見る。
「的。」
「……。」
「見れば分かるだろ?」
「そういう意味ではありません。」
トリガーが言い終わる前に。
ダンテが引き金を引いた。
――ズドォォォォォォォン!!
「……!」
凄まじい轟音。
同時に。
ダンテの身体が僅かに後退する。
「……。」
トリガーは目を見開いた。
ダンテでさえ。
反動を完全には殺せていない。
しかし。
それでも倒れない。
そのままスパイラルを保持している。
「……すごい反動ですね。」
「だろ?」
ダンテが笑う。
「こいつは俺でもちょっと後ろに持ってかれる。」
「ちょっと、ですか。」
「ちょっとだ。」
トリガーは正面を見る。
弾丸は。
またしても的を貫通していた。
一枚。
二枚。
三枚。
その先にある防弾板にまで深い傷が刻まれている。
「……。」
トリガーは絶句する。
「この威力。」
「悪魔相手なら便利だぜ。」
「……。」
トリガーは思う。
この男にとって。
銃というものは。
威力を調整するものではない。
どうすればさらに強くできるか。
その一点だけを追求しているのではないか。
そんな気がしてきた。
「……。」
だが。
次の瞬間。
ダンテはスパイラルの銃口を。
全く別の方向へ向けた。
「……?」
トリガーが目を細める。
「ダンテさん。」
「ん?」
「そちらには的がありません。」
「ああ。」
「……。」
「分かってる。」
「では、なぜ?」
ダンテがニヤリと笑う。
「まあ見てな。」
「……?」
ダンテは銃口を。
壁へ向ける。
そして。
――ズドォォォォォォォン!!
弾丸が放たれる。
「……!」
当然。
トリガーは思った。
外れた。
そう思った。
しかし。
次の瞬間。
――キィン!!
弾丸が壁に当たった。
そして。
跳ね返る。
「……!?」
弾丸はさらに別の壁へ。
――キィン!!
そしてまた。
――キィン!!
弾丸は壁を次々と跳ね回り。
「……!」
離れた場所に設置されていた複数の的を。
次々と射抜いていった。
パンッ!
パンッ!
パンッ!
パンッ!
「…………。」
トリガーは完全に固まった。
数秒。
何も言えない。
やがて。
「……。」
ゆっくりとダンテを見る。
「……今のは。」
「跳弾。」
「それは分かります。」
「そうか。」
「そうではなく。」
トリガーは眉間を押さえる。
「なぜ当たるんですか?」
「壁に当てたから。」
「そういう話ではありません。」
「角度を計算した。」
「……。」
トリガーは再びスコア表示を見る。
そして。
周囲の的を見る。
全て命中。
しかも。
「……。」
トリガーは呆然と呟いた。
「普通なら外れる方向へ撃って。」
「壁に反射させて。」
「複数の的に当てる。」
「ああ。」
「……。」
「すごいだろ?」
「すごいというより。」
トリガーはダンテを見る。
「めちゃくちゃです。」
「ははっ。」
ダンテは楽しそうに笑った。
「褒め言葉として受け取っとくぜ。」
「褒めていません。」
「シードにも似たようなこと言われたな。」
「でしょうね。」
トリガーは深く息を吐く。
そして。
「……ところで。」
「ん?」
「ダンテさん。」
「何だ?」
「なぜ、ここにいるんですか?」
「……。」
ダンテの動きが止まった。
「……。」
トリガーはじっと見る。
「防衛軍の射撃訓練場ですよね?」
「ああ。」
「あなたは防衛軍の所属ではありません。」
「ああ。」
「それなのに、なぜここで射撃訓練を?」
「……。」
ダンテはスパイラルを見る。
そして。
「……。」
空を見上げる。
「いやぁ。」
「何でしょう?」
「今日は天気がいいな。」
「話を逸らさないでください。」
「バレたか。」
「当然です。」
ダンテは肩をすくめる。
「ちょっと銃を試したかったんだよ。」
「それなら、事前に許可を取ってください。」
ダンテが考える。
「そういうの、面倒なんだよな。」
「面倒でも必要です。」
「軍人ってのは堅いねぇ。」
「あなたが自由すぎるだけです。」
「そうか?」
「そうです。」
トリガーが即答する。
ダンテは笑う。
「まあ、細かいことはいいじゃねぇか。」
「よくありません。」
「それより。」
ダンテが突然スパイラルをトリガーへ向ける。
「午後、暇か?」
「……?」
「昼飯、奢りを賭けて勝負しないか?」
「勝負?」
「ああ。」
ダンテは楽しそうに笑った。
「スナイパー勝負だ。」
「……。」
トリガーは目を瞬く。
「スナイパー?」
「そう。」
「この銃で?」
「もちろん。」
トリガーはスパイラルを見る。
そして。
「……これは対戦車ライフルですよね?」
「改造したけどな。」
「スナイパーライフルではありません。」
「似たようなもんだろ。」
「全然違います。」
「細かいなぁ。」
「重要なところです。」
ダンテは笑いながらスパイラルを肩へ担ぐ。
「ルールは簡単。」
「……。」
「遠距離の的を撃って、どっちが高得点を取れるか。」
「……。」
「負けた方が昼飯を奢る。」
トリガーは少し考える。
そして。
「……いいでしょう。」
「お。」
「受けて立ちます。」
「話が早いねぇ。」
「ただし。」
トリガーはプレゲトーンを手に取る。
「負けても、文句は言わないでください。」
ダンテがニヤリと笑う。
「そいつはこっちの台詞だ。」
「……。」
トリガーは静かに構える。
「では。」
「勝負といきましょう。」
「上等。」
ダンテもスパイラルを構える。
その姿を見ながら。
射撃場にいた兵士たちは。
「……。」
「……。」
「何が始まるんだ?」
誰もが不安そうな顔をしていた。
そして。
ダンテのスパイラルが。
再び轟音を響かせる。
――ズドォォォォォォォン!!
「……!」
トリガーも引き金を引く。
バンッ!
二つの銃声。
まったく違う音。
だが。
どちらも。
正確に遠くの的を射抜いていた。
「……。」
トリガーがダンテを見る。
「楽しそうですね。」
「ああ。」
ダンテは笑う。
「昼飯がかかってるからな。」
「そこですか。」
「大事だろ?」
「……。」
トリガーは呆れながらも。
僅かに口元を緩めた。
こうして。
新エリー都防衛軍の射撃訓練場では。
一人のデビルハンターと。
一人の防衛軍兵士による。
妙なスナイパー勝負が始まることになった。
ちなみにこの後ダンテは鬼火隊長に無許可での射撃訓練場の使用で説教された。
謎の話パート2
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