『Devil May Cry』
――新エリー都。
夜もすっかり深くなった頃。
ダンテは一人、街中を歩いていた。
「……。」
その手には一本のビデオテープ。
少し前に借りたものだった。
ダンテは何気なくテープを眺める。
「……あ。」
そこで、ふと気づいた。
「返却期限、もうすぐじゃねぇか。」
危うく返し忘れるところだった。
「危ねぇ、危ねぇ。」
ダンテは肩をすくめると、そのまま目的地へ向かって歩き始める。
向かう先は、六分街にあるビデオ店――Random_Play。
夜も遅い時間だったが、店の方角にはまだ明かりが灯っている。
「まだやってるみたいだな。」
ダンテは少し歩く速度を上げた。
そして。
店へ近づいたところで、ダンテは足を止める。
店の前に、二人の人影があった。
「……ん?」
よく見ると。
そこにいたのは、Random_Playの店長兄弟――アキラとリンだった。
何やら二人で話をしている。
「……。」
ダンテは少しだけ耳を傾ける。
どうやら、かなり真剣な話をしているようだった。
「えっと……。」
「『カリュドーンの子』っていう郊外の走り屋が、パールマンの手がかりを知ってる……けど、それを教える条件は、私たちが協力について、話し合いに応じること……か。」
「お兄ちゃん、どう思う?」
アキラが頷く。
「願ってもないパールマンの手がかりだ。みすみす逃す手はない。郊外では走り屋が情報通だというのも、まさに「羊飼い」が言っていたことだからな。」
「そりゃそうだけどさ…相手はお兄ちゃんに、不慣れな郊外へ「生身で来い」って言ってるんだよ!」
リンは少し考え込む。
「一応、ビリーもいるわけだしな。古巣とも言っていたし、今でも手伝いをしているならそれなりにいい関係を維持しているんだろう。」
「さっきFairyに検索してもらったんだ。そんなに情報はなかったけれど、「カリュドーンの子」と、そこが経営している運送会社…どちらもネガティブなロコミはなかった。」
「はぁ、わかったよ。それならいいけど…」
「……。」
ダンテは二人の会話を聞きながら、少しだけ眉を上げる。
郊外。
その言葉が妙に引っかかった。
「よう。」
「……?」
二人が同時に振り向く。
そこには、赤いコートを着た男が立っていた。
「ダンテさん?」
リンが目を丸くする。
「こんばんは。」
「おう。」
ダンテは軽く手を上げる。
「こんな時間まで仕事か?」
「まあね。」
アキラが苦笑する。
「ダンテこそ、どうしたんだ?」
「ああ。」
ダンテは手に持ったビデオテープを見せる。
「これを返しに来た。」
「ビデオ?」
リンが首を傾げる。
「借りてたやつ。」
「ああ、なるほど。」
リンが手を伸ばす。
「じゃあ、ここでいいよ。」
「いいのか?」
「うん。」
ダンテはビデオを渡す。
リンは受け取ると、店の端末を確認する。
「……はい。返却処理、完了。」
「助かったぜ。」
「どういたしまして。」
ダンテは店の中をちらりと見る。
そして。
「ところで。」
「ん?」
「さっき話してた『郊外』ってのは?」
リンとアキラが顔を見合わせる。
「聞いてたの?」
「まあな。」
ダンテは肩をすくめる。
「たまたま聞こえただけだ。」
アキラが答える。
「郊外に『カリュドーンの子』っていうチームがいるんだ。」
「へぇ。」
ダンテは興味深そうに頷く。
「走り屋ねぇ。」
「パールマンっていう人物について、何か手がかりを持っているらしいんだけど……。」
リンが続ける。
「その情報を教えてもらうには、私たちが協力について話し合う必要があるみたい。」
「なるほどな。」
ダンテは腕を組む。
「つまり、情報と引き換えってわけか。」
「そういうこと。」
「面倒くさそうだな。」
「まあ、簡単にはいかないよ。」
リンが苦笑する。
ダンテは少しだけ考えた。
そして。
「郊外か……。」
「どうしたの?」
「いや。」
ダンテは笑う。
「ちょっと気になっただけだ。」
「?」
リンが首を傾げる。
「それじゃ、俺は帰るぜ。」
「うん。気をつけてね。」
「おう。」
ダンテは軽く手を振ると、その場を後にした。
――それからしばらくして。事務所内
「……郊外。」
先ほど聞いた言葉が、何故か頭から離れない。
ダンテは小さく笑う。
「面白そうじゃねぇか。」
その時だった。
――ジリリリリリリ!!
「……。」
事務所の黒電話が鳴り響いた。
ダンテは足を止める。
「……。」
少しだけ嫌な予感がした。
「この時間に電話ねぇ。」
ダンテは事務所へ戻る。
そして、受話器を取った。
「こちらデビルメイクライ。」
『ダンテか?』
聞き慣れた声。
「羊飼いか。」
『ああ。』
「どうした?」
『依頼だ。』
「仕事?」
『そうだ。』
ダンテは受話器を肩に挟みながら、椅子へ腰を下ろす。
「どんな内容だ?」
『郊外で妙な目撃情報が出ている。』
「郊外?」
ダンテの眉が上がる。
『ああ。』
『大型の怪物のようなものを見たという証言が複数ある。』
『通常のエーテリアスとは違う可能性がある。』
「……。」
ダンテの表情が少し変わる。
『俺は、悪魔の可能性を疑っている。』
「悪魔ねぇ。」
ダンテは椅子にもたれかかる。
そして。
「ちょうどいい。」
『何がだ?』
「いや。」
ダンテは笑う。
「さっき郊外の話を聞いたところなんだ。」
『……。』
羊飼いが少し黙る。
『お前は本当に妙なところで運がいいな。』
「だろ?」
『それで、受けるのか?』
ダンテは即答した。
「ああ。」
『まだ詳しい情報を話していないぞ。』
「別にいい。」
『……いいのか?』
ダンテは立ち上がる。
「悪魔がいるってんなら、俺の仕事だろ?」
『……分かった。』
羊飼いは呆れたように息を吐く。
『依頼を正式に受理する。』
「了解。」
『現地の情報は後で送る。』
「頼むぜ。」
『くれぐれも無茶はするなよ。』
「それは無理な相談だな。」
『……。』
「じゃあな。」
ダンテは受話器を置いた。
「……郊外。」
先ほどまでとは違う意味で、その言葉が気になってくる。
そして。
ダンテはニヤリと笑った。
「走り屋に、悪魔か。」
「退屈しなさそうだ。」
――翌日。
新エリー都。
ダンテの事務所、その裏手。
そこには小さな倉庫があった。
ダンテは倉庫の扉を開ける。
「……。」
中には、様々な道具や武器が並んでいた。
そして、その中央。
一台のバイクが置かれている。
黒い車体。
無駄のないフォルム。
荒々しさを感じさせるエンジン。
「……。」
ダンテは、そのバイクへ近づく。
「昨日届いたばっかりなんだよな。」
手を伸ばし、ハンドルを軽く撫でる。
「悪くねぇ。」
そして。
ダンテは跨った。
「……。」
足をステップへ乗せる。
ハンドルを握る。
その瞬間。
ダンテの口元に笑みが浮かんだ。
「さて。」
キーを回す。
――ドゥンッ!!
エンジンが唸る。
倉庫の中に低い排気音が響き渡った。
ダンテはアクセルを軽く捻る。
――ブォォォン!!
「いい音だ。」
ダンテは満足そうに頷く。
そして、前方を見る。
「郊外まで。」
「こいつで行くか。」
バイクのエンジンが、さらに大きく唸る。
――ブォォォォォン!!
ダンテはゴーグルを下ろす。
「待ってろよ。」
「Devil Hunt{悪魔退治}だ。」
そして。
――ドォン!!
バイクが倉庫から飛び出していった。
新エリー都の街を抜け。
その先に広がる、未知の郊外へ。
ダンテの新たな仕事が。
今、始まろうとしていた。