『Devil May Cry』
あの後。
ダンテは、胸を貫いたアストラルをなんとか引き抜いていた。
「……ったく。」
ダンテは胸元を確認しながら、ため息を吐く。だが、そこに残っていた傷はすでになく、半人半魔である彼にとって、この程度の傷は致命傷どころか、少し厄介な出来事でしかない。
「毎回、派手な歓迎をしてくれるもんだぜ。」
そうぼやきながらも、ダンテの視線は目の前に向けられていた。
魔具――キャバリエーレ。
「さて。」
ダンテはキャバリエーレへ跨がると、ハンドルを握った。
アクセルを捻る。
――グォォォォォォォン!!
凄まじいエンジン音とともに、キャバリエーレがホロウの奥へと走り出した。
その巨体からは想像もつかないほどの速度で、瓦礫を飛び越え、崩れた道路を駆け抜けていく。
「ははっ!」
楽しそうな笑い声が、誰もいないホロウへ響いた。
――
その頃。
別の場所では、アキラとビリーがホロウから脱出するために歩き続けていた。
アキラが疲労した身体を引きずるように歩いていると、突然、近くの瓦礫が大きく揺れた。
――ズズズズズ……。
「……?」
ビリーが振り返る。
次の瞬間。
「グォォォォォォォォォッ!!」
瓦礫の山から、巨大なエーテリアスが姿を現した。
異常なほど発達した四肢。膨れ上がった筋肉。鋭く伸びた爪。そして、エーテルによって変質した巨大な身体。
エーテリアス――凶悪狂人。
かつては人間だった存在。
ホロウで烈性エーテル物質に侵蝕されながらも、完全なエーテル転換を起こさなかったことで、その肉体は異常な形へと変異していた。
その圧倒的な戦闘力。
生前はホロウへ押し入り、強盗を働いていた凶悪なギャングの幹部、あるいはその用心棒だったのだろう。
そして今、その凶悪性だけがエーテルによって増幅されている。
「……。」
アキラが息を呑む。
凶悪狂人が腕を振り上げた。
「グォォォォォッ!!」
――ドゴォン!!
巨大な拳が地面へ叩きつけられ、瓦礫が吹き飛ぶ。
「やっべ! デカブツだ!」
ビリーが叫ぶ。
「車に戻って、ここを出よう!」
二人は一気に走り出した。
「店長、もうちょいだ!」
「僕はそろそろ限界だ……!」
だが、その背後から地面を踏み砕くような音が迫ってくる。
――ドスン。
――ドスン。
――ドスン。
「……嘘だろ!?」
アキラが振り返る。
凶悪狂人は、あの巨体からは想像もつかない速度で二人へ迫っていた。
「グォォォォォッ!!」
「店長!」
「――!」
次の瞬間、凶悪狂人の頭が振り抜かれる。
――ドゴォン!!
「うわぁぁぁっ!」
二人の身体がまとめて吹き飛ばされた。
地面を転がったアキラとビリーが顔を上げる。
その目の前には、巨大な足があった。
「グォォォォォォッ!!」
凶悪狂人が腕を振り上げる。
「……。」
アキラの顔から血の気が引いた。
その時だった。
――ゴォォォォォォン!!
遠くから、エンジン音が響いてきた。
「……?」
凶悪狂人が振り返る。
次の瞬間。
――ドォォォォォォン!!
巨大なバイクが、もの凄い速度でこちらへ突っ込んできた。
「え?」
アキラが目を見開く。
バイクはそのまま凶悪狂人へ突っ込み――その巨体を踏み台にして跳ね上がった。
「うおおおっ!?」
ビリーが叫ぶ。
バイクは凶悪狂人の身体を乗り越え、そのまま二人の前へ着地した。
――キキィィィィッ!!
タイヤが地面を削りながら停止する。
「……。」
アキラとビリーが呆然とする。
そして、バイクから降りてきた人物を見て、ビリーが叫んだ。
「アネゴぉ!」
そこにいたのは、シーザーだった。
「久しいな、ビリの字!」
「シーザーのアネゴ!」
シーザーは豪快に笑いながら、アキラへ視線を向ける。
「で――こいつが伝説のプロキシか!」
「……。」
アキラは戸惑いながらも頷いた。
その時、ビリーが周囲を見回す。
少し離れた場所に、自分の銃が落ちている。
ビリーが慌てて駆け寄り、銃を拾おうとした。
その瞬間。
――ダッ!!
誰かが、ビリーの頭上を駆け抜けた。
「パイセン。」
聞き覚えのある声。
「なまったっすね。」
――ドゴォン!!
拳が凶悪狂人の顔面へ叩き込まれた。
「グォォォォォッ!!」
凶悪狂人の巨体が大きくよろめく。
「ライト!」
ビリーが叫ぶ。
ライトは拳を構え、シーザーも武器を構えた。
「いくぜ! 目にもの見せてやっからよぉ!」
その瞬間。
周囲から、異様な気配が次々と湧き上がった。
瓦礫の陰。
崩れた建物の奥。
道路の向こう。
次々とエーテリアスが姿を現していく。
「……!」
アキラが周囲を見回す。
「増えてる……!」
「こりゃ、派手にやれそうっすね!」
ライトが構える。
シーザーも不敵な笑みを浮かべた。
凶悪狂人が再び咆哮する。
「グォォォォォォォッ!!」
戦闘が始まろうとした。
――その時。
遠くから、また別の音が聞こえてきた。
「……?」
シーザーが振り返る。
「何だ?」
――ゴォォォォォォォォォン!!
地面まで震えるほどのエンジン音。
「……。」
アキラが目を見開く。
「まさか……。」
道路の向こうから、一台のバイクが凄まじい速度で突っ込んでくる。
「何だありゃ!?」
ビリーが叫ぶ。
赤いコート。
白い髪。
そして、巨大なバイク。
「ダンテだ!」
アキラが声を上げる。
「よぉ!」
ダンテが片手を上げる。
「悪いな!」
「ちょっと通るぜ!」
「え?」
ビリーが固まる。
「ちょ、待――。」
ダンテはアクセルを全開にした。
――グォォォォォォォン!!
キャバリエーレが一気に加速する。
そのままダンテごと宙へ飛び上がった。
「うおおおおおっ!?」
ビリーが叫ぶ。
ダンテは空中で車体を傾ける。
「そらっ!」
――ドォン!!
着地と同時にキャバリエーレを横滑りさせた。
ギャリギャリギャリギャリッ!!
刃へ変化したタイヤが高速回転する。
「グォッ!?」
エーテリアスの身体が刃へ巻き込まれた。
「ギィィッ!」
さらに別のエーテリアスが吹き飛ぶ。
ダンテはアクセルを回しながら、その場で大きく旋回する。
「まだまだ!」
――ギャリギャリギャリッ!!
巨大な車輪が地面を削りながら回転し、周囲のエーテリアスを次々と巻き込んでいく。
刃の先端へエーテリアスが突き刺さる。
そのままダンテは車体を跳ね上げた。
「――よっと!」
キャバリエーレが再び宙へ舞う。
「なっ!?」
シーザーが目を見開く。
ダンテは空中で車体を一回転させた。
そして――。
――ガキィン!!
巨大な車体が中央から二つに分離した。
「……!?」
アキラが絶句する。
二つに分かれたキャバリエーレを、ダンテが左右の手で掴む。
巨大な刃を振り上げ――。
――ズガァァァン!!
空中から振り下ろされた二つの刃が、エーテリアスをまとめて粉砕する。
「グォォォッ!!」
「ギィィィィッ!!」
「グガァァァッ!!」
ダンテは止まらない。
右。
左。
さらに右。
二つのキャバリエーレが巨大な双剣のように振り回され、エーテリアスの群れを次々と薙ぎ払っていく。
やがてダンテは、片方のキャバリエーレを地面へ突き立てた。
――ギャリギャリギャリギャリッ!!
刃となったタイヤが高速回転する。
ビリーが首を傾げた。
次の瞬間。
回転する刃が地面を噛んだ。
凄まじい勢いでダンテの身体が引っ張られる。
そのまま身体が宙へ浮いた。
ダンテはその勢いを利用して身体を回転させる。
「おらぁっ!」
――ズバァン!!
キャバリエーレがエーテリアスを切り裂く。
「もう一丁!」
――ズガァン!!
さらに一体。
「まだまだ!」
――ザシュッ!!
次々とエーテリアスが吹き飛んでいく。
ダンテは空中で身体を翻し、二つのキャバリエーレを振り回しながら周囲の敵を一掃していく。
その姿は、まるで巨大な刃を操る暴風そのものだった。
やがて、最後のエーテリアスが吹き飛ぶ。
――ドォン!!
ダンテは地面へ着地した。
周囲には、大量のエーテリアスの残骸が散らばっていた。
「……。」
アキラ。
ビリー。
シーザー。
ライト。
そして、凶悪狂人。
全員が呆然とダンテを見つめている。
ダンテは周囲を見回す。
そして、ニヤリと笑った。
「渋滞してるな!」
「…………。」
誰も言葉を返せない。
そんな中、ビリーだけが目を輝かせていた。
そしてダンテはまだ残っているエーテリアス――凶悪狂人へ視線を向けた。
「さて。」
ダンテが笑う。
「もう一周するか?」
凶悪狂人が咆哮する。
「グォォォォォォォォォッ!!」
シーザーは武器を構える。
ライトも拳を握る。
ビリーは銃を構え直し、アキラは後ろへ下がりながら目の前の光景を見つめていた。
ホロウの中。
戦場は、さらに激しさを増していく。