『Devil May Cry』
「グォォォォォォォォォッ!!」
凶悪狂人が咆哮する。
巨大な四肢が地面を踏み砕き、周囲の瓦礫が跳ね上がった。その巨体は、生前から鍛え上げられていたであろう肉体を、エーテルによってさらに異形へと変貌させている。太い腕。鋭い爪。そして異常なまでに発達した筋肉。
単純な力比べなら、並のエーテリアスなど相手にならない。
だが――。
「――そらそらそらぁっ!」
パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!
ビリーが二丁のリボルバーを交互に撃ち続ける。
高威力の実包が次々と凶悪狂人へ叩き込まれ、その巨体が僅かに揺れる。
「効いてる効いてる! アネゴ、今のうちに――」
「分かってる!」
シーザーが盾を構えたまま突っ込む。その隣をライトも駆けていく。
「パイセン、援護頼むっすよ!」
「任せろ!」
ビリーがさらに引き金を引く。
しかし――。
「……あ。」
カチン。
「……弾切れだ!」
ビリーが二丁のリボルバーを見下ろす。
「マジかよ! こんな時にぃ!」
「何やってんだ、パイセン!」
ライトが呆れた声を上げる。
「いやいや! 俺の娘たちはちゃんと仕事したんだよ! むしろ頑張りすぎたくらいで――」
その横を、ダンテが歩いていく。
右手にエボニー。左手にアイボリー。
二丁の拳銃を軽く構えた。
「……ダンテ?」
ビリーが振り返る。
ダンテは二丁の銃を眺めながら、口元を吊り上げた。
「弾ならいくらでもあるぜ。」
「……?」
次の瞬間。
――ズダダダダダダダダダダダッ!!
凄まじい連射音がホロウに響き渡った。
エボニーとアイボリーから放たれた弾丸が、まるで豪雨のように凶悪狂人へ降り注ぐ。
一発。
二発。
十発。
二十発。
それでも止まらない。
ダンテは左右の銃を交互に撃ち続けながら、凶悪狂人の身体を正確に撃ち抜いていく。
「グォォォォォッ!!」
凶悪狂人が腕で顔を覆う。
しかし――。
ズダダダダダダダダダダッ!!
その腕すら撃ち抜かれる。
「グガァァァァァッ!!」
凶悪狂人が後退する。
「……おい。」
ビリーが呆然と呟いた。
「まだ撃ってるぞ?」
「撃ってるな。」
ライトも目を丸くする。
「というか、あれ……いつまで撃てるんすか?」
シーザーも思わずダンテを見る。
「さあな!」
ダンテ本人は楽しそうに笑いながら撃ち続けている。
「ただ――」
エボニーから放たれた弾丸が凶悪狂人の肩を撃ち抜く。
「俺が撃ちたいだけ、撃てるってことだ!」
ズダダダダダダダダダダダッ!!
銃声が止まらない。
その弾丸には、通常の火薬によるものとは異なる魔力が宿っていた。
ダンテは自らの魔力を弾丸へと変換し、それを無尽蔵に撃ち出している。
つまり――。
弾切れという概念そのものが、ダンテには存在しない。
「なんだよ、それ……。」
ビリーが引きつった声を漏らす。
「反則じゃないか?」
「今さらだろ。」
ライトが苦笑する。
その間にも、銃撃は続いていた。
ズダダダダダダダダダダダッ!!
凶悪狂人の身体が大きく揺れる。
「グォォォォォッ!!」
巨大な腕を振り回そうとするが、その動きをダンテの銃撃が阻害する。
右肩。
左腕。
脚。
胸部。
次々と弾丸が命中し、凶悪狂人の巨体が徐々に後退していく。
「今だ!」
ライトが叫んだ。
「シーザー!」
「おう!」
シーザーが一気に踏み込む。
盾を構え、凶悪狂人の拳を正面から受け止めた。
――ドォン!!
「ぐっ!」
地面が大きく陥没する。
だが、シーザーは怯まない。
「この程度かぁ!」
盾で拳を受け流し、そのまま身体を捻る。
「おらぁっ!」
――ズガァン!!
剣が凶悪狂人の腕を切り裂き、深い傷を刻んだ。
「グォォォッ!!」
「まだまだ!」
シーザーがさらに踏み込む。
その反対側から、ライトが飛び込んだ。
「パイセン、援護ありがとっす!」
右腕に装着された爆燃動力グローブが唸りを上げる。
――ゴォォォッ!!
内蔵されたジェット推進が拳を一気に加速させる。
「ぶっ飛べぇっ!!」
――ドゴォォォォン!!
拳が凶悪狂人の腹部へ叩き込まれた。
「グガァァァァァッ!!」
凶悪狂人の巨体が大きく後退する。
「よし!」
ビリーが歓声を上げる。
「そのまま畳みかけ――」
その時だった。
凶悪狂人の目が赤く輝く。
「……?」
ダンテが銃を下ろした。
「おいおい。」
凶悪狂人が身体を低くする。
「来るぞ!」
ライトが叫ぶ。
凶悪狂人の腕が大きく振り上げられた。
シーザーとライトは、それぞれ左右へ飛び退こうとする。
だが――。
巨大な拳が二人へ迫る。
その瞬間。
――バチィィィィィッ!!
青白い雷光が走った。
「――!」
凶悪狂人の背後。
いつの間にか、ダンテが立っていた。
その手には、魔剣アストラル。
刀身へ青白い雷を纏わせたまま、ダンテは静かに構える。
「悪いな。」
「そいつは俺の獲物だ。」
「――お前!?」
シーザーが叫ぶ。
ダンテは一歩踏み込んだ。
――バチィィィィィン!!
雷光を纏った刀身が大きく振り抜かれる。
凶悪狂人が反応し、巨大な腕を振り上げて防ごうとする。
だが――。
――ズガァァァン!!
ダンテの斬撃が腕へ叩き込まれた。
「グガァァァァァッ!!」
凶悪狂人の腕から雷光が弾け飛ぶ。
その瞬間。
「今だ!」
ライトが叫んだ。
「シーザー!」
「おう!」
二人が同時に突っ込む。
ライトの右腕が唸りを上げ、シーザーは盾を構えながら距離を詰める。
――ドゴォォォン!!
ライトの拳が叩き込まれた。
「これでも喰らえぇぇっ!!」
続けざまにシーザーの剣が閃く。
――ズガァァン!!
「グォォォォォッ!!」
二人の攻撃が同時に命中し、凶悪狂人の巨体が大きくよろめいた。
「まだ倒れねぇか。」
ダンテがアストラルを構え直す。
凶悪狂人は身体を震わせながら、ゆっくりと立ち上がった。
その全身には無数の銃創と斬撃の跡が刻まれている。
それでも――。
「グォォォォォッ!!」
まだ戦意を失っていない。
ダンテは小さく息を吐いた。
「タフな奴だな。」
凶悪狂人が再び拳を振り上げる。
しかし、その動きよりもダンテの方が速かった。
ダンテは身体を捻り、迫り来る拳を紙一重でかわす。
そのまま凶悪狂人の懐へ入り込んだ。
「遅いぜ。」
――ザシュッ!!
アストラルが胴体を斬り裂いた。
「グォ……。」
凶悪狂人の動きが止まる。
ダンテはその背後へ抜け、ゆっくりと振り返った。
「これで終わりだ。」
アストラルを逆手に持ち替える。
「バチィィィィィッ!!」
雷光が刀身を包み込んだ。
次の瞬間――。
ダンテが一気に踏み込む。
凶悪狂人の身体を、雷を纏った斬撃が真横に切り裂いた。
「グォォォォォォォォォッ!!」
巨大な身体が大きくのけ反る。
そして――。
――ドォン。
凶悪狂人は地面へ倒れた。
しばらく。
動かない。
「……。」
シーザーが剣を下ろす。
「終わったか?」
ライトも警戒しながら凶悪狂人を見つめる。
「……みたいっすね。」
ビリーも恐る恐る近づいた。
「やった……のか?」
その瞬間。
凶悪狂人の身体から黒いエーテルが噴き出した。
「……!」
身体が崩れていく。
巨大な四肢。
異形の筋肉。
鋭い爪。
それらが次々と黒い粒子へ変わっていく。
「グ……。」
最後に小さく唸り声を上げ――。
凶悪狂人は完全に消滅した。
「……。」
静寂が訪れる。
ダンテはアストラルを軽く振り、刀身に付着したエーテルを払った。
「終わったな。」
そう言ってアストラルを背中へ戻す。
だが――。
「……。」
誰も返事をしない。
「……?」
ダンテが顔を上げる。
シーザーとライトがこちらを見ていた。
いや。
正確には――警戒している。
シーザーは盾を構えたまま。
ライトも拳を下ろしていない。
「……。」
ダンテが眉を上げる。
「何だ?」
シーザーはダンテから目を離さなかった。
「ビリの字、この男。」
「……。」
シーザーが剣を構える。
「本当に信用していいのか?」
ダンテは黙って二人を見る。
「おいおい。」
ようやく口を開いた。
「さっきまで一緒に戦ってたじゃねぇか。」
「それとこれとは話が別だ。」
シーザーの声は真剣だった。
「お前が何者なのか、あたし達はまだ何も知らない。」
ライトも拳を構える。
「少なくとも、俺らが知ってる人間じゃないっすね。」
「……。」
ダンテが頭を掻く。
面倒な流れになってきた。
その時だった。
アキラが慌てて二人の間へ入ろうとする。
「待ってくれ!」
シーザーが振り返った。
「プロキシ?」
アキラは必死に手を広げる。
「ダンテは悪い奴じゃない。」
「……。」
「一応仲間――」
「っ、だ……。」
アキラの声が途切れた。
「……?」
ビリーが振り返る。
アキラの身体が、ぐらりと揺れた。
「店長?」
アキラはそのまま――。
「……。」
前へ倒れた。
――ドサッ。
「……。」
「…………。」
その場にいた全員が固まった。
数秒間。
誰も動かなかった。
最初に動いたのはビリーだった。
「店長!?」
ビリーが慌てて駆け寄る。
「店長、店長! しっかりしろ!」
アキラの肩を揺する。
「起きてくれ!」
「……。」
反応がない。
「おいおい。」
ダンテも近づき、しゃがみ込んでアキラの様子を確認する。
呼吸はある。
脈もある。
怪我をした様子もない。
「……。」
ダンテはアキラの顔を見た。
「気絶してるだけだな。」
「……。」
しかし。
シーザーも。
ライトも。
何故か妙に深刻な顔をしていた。
「……?」
ダンテが二人を見る。
シーザーは拳を握り、ライトは俯いている。
まるで――誰かが亡くなったかのような空気だった。
「……おい。」
ダンテが声をかける。
「そんな顔するほどじゃねぇだろ。」
シーザーは黙っている。
ライトも黙っている。
ビリーだけが必死にアキラを抱え起こそうとしていた。
「店長……!」
「大丈夫だ。」
ダンテが言う。
「ただの気絶だ。」
「……。」
それでも、シーザーの表情は晴れない。
「……そうか。」
「?」
「……そうだよな。」
「何だ?」
シーザーが小さく首を振る。
「いや。」
「なんでもねぇ。」
「……。」
ダンテは目を細めた。
何だ。
この空気。
妙に重い。
ビリーはアキラを心配している。
シーザーは沈痛な面持ち。
ライトも何故か深刻そうだ。
そして――。
「……。」
ダンテは悟った。
このままでは。
絶対に何かが始まる。
「……。」
ダンテは腕を組む。
「……こりゃ、面倒なことになりそうだな。」
こうして凶悪狂人との戦いは終わった。
しかし。
ダンテにとっては――。
これから始まる出来事の方が、よほど面倒なものになりそうだった。
――
アキラが意識を失ってから、数時間が経った。
――ブレイズウッド。
郊外にある、カリュドーンの子の拠点。
その一角では、郊外特有の植物がいくつも飾られていた。植物に囲まれたソファーの上では、アキラが静かに眠っている。
本人はただ気絶しているだけなのだが。
その周囲には、何故か妙に重苦しい空気が漂っていた。
「……クソっ。」
シーザーが腕を組み、沈痛な面持ちでアキラを見つめる。
「責任感じるぜ……。」
そして、拳を握りしめた。
「カリュドーンの子は、客人をキッチリと弔ってみせっからな!」
「ライト!」
「棺はオマエが担げ!」
「責任重大だな……。」
ライトはサングラスの位置を直した。
「パイパー!」
「ん~?」
トラックの傍で座り込んでいたパイパーが、気だるげに顔を上げる。
「霊柩車は安全運転でな!」
「はいよ~。」
パイパーは大きな欠伸をしながら答える。
「ゆ~っくり走るぜい。」
「……。」
ダンテは無言でその様子を眺めていた。
そして。
「バーニス!」
「おぉ~っ!」
バーニスが元気よく返事をする。
「強火で送ってやってくれ!」
「任せて!」
バーニスは嬉しそうに火炎放射器を構える。
――ボォォォォォッ!!
左右から勢いよく炎が噴き出した。
バーニスは楽しそうに火炎放射器を振り回す。
「骨になるまで燃やしちゃうんだね!?」
「そうだ!」
シーザーが力強く頷く。
「……。」
その隣では。
何故かダンテ自身も片膝をついていた。
アキラの眠るソファーへ向かい、静かに手を組む。
「……。」
そして目を閉じる。
「わが友アキラよ。」
「どうか安らかに眠ってくれ。」
「……。」
シーザーも深々と頭を下げる。
「すまない……。」
「私達がふがいないばかりに……。」
「……。」
ダンテは祈りながら、ちらりとシーザーを見る。
完全に茶番だ。
だが。
「……。」
ダンテは特に止めようとはしなかった。
むしろ。
妙にノリノリだった。
その時。
「……ん。」
ソファーの上で、アキラの指が僅かに動いた。
「……。」
誰も気づかない。
「んん……。」
アキラがゆっくりと目を開ける。
ぼんやりと天井を見つめる。
「……ここは……?」
ゆっくりと身体を起こす。
「……。」
目をこする。
「……僕、どうして……。」
そして。
目の前に広がる光景を見た。
大量の植物。
自分を囲むカリュドーンの子のメンバー。
そして――。
目の前で祈りを捧げているダンテ。
「……。」
アキラは数秒、固まった。
「……何してるの?」
ダンテが目を開く。
「お。」
アキラと目が合う。
「おはよう、アキラ。」
「……おはよう。」
ダンテはアキラの顔を見て、少しだけ笑った。
「生きてるな。」
「うん。」
アキラは周囲を見回す。
「……なんでみんな、僕を囲んでるの?」
ダンテは少し考えた。
そして。
「さあな。」
その時だった。
「ルーシー!」
シーザーが突然叫んだ。
「……?」
ダンテが振り返る。
遠くから。
――ブォォォォォン!!
バイクのエンジン音が響いてきた。
「……え?」
アキラが首を傾げる。
次の瞬間。
一台のバイクが凄まじい勢いでこちらへ突っ込んできた。
「ル……ルーシー!?」
シーザーが目を見開く。
バイクに乗っていたのは、赤い瞳と金髪のサイドテールを持つ少女――ルーシーだった。
「茶番は――。」
バイクが大きく跳ねる。
ルーシーがその勢いで飛び降りる。
「終わり、ですわッ!!」
「げっ。」
シーザーの顔が引きつる。
ルーシーの手には一本のバット。
――ゴンッ!!
「ぐおっ!?」
シーザーが慌てて盾を構える。
バットが盾へ叩き込まれ、鈍い音が響いた。
「怒んなよ!」
シーザーが盾越しに叫ぶ。
「荼毘に付すって、やってみたかったんだ!」
「客人で遊ぶんじゃありませんわ!!」
ルーシーはシーザーを睨みつけると、すぐに周囲を見回す。
そして。
「バーニス!」
「はーい!」
「しまいなさい! そんなの!」
「え?」
バーニスは未だに火炎放射器を構えていた。
「これ?」
「それですわ!!」
「でも、まだ火が出てるよ?」
――ボォォォォォッ!!
「だから消しなさい!!」
「はーい!」
バーニスは素直に火炎放射器を止める。
その直後。
ルーシーが頭を抱えた。
「あーーもう!」
そして、地団駄を踏む。
「アホまみれですわ!!」
「……。」
ダンテはその光景を眺めていた。
「……。」
ダンテは思わず口元を緩める。
「賑やかな連中だな。」
その時。
「お兄ちゃん!」
聞き慣れた声が聞こえた。
アキラが顔を上げる。
「リン?」
リンが慌てて駆け寄ってくる。
「だいじょぶ!?」
「怪我はない?」
「うん。」
アキラは自分の身体を確認する。
「どこも痛くないよ。」
「よかった……。」
リンが胸を撫で下ろす。
「本当に心配したんだからね。」
リンはアキラの肩を軽く叩いた。
その様子を見ていたシーザーが、頭を掻く。
「悪ぃ悪ぃ。」
「つい興が乗りすぎた。」
「興が乗りすぎたで済ませるんですの!?」
ルーシーが即座に噛みつく。
「死者を弔うどころか、生きている客人を焼こうとしていたでしょうが!」
「焼いてないよ?」
バーニスが首を傾げる。
「まだ燃そうとしてただけ。」
「それがダメなんですわ!!」
「えぇ~?」
「えぇ~?ではありませんわ!!」
ルーシーが再び叫ぶ。
その様子を見ながら。
ダンテは肩を揺らして笑った。
「ははっ。」
「……?」
アキラがダンテを見る。
「ダンテ?」
「いや。」
ダンテは笑いながら立ち上がる。
「面白い連中だな。」
「そうかな……。」
アキラは苦笑する。
「まあ、何はともあれ――。」
シーザーはニッと笑う。
「灰から蘇ったな!」
「歓迎するぜ!」
郊外の一日はまだまだ終わりそうになかった。