悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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Wanna know the name?

『Devil May Cry』


第十五話 ツール・ド・インフェルノ

 

 

それから、しばらく経った後――。

 

――ブレイズウッド。

 

カリュドーンの子の拠点では、改めて顔を合わせた者たちが円になるように座っていた。

 

アキラとリン。カリュドーンの子の面々。そして――ダンテ。

 

先ほどまでの騒がしさが嘘のように、今は比較的落ち着いた空気が流れている。

 

パエトーン兄妹とカリュドーンの子の面々の自己紹介も、一通り終わっていた。

 

「……」

 

そして、全員の視線が一人へ集まる。

 

ダンテだった。

 

まるで、『次はお前の番だ』とでも言われているような視線だった。

 

ダンテは周囲を見回す。

 

「……俺か?」

 

「そうだな!」

 

シーザーが頷く。

 

「お前だけ、まだちゃんと聞いてないからな!」

 

「……」

 

ダンテは少し考えると、椅子へ深く座り直した。

 

「ダンテ。それだけでいい。悪魔退治をしてる」

 

「……」

 

全員が静かになる。

 

「悪魔?」

 

ライトが反応した。

 

「ちょっと待ってください。それって……あの噂の?」

 

「ん?」

 

「ホロウに現れた赤い悪魔」

 

ライトがダンテを見る。

 

「ホロウの中で、エーテリアスを片っ端から叩き潰してる赤いコートの男がいるって噂。それが……アンタだったんすか」

 

「まあな」

 

ダンテはあっさり答えた。

 

カリュドーンの子の面々が顔を見合わせる。

 

シーザーが首を傾げた。

 

「なあ、ダンテ」

 

「なんだ?」

 

「悪魔って……本当にいるのか?」

 

「ああ」

 

ダンテは即答した。

 

「いるぜ」

 

その瞬間、部屋の空気が少しだけ重くなった。

 

ルーシーが眉を寄せる。

 

「待ってくださいまし。まさか――郊外周辺にも、そんな存在がいるということですの?」

 

「いた」

 

「……いた?」

 

バーニスが首を傾げる。

 

ダンテは頷いた。

 

「もう倒したけどな」

 

「……」

 

一瞬、全員が黙る。

 

「倒した?」

 

ライトが聞き返す。

 

「ああ。郊外にいたデカいやつを倒したぜ」

 

シーザーが顎に手を当てる。

 

「じゃあ、今度開催されるツール・ド・インフェルノは……」

 

「大丈夫だ」

 

ダンテが即答した。

 

「悪魔はもういない」

 

「……本当に?」

 

「ああ」

 

ダンテは笑う。

 

「俺が片付けた」

 

シーザーの顔に笑みが戻る。

 

「そいつはありがてぇ!」

 

「これでイベントに集中できるな!」

 

「……」

 

ルーシーは額を押さえる。

 

「本当に大丈夫なのかしら……」

 

「ダンテが言うなら、大丈夫じゃない?」

 

バーニスが楽しそうに笑う。

 

「強そうだし!」

 

ライトはダンテを見る。その視線には、先ほどとは違う感情が混じっていた。

 

警戒。

 

興味。

 

そして、戦士としての好奇心。

 

「それにしても」

 

ライトが口を開く。

 

「さっきから気になってたんすけど」

 

「何だ?」

 

シーザーも身を乗り出す。

 

「さっきのデカいバイク」

 

「キャバリエーレ」

 

「……あれ、武器なのか?」

 

「バイクでもある」

 

「バイクでもある?」

 

シーザーの目が輝く。

 

「つまり……武器になるバイク?」

 

「まあ、そんなところだ」

 

「最高じゃねぇか!!」

 

シーザーが立ち上がる。

 

「ちょっと見せてくれよ!」

 

「いや」

 

ダンテは即座に断る。

 

「今日はもう疲れた」

 

「えー!」

 

バーニスが声を上げる。

 

「見たい見たい!」

 

「俺も気になる」

 

ライトも興味深そうに言う。

 

「パイセンも見たいよな?」

 

「もちろん!」

 

パイパーも乗ってきた。

 

「どんな構造なのか気になる~」

 

「……」

 

ダンテが目を細める。

 

「お前ら……俺の武器に興味持ちすぎじゃないか?」

 

「だって!」

 

シーザーが笑う。

 

「バイクだぞ!? しかも戦える! そりゃ気になるだろ!」

 

「……」

 

ダンテはため息を吐く。

 

「話を逸らしたつもりだったんだけどな」

 

「無駄でしたわね」

 

ルーシーが苦笑する。

 

「この人達、一度興味を持つと止まりませんから」

 

「そういうこと」

 

バーニスが満面の笑みを浮かべる。

 

「じゃあ! 見せて!」

 

「……はぁ」

 

ダンテは立ち上がった。

 

「一回だけだぞ」

 

「おおっ!」

 

シーザーが歓声を上げる。

 

ダンテは手を前へ伸ばした。

 

次の瞬間――。

 

――ゴォォォォォン!!

 

空間が歪み、赤黒い魔力が渦を巻く。その中から巨大なバイクが姿を現した。

 

魔具――キャバリエーレ。

 

二つの巨大な刃を備えた異形のバイクが、重々しい音を響かせながら地面へ着地する。

 

「…………」

 

全員が固まった。

 

シーザーの目が輝く。ライトもサングラス越しにじっと見つめ、バーニスはキャバリエーレの周囲をぐるぐると回る。

 

「これ、燃料何使ってるの?」

 

「知らん」

 

「えっ?」

 

「魔力で動く」

 

「魔力!?」

 

「最高じゃん!」

 

「お前は何でも最高だな」

 

パイパーもキャバリエーレを眺める。

 

「タイヤ……変わった形してるねぇ」

 

「刃になる」

 

「……」

 

パイパーの眠そうな目が少しだけ開いた。

 

「へぇ」

 

ルーシーもじっくりと観察している。

 

「武器としても乗り物としても成立している……。構造がまるで理解できませんわ」

 

「俺も分からん」

 

ダンテが言う。

 

「使えればいい」

 

「……」

 

ルーシーが頭を抱える。

 

「あなたもそちら側でしたのね……」

 

シーザーはキャバリエーレの前へ立つ。

 

「なあ、ダンテ」

 

「なんだ?」

 

「これ、乗っていいか?」

 

「ダメだ」

 

即答だった。

 

「なんでだよ!」

 

「お前、絶対に無茶するだろ」

 

「そんなことないぞ!」

 

「さっきホロウで見た」

 

「……」

 

シーザーが黙る。

 

「……まあ」

 

「するな」

 

ライトが横から突っ込む。

 

「アネゴは絶対やるっす」

 

「お前もだろ」

 

「俺はしないっす」

 

「嘘つけ」

 

ダンテは深いため息を吐く。

 

「分かった。ただし、乗るのは俺が乗ってる後ろだ」

 

「えぇ~!」

 

「残念!」

 

「当然ですわ」

 

ルーシーが呆れたように言った。

 

やがて、夜も深くなっていく。

 

今日のところは、これ以上話を続けても終わりそうにない。

 

「じゃあ、今日はこの辺でお開きだな!」

 

シーザーが言う。

 

「明日も色々あるからな!」

 

ダンテも立ち上がる。

 

「じゃあ俺は、適当にそこら辺の宿でも借りるか」

 

「宿?」

 

シーザーが首を傾げる。

 

「だったら、ここに泊まっていきなよ」

 

「……ここに?」

 

「ああ!」

 

シーザーは笑う。

 

「寝る場所くらいある。客人を外に放り出すなんて、カリュドーンの子の名が廃るからな!」

 

「……」

 

ダンテは少しだけ考える。

 

「いいのか?」

 

「もちろんだ! 遠慮するなよ!」

 

ルーシーも頷く。

 

「部屋なら用意できますわ」

 

「それに」

 

バーニスが笑う。

 

「ダンテの話、まだ聞きたいし!」

 

「……」

 

ダンテは全員を見る。

 

騒がしい。

 

とにかく騒がしい。

 

だが――。

 

「……まあ」

 

ダンテは小さく笑った。

 

「悪くないか」

 

「決まりだな!」

 

シーザーが嬉しそうに笑う。

 

「今日からここがお前の寝床だ!」

 

「歓迎するぜ、ダンテ!」

 

「よろしく」

 

ライトが軽く手を上げる。

 

「よろしくね!」

 

バーニスも笑う。

 

「……」

 

ダンテはキャバリエーレへ視線を向ける。

 

そして。

 

「じゃあ、今夜は世話になるとするか」

 

こうして。

 

悪魔を追って郊外へ現れた謎の男――ダンテは、カリュドーンの子の拠点、ブレイズウッドに滞在することになった。

 

 

――

 

 

それから、しばらくの間――ダンテはブレイズウッドでの生活を満喫していた。

 

最初こそ、何をすればいいのか分からず暇を持て余していたものの、郊外には新エリー都とは違った面白さがあった。珍しい植物や独特な装飾品、無骨ながらどこか味のある土産物など、見て回るだけでも退屈しない。

 

「これでいいか」

 

ある日、ダンテは店先に並んでいた土産物を手に取った。

 

「事務所に飾っとくか」

 

赤いコートに白髪という郊外では珍しい姿に、店員が不思議そうな視線を向ける。しかしダンテは特に気にすることなく、代金を払って店を出ていった。

 

また別の日には、バーニスの経営するバーへ顔を出していた。

 

「ダンテ! 新しいドリンクできたよ!」

 

「ん?」

 

カウンターに置かれたグラスには、赤く輝く液体が入っている。

 

「ニトロフューエル! 郊外名物!」

 

「へぇ」

 

ダンテはグラスを手に取り、一口飲む。

 

「……悪くない」

 

「でしょ!?」

 

バーニスは嬉しそうに笑った。

 

「もう一杯いる?」

 

「もらおうか」

 

「やった!」

 

そんな調子で、ダンテは少しずつ郊外での生活に馴染んでいった。

 

暇な時には荒野へ出て、カリュドーンの子たちとレース勝負をすることもあった。

 

「先にゴールした奴が勝ちだ!」

 

シーザーがバイクに跨る。

 

「負けた奴は奢りっすよ」

 

ライトも準備を整えた。

 

「ダンテは?」

 

「俺もか?」

 

「せっかくキャバリエーレがあるんだし!」

 

ダンテは肩をすくめる。

 

「いいぜ」

 

そして。

 

「行くぞぉぉぉっ!!」

 

シーザーがアクセルを開く。

 

――ブォォォォォン!!

 

「待て、アネゴ!」

 

ライトが後を追う。

 

その後ろから、キャバリエーレが大地を震わせながら走り出した。

 

「おいおい。俺を置いていくなよ」

 

――ドォォォォォン!!

 

巨大な魔具が荒野を駆け抜け、砂埃が舞い上がる。

 

「ハハッ!」

 

ダンテは楽しそうに笑った。

 

郊外での生活は、思っていた以上に心地よいものだった。

 

だが、その一方で――カリュドーンの子を取り巻く状況は、少しずつ不穏なものへと変わり始めていた。

 

郊外を拠点とする派閥の一つ、トライアンフ。

 

そのナンバー2であるルシウスは、部下のモルスや傭兵たちを使い、カリュドーンの子への妨害を繰り返していた。物資の輸送を邪魔し、ルートの確保を妨害するなど、嫌がらせは日に日に激しくなっていく。

 

しかし、そんな状況を見過ごさなかった男がいた。

 

トライアンフの覇者――ポンペイ。

 

彼は自分のチームメンバーが行った非礼をシーザーへ詫び、さらに新たに開拓したばかりのルートをカリュドーンの子へ任せると約束した。

 

シーザーは驚いた。

 

敵対する派閥の人間でありながら、ポンペイの言葉には嘘がなかった。

 

その姿を見たシーザーは、改めて考える。

 

――覇者とは何なのか。

 

ただ強ければいいわけではない。

 

仲間を背負い、時には自分の立場を越えて頭を下げる。それもまた、人の上に立つ者に必要な強さなのかもしれない。

 

そして――その日がやって来た。

 

新エリー都郊外最大級のイベント。

 

ツール・ド・インフェルノ。

 

会場には大勢の観客が集まり、レースの開始を今か今かと待ちわびていた。

 

その観客席の一角に、ダンテもいた。

 

「……」

 

視線の先には、レースへ出場するシーザー、ルーシー、ライトの姿がある。

 

「行くぞ!」

 

シーザーがバイクへ跨る。

 

「準備はできていますわ!」

 

ルーシーも続く。

 

「さっさと終わらせるっすよ」

 

ライトがアクセルを軽く吹かした。

 

そして、リンもホロウの案内役としてイアスで同行することになっていた。

 

「気をつけろよ」

 

ダンテが声をかける。

 

「任せろ!」

 

シーザーが笑った。

 

やがてスタートの合図が響く。

 

「さあ、両者位置について――ツール・ド・インフェルノ、レーススタート!」

 

――ブォォォォォン!!

 

複数のバイクが一斉に走り出す。

 

対するトライアンフからは、ポンペイ、ルシウス、モルスが出場していた。

 

それぞれがバイクに跨り、カリュドーンの子たちと同じようにホロウ内部へと突入していく。

 

「行ったな」

 

ダンテが観客席からレースを見つめる。

 

――その直後だった。

 

ホロウ内部で、突然巨大な爆発が発生した。

 

――ドォォォォォン!!

 

「!?」

 

レースに参加していたカリュドーンの子たちが爆発に巻き込まれる。

 

一方、ホロウの外ではレースの中継映像が流れ続けていた。

 

だが。

 

「……変だな」

 

ダンテは眉をひそめる。

 

映像に映し出されているレース。

 

選手たちの動き。

 

位置関係。

 

そのすべてに、どこか違和感があった。

 

「……」

 

ダンテは目を細める。

 

「こいつは……」

 

映像をしばらく見つめた後、ぽつりと呟く。

 

「ダミーか?」

 

その瞬間だった。

 

ポケットの中で、携帯電話が震えた。

 

――ブブブブブ。

 

「……?」

 

ダンテは携帯を取り出す。

 

これは以前、バレエツインズでの一件を経験したことをきっかけに、緊急連絡用として用意されたものだった。

 

そして、登録されている連絡先は一つしかない。

 

『パエトーン』

 

「……」

 

ダンテはすぐに電話へ出た。

 

「どうした?」

 

『ダンテ!?』

 

電話の向こうから聞こえたのはアキラの声だった。

 

『今、レースで大変なことが起きてる!』

 

続いてリンが状況を説明する。

 

『カリュドーンの子が、何者かに襲撃されたみたいなの!』

 

『それに、郊外には存在しないはずのエーテル爆薬が使われてる』

 

「……」

 

ダンテの表情が変わる。

 

『しかも、外の中継映像が……』

 

「ダミーに差し替えられてる」

 

『……そう』

 

アキラの声が低くなる。

 

『何かがおかしい』

 

「それで?」

 

ダンテが尋ねる。

 

『お願いがある』

 

アキラが言った。

 

『レース場へ行ってくれない?』

 

『カリュドーンの子を助けてほしい』

 

「……」

 

ダンテはしばらく黙った。

 

そして。

 

「分かった」

 

即答だった。

 

『本当に!?』

 

「ああ」

 

ダンテは携帯を握り直す。

 

「以前も助けてもらったからな」

 

「それに、悪魔退治の件でもお前らには世話になってる」

 

「借りは返す」

 

『ありがとう!』

 

リンの声が聞こえる。

 

「礼はいい」

 

ダンテはそう言って電話を切った。

 

そして、ゆっくりと立ち上がる。

 

観客席の手すりの向こうには、レース場が広がっていた。

 

「まったく……」

 

ダンテが苦笑する。

 

「せっかく楽しんでたってのによ」

 

そう呟きながら、手すりへ足を掛ける。

 

「――まあ、仕方ねぇか」

 

そのままダンテは、観客席から飛び降りた。

 

周囲から驚きの声が上がる。

 

しかしダンテは気にすることなく、空中で右手を前へ伸ばした。

 

――ゴォォォォォン!!

 

空間が歪み、赤黒い魔力が渦を巻く。

 

その中から、巨大な魔具――キャバリエーレが姿を現した。

 

「よっと!」

 

ダンテは落下しながらキャバリエーレへ飛び乗る。

 

両足が車体へ触れた瞬間。

 

――ドォォォォォン!!

 

エンジンが唸りを上げた。

 

「行くぜ!」

 

アクセルを全開にする。

 

キャバリエーレがレース場へ着地し、凄まじい勢いで砂煙を巻き上げる。

 

――ズガァァァン!!

 

そのままダンテは、ホロウへ続くレースコースを猛スピードで駆け抜けていった。

 

赤いコートが風になびく。

 

その行き先は――カリュドーンの子たちが待つ、シンダーグロー・レイク。

 




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