『Devil May Cry』
それから、しばらく経った後――。
――ブレイズウッド。
カリュドーンの子の拠点では、改めて顔を合わせた者たちが円になるように座っていた。
アキラとリン。カリュドーンの子の面々。そして――ダンテ。
先ほどまでの騒がしさが嘘のように、今は比較的落ち着いた空気が流れている。
パエトーン兄妹とカリュドーンの子の面々の自己紹介も、一通り終わっていた。
「……」
そして、全員の視線が一人へ集まる。
ダンテだった。
まるで、『次はお前の番だ』とでも言われているような視線だった。
ダンテは周囲を見回す。
「……俺か?」
「そうだな!」
シーザーが頷く。
「お前だけ、まだちゃんと聞いてないからな!」
「……」
ダンテは少し考えると、椅子へ深く座り直した。
「ダンテ。それだけでいい。悪魔退治をしてる」
「……」
全員が静かになる。
「悪魔?」
ライトが反応した。
「ちょっと待ってください。それって……あの噂の?」
「ん?」
「ホロウに現れた赤い悪魔」
ライトがダンテを見る。
「ホロウの中で、エーテリアスを片っ端から叩き潰してる赤いコートの男がいるって噂。それが……アンタだったんすか」
「まあな」
ダンテはあっさり答えた。
カリュドーンの子の面々が顔を見合わせる。
シーザーが首を傾げた。
「なあ、ダンテ」
「なんだ?」
「悪魔って……本当にいるのか?」
「ああ」
ダンテは即答した。
「いるぜ」
その瞬間、部屋の空気が少しだけ重くなった。
ルーシーが眉を寄せる。
「待ってくださいまし。まさか――郊外周辺にも、そんな存在がいるということですの?」
「いた」
「……いた?」
バーニスが首を傾げる。
ダンテは頷いた。
「もう倒したけどな」
「……」
一瞬、全員が黙る。
「倒した?」
ライトが聞き返す。
「ああ。郊外にいたデカいやつを倒したぜ」
シーザーが顎に手を当てる。
「じゃあ、今度開催されるツール・ド・インフェルノは……」
「大丈夫だ」
ダンテが即答した。
「悪魔はもういない」
「……本当に?」
「ああ」
ダンテは笑う。
「俺が片付けた」
シーザーの顔に笑みが戻る。
「そいつはありがてぇ!」
「これでイベントに集中できるな!」
「……」
ルーシーは額を押さえる。
「本当に大丈夫なのかしら……」
「ダンテが言うなら、大丈夫じゃない?」
バーニスが楽しそうに笑う。
「強そうだし!」
ライトはダンテを見る。その視線には、先ほどとは違う感情が混じっていた。
警戒。
興味。
そして、戦士としての好奇心。
「それにしても」
ライトが口を開く。
「さっきから気になってたんすけど」
「何だ?」
シーザーも身を乗り出す。
「さっきのデカいバイク」
「キャバリエーレ」
「……あれ、武器なのか?」
「バイクでもある」
「バイクでもある?」
シーザーの目が輝く。
「つまり……武器になるバイク?」
「まあ、そんなところだ」
「最高じゃねぇか!!」
シーザーが立ち上がる。
「ちょっと見せてくれよ!」
「いや」
ダンテは即座に断る。
「今日はもう疲れた」
「えー!」
バーニスが声を上げる。
「見たい見たい!」
「俺も気になる」
ライトも興味深そうに言う。
「パイセンも見たいよな?」
「もちろん!」
パイパーも乗ってきた。
「どんな構造なのか気になる~」
「……」
ダンテが目を細める。
「お前ら……俺の武器に興味持ちすぎじゃないか?」
「だって!」
シーザーが笑う。
「バイクだぞ!? しかも戦える! そりゃ気になるだろ!」
「……」
ダンテはため息を吐く。
「話を逸らしたつもりだったんだけどな」
「無駄でしたわね」
ルーシーが苦笑する。
「この人達、一度興味を持つと止まりませんから」
「そういうこと」
バーニスが満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ! 見せて!」
「……はぁ」
ダンテは立ち上がった。
「一回だけだぞ」
「おおっ!」
シーザーが歓声を上げる。
ダンテは手を前へ伸ばした。
次の瞬間――。
――ゴォォォォォン!!
空間が歪み、赤黒い魔力が渦を巻く。その中から巨大なバイクが姿を現した。
魔具――キャバリエーレ。
二つの巨大な刃を備えた異形のバイクが、重々しい音を響かせながら地面へ着地する。
「…………」
全員が固まった。
シーザーの目が輝く。ライトもサングラス越しにじっと見つめ、バーニスはキャバリエーレの周囲をぐるぐると回る。
「これ、燃料何使ってるの?」
「知らん」
「えっ?」
「魔力で動く」
「魔力!?」
「最高じゃん!」
「お前は何でも最高だな」
パイパーもキャバリエーレを眺める。
「タイヤ……変わった形してるねぇ」
「刃になる」
「……」
パイパーの眠そうな目が少しだけ開いた。
「へぇ」
ルーシーもじっくりと観察している。
「武器としても乗り物としても成立している……。構造がまるで理解できませんわ」
「俺も分からん」
ダンテが言う。
「使えればいい」
「……」
ルーシーが頭を抱える。
「あなたもそちら側でしたのね……」
シーザーはキャバリエーレの前へ立つ。
「なあ、ダンテ」
「なんだ?」
「これ、乗っていいか?」
「ダメだ」
即答だった。
「なんでだよ!」
「お前、絶対に無茶するだろ」
「そんなことないぞ!」
「さっきホロウで見た」
「……」
シーザーが黙る。
「……まあ」
「するな」
ライトが横から突っ込む。
「アネゴは絶対やるっす」
「お前もだろ」
「俺はしないっす」
「嘘つけ」
ダンテは深いため息を吐く。
「分かった。ただし、乗るのは俺が乗ってる後ろだ」
「えぇ~!」
「残念!」
「当然ですわ」
ルーシーが呆れたように言った。
やがて、夜も深くなっていく。
今日のところは、これ以上話を続けても終わりそうにない。
「じゃあ、今日はこの辺でお開きだな!」
シーザーが言う。
「明日も色々あるからな!」
ダンテも立ち上がる。
「じゃあ俺は、適当にそこら辺の宿でも借りるか」
「宿?」
シーザーが首を傾げる。
「だったら、ここに泊まっていきなよ」
「……ここに?」
「ああ!」
シーザーは笑う。
「寝る場所くらいある。客人を外に放り出すなんて、カリュドーンの子の名が廃るからな!」
「……」
ダンテは少しだけ考える。
「いいのか?」
「もちろんだ! 遠慮するなよ!」
ルーシーも頷く。
「部屋なら用意できますわ」
「それに」
バーニスが笑う。
「ダンテの話、まだ聞きたいし!」
「……」
ダンテは全員を見る。
騒がしい。
とにかく騒がしい。
だが――。
「……まあ」
ダンテは小さく笑った。
「悪くないか」
「決まりだな!」
シーザーが嬉しそうに笑う。
「今日からここがお前の寝床だ!」
「歓迎するぜ、ダンテ!」
「よろしく」
ライトが軽く手を上げる。
「よろしくね!」
バーニスも笑う。
「……」
ダンテはキャバリエーレへ視線を向ける。
そして。
「じゃあ、今夜は世話になるとするか」
こうして。
悪魔を追って郊外へ現れた謎の男――ダンテは、カリュドーンの子の拠点、ブレイズウッドに滞在することになった。
――
それから、しばらくの間――ダンテはブレイズウッドでの生活を満喫していた。
最初こそ、何をすればいいのか分からず暇を持て余していたものの、郊外には新エリー都とは違った面白さがあった。珍しい植物や独特な装飾品、無骨ながらどこか味のある土産物など、見て回るだけでも退屈しない。
「これでいいか」
ある日、ダンテは店先に並んでいた土産物を手に取った。
「事務所に飾っとくか」
赤いコートに白髪という郊外では珍しい姿に、店員が不思議そうな視線を向ける。しかしダンテは特に気にすることなく、代金を払って店を出ていった。
また別の日には、バーニスの経営するバーへ顔を出していた。
「ダンテ! 新しいドリンクできたよ!」
「ん?」
カウンターに置かれたグラスには、赤く輝く液体が入っている。
「ニトロフューエル! 郊外名物!」
「へぇ」
ダンテはグラスを手に取り、一口飲む。
「……悪くない」
「でしょ!?」
バーニスは嬉しそうに笑った。
「もう一杯いる?」
「もらおうか」
「やった!」
そんな調子で、ダンテは少しずつ郊外での生活に馴染んでいった。
暇な時には荒野へ出て、カリュドーンの子たちとレース勝負をすることもあった。
「先にゴールした奴が勝ちだ!」
シーザーがバイクに跨る。
「負けた奴は奢りっすよ」
ライトも準備を整えた。
「ダンテは?」
「俺もか?」
「せっかくキャバリエーレがあるんだし!」
ダンテは肩をすくめる。
「いいぜ」
そして。
「行くぞぉぉぉっ!!」
シーザーがアクセルを開く。
――ブォォォォォン!!
「待て、アネゴ!」
ライトが後を追う。
その後ろから、キャバリエーレが大地を震わせながら走り出した。
「おいおい。俺を置いていくなよ」
――ドォォォォォン!!
巨大な魔具が荒野を駆け抜け、砂埃が舞い上がる。
「ハハッ!」
ダンテは楽しそうに笑った。
郊外での生活は、思っていた以上に心地よいものだった。
だが、その一方で――カリュドーンの子を取り巻く状況は、少しずつ不穏なものへと変わり始めていた。
郊外を拠点とする派閥の一つ、トライアンフ。
そのナンバー2であるルシウスは、部下のモルスや傭兵たちを使い、カリュドーンの子への妨害を繰り返していた。物資の輸送を邪魔し、ルートの確保を妨害するなど、嫌がらせは日に日に激しくなっていく。
しかし、そんな状況を見過ごさなかった男がいた。
トライアンフの覇者――ポンペイ。
彼は自分のチームメンバーが行った非礼をシーザーへ詫び、さらに新たに開拓したばかりのルートをカリュドーンの子へ任せると約束した。
シーザーは驚いた。
敵対する派閥の人間でありながら、ポンペイの言葉には嘘がなかった。
その姿を見たシーザーは、改めて考える。
――覇者とは何なのか。
ただ強ければいいわけではない。
仲間を背負い、時には自分の立場を越えて頭を下げる。それもまた、人の上に立つ者に必要な強さなのかもしれない。
そして――その日がやって来た。
新エリー都郊外最大級のイベント。
ツール・ド・インフェルノ。
会場には大勢の観客が集まり、レースの開始を今か今かと待ちわびていた。
その観客席の一角に、ダンテもいた。
「……」
視線の先には、レースへ出場するシーザー、ルーシー、ライトの姿がある。
「行くぞ!」
シーザーがバイクへ跨る。
「準備はできていますわ!」
ルーシーも続く。
「さっさと終わらせるっすよ」
ライトがアクセルを軽く吹かした。
そして、リンもホロウの案内役としてイアスで同行することになっていた。
「気をつけろよ」
ダンテが声をかける。
「任せろ!」
シーザーが笑った。
やがてスタートの合図が響く。
「さあ、両者位置について――ツール・ド・インフェルノ、レーススタート!」
――ブォォォォォン!!
複数のバイクが一斉に走り出す。
対するトライアンフからは、ポンペイ、ルシウス、モルスが出場していた。
それぞれがバイクに跨り、カリュドーンの子たちと同じようにホロウ内部へと突入していく。
「行ったな」
ダンテが観客席からレースを見つめる。
――その直後だった。
ホロウ内部で、突然巨大な爆発が発生した。
――ドォォォォォン!!
「!?」
レースに参加していたカリュドーンの子たちが爆発に巻き込まれる。
一方、ホロウの外ではレースの中継映像が流れ続けていた。
だが。
「……変だな」
ダンテは眉をひそめる。
映像に映し出されているレース。
選手たちの動き。
位置関係。
そのすべてに、どこか違和感があった。
「……」
ダンテは目を細める。
「こいつは……」
映像をしばらく見つめた後、ぽつりと呟く。
「ダミーか?」
その瞬間だった。
ポケットの中で、携帯電話が震えた。
――ブブブブブ。
「……?」
ダンテは携帯を取り出す。
これは以前、バレエツインズでの一件を経験したことをきっかけに、緊急連絡用として用意されたものだった。
そして、登録されている連絡先は一つしかない。
『パエトーン』
「……」
ダンテはすぐに電話へ出た。
「どうした?」
『ダンテ!?』
電話の向こうから聞こえたのはアキラの声だった。
『今、レースで大変なことが起きてる!』
続いてリンが状況を説明する。
『カリュドーンの子が、何者かに襲撃されたみたいなの!』
『それに、郊外には存在しないはずのエーテル爆薬が使われてる』
「……」
ダンテの表情が変わる。
『しかも、外の中継映像が……』
「ダミーに差し替えられてる」
『……そう』
アキラの声が低くなる。
『何かがおかしい』
「それで?」
ダンテが尋ねる。
『お願いがある』
アキラが言った。
『レース場へ行ってくれない?』
『カリュドーンの子を助けてほしい』
「……」
ダンテはしばらく黙った。
そして。
「分かった」
即答だった。
『本当に!?』
「ああ」
ダンテは携帯を握り直す。
「以前も助けてもらったからな」
「それに、悪魔退治の件でもお前らには世話になってる」
「借りは返す」
『ありがとう!』
リンの声が聞こえる。
「礼はいい」
ダンテはそう言って電話を切った。
そして、ゆっくりと立ち上がる。
観客席の手すりの向こうには、レース場が広がっていた。
「まったく……」
ダンテが苦笑する。
「せっかく楽しんでたってのによ」
そう呟きながら、手すりへ足を掛ける。
「――まあ、仕方ねぇか」
そのままダンテは、観客席から飛び降りた。
周囲から驚きの声が上がる。
しかしダンテは気にすることなく、空中で右手を前へ伸ばした。
――ゴォォォォォン!!
空間が歪み、赤黒い魔力が渦を巻く。
その中から、巨大な魔具――キャバリエーレが姿を現した。
「よっと!」
ダンテは落下しながらキャバリエーレへ飛び乗る。
両足が車体へ触れた瞬間。
――ドォォォォォン!!
エンジンが唸りを上げた。
「行くぜ!」
アクセルを全開にする。
キャバリエーレがレース場へ着地し、凄まじい勢いで砂煙を巻き上げる。
――ズガァァァン!!
そのままダンテは、ホロウへ続くレースコースを猛スピードで駆け抜けていった。
赤いコートが風になびく。
その行き先は――カリュドーンの子たちが待つ、シンダーグロー・レイク。
ダイジェストすぎたかな?