悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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Wanna know the name?

『Devil May Cry』


第十六話 アグニ&ルドラ

 

 

 

――シンダーグロー・レイク。

 

ツール・ド・インフェルノのゴール地点であるその場所には、赤々と燃え盛る巨大な湖が広がっていた。炎のようなエーテルが水面を覆い、周囲の空気さえも熱気で歪んでいる。

 

その湖畔には、すでに二人の男が到着していた。

 

トライアンフの覇者――ポンペイ。そして、その右腕であるルシウス。

 

二人はバイクから降りると、目の前に広がる火の湖を眺めていた。

 

「カリュドーンの子め。決着をつけると息巻いておきながら……なんとも退屈なレースだったな」

 

ポンペイが吐き捨てるように言うと、ルシウスも肩をすくめた。

 

「せっかく親分が目をかけてやっていたのに……シーザーめ、やる気がないにもほどがありますねぇ」

 

「フン。だが、退屈も結構なことだ」

 

ポンペイは火の湖へ視線を向ける。

 

「少なくとも数年は、火の湖を心配しなくていいのだからな」

 

そう言って、懐から一つの火打石を取り出す。そして、それを火の湖へ向かって投げた。

 

――カラン。

 

火打石が湖面へ落ちた、その瞬間だった。

 

「……?」

 

湖の中から異変が起こる。

 

赤く輝く炎の中に、無数の結晶が浮かび上がった。

 

――パキッ。

 

――パキパキパキッ!!

 

「なっ……!?」

 

エーテルの結晶が、まるで植物の根が伸びるように湖全体へ広がっていく。

 

ポンペイが目を見開いた。

 

「どういうことだ!? エーテル結晶が大量に現れたぞ!?」

 

「『エーテル重合触媒』……」

 

ルシウスが静かに答えた。

 

「遊離状態にあるエーテル粒子の結晶化を促す代物です。都市の企業が、エーテルの生産量を増やすために開発した技術ですよ」

 

ルシウスは楽しそうに湖を眺める。

 

「この場所の特異な環境では、さぞ効果があるでしょうねぇ」

 

「……ルシウス」

 

ポンペイの表情が険しくなる。

 

「まさか、貴様――」

 

「そうですよ? ポンペイの親分」

 

ルシウスが笑った。

 

「あなたの火打石は、僕がすり替えておきました」

 

「何……?」

 

「火の湖は、まもなく完全に消滅します」

 

ルシウスは淡々と続ける。

 

「ああ、そうそう……この触媒を使うと、付近のエーテル濃度が急激に上昇するんです」

 

「……!」

 

「特に『エーテル適応体質異常』の人には……深刻な結果をもたらすでしょうねぇ」

 

その直後だった。

 

「うぐっ――!!」

 

ポンペイが胸を押さえ、口から大量の血を吐き出した。

 

「ガハッ……!」

 

膝をつきながらも、ポンペイはルシウスを睨みつける。

 

「ルシウス……貴様、よくも――!」

 

ポンペイは怒りのまま剣を振り上げた。

 

「断じて許さぬ!」

 

――ザンッ!!

 

「ぐあっ――!」

 

剣がルシウスの右頬を切り裂いた。血が飛び散る。

 

ルシウスは頬を押さえながら、ゆっくりと顔を上げた。

 

「おいおい……」

 

その表情から笑みが消える。

 

「よくも僕の右頬に傷を増やしてくれたな……!」

 

「……。」

 

「怪物め……!」

 

そう吐き捨てるルシウスの前で、ポンペイの身体には異変が起きていた。

 

顔や首筋、そして腕。そこから無数のエーテル結晶が生え始めている。

 

ルシウスはそれを見て、むしろ興奮したように笑った。

 

「ここまで侵蝕が進んでいて、まだこれだけのパワーがあるとは!」

 

「……。」

 

ポンペイは静かに立ち上がる。

 

「貴様なんぞに期待していたとは……俺の目は、とんだ節穴だったようだ」

 

「……。」

 

「都市のエーテル企業と結託することが、どんな結果をもたらすか……貴様は分かっているのか?」

 

ルシウスは鼻で笑った。

 

「やだなあ、親分……。みんながみんな、あんたみたく古臭い自由と仁義を信じてるなんて……まさか思ってないよな?」

 

ルシウスは両手を広げる。

 

「弱者も、能無しも、もうとっくに時代から見捨てられてるんだよ!」

 

そして、不敵な笑みを浮かべる。

 

「エーテルの力さえあれば、僕はリーダーのいない郊外に、新たな秩序を打ち立てられる!」

 

「僕の指先ひとつで動く王国をな!」

 

――ズダン!!

 

突然、一発の銃声が響いた。

 

ルシウスの足元へ銃弾が撃ち込まれ、地面が弾け飛ぶ。

 

「……!」

 

ルシウスが振り返る。

 

そこには、巨大な魔具――キャバリエーレに跨った男がいた。

 

赤いコート。

 

白い髪。

 

そして両手に構えられた二丁の拳銃――エボニー&アイボリー。

 

「……。」

 

ダンテだった。

 

「モルスは、どうした?」

 

ルシウスが尋ねる。

 

ダンテは何でもないことのように答えた。

 

「この場所を喋ってもらって、寝かせた」

 

「……何?」

 

「悪いな。急いでたんでね」

 

ダンテはエボニー&アイボリーを軽く回す。

 

「話は聞かせてもらったぜ、黒幕さんよ」

 

ルシウスの表情が引きつった。

 

「お前が……噂に聞くホロウの赤い悪魔か」

 

そして、どこか愉快そうに笑う。

 

「なるほど。さすがだな」

 

ダンテは銃口をルシウスへ向ける。

 

「それより、余計なことはするなよ」

 

ルシウスが僅かに動こうとする。

 

「おぉっと」

 

ダンテの銃口が上がった。

 

「じゃなきゃ、鼻の穴が増えるぜ」

 

「……。」

 

ルシウスの動きが止まる。

 

ダンテは確実に顔へ当てられる角度でエボニー&アイボリーを構えた。

 

「それに、もうじきカリュドーンの子がここに到着する。大人しくしてるんだな」

 

「なに?」

 

ルシウスが目を見開く。

 

「……あれだけの火薬があって、奴らを葬り去れなかったのか?」

 

「残念だったな」

 

――ズダン!!

 

銃声。

 

弾丸がルシウスの顔すれすれを通過し、後方の岩へ突き刺さった。

 

「……!」

 

ルシウスの身体が硬直する。

 

ダンテは銃口を下ろさない。

 

ルシウスは冷や汗を流しながらも、強がるように口元を歪めた。

 

「……なんだ」

 

声が僅かに震えている。

 

「鼻の穴を増やすんじゃなかったのか?」

 

その瞬間だった。

 

「ダンテ!!」

 

「ダンテ!!」

 

――二つの声が同時に響いた。

 

「……あ?」

 

ダンテが振り返る。

 

次の瞬間。

 

――ズガァァァン!!

 

二本の剣が、同時に振り下ろされた。

 

「おっと!」

 

ダンテは咄嗟にキャバリエーレを変形させる。

 

巨大な車体が二つに分かれ、それぞれが刃を受け止めた。

 

――ギィィィィン!!

 

「……。」

 

ダンテの目の前に立っていたのは、二体の異形だった。

 

首のない巨大な身体。そして、その手に握られた二本の剣。

 

剣の柄には、それぞれ顔がついている。

 

「……お前ら」

 

ダンテが目を細める。

 

「久しぶりじゃねぇか」

 

「久しぶりだな、ダンテ!」

 

「久しぶりだとも、ダンテ!」

 

二つの頭が同時に喋る。

 

「俺たちを覚えているか!?」

 

「忘れているわけではないだろうな!?」

 

「……。」

 

ダンテは無言で二人を見つめる。

 

「アグニと――」

 

「ルドラだ!」

 

「そう! 我らこそ――」

 

「最強の双子の悪魔!」

 

「……。」

 

ダンテは深いため息を吐いた。

 

「やっぱりお前らか……」

 

かつて、テメンニグルの頂上へ通じる扉を守っていた双子の悪魔。

 

火を操るアグニ。

 

風を操るルドラ。

 

その二体が、なぜか今、目の前に立っていた。

 

「再会できて嬉しいぞ、ダンテ!」

 

「俺も嬉しいぞ、ダンテ!」

 

「……そうかい」

 

「ところでダンテ!」

 

「どうした?」

 

「聞きたいことがある!」

 

「なんだ?」

 

「なぜ我々を――」

 

二人が同時に叫ぶ。

 

「質屋に売った!!」

 

「……。」

 

ダンテの顔が引きつった。

 

「……そこかよ」

 

「そこだ!」

 

「そこに決まっている!」

 

「我々は魔具だぞ!」

 

「それを質屋に売るとは何事だ!」

 

「いや……」

 

ダンテは頭を掻く。

 

「なんということだ!」

 

「我らはお前に力を託したというのに!」

 

「その結果が質屋とは!」

 

「うるせぇな……」

 

ダンテが額を押さえる。

 

「相変わらず喋るな、お前ら」

 

「喋ることは悪いことではない!」

 

「そうだ! 言葉とは心と心を繋ぐもの!」

 

「だったら――」

 

ダンテは二丁拳銃を構え直す。

 

「その心をちょっと黙らせてくれ」

 

「なに!?」

 

「戦うということか!?」

 

二人の声がさらに大きくなる。

 

「そうだ!」

 

「望むところだ!」

 

その隙に――。

 

「……。」

 

ルシウスがゆっくりと後退する。

 

ダンテはちらりとそちらを見る。

 

「……あ」

 

しかし、アグニとルドラが再び剣を構えた。

 

「ダンテ!」

 

「我らは以前とは違うぞ!」

 

「今度こそお前に勝つ!」

 

「いや、勝負の前に――」

 

ダンテが言いかける。

 

その瞬間。

 

「行くぞ、ルドラ!」

 

「任せろ、アグニ!」

 

「……聞いちゃいねぇな」

 

アグニの剣から炎が噴き出す。

 

ルドラの剣からは凄まじい風が巻き起こった。

 

――ゴォォォォォッ!!

 

炎と風が渦を巻き、二人の身体を包み込む。

 

「俺たちは火!」

 

「俺たちは風!」

 

「二つの力が合わされば!」

 

「最強の――」

 

「だからうるせぇって言ってんだろ!」

 

ダンテがキャバリエーレを加速させる。

 

――ドォォォォォン!!

 

巨大な車体が地面を削りながら突進する。

 

アグニとルドラも同時に迎え撃つ。炎を纏った剣と、風を纏った剣が左右から襲いかかる。

 

――ガギィン!!

 

ダンテはキャバリエーレの刃を交差させ、二本の剣を同時に受け止めた。

 

「へぇ……」

 

ダンテが笑う。

 

「前よりはマシになったじゃねぇか」

 

「当然だ!」

 

「我々は成長している!」

 

「だったら――」

 

ダンテが力を込める。

 

「こいつも受けてみな!」

 

キャバリエーレが唸りを上げる。

 

巨大な刃が二体を弾き飛ばした。

 

「ぬおおおおっ!」

 

「飛んでいるぞ、アグニ!」

 

「飛んでいるのはお前だ、ルドラ!」

 

「どっちでもいい!」

 

二体が地面を転がる。

 

だが、すぐに立ち上がった。

 

「まだまだ!」

 

「ここからだ!」

 

ダンテは呆れたように笑った。

 

「……まったく。」

 

キャバリエーレをしまい、代わりに魔剣リベリオンを構える。

 

「相変わらず面倒な奴らだぜ」

 

炎と風が再び吹き荒れる。

 

シンダーグロー・レイクを赤く染める炎の中で、ダンテと二体の双子の悪魔は再び対峙した。

 

 

――

 

 

燃え盛る湖を背に、ダンテとアグニ&ルドラが睨み合っていた。

 

「行くぞ、ルドラ!」

 

「応とも、アグニ!」

 

二体が同時に地面を蹴る。アグニの剣からは炎が噴き出し、ルドラの剣からは竜巻のような風が巻き起こった。炎と風が絡み合い、巨大な火炎の渦となってダンテへと迫る。

 

「へぇ……。」

 

ダンテは口元を吊り上げた。

 

「派手になったじゃねぇか。」

 

腰から二丁の拳銃を抜く。エボニー&アイボリー。その銃口が同時に火を噴いた。

 

――ズダダダダダッ!!

 

無数の銃弾が炎の渦へ撃ち込まれる。しかし、猛烈な風に弾道を逸らされ、炎の壁に飲み込まれていく。

 

「無駄だ、ダンテ!」

 

「我らの炎と風は止められん!」

 

「そうかい?」

 

ダンテは笑った。

 

「じゃあ、試してみるか。」

 

両手の銃を連射しながら横へ跳ぶ。直後、炎の渦が地面を抉り取った。

 

――ドゴォォォン!!

 

「逃げたぞ、アグニ!」

 

「追うのだ、ルドラ!」

 

「言われなくても分かっている!」

 

二体は左右へ散開し、同時にダンテを挟み込もうとする。ダンテはその動きを冷静に見つめていた。

 

「……相変わらず息ぴったりだな。」

 

「当然だ!」

 

「我らは双子だからな!」

 

「だったら――」

 

ダンテはエボニー&アイボリーを腰へ戻す。

 

「息が合うってことが、弱点になることも教えてやるよ。」

 

背中から巨大な銃器を取り出した。

 

――ズンッ。

 

「なんだ、あれは!?」

 

ダンテが構えたのは、巨大なショットガン――コヨーテA。

 

「食らいな。」

 

――ドォン!!

 

凄まじい轟音とともに散弾が炸裂し、アグニとルドラをまとめて吹き飛ばした。

 

「ぬおっ!?」

 

「ぐおおっ!」

 

二体の巨体が地面を転がる。

 

「なんという威力だ!」

 

「近距離では危険すぎる!」

 

「だったら、離れればいいだろ?」

 

ダンテはコヨーテAを肩へ担ぐ。

 

「ただし――。」

 

次の瞬間、ダンテの姿が掻き消えた。

 

「何!?」

 

「どこへ行った!?」

 

――ズガァン!!

 

アグニの背後に回り込んだダンテが、至近距離からコヨーテAを叩き込む。

 

「ぐおおおっ!!」

 

「アグニ!」

 

ルドラが助けに入ろうとする。しかし、その動きをダンテは見逃さない。

 

「おっと。」

 

――ドォン!!

 

至近距離から撃ち込まれた散弾がルドラを吹き飛ばした。

 

「ぐっ!」

 

二体は大きく距離を取る。

 

ダンテはコヨーテAを肩に担いだまま、二体を見つめた。

 

「どうした?」

 

「さっきまでの威勢は?」

 

「くっ……!」

 

「まだだ!」

 

ルドラが剣を振り抜く。

 

――ヒュゴォォォォッ!!

 

猛烈な風がシンダーグロー・レイクの湖畔を駆け抜け、砂埃が舞い上がった。視界が一瞬で遮られる。

 

「これならどうだ!」

 

「アグニ!」

 

「任せろ!」

 

風の中を炎が走る。

 

「――合技!」

 

炎と風が渦を巻き、巨大な火炎竜巻となってダンテへ襲いかかった。

 

「へぇ。」

 

ダンテは楽しそうに笑う。

 

「いいねぇ。」

 

コヨーテAを消し去り、代わりに巨大な銃器を取り出す。

 

「だったら、こいつだ。」

 

スパイラル。

 

長大な銃身を構え、迫り来る火炎竜巻へと狙いを定める。

 

――ズドォォォォォォォン!!

 

高速回転する弾丸が一直線に撃ち出され、炎の渦を正面から撃ち抜いていく。炎が弾け、風が乱れ、巨大な竜巻が中心から崩壊していった。

 

「なにぃ!?」

 

「そんな馬鹿な!」

 

「悪いな。」

 

ダンテはスパイラルを下ろす。

 

「ちょっと相性が悪かったみたいだ。」

 

「ならば直接叩き潰す!」

 

炎を纏ったアグニが突っ込んでくる。剣が振り下ろされた。

 

――ギィィィン!!

 

ダンテはスパイラルの銃身を横にして、剣を受け止めた。

 

「熱いな。」

 

「ならば燃え尽きろ!」

 

「断る。」

 

ダンテがスパイラルを振り払い、アグニの腹部へ蹴りを叩き込む。

 

「ぐおっ!」

 

アグニが吹き飛ぶ。

 

そこへルドラが迫った。

 

「今度はこちらだ!」

 

風を纏った剣が横薙ぎに振るわれる。ダンテは身を屈め、紙一重で回避した。剣が頭上を通り過ぎる。

 

「危ねぇな。」

 

「まだ終わっていない!」

 

ルドラが連続して斬りかかる。ダンテはそのすべてを紙一重でかわしていく。

 

「速いな。」

 

「当然だ!」

 

「俺の風は誰にも捕らえられん!」

 

「そうかい。」

 

ダンテは笑った。

 

「じゃあ――。」

 

スパイラルを消す。

 

「捕まえてみるか。」

 

その手に現れたのは、青白い冷気を纏った魔具――ケルベロス。

 

三つの棍棒が唸りを上げる。

 

「ぬっ!?」

 

「それは……!」

 

ダンテがケルベロスを振り抜いた。

 

――バキィィィン!!

 

猛烈な冷気が爆発的に広がり、ルドラの周囲を吹き荒れていた風が一瞬で凍りついた。

 

「なっ!?」

 

「風が……凍っただと!?」

 

「悪いな。」

 

ダンテはケルベロスを回転させる。

 

「こいつ、ちょっと冷たいんだ。」

 

――ズガァァァン!!

 

ケルベロスの一撃がルドラを吹き飛ばした。

 

「ルドラ!」

 

「心配するな、アグニ!」

 

ルドラは空中で体勢を立て直し、着地する。

 

「まだ戦える!」

 

「ならば二人で行くぞ!」

 

「応!」

 

二体が同時に突っ込んでくる。炎、風、そして二本の剣。二つの力が入り乱れ、あらゆる方向からダンテへ襲いかかった。

 

――ギィン!

 

――ガギィン!!

 

――ズガァン!!

 

ダンテはケルベロスを振り回しながら、二体の攻撃を次々と受け流していく。アグニの炎を弾き、ルドラの風を打ち消し、さらに迫る二本の剣を同時に受け止める。

 

「お前ら……。」

 

ギリギリと鍔迫り合いを続けながら、ダンテが呟く。

 

「本当に……。」

 

力を込める。

 

「うるせぇな!」

 

――ズガァァァン!!

 

ケルベロスの一撃が炸裂し、アグニとルドラがまとめて吹き飛ばされた。

 

「ぐおおおっ!」

 

「ぬおおおっ!」

 

二体は地面を転がる。それでも、すぐに立ち上がった。

 

「まだだ!」

 

「まだ終わらんぞ!」

 

「……。」

 

ダンテはケルベロスを構えたまま、二体を見つめる。

 

「しぶといな。」

 

「我らは門番!」

 

「誇り高き双子の悪魔!」

 

「そして――。」

 

二体が同時に剣を構える。

 

「お前に勝つ!」

 

「今度こそ勝つ!」

 

「……。」

 

ダンテは小さく笑った。

 

「だったら、そろそろ本気で終わらせるか。」

 

ケルベロスが消える。

 

代わりに、ダンテの手に一振りの魔剣が現れた。

 

――リベリオン。

 

その姿を見た瞬間、アグニとルドラの顔が僅かに変わる。

 

「……その剣。」

 

「見覚えがあるぞ。」

 

「それは、お前の魔剣……!」

 

「そうだ。」

 

ダンテはリベリオンを肩に担ぐ。

 

「こいつで終わらせる。」

 

「我らを舐めるな!」

 

アグニが剣に炎を集中させる。これまでとは比較にならないほど巨大な炎が剣身を包み込んだ。

 

「我が炎は!」

 

ルドラも風を最大まで纏わせる。

 

「我が風は!」

 

二体が同時に飛び出す。

 

「「これで終わりだ、ダンテ!!」」

 

――ゴォォォォォッ!!

 

炎と風が交差し、巨大な炎の奔流となって迫る。

 

その瞬間。

 

ダンテの姿が消えた。

 

「なっ!?」

 

「どこだ!?」

 

次の瞬間。

 

――ザンッ!!

 

一閃。

 

リベリオンの斬撃が、二体の間を駆け抜けた。

 

「ぐっ……!」

 

「ぬおっ……!」

 

アグニとルドラの動きが止まる。

 

だが、まだ倒れない。

 

「まだ……だ!」

 

「我らは……!」

 

二体は最後の力を振り絞り、再び剣を構える。

 

ダンテはそんな二体を見つめると、静かにもう一方の手を伸ばした。

 

そこに現れたのは、一振りの魔剣――アストラル。

 

「二本か!?」

 

「いつの間に……!」

 

ダンテはリベリオンとアストラルを左右の手に握る。

 

「二人相手なら。」

 

二本の魔剣を構える。

 

「こっちも二本だ。」

 

「行くぞ!」

 

「これで決着だ!」

 

アグニとルドラが同時に踏み込む。

 

ダンテもまた、一歩前へ出た。

 

――ズドォォォォォン!!

 

三者が交差した。

 

一瞬。

 

シンダーグロー・レイクの炎が揺らめく音だけが残る。

 

ダンテは背を向けたまま、二本の魔剣を構えていた。

 

アグニとルドラは、その背後で動きを止めている。

 

「……。」

 

アグニがゆっくりと自分の身体を見下ろした。

 

「やられた……のか?」

 

ルドラも自らの身体を確認する。

 

「どうやら……そのようだ……。」

 

二体の身体には、無数の斬撃の跡が刻まれていた。

 

そして。

 

――ドサッ。

 

二体が同時に膝をつく。

 

「……強くなったな、ダンテ。」

 

「……ああ。」

 

二人は力尽きながらも笑っていた。

 

「だが!」

 

「我らは認めんぞ!」

 

「何をだよ。」

 

ダンテが振り返る。

 

「質屋に売ったことだ!」

 

「それはまだ根に持ってんのかよ……。」

 

ダンテが呆れた顔をする。

 

「当然だ!」

 

「我らは魔具だぞ!」

 

「それを質屋に売るなど、あまりにも酷い!」

 

「はいはい……。」

 

ダンテはため息を吐く。

 

「悪かったよ。」

 

すると、アグニとルドラは顔を見合わせる。

 

「しかし――。」

 

「やはり、お前だ。」

 

「……?」

 

「我らの力を最大限に引き出せる使い手は。」

 

「お前しかいない。」

 

二体の剣から、再び炎と風が噴き上がった。

 

「だからこそ――。」

 

「もう一度、我らの力を受け取れ!」

 

炎と風が渦を巻きながらダンテへ流れ込んでいく。

 

――ゴォォォォォッ!!

 

ダンテはリベリオンとアストラルを構えたまま、その力を受け止める。

 

炎と風はやがてダンテの身体へ吸い込まれ、静かに消えていった。

 

残されたのは――二本の剣。

 

アグニ。

 

ルドラ。

 

ダンテはそれを手に取る。

 

「……また喋るのか?」

 

「当然だ!」

 

「我らは言葉を愛している!」

 

「……。」

 

ダンテは深いため息を吐いた。

 

「まあいい。」

 

二本の魔具を肩に担ぐ。

 

「使えるなら、文句はねぇ。」

 

「さすがダンテ!」

 

「我らの選んだ男だ!」

 

「……ほんっと、うるせぇ奴らだ。」

 

そう言いながらも、ダンテの口元には僅かな笑みが浮かんでいた。

 

こうして、シンダーグロー・レイクでの戦いは終わった。

 

だが――。

 

ダンテはふと周囲を見回した。

 

「……そういや。」

 

先ほどまでそこにいたはずの男の姿がない。

 

「黒幕さんはどこ行った?」

 

ルシウスの姿は、どこにもなかった。

 

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