『Devil May Cry』
――シンダーグロー・レイク。
ツール・ド・インフェルノのゴール地点であるその場所には、赤々と燃え盛る巨大な湖が広がっていた。炎のようなエーテルが水面を覆い、周囲の空気さえも熱気で歪んでいる。
その湖畔には、すでに二人の男が到着していた。
トライアンフの覇者――ポンペイ。そして、その右腕であるルシウス。
二人はバイクから降りると、目の前に広がる火の湖を眺めていた。
「カリュドーンの子め。決着をつけると息巻いておきながら……なんとも退屈なレースだったな」
ポンペイが吐き捨てるように言うと、ルシウスも肩をすくめた。
「せっかく親分が目をかけてやっていたのに……シーザーめ、やる気がないにもほどがありますねぇ」
「フン。だが、退屈も結構なことだ」
ポンペイは火の湖へ視線を向ける。
「少なくとも数年は、火の湖を心配しなくていいのだからな」
そう言って、懐から一つの火打石を取り出す。そして、それを火の湖へ向かって投げた。
――カラン。
火打石が湖面へ落ちた、その瞬間だった。
「……?」
湖の中から異変が起こる。
赤く輝く炎の中に、無数の結晶が浮かび上がった。
――パキッ。
――パキパキパキッ!!
「なっ……!?」
エーテルの結晶が、まるで植物の根が伸びるように湖全体へ広がっていく。
ポンペイが目を見開いた。
「どういうことだ!? エーテル結晶が大量に現れたぞ!?」
「『エーテル重合触媒』……」
ルシウスが静かに答えた。
「遊離状態にあるエーテル粒子の結晶化を促す代物です。都市の企業が、エーテルの生産量を増やすために開発した技術ですよ」
ルシウスは楽しそうに湖を眺める。
「この場所の特異な環境では、さぞ効果があるでしょうねぇ」
「……ルシウス」
ポンペイの表情が険しくなる。
「まさか、貴様――」
「そうですよ? ポンペイの親分」
ルシウスが笑った。
「あなたの火打石は、僕がすり替えておきました」
「何……?」
「火の湖は、まもなく完全に消滅します」
ルシウスは淡々と続ける。
「ああ、そうそう……この触媒を使うと、付近のエーテル濃度が急激に上昇するんです」
「……!」
「特に『エーテル適応体質異常』の人には……深刻な結果をもたらすでしょうねぇ」
その直後だった。
「うぐっ――!!」
ポンペイが胸を押さえ、口から大量の血を吐き出した。
「ガハッ……!」
膝をつきながらも、ポンペイはルシウスを睨みつける。
「ルシウス……貴様、よくも――!」
ポンペイは怒りのまま剣を振り上げた。
「断じて許さぬ!」
――ザンッ!!
「ぐあっ――!」
剣がルシウスの右頬を切り裂いた。血が飛び散る。
ルシウスは頬を押さえながら、ゆっくりと顔を上げた。
「おいおい……」
その表情から笑みが消える。
「よくも僕の右頬に傷を増やしてくれたな……!」
「……。」
「怪物め……!」
そう吐き捨てるルシウスの前で、ポンペイの身体には異変が起きていた。
顔や首筋、そして腕。そこから無数のエーテル結晶が生え始めている。
ルシウスはそれを見て、むしろ興奮したように笑った。
「ここまで侵蝕が進んでいて、まだこれだけのパワーがあるとは!」
「……。」
ポンペイは静かに立ち上がる。
「貴様なんぞに期待していたとは……俺の目は、とんだ節穴だったようだ」
「……。」
「都市のエーテル企業と結託することが、どんな結果をもたらすか……貴様は分かっているのか?」
ルシウスは鼻で笑った。
「やだなあ、親分……。みんながみんな、あんたみたく古臭い自由と仁義を信じてるなんて……まさか思ってないよな?」
ルシウスは両手を広げる。
「弱者も、能無しも、もうとっくに時代から見捨てられてるんだよ!」
そして、不敵な笑みを浮かべる。
「エーテルの力さえあれば、僕はリーダーのいない郊外に、新たな秩序を打ち立てられる!」
「僕の指先ひとつで動く王国をな!」
――ズダン!!
突然、一発の銃声が響いた。
ルシウスの足元へ銃弾が撃ち込まれ、地面が弾け飛ぶ。
「……!」
ルシウスが振り返る。
そこには、巨大な魔具――キャバリエーレに跨った男がいた。
赤いコート。
白い髪。
そして両手に構えられた二丁の拳銃――エボニー&アイボリー。
「……。」
ダンテだった。
「モルスは、どうした?」
ルシウスが尋ねる。
ダンテは何でもないことのように答えた。
「この場所を喋ってもらって、寝かせた」
「……何?」
「悪いな。急いでたんでね」
ダンテはエボニー&アイボリーを軽く回す。
「話は聞かせてもらったぜ、黒幕さんよ」
ルシウスの表情が引きつった。
「お前が……噂に聞くホロウの赤い悪魔か」
そして、どこか愉快そうに笑う。
「なるほど。さすがだな」
ダンテは銃口をルシウスへ向ける。
「それより、余計なことはするなよ」
ルシウスが僅かに動こうとする。
「おぉっと」
ダンテの銃口が上がった。
「じゃなきゃ、鼻の穴が増えるぜ」
「……。」
ルシウスの動きが止まる。
ダンテは確実に顔へ当てられる角度でエボニー&アイボリーを構えた。
「それに、もうじきカリュドーンの子がここに到着する。大人しくしてるんだな」
「なに?」
ルシウスが目を見開く。
「……あれだけの火薬があって、奴らを葬り去れなかったのか?」
「残念だったな」
――ズダン!!
銃声。
弾丸がルシウスの顔すれすれを通過し、後方の岩へ突き刺さった。
「……!」
ルシウスの身体が硬直する。
ダンテは銃口を下ろさない。
ルシウスは冷や汗を流しながらも、強がるように口元を歪めた。
「……なんだ」
声が僅かに震えている。
「鼻の穴を増やすんじゃなかったのか?」
その瞬間だった。
「ダンテ!!」
「ダンテ!!」
――二つの声が同時に響いた。
「……あ?」
ダンテが振り返る。
次の瞬間。
――ズガァァァン!!
二本の剣が、同時に振り下ろされた。
「おっと!」
ダンテは咄嗟にキャバリエーレを変形させる。
巨大な車体が二つに分かれ、それぞれが刃を受け止めた。
――ギィィィィン!!
「……。」
ダンテの目の前に立っていたのは、二体の異形だった。
首のない巨大な身体。そして、その手に握られた二本の剣。
剣の柄には、それぞれ顔がついている。
「……お前ら」
ダンテが目を細める。
「久しぶりじゃねぇか」
「久しぶりだな、ダンテ!」
「久しぶりだとも、ダンテ!」
二つの頭が同時に喋る。
「俺たちを覚えているか!?」
「忘れているわけではないだろうな!?」
「……。」
ダンテは無言で二人を見つめる。
「アグニと――」
「ルドラだ!」
「そう! 我らこそ――」
「最強の双子の悪魔!」
「……。」
ダンテは深いため息を吐いた。
「やっぱりお前らか……」
かつて、テメンニグルの頂上へ通じる扉を守っていた双子の悪魔。
火を操るアグニ。
風を操るルドラ。
その二体が、なぜか今、目の前に立っていた。
「再会できて嬉しいぞ、ダンテ!」
「俺も嬉しいぞ、ダンテ!」
「……そうかい」
「ところでダンテ!」
「どうした?」
「聞きたいことがある!」
「なんだ?」
「なぜ我々を――」
二人が同時に叫ぶ。
「質屋に売った!!」
「……。」
ダンテの顔が引きつった。
「……そこかよ」
「そこだ!」
「そこに決まっている!」
「我々は魔具だぞ!」
「それを質屋に売るとは何事だ!」
「いや……」
ダンテは頭を掻く。
「なんということだ!」
「我らはお前に力を託したというのに!」
「その結果が質屋とは!」
「うるせぇな……」
ダンテが額を押さえる。
「相変わらず喋るな、お前ら」
「喋ることは悪いことではない!」
「そうだ! 言葉とは心と心を繋ぐもの!」
「だったら――」
ダンテは二丁拳銃を構え直す。
「その心をちょっと黙らせてくれ」
「なに!?」
「戦うということか!?」
二人の声がさらに大きくなる。
「そうだ!」
「望むところだ!」
その隙に――。
「……。」
ルシウスがゆっくりと後退する。
ダンテはちらりとそちらを見る。
「……あ」
しかし、アグニとルドラが再び剣を構えた。
「ダンテ!」
「我らは以前とは違うぞ!」
「今度こそお前に勝つ!」
「いや、勝負の前に――」
ダンテが言いかける。
その瞬間。
「行くぞ、ルドラ!」
「任せろ、アグニ!」
「……聞いちゃいねぇな」
アグニの剣から炎が噴き出す。
ルドラの剣からは凄まじい風が巻き起こった。
――ゴォォォォォッ!!
炎と風が渦を巻き、二人の身体を包み込む。
「俺たちは火!」
「俺たちは風!」
「二つの力が合わされば!」
「最強の――」
「だからうるせぇって言ってんだろ!」
ダンテがキャバリエーレを加速させる。
――ドォォォォォン!!
巨大な車体が地面を削りながら突進する。
アグニとルドラも同時に迎え撃つ。炎を纏った剣と、風を纏った剣が左右から襲いかかる。
――ガギィン!!
ダンテはキャバリエーレの刃を交差させ、二本の剣を同時に受け止めた。
「へぇ……」
ダンテが笑う。
「前よりはマシになったじゃねぇか」
「当然だ!」
「我々は成長している!」
「だったら――」
ダンテが力を込める。
「こいつも受けてみな!」
キャバリエーレが唸りを上げる。
巨大な刃が二体を弾き飛ばした。
「ぬおおおおっ!」
「飛んでいるぞ、アグニ!」
「飛んでいるのはお前だ、ルドラ!」
「どっちでもいい!」
二体が地面を転がる。
だが、すぐに立ち上がった。
「まだまだ!」
「ここからだ!」
ダンテは呆れたように笑った。
「……まったく。」
キャバリエーレをしまい、代わりに魔剣リベリオンを構える。
「相変わらず面倒な奴らだぜ」
炎と風が再び吹き荒れる。
シンダーグロー・レイクを赤く染める炎の中で、ダンテと二体の双子の悪魔は再び対峙した。
――
燃え盛る湖を背に、ダンテとアグニ&ルドラが睨み合っていた。
「行くぞ、ルドラ!」
「応とも、アグニ!」
二体が同時に地面を蹴る。アグニの剣からは炎が噴き出し、ルドラの剣からは竜巻のような風が巻き起こった。炎と風が絡み合い、巨大な火炎の渦となってダンテへと迫る。
「へぇ……。」
ダンテは口元を吊り上げた。
「派手になったじゃねぇか。」
腰から二丁の拳銃を抜く。エボニー&アイボリー。その銃口が同時に火を噴いた。
――ズダダダダダッ!!
無数の銃弾が炎の渦へ撃ち込まれる。しかし、猛烈な風に弾道を逸らされ、炎の壁に飲み込まれていく。
「無駄だ、ダンテ!」
「我らの炎と風は止められん!」
「そうかい?」
ダンテは笑った。
「じゃあ、試してみるか。」
両手の銃を連射しながら横へ跳ぶ。直後、炎の渦が地面を抉り取った。
――ドゴォォォン!!
「逃げたぞ、アグニ!」
「追うのだ、ルドラ!」
「言われなくても分かっている!」
二体は左右へ散開し、同時にダンテを挟み込もうとする。ダンテはその動きを冷静に見つめていた。
「……相変わらず息ぴったりだな。」
「当然だ!」
「我らは双子だからな!」
「だったら――」
ダンテはエボニー&アイボリーを腰へ戻す。
「息が合うってことが、弱点になることも教えてやるよ。」
背中から巨大な銃器を取り出した。
――ズンッ。
「なんだ、あれは!?」
ダンテが構えたのは、巨大なショットガン――コヨーテA。
「食らいな。」
――ドォン!!
凄まじい轟音とともに散弾が炸裂し、アグニとルドラをまとめて吹き飛ばした。
「ぬおっ!?」
「ぐおおっ!」
二体の巨体が地面を転がる。
「なんという威力だ!」
「近距離では危険すぎる!」
「だったら、離れればいいだろ?」
ダンテはコヨーテAを肩へ担ぐ。
「ただし――。」
次の瞬間、ダンテの姿が掻き消えた。
「何!?」
「どこへ行った!?」
――ズガァン!!
アグニの背後に回り込んだダンテが、至近距離からコヨーテAを叩き込む。
「ぐおおおっ!!」
「アグニ!」
ルドラが助けに入ろうとする。しかし、その動きをダンテは見逃さない。
「おっと。」
――ドォン!!
至近距離から撃ち込まれた散弾がルドラを吹き飛ばした。
「ぐっ!」
二体は大きく距離を取る。
ダンテはコヨーテAを肩に担いだまま、二体を見つめた。
「どうした?」
「さっきまでの威勢は?」
「くっ……!」
「まだだ!」
ルドラが剣を振り抜く。
――ヒュゴォォォォッ!!
猛烈な風がシンダーグロー・レイクの湖畔を駆け抜け、砂埃が舞い上がった。視界が一瞬で遮られる。
「これならどうだ!」
「アグニ!」
「任せろ!」
風の中を炎が走る。
「――合技!」
炎と風が渦を巻き、巨大な火炎竜巻となってダンテへ襲いかかった。
「へぇ。」
ダンテは楽しそうに笑う。
「いいねぇ。」
コヨーテAを消し去り、代わりに巨大な銃器を取り出す。
「だったら、こいつだ。」
スパイラル。
長大な銃身を構え、迫り来る火炎竜巻へと狙いを定める。
――ズドォォォォォォォン!!
高速回転する弾丸が一直線に撃ち出され、炎の渦を正面から撃ち抜いていく。炎が弾け、風が乱れ、巨大な竜巻が中心から崩壊していった。
「なにぃ!?」
「そんな馬鹿な!」
「悪いな。」
ダンテはスパイラルを下ろす。
「ちょっと相性が悪かったみたいだ。」
「ならば直接叩き潰す!」
炎を纏ったアグニが突っ込んでくる。剣が振り下ろされた。
――ギィィィン!!
ダンテはスパイラルの銃身を横にして、剣を受け止めた。
「熱いな。」
「ならば燃え尽きろ!」
「断る。」
ダンテがスパイラルを振り払い、アグニの腹部へ蹴りを叩き込む。
「ぐおっ!」
アグニが吹き飛ぶ。
そこへルドラが迫った。
「今度はこちらだ!」
風を纏った剣が横薙ぎに振るわれる。ダンテは身を屈め、紙一重で回避した。剣が頭上を通り過ぎる。
「危ねぇな。」
「まだ終わっていない!」
ルドラが連続して斬りかかる。ダンテはそのすべてを紙一重でかわしていく。
「速いな。」
「当然だ!」
「俺の風は誰にも捕らえられん!」
「そうかい。」
ダンテは笑った。
「じゃあ――。」
スパイラルを消す。
「捕まえてみるか。」
その手に現れたのは、青白い冷気を纏った魔具――ケルベロス。
三つの棍棒が唸りを上げる。
「ぬっ!?」
「それは……!」
ダンテがケルベロスを振り抜いた。
――バキィィィン!!
猛烈な冷気が爆発的に広がり、ルドラの周囲を吹き荒れていた風が一瞬で凍りついた。
「なっ!?」
「風が……凍っただと!?」
「悪いな。」
ダンテはケルベロスを回転させる。
「こいつ、ちょっと冷たいんだ。」
――ズガァァァン!!
ケルベロスの一撃がルドラを吹き飛ばした。
「ルドラ!」
「心配するな、アグニ!」
ルドラは空中で体勢を立て直し、着地する。
「まだ戦える!」
「ならば二人で行くぞ!」
「応!」
二体が同時に突っ込んでくる。炎、風、そして二本の剣。二つの力が入り乱れ、あらゆる方向からダンテへ襲いかかった。
――ギィン!
――ガギィン!!
――ズガァン!!
ダンテはケルベロスを振り回しながら、二体の攻撃を次々と受け流していく。アグニの炎を弾き、ルドラの風を打ち消し、さらに迫る二本の剣を同時に受け止める。
「お前ら……。」
ギリギリと鍔迫り合いを続けながら、ダンテが呟く。
「本当に……。」
力を込める。
「うるせぇな!」
――ズガァァァン!!
ケルベロスの一撃が炸裂し、アグニとルドラがまとめて吹き飛ばされた。
「ぐおおおっ!」
「ぬおおおっ!」
二体は地面を転がる。それでも、すぐに立ち上がった。
「まだだ!」
「まだ終わらんぞ!」
「……。」
ダンテはケルベロスを構えたまま、二体を見つめる。
「しぶといな。」
「我らは門番!」
「誇り高き双子の悪魔!」
「そして――。」
二体が同時に剣を構える。
「お前に勝つ!」
「今度こそ勝つ!」
「……。」
ダンテは小さく笑った。
「だったら、そろそろ本気で終わらせるか。」
ケルベロスが消える。
代わりに、ダンテの手に一振りの魔剣が現れた。
――リベリオン。
その姿を見た瞬間、アグニとルドラの顔が僅かに変わる。
「……その剣。」
「見覚えがあるぞ。」
「それは、お前の魔剣……!」
「そうだ。」
ダンテはリベリオンを肩に担ぐ。
「こいつで終わらせる。」
「我らを舐めるな!」
アグニが剣に炎を集中させる。これまでとは比較にならないほど巨大な炎が剣身を包み込んだ。
「我が炎は!」
ルドラも風を最大まで纏わせる。
「我が風は!」
二体が同時に飛び出す。
「「これで終わりだ、ダンテ!!」」
――ゴォォォォォッ!!
炎と風が交差し、巨大な炎の奔流となって迫る。
その瞬間。
ダンテの姿が消えた。
「なっ!?」
「どこだ!?」
次の瞬間。
――ザンッ!!
一閃。
リベリオンの斬撃が、二体の間を駆け抜けた。
「ぐっ……!」
「ぬおっ……!」
アグニとルドラの動きが止まる。
だが、まだ倒れない。
「まだ……だ!」
「我らは……!」
二体は最後の力を振り絞り、再び剣を構える。
ダンテはそんな二体を見つめると、静かにもう一方の手を伸ばした。
そこに現れたのは、一振りの魔剣――アストラル。
「二本か!?」
「いつの間に……!」
ダンテはリベリオンとアストラルを左右の手に握る。
「二人相手なら。」
二本の魔剣を構える。
「こっちも二本だ。」
「行くぞ!」
「これで決着だ!」
アグニとルドラが同時に踏み込む。
ダンテもまた、一歩前へ出た。
――ズドォォォォォン!!
三者が交差した。
一瞬。
シンダーグロー・レイクの炎が揺らめく音だけが残る。
ダンテは背を向けたまま、二本の魔剣を構えていた。
アグニとルドラは、その背後で動きを止めている。
「……。」
アグニがゆっくりと自分の身体を見下ろした。
「やられた……のか?」
ルドラも自らの身体を確認する。
「どうやら……そのようだ……。」
二体の身体には、無数の斬撃の跡が刻まれていた。
そして。
――ドサッ。
二体が同時に膝をつく。
「……強くなったな、ダンテ。」
「……ああ。」
二人は力尽きながらも笑っていた。
「だが!」
「我らは認めんぞ!」
「何をだよ。」
ダンテが振り返る。
「質屋に売ったことだ!」
「それはまだ根に持ってんのかよ……。」
ダンテが呆れた顔をする。
「当然だ!」
「我らは魔具だぞ!」
「それを質屋に売るなど、あまりにも酷い!」
「はいはい……。」
ダンテはため息を吐く。
「悪かったよ。」
すると、アグニとルドラは顔を見合わせる。
「しかし――。」
「やはり、お前だ。」
「……?」
「我らの力を最大限に引き出せる使い手は。」
「お前しかいない。」
二体の剣から、再び炎と風が噴き上がった。
「だからこそ――。」
「もう一度、我らの力を受け取れ!」
炎と風が渦を巻きながらダンテへ流れ込んでいく。
――ゴォォォォォッ!!
ダンテはリベリオンとアストラルを構えたまま、その力を受け止める。
炎と風はやがてダンテの身体へ吸い込まれ、静かに消えていった。
残されたのは――二本の剣。
アグニ。
ルドラ。
ダンテはそれを手に取る。
「……また喋るのか?」
「当然だ!」
「我らは言葉を愛している!」
「……。」
ダンテは深いため息を吐いた。
「まあいい。」
二本の魔具を肩に担ぐ。
「使えるなら、文句はねぇ。」
「さすがダンテ!」
「我らの選んだ男だ!」
「……ほんっと、うるせぇ奴らだ。」
そう言いながらも、ダンテの口元には僅かな笑みが浮かんでいた。
こうして、シンダーグロー・レイクでの戦いは終わった。
だが――。
ダンテはふと周囲を見回した。
「……そういや。」
先ほどまでそこにいたはずの男の姿がない。
「黒幕さんはどこ行った?」
ルシウスの姿は、どこにもなかった。