悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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Wanna know the name?

『Devil May Cry』


第十七話 金欠

 

 

――あの後。

 

シンダーグロー・レイクで起きた一件は、郊外を揺るがす大事件となった。

 

瀕死の状態だったポンペイに対し、ダンテはわずかに魔力を流し込んだ。エーテル侵蝕そのものを治すことはできなかったが、進行を遅らせることには成功した。そしてポンペイをキャバリエーレに括り付け、そのままホロウの外へ運び出した。

 

ほどなくして到着したカリュドーンの子たちへ、ダンテはその場で起きたすべてを伝えた。

 

ルシウスとモルスによる裏切り。エーテル重合触媒によるシンダーグロー・レイクの結晶化。そして、このままでは火の湖が完全に失われ、郊外の人々の生命線が断たれてしまうこと。

 

それを聞いたシーザーは、火打石を手に取った。

 

そして――バイクに跨ったまま、火の湖へ飛び込んだ。

 

走り屋は自由だ。この場所が駄目になったのなら、別の場所へ移ればいい。

 

だが、この土地でしか生きられない者たちもいる。

 

だからこそ、シーザーは自らの命を賭けた。

 

初代覇者がそうしたように、シンダーグロー・レイクへ飛び込み、大爆発を引き起こしたのだ。

 

その光景を見たルーシーは、膝から崩れ落ちた。

 

そして、ただ愕然と涙を流した。

 

――だが。

 

その直後、上空に空間の裂け目が現れた。

 

その裂け目から、一台のバイクが勢いよく飛び出してくる。

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

シーザーだった。

 

誰もが何が起きたのか理解できなかった。だが、彼女は生きていた。

 

後の調査によれば、炎の噴出口の下には何十年もの間、空間の裂け目が存在していたらしい。初代覇者もまた、その裂け目を通って帰還したのだという。

 

しかし当時の人々は、エーテルや空間の裂け目について詳しい知識を持っていなかった。そのため、初代覇者の生還は――。

 

「太陽と炎の神の加護」

 

そう語り継がれることになった。

 

一方、ポンペイは一命を取り留めた。

 

だが、この事件をきっかけに覇者を引退することを決めた。そしてシーザーは、ポンペイが最初にゴールしたという事実を尊重し、自らを正式な覇者とは名乗らなかった。

 

代わりに――『覇者代理』。

 

そう名乗ることになった。

 

ルシウスとモルスの行方は、未だ分かっていない。

 

しかし、イアスが記録していた視覚データによって、二人の企みと悪行は郊外中に知れ渡った。少なくとも、彼らが何をしようとしていたのかを隠すことは、もうできなかった。

 

――そして、それから数日後。

 

ダンテは、新エリー都にある自分の事務所へ戻っていた。

 

「……。」

 

事務所の中は静かだった。

 

いつものように雑然とした室内。その中央に置かれた長机の上には、ダンテの武器が並べられている。

 

コヨーテA。

 

アグニ&ルドラ。

 

アストラル。

 

ケルベロス。

 

そして床には、巨大な魔具――キャバリエーレ。少し離れた場所にはスパイラルも立て掛けられている。

 

ダンテは椅子に座り、それらを眺めていた。

 

「……増えたな」

 

改めて見ると、随分な数だった。

 

以前から持っていた武器に加え、郊外での一件によってアグニとルドラまで戻ってきた。

 

ダンテは腕を組み、しばらく考える。

 

そして。

 

「……どれを売るか」

 

その時だった。

 

――バァン!!

 

勢いよく事務所の扉が開いた。

 

「ダンテー!」

 

「……。」

 

ダンテが顔を上げる。

 

そこに立っていたのはシーザーだった。その後ろにはオルペウス。そして、オルペウスの機械仕掛けの尾の先には、赤い銃身を持つ竜頭型のデバイス――鬼火が取り付けられている。

 

「お邪魔するであります、ダンテさん」

 

オルペウスが軽く頭を下げる。

 

『おい、貴様!』

 

「……。」

 

『どうして何の連絡も入れずに郊外へ行った!?』

 

ダンテはしばらく鬼火を見る。

 

「聞いてる」

 

『なら返事をしろ!』

 

「分かったよ」

 

『その返事が気に入らん!』

 

「……面倒くせぇな」

 

「姉さん、落ち着いてくださいであります」

 

オルペウスが慌てて宥める。

 

『私は落ち着いている!』

 

「どう見ても怒ってるけどなぁ……」

 

シーザーが苦笑すると、鬼火の3Dの目が鋭く吊り上がった。

 

『貴様は黙っていろ!』

 

「なんで俺まで!?」

 

『貴様もあの時、無茶をしただろう!』

 

「いや、それは……」

 

シーザーが気まずそうに目を逸らす。

 

どうやら、ここに来るまでの道中、三人で色々と話をしていたらしい。

 

「……まあ、否定できないな」

 

「まったく」

 

オルペウスが小さくため息を吐いた。

 

「お二人とも、無茶をしすぎであります」

 

『その通りだ!』

 

鬼火が大きく口を開く。

 

ダンテは少しだけ目を細めた。

 

鬼火の口調は相変わらず荒い。だが、その奥にあるものが何なのか、ダンテにも分かっていた。

 

「悪かったよ。次からは連絡する」

 

『……分かればいい』

 

オルペウスがほっとしたように笑う。

 

「よかったであります」

 

その時、オルペウスの視線が部屋の中央へ向いた。

 

「……あれ?」

 

長机の上に並べられた武器。そして床に置かれたキャバリエーレ。

 

オルペウスが目を丸くする。

 

「武器が……ずいぶん増えましたね」

 

「ああ」

 

シーザーも机へ近づく。

 

「すげぇな……。こんなに持ってたのか?」

 

「最近増えた」

 

「それは分かるんですけど……」

 

オルペウスは並べられた武器を眺めた。

 

「どうして、こうして並べているのでありますか?」

 

ダンテは少し考えた。

 

そして、平然と答える。

 

「どれを質屋に売ろうか悩んでる」

 

「…………」

 

シーザーが固まった。

 

オルペウスも固まる。

 

鬼火も固まった。

 

そして――アグニとルドラまでもが固まった。

 

「……質屋?」

 

「質屋でありますか?」

 

『……質屋?』

 

「そう」

 

ダンテは何でもないことのように頷いた。

 

鬼火の目が細くなる。

 

『おい。まさか貴様……』

 

「最近、懐が寂しくなってきてな」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

シーザーとオルペウスが同時に叫んだ。

 

『!?』

 

鬼火まで驚きの声を上げる。

 

しかし――その直後だった。

 

「ダンテ!」

 

「我らを質屋に売るというのか!?」

 

長机の上から、突然二つの声が響いた。

 

「「…………」」

 

シーザーとオルペウスが凍りつく。

 

「……え?」

 

シーザーがゆっくりと振り返る。

 

オルペウスも目を見開いたまま、机の上を見る。

 

「……い、今……」

 

「喋った……でありますか?」

 

『……。』

 

鬼火も無言だった。

 

赤い銃身の先にある3Dの目が、ゆっくりとアグニとルドラへ向く。

 

『武器が……喋っただと?』

 

鬼火の目が大きく見開かれる。

 

「しかも二つ……」

 

オルペウスの尻尾が驚きのあまりピンと伸びた。

 

「ダンテ」

 

シーザーが恐る恐る尋ねる。

 

「……今の、武器から聞こえたよな?」

 

「聞こえたな」

 

「……」

 

「……」

 

三人が同時にアグニとルドラを見る。

 

刀に刻まれた二つの顔が、きょとんとしたように瞬きをする。

 

「どうした?」

 

ルドラも首を傾げる。

 

「何かおかしいのか?」

 

「「いやいやいやいや!!」」

 

シーザーとオルペウスが同時に叫んだ。

 

「喋ったぁぁぁぁぁ!?」

 

「喋る魔具でありますかぁぁぁぁぁ!?」

 

『貴様ら、落ち着け!』

 

鬼火が怒鳴る。

 

だが。

 

「いや、お前も驚いてるだろ!?」

 

シーザーが鬼火を指差す。

 

『……』

 

鬼火の目が左右に泳ぐ。

 

『……驚いてなどいない』

 

「めちゃくちゃ驚いてるじゃねぇか!」

 

『黙れ!』

 

「というか、隊長!」

 

オルペウスも思わず声を上げる。

 

「鬼火隊長も喋る武器であります!」

 

『私は例外だ!』

 

「何が例外なんだ!?」

 

『うるさい!』

 

そんな三人をよそに、アグニとルドラは至って真剣な顔で話し続ける。

 

「それよりもダンテ!」

 

「我らの話を聞いているのか!?」

 

「お前らな……」

 

ダンテは頭を掻いた。

 

「こいつらはアグニとルドラだ」

 

「よろしく!」

 

「よろしく頼む!」

 

「……」

 

シーザーはアグニとルドラを見つめた。

 

「……魔具なんだよな?」

 

「ああ!」

 

「その通り!」

 

「……剣なのに?」

 

「剣だからこそだ!」

 

「なるほど……?」

 

シーザーは腕を組む。

 

「いや、分からん」

 

オルペウスも困惑したように首を傾げた。

 

「私も、さっぱり分からないであります……」

 

『私もだ』

 

鬼火がぼそりと呟く。

 

「隊長も!?」

 

『うるさい!』

 

「おいおい……」

 

ダンテは呆れながら三人を見る。

 

「そんなに驚くことか?」

 

「驚くに決まってるだろ!」

 

シーザーが即答する。

 

「今まで普通の武器だと思ってたものが、いきなり喋り始めたんだぞ!?」

 

「しかも二本であります!」

 

「我らは二人で一つだからな!」

 

「そうだ!」

 

「だから二本なのに二人なのだ!」

 

「……」

 

シーザーの表情がさらに困惑する。

 

「……なんだか余計に分からなくなってきた」

 

「同感であります」

 

オルペウスも頷く。

 

鬼火はアグニとルドラをじっと見つめる。

 

『……貴様ら』

 

「なんだ?」

 

『武器なのに、ずいぶんとうるさいな』

 

「「何だと!?」」

 

アグニとルドラが同時に反応する。

 

『事実だろう』

 

「我らはお喋りが好きなのだ!」

 

「言葉とは心と心を繋ぐものだからな!」

 

『……』

 

鬼火が少し黙る。

 

そして。

 

『……気が合いそうで気に入らんな』

 

「なんだそれは!?」

 

「失礼な奴だ!」

 

「お前も十分うるさいけどな」

 

ダンテが横から口を挟む。

 

『貴様は黙っていろ!』

 

「はいはい」

 

ようやくシーザーが我に返った。

 

「……待てよ」

 

そして、机の上に並ぶ武器を改めて見る。

 

「じゃあ、これも喋るのか?」

 

シーザーがケルベロスを指差す。

 

「こいつは?」

 

「喋らねぇ」

 

「これは?」

 

アストラルを指差す。

 

「喋らねぇ」

 

「キャバリエーレは?」

 

「喋らねぇな」

 

「じゃあ、なんでこいつらだけ……」

 

「昔からこうなんだよ」

 

ダンテが答える。

 

「昔から……」

 

シーザーはアグニとルドラを見る。

 

二人は誇らしげに胸を張った。

 

「我らは特別なのだ!」

 

「そう! 選ばれし魔具だからな!」

 

「……」

 

シーザーは数秒黙った。

 

そして。

 

「……ダンテ」

 

「ん?」

 

「やっぱり、こいつら売らない方がいいんじゃないか?」

 

「なんでだ?」

 

「こんなの質屋に持っていったら、絶対店員が腰抜かすぞ」

 

「……」

 

ダンテは少し考える。

 

オルペウスも頷いた。

 

「私もそう思うであります」

 

『私もだ』

 

鬼火が大きく口を開く。

 

『絶対に質屋などに持っていくな!』

 

「なんでだ?」

 

『なんでだ、だと!?』

 

鬼火の目が大きく見開かれる。

 

『こんな強力な武器を質屋になど持っていくな!』

 

ダンテは小さく息を吐いた。

 

「まあ……」

 

そして、椅子の背もたれに身体を預ける。

 

「しばらくは持っとくか」

 

「本当か!?」

 

シーザーが笑う。

 

「よかったな!」

 

「……」

 

アグニとルドラが顔を見合わせる。

 

「よかったな、ルドラ!」

 

「うむ、アグニ!」

 

「我らは売られずに済んだ!」

 

「実にめでたい!」

 

「……」

 

ダンテは苦笑する。

 

「しばらくはな」

 

『しばらく!?』

 

「……」

 

『おい、ダンテ!』

 

「はいはい」

 

事務所に鬼火の怒鳴り声が響くのであった。

 

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