悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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Wanna know the name?

『Devil May Cry』


第一話 便利屋『Devil May Cry』

 

 

――新エリー都、ヤヌス区六分街。

 

多くの店が立ち並び、人々が行き交うこの場所の片隅に、一つの建物があった。

 

古びた外観に、年季の入った壁。ところどころ色褪せた看板の跡も残っている。どうやら、元々は古いバーだったらしい。かつては多くの客が訪れていたのだろう。

 

しかし、いつしか店は閉まり、長い間、誰にも使われることなく放置されていた。

 

そんな建物を、ある人物が買い取った。

 

そして内部を大幅に改装し、新たな事業を始めようとしている。

 

だが、現在。

 

その店には、まだ看板すら存在していなかった。

 

店の名前も、営業内容も、外から見れば何も分からない。

 

ただ、中から聞こえてくる音だけが、その存在を示していた。

 

――――

 

ジリリリリリーン。

 

古びた電話の音が、店内に響き渡る。

 

音の発生源は、事務所の長机の上に置かれた黒電話だった。

 

机の上は、決して綺麗とは言えない。

 

書類や工具、用途の分からない謎の部品。そして、食べかけのピザ。

 

さらにその隣には、普通の拳銃とは明らかに違う二丁の銃が置かれていた。

 

銀色と黒色。

 

異常なほど長い銃身を持つ二丁拳銃――この事務所のオーナーが愛用する武器だった。

 

その時。

 

奥の部屋から、水が止まる音が聞こえた。

 

続いて扉が開く。

 

正確には、足で蹴り開けられた。

 

「……。」

 

現れたのは、一人の青年だった。

 

白髪。そして上半身は裸。

 

髪をタオルで拭きながら歩いてくる。どうやら、シャワーを浴びていたらしい。身体からは、まだ湯気が立ち上っている。

 

青年はそのまま長机へ向かうと、倒れていた椅子を軽く蹴り上げた。

 

椅子は宙を舞い、一回転、二回転。

 

そして、正しい向きで着地する。

 

その瞬間には、青年はすでに椅子へ腰を下ろしていた。

 

まるで最初から、そこに座ることが決まっていたかのような動きだった。

 

さらに長机へ足を乗せる。

 

ドンッ。

 

その衝撃で黒電話の受話器が跳ね上がった。

 

だが、青年は振り向きもしない。

 

伸ばした手が、空中へ飛んだ受話器を正確に掴み取る。

 

「……。」

 

そのまま何事もなかったかのように耳へ当てた。

 

「悪いが、まだ開店準備中だ」

 

青年はそう言うと、受話器を放り投げる。

 

受話器は綺麗な軌道を描き、そのまま黒電話へ戻った。

 

青年は少し笑う。

 

「まだ店の看板も付けてないのに。気の早い客もいるもんだな」

 

そして、机の上に置いてあったピザを手に取る。

 

一口。

 

二口。

 

満足そうに頬張る。

 

この男の名は――ダンテ。

 

かつて数多の悪魔を倒してきた、伝説のデビルハンターである。

 

彼は、あの日。

 

魔界から、この世界へ流れ着いた。

 

――――

 

新エリー都へ来た直後。

 

ダンテが最初に遭遇したのは、治安局の人間だった。

 

突然現れた謎の男。

 

身分証なし。

 

登録情報なし。

 

そして、都心での武器の所持。

 

当然、事情を聞かれることになった。

 

しかし。

 

「別の世界から来ました」

 

などと言っても、信じてもらえるわけがない。

 

そのためダンテは、適当に誤魔化しながらその場を切り抜けた。

 

その後、彼は街を歩き、この世界について調べ始めた。

 

そこで知ったのが――ホロウ、エーテル、そしてエーテリアス。

 

魔界とは違う。

 

だが、この世界にも人間を脅かす怪物が存在している。

 

それを知った時、ダンテは少しだけ笑った。

 

そして、彼は動いた。

 

ホロウへ。

 

もちろん、正式な許可などない。

 

違法侵入。

 

いわゆる「潜り」だった。

 

そこで遭遇した怪物たちを倒し、報酬を得る。

 

最初は小遣い程度だった。

 

だが、何度も繰り返すうちに、それなりの金になった。

 

もちろん、何度か治安局に追われた。

 

「またあなたですか」

 

そう言われたこともある。

 

その度にダンテは笑って逃げた。

 

そんな生活を続けているうちに、気付けば彼は一つの場所を手に入れていた。

 

そして今。

 

そこを自分の事務所にしようとしている。

 

「……。」

 

ダンテはピザを飲み込み、改めて周囲を見渡す。

 

まだ片付いていない店内。

 

古いバーの名残があちこちに残っており、ビリヤード台や古いジュークボックスも置かれている。

 

ビリヤード台の上には、銀色の刃を持つ巨大な大剣が無造作に置かれていた。

 

そして事務所内には、まだ完成していない看板が置かれている。

 

そこには、こう書かれていた。

 

「Devil May Cry……」

 

ダンテが小さく呟く。

 

かつて自分が構えていた場所と同じ名前。

 

悪魔退治専門の便利屋。

 

この世界では、悪魔という存在は知られていない。

 

だが、人を襲う怪物は存在する。

 

ならば。

 

やることは変わらない。

 

「便利屋ってことでいいか」

 

ダンテは椅子にもたれた。

 

――――

 

ダンテがピザを食べ終えた、その時だった。

 

ギィ……。

 

古びた扉が開く音が響く。

 

まだ看板すら出していない。

 

営業開始の準備も終わっていない。

 

それでも、誰かが店内へ入ってきた。

 

ダンテは視線だけを扉へ向ける。

 

そこに立っていたのは――一人の女性だった。

 

黒い髪。

 

整った顔立ち。

 

そして、この街では珍しいほど上品な雰囲気を漂わせている。

 

高級そうなスーツを身に纏い、まるでどこかの企業の重役のようにも見えた。

 

女性は店内を見渡す。

 

古びたバーの名残。

 

散らかった机。

 

そして、椅子に座る白髪の青年。

 

「……。」

 

ダンテは少し眉を上げた。

 

どう見ても、この場所に似合わない客だった。

 

「店はまだ開店前だぜ、お嬢さん」

 

ダンテは椅子に座ったまま声をかける。

 

「出直してくれ」

 

しかし、女性は帰る様子を見せなかった。

 

むしろ、小さく笑う。

 

「そう」

 

女性はゆっくりと店内へ歩いてくる。

 

「でも……あなたなら、受けてくれると思ったのだけれど」

 

その言葉に、ダンテの目が細くなる。

 

「……。」

 

普通ではない。

 

初対面のはずだ。

 

それなのに、まるで自分のことを知っているような口ぶりだった。

 

女性はダンテの前まで来ると、丁寧に微笑む。

 

「君が――ダンテ君ね」

 

一瞬。

 

空気が変わった。

 

ダンテは笑みを消す。

 

「……どこでそれを聞いた?」

 

低い声。

 

警戒。

 

それは悪魔と戦う時とは違う。

 

未知の相手を前にした時の目だった。

 

この世界に来てから、ダンテが自分の名前を名乗った回数など、片手で数えられる程度しかない。

 

治安局で事情を聞かれた時。

 

ホロウ内で出会った人間に聞かれた時。

 

それくらいだ。

 

そして、そのどれもこの女性に繋がるようなものではない。

 

「調べたのか?」

 

ダンテは女性を見据える。

 

「それとも……俺のことを知っている奴が、この街にいるってことか?」

 

ダンテは机の上に置かれたエボニーとアイボリーへ一瞬だけ視線を向ける。

 

女性は、その問いに答えなかった。

 

ただ笑っている。

 

「流石ね」

 

「警戒心も一流」

 

「褒めても何も出ないぜ」

 

ダンテは肩をすくめた。

 

「それで?」

 

「俺の名前を知っているお嬢さんが、わざわざ準備中の店に来た理由は?」

 

女性は少しだけ間を置く。

 

そして、静かに告げた。

 

「依頼を出していいかしら?」

 

「……。」

 

ダンテは黙る。

 

依頼。

 

この世界で、その言葉を聞くのは初めてではない。

 

しかし、この女性から出たことには意味がある。

 

「従業員もいない」

 

「登録された会社でもない」

 

女性はそう言いながら、ダンテを見る。

 

「それでも、あなたにお願いしたいの」

 

「……。」

 

ダンテは椅子へ深く座り直す。

 

「随分と買ってくれるじゃないか」

 

女性は続けた。

 

「ホロウ内で確認された異常な戦闘記録」

 

「上級エーテリアス複数体を一人で撃破した謎の存在」

 

「エーテル侵食を受けても変化しない身体」

 

「……。」

 

ダンテは頭を掻いた。

 

「だからこそ」

 

女性は静かな声で告げる。

 

「是非、受けていただきたい」

 

その声には、確かな自信があった。

 

ダンテは女性を見つめる。

 

怪しい。

 

間違いなく怪しい。

 

だが同時に、少しだけ興味も湧いていた。

 

「……名前を聞いてなかったな」

 

ダンテが尋ねる。

 

女性は、少しだけ微笑んだ。

 

「私はサラ」

 




※ダンテは会話中もずっと上裸です。
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