『Devil May Cry』
「できるだけ遠くに――」
ニコが言い終えるより早く、ダンテが振り向いた。
「伏せろ!」
直後――。
パン――! パン――! パン――! パン――!
銃声が雨のように連続した。空き地の地面が次々と弾け、土埃が一気に舞い上がる。
「伏せて――!」
「伏せろっ――!」
アンビーと柳がほぼ同時に叫んだ。
「んのわぁあああああ――!」
パールマンは情けない悲鳴を上げ、その場に這いつくばる。
だが、次の瞬間だった。
――ギィンッ!
雷光のような閃きが走った。パールマンへ向かって飛来した弾丸が、空中で真っ二つに斬り裂かれる。火花を散らしながら二つに分かれた弾頭が地面へ転がった。
「……!」
その場にいた全員が一瞬だけ目を見開く。
パールマンの前に立っていたのは、悠真だった。いつの間にか腰の後ろから剣を抜き放っている。その顔からは先ほどまでの気怠げな笑みが消え、金色の瞳だけが土煙の向こうを鋭く見据えていた。
悠真は耳を澄ます。
「制圧射撃のリズムだな……包囲するつもりだ! 三方向から!」
「三方向……?」
アキラが周囲を見渡す。
土煙の向こうから、再び銃声が響いた。
「右から来る」
アンビーが身を低くする。
「左もです!」
柳が続けた。
「後方にもいるぞ!」
ビリーも振り返る。
四方から銃撃が迫っていた。
明らかに偶発的な襲撃ではない。最初からこの空き地にいる全員を包囲し、逃げ道を潰すための射撃だった。
「おいおい……」
ダンテが赤いコートを翻しながら立ち上がる。
「ずいぶん歓迎されてるじゃねぇか」
「感心している場合ではありません!」
柳が鋭く言い放つがその直後――。
「来る!」
雅が叫んだ。
銃弾が彼女の横を通り抜ける。雅は身体を僅かに傾けて回避すると、そのまま妖刀の柄へ手を添えた。
「……『邪兎』のニコ」
「何よ!」
雅の声には明確な警戒が混じっていた。
「まさか刺客を用意していたのか? お前が悪党どもに与しているとはな」
「そりゃこっちのセリフよ、お武家ギツネ!」
ニコも負けじと言い返す。
「あんたが待ち伏せさせたんじゃないワケ!?」
「私が?」
「そうよ!」
ニコは周囲を見回す。絶え間なく響く銃声。土煙の向こうに潜む敵の気配。
「もしかして……他にもここを狙ってきた奴が……!?」
「その可能性は高いでしょう」
柳が冷静に答える。
「少なくとも、我々だけを狙っているのではありません。この場にいる全員をまとめて排除しようとしているように見えます」
「……。」
雅の表情が険しくなる。
その直後――。
ブッブ――!
けたたましいクラクションが鳴り響いた。
「え?」
全員が振り返る。
土煙の向こうから、一台の大型トラックが猛スピードで突っ込んできた。
「うおおおおお――!?」
運転席ではパイパーがハンドルを握っている。
「危ない危ない!」
「危ないのはこっちだよ!」
アキラが叫ぶ。
トラックはそのまま空き地へ突入し、全員と銃撃者の間へ滑り込んだ。
――ドンッ!
タイヤが土を削り、大量の砂埃が舞い上がる。巨大な車体が盾となり、銃弾を次々と受け止めていく。
「今だ!」
アキラが叫ぶ。
「パイパー! 車を出してくれ! 今のうちにここを離れるんだ!」
「おうよ!」
パイパーが親指を立てる。
「乗れる奴から乗りなぁ!」
「待て!」
雅が鋭く声を上げた。
「逃げるな!」
彼女はトラックの前へ出ようとするが、悠真が周囲を見回した。
「ボス。あれを見て」
「……?」
雅が視線を向ける。
土煙の向こう。わずかに見える建物の屋上に、人影があった。
「狙撃手だ」
悠真が指差す。
そこには一人、二人――いや、三人。
さらに別の建物にも銃口がこちらを向いている。
「やっぱり包囲してる」
悠真が小さく息を吐いた。
「それに……逃げ道まで計算済みだ」
「……。」
雅の表情が変わった。
単なる襲撃ではない。
明確な目的を持った作戦行動。
それも――この場にいる誰かを確実に仕留めるためのものだ。
パイパーがアクセルを踏み込む。
「任せな!」
エンジンが唸りを上げた。
「うおおおおお――!」
トラックが猛然と走り出す。
「ちょ、ちょっと待って!」
「パールマン! あなたも!」
「私も!?」
「当たり前」
「ひぃぃぃぃ!」
パールマンがアンビーに抱えられ、そのままトラックへ放り込まれた。
「入った!」
「よし!」
ビリーが自分のトラックへ乗る。
猫又、ニコも続く。
しかし――。
「ダンテ!」
アキラが叫んだ。
振り返る。
そこにはまだ、ダンテが立っていた。
「何してるんだ!?」
ダンテは答えない。
赤いコートが風に揺れている。その視線は、遠くの狙撃手へ向けられていた。
「……。」
やがて、ダンテは口元を吊り上げる。
「どうやら……」
背中の大剣をゆっくりと抜く。
「......」
「ダンテ!」
アキラが叫ぶ。
「先に行け!」
ダンテは振り返らない。
「すぐ追いつく」
「……!」
アキラは迷った。
しかし、トラックはすでに動き出している。
「パイパー!」
「任せな!」
トラックがさらに加速する。
「ダンテ!」
アキラは最後まで彼を見つめていた。
その背後。
土煙の向こうで、複数の銃口が一斉に光る。
「――来いよ」
ダンテが剣を肩に担ぐ。
「まとめて相手してやる」
――パンパンパンパンッ!
再び銃声が響き渡った。
しかし彼は、逃げる側ではない。
赤いコートの男が、一歩前へ踏み出した。
――――
その頃、先行するトラックでは、ビリーが後方を確認していた。
「チッ! これじゃ、ひでぇ道を選んだ意味がねぇ!」
荒れた郊外の道路を、パイパーとビリーの二台のトラックが猛スピードで走り抜けている。しかし、その後方からは複数のバイクと戦闘車両が土煙を巻き上げながら迫っていた。
「うおっ! 気ぃ付けろ、パイパー!」
「分かってるってぇ!」
パイパーはハンドルを切りながら、ちらりとバックミラーを確認する。
「けど、あっちも本気みたいだなぁ!」
その直後、一台のバイクが急速に距離を詰めてきた。
「寄れ! いくぞ!」
襲撃者の一人が叫ぶ。
次の瞬間、三人の襲撃者が一斉にバイクから飛び移り、トラックの荷台へとしがみついた。
しかし――。
「まっすぐ走って」
アンビーが静かに告げる。
「私が行く」
そう言うと、アンビーは窓から身を乗り出し、そのままトラックの屋根へと上がった。走行中とは思えないほど安定した足取りで屋根の上に立つと、迫ってきた襲撃者へナタを振り抜く。
「――!」
ガキィンッ!
一人目の武器を弾き飛ばし、返す刀で柄を胸元へ叩き込む。
「ぐあっ!」
襲撃者の身体が宙へ浮き、そのまま道路へ転がっていった。
二人目が背後から飛びかかる。
アンビーは身を沈めて攻撃をかわすと、すれ違いざまに足を払った。
「なっ――!」
体勢を崩した男へ、ナタの柄を叩き込む。
「ぐおっ!」
男はそのまま屋根から弾き飛ばされた。
「残り一人」
最後の襲撃者が、アンビーへ向かって飛びかかる。
だが、アンビーは冷静だった。
「遅い」
身体を捻りながら相手の腕を掴む。
「え?」
そのまま遠心力を利用して――。
「――はっ!」
投げ飛ばした。
「うわあああああっ!」
襲撃者の身体が宙を舞い、後方を走っていたビリーのトラックへ落下する。
「おわぁあああ!」
ビリーが悲鳴を上げた。
襲撃者は何とか車体へしがみつき、窓から車内へ入り込もうとする。
「頑張るなぁ、兄ちゃん!?」
「お手々を離せっ!」
猫又が窓から身を乗り出した。
「なっ――!」
次の瞬間、猫又の拳が襲撃者の顔面へ叩き込まれる。
「ぐおっ!」
「にゃっ!」
さらに蹴りを叩き込む。
「うわあああああっ!」
襲撃者はそのまま車体から引き剥がされ、道路へ転がっていった。
「よし!」
猫又が拳を握る。
だが――。
「……まだ来るよ!」
ニコが後方を指差した。
そこには、無数のバイクと戦闘車両が迫っている。
「しつこいなぁ!」
ビリーが呻く。
その時だった。
――ゴォォォォンッ!
地面を震わせるような轟音と共に、一台の大型バイクが追いついてきた。
「……!」
ニコが目を見開く。
「えっ……?」
黒い車体。
特徴的な二つの突起。
そして、悪魔を思わせる異様な外装。
その上に跨っているのは――赤いコートの男だった。
「ダンテ!?」
「よう」
キャバリエーレに跨ったダンテが、片手を上げる。
「先に行ったと思ったら、ずいぶん楽しそうじゃねぇか」
「どうやって追いついたのよ!?」
「そりゃまあ……」
ダンテは後方を振り返る。
「邪魔な奴を片付けてきたからな」
その言葉通り、先ほどまで追跡していた襲撃者の姿はほとんど残っていなかった。
スナイパーを無力化し、対ホロウ六課の追跡を振り切った上で、わずかな時間でここまで追いついてきたのだ。
「化け物……」
ニコが思わず呟く。
「聞こえてるぞ」
ダンテは苦笑しながら、腰から二丁の拳銃を抜いた。
エボニー&アイボリー。
「さて……追いついてきた礼でもしてやるか」
銃口を後方へ向ける。
――ズダダダダダダダッ!
連続する銃声。
一発目がバイクの前輪を撃ち抜き、続く弾丸が戦闘車両のタイヤを次々と破壊していく。
「うわっ!」
「何っ!?」
タイヤを失ったバイクが大きく横滑りし、地面を何度も跳ねながら転がっていく。別の戦闘車両も制御を失い、急ハンドルを切った末に別の車両へ突っ込んだ。
――ドガァンッ!
二台の車体が激突し、砂埃を巻き上げながら道路脇へ吹き飛んでいく。
「……陣形を変えたわ」
アンビーが後方を確認した。
「正面にもいる」
「……!」
アキラが顔を上げる。
「ニコの援軍はまだか?」
「それどころじゃないわよ!」
ニコが叫ぶ。
――ドドドドドッ!
前方から一台の戦闘車両が姿を現した。
さらに左右からも一台ずつ。
三台の戦闘車両が、トラックを挟み込むように進路を塞ぐ。
「うわぁ……」
パイパーが目を丸くした。
「囲まれた?」
その瞬間、後方からも別の戦闘車両が猛スピードで突っ込んでくる。
「パイパー!」
アキラが叫ぶ。
「分かってるってぇ!」
パイパーは迷わずブレーキを踏み込んだ。
――ギャギャギャギャッ!
トラックが急減速する。
そして、一瞬だけ後退した。
「え?」
アキラが目を見開く。
次の瞬間、パイパーがハンドルを大きく切った。
「そぉれっ!」
巨大な車体が横滑りする。
左右から迫っていた戦闘車両の間を、紙一重ですり抜けていく。
「なっ!?」
そして――。
後方から突っ込んできた戦闘車両が、囲んでいた三台のうち一台へ真正面から衝突した。
――ドガァァァンッ!
「うわああああっ!」
「ぎゃああああっ!」
四台の戦闘車両が一斉に絡み合い、道路上を転がっていく。
パイパーは満足そうに笑った。
「土ペロしな~」
直後。
――ドォォォォンッ!
戦闘車両の一台が爆発した。
「……。」
アキラは呆然と後方を見つめる。
その時、アンビーが前方を指差した。
「前!」
「え?」
アキラが振り返る。
だが、トラックはまだ後退を続けていた。
そのため、後方の状況がよく見える。
そして――。
「……多すぎないか?」
アキラの顔が引きつった。
後方を走るビリーのトラックには、いつの間にか大量の襲撃者がしがみついていた。
「おわぁああああ!」
ビリーが絶叫する。
「なんでこんなに乗ってんだよぉ!?」
「ビリー! 頑張るにゃ!」
猫又が窓から身を乗り出し、しがみついていた襲撃者を蹴り落とす。
「ニコ! まだいるぞ!」
「分かってるわよ!」
ニコも荷台から必死に応戦する。
その様子を確認したパイパーは、再びブレーキを踏み込んだ。
――キィィィィッ!
トラックが大きく減速する。
そして、タイヤが土煙を巻き上げながら車体の向きを変えた。
「よし!」
パイパーがアクセルを踏み込む。
トラックは再び前進を始めた。
しかし、その先で――。
「これでもくらえ!」
突然、前方の岩場から襲撃者たちが姿を現した。
「なっ――!」
岩の上に並んだ敵が、一斉に武器を構える。
その手にあるのは――ミサイルランチャー。
「まずい!」
ダンテが叫ぶ。
――シュゴォォォォッ!
複数のミサイルが一斉に発射された。
「間に合え!」
ダンテは即座にエボニー&アイボリーを構える。
――ズダダダダダダダダダッ!
銃弾が空を切り裂き、迫り来るミサイルを次々と撃ち抜いていく。
――ドォン!
――ドォン!
――ドォン!
いくつものミサイルが空中で爆発した。
しかし――。
「チッ!」
一発だけ、銃弾をかわしたミサイルが残っていた。
「避けろ!」
ダンテの叫びも間に合わない。
――ドォォォォンッ!
ミサイルがトラックへ直撃した。
「うわああああああっ!」
爆炎が車体を包み込み、巨大なトラックが宙へ浮き上がる。
「パイパー!」
アキラが叫ぶ。
「くっ……!」
パイパーがハンドルを握り締める。
だが、もう制御できない。
トラックは横転し、そのまま何度も地面を跳ねながら回転していく。
ぐるん。
ぐるん。
さらに一回転。
そして――。
「……!」
アキラが目を見開いた。
その先にあったのは、巨大な黒い球体だった。
無数の三角形が浮かび、外界とは異なる異様な空間を形成している。
ホロウ。
「嘘だろ……」
アキラが呟く。
トラックは止まらない。
そのまま巨大な黒い壁へ突っ込み――。
――ズブンッ!
車体がホロウの内部へ飲み込まれた。
「アキラ!」
アンビーの声が響く。
だが、返事をする暇すらなかった。
トラックは完全にホロウの向こう側へ消えてしまった。
「……。」
ダンテは、その光景を見つめていた。
「ったく……」
ため息を吐く。
「放っておくわけにもいかねぇな」
ダンテはキャバリエーレのアクセルを踏み込んだ。
「行くぜ!」
――ゴォォォォォンッ!
キャバリエーレが大地を蹴る。
そのまま車体が大きく跳ね上がった。
赤いコートを翻しながら、ダンテは巨大なホロウへ向かって飛ぶ。
そして――。
キャバリエーレごと、ホロウの内部へと突入した。