悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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Wanna know the ..............

――キィィィン。

―カチャッ

――――ズバババババッ!!

『『Devil May Cry』』


第二十四話 再会

 ――その頃。

 

 ダンテたちがそれぞれの場所でひと悶着を起こしている間にも、事件は大きく動いていた。

 

 クレタたちは、パールマンが密かに仕込んでいた「バックアップ」データを発見していた。そこに残されていた記録を調べた結果、ブリンガーが一連の事件に深く関与していたことを示す決定的な証拠が見つかった。

 

 もはや、言い逃れはできない。

 

 治安総局から出頭を命じられたブリンガーだったが、当然ながら素直に従うつもりなどなかった。彼はホロウを利用し、そのまま逃亡を図ろうとしていた。

 

 しかし――。

 

「まったく、逃げ足だけは速いんだから」

 

 ジェーンは「連絡役」を装ってブリンガーに接触すると、巧みな話術で彼を指定座標――ポート・エルビスへと誘導した。そして、そこにはすでに対ホロウ六課が待ち構えていた。

 

 月城柳が一歩前へ出る。

 

「投降しなさい、ブリンガー副総監……」

 

 一瞬だけ言葉を区切り、柳は静かに続けた。

 

「今は――『容疑者』……ですね」

 

「フン!」

 

 ブリンガーは鼻で笑った。

 

「流石は対ホロウ六課。足が速いな……」

 

 周囲を見渡す。逃げ道はない。それにもかかわらず、ブリンガーの顔に焦りはなかった。むしろ――笑っていた。

 

「いいだろう。こちらとしては、この方が好都合だからな」

 

「……何?」

 

 柳が眉をひそめる。

 

 ブリンガーは懐から一本のアンプルを取り出した。その内部では、妖刀から抽出された力が不気味な光となって脈動している。

 

「妖刀の力は、既に私のものだ」

 

「ブリンガー……!」

 

 悠真が警戒する。

 

 だが、ブリンガーは止まらない。

 

「見せてやろう。ホロウの時代を先駆ける究極の姿――!」

 

 アンプルを自らの腕へ突き刺す。

 

「始まりの……主よ……」

 

 身体の内側から、凄まじい量のエーテルが噴き出した。

 

「再創を――!」

 

 ――ドォォォォォン!!

 

 爆発。

 

 大地が揺れ、周囲にエーテルの奔流が吹き荒れる。

 

「え?」

 

 蒼角が目を丸くする。

 

「なになに?」

 

「エーテル活性上昇! 気を付けて!」

 

 イアスと感覚同期しているアキラが叫ぶ。そして、その視界に異様なものが映った。

 

「あの腕――!?」

 

「う、うそ……!?」

 

 リンの声が響く。

 

「避けて!」

 

 柳が叫んだ。

 

 次の瞬間――。

 

 ――ズドォォォォン!!

 

 地面が砕け散った。

 

 白い巨腕が大地を叩き潰したのだ。そこには、無数の目が埋め込まれた異形の腕があった。

 

 人間の腕とは到底呼べないほど巨大なそれは、ただ存在しているだけで本能的な恐怖を呼び起こす。

 

「ブリンガーのやつ……エーテリアスに?」

 

 悠真が呆然と呟く。

 

「違う……!」

 

 アキラが叫ぶ。

 

「おかしなものが現れた! みんな、気を付けるんだ!」

 

 瓦礫の向こうから、巨大な異形が姿を現した。

 

 全身は白を基調とした異様な肉体へと変貌し、身体の各所には不気味な目が浮かんでいる。そして何より異様なのは――。

 

「ハハハハハハッ!」

 

 怪物となったはずのブリンガーが、人間だった頃と何ら変わらない声で笑っていたことだった。

 

「この力……素晴らしい!」

 

 巨大な右腕がゆっくりと持ち上がる。

 

「妖刀から得たエネルギー! そして船に蓄えられていた大量のエーテル! これほどの力があれば――私こそが、この街を新たな時代へ導ける!」

 

「……完全にイカれてるな」

 

 柳が武器を構える。

 

「皆さん、来ます!」

 

 巨大な腕が振り下ろされた。

 

 ――ドゴォォォン!!

 

「散開!」

 

 六課が一斉に飛び退く。大地が大きく陥没した。

 

 だが、その直後――。

 

「待たせたわね!」

 

 聞き慣れた声が響いた。

 

「邪兎屋、到着よ!」

 

 ニコを先頭に、アンビー、猫又、ビリーが姿を現す。

 

「遅くなっちまったな!」

 

 さらに別方向から、白祇重工の面々が駆けつけた。

 

「こいつぁ……!?」

 

 アンドーが巨大な怪物を見上げる。

 

「グレース、こいつは一体なんなんだ!?」

 

「モニュメントの時と同じ」

 

 グレースは興味深そうに怪物を観察する。

 

「普通のエーテリアスとは違う変化ね。とっても興味深いわ!」

 

「何か来たぞ!」

 

 ベンが叫ぶ。

 

「ハン!」

 

 クレタが武器を構えた。

 

「結晶解体なら、うちらの十八番だ!」

 

 さらに――。

 

「お客様が……」

 

 ライカンが静かに前へ出る。

 

「随分と騒がしいようですね」

 

「フフ……」

 

 リナが扇を広げる。

 

「お引き取り願いましょう」

 

 そして、カリュドーンの子たちも姿を現した。

 

「大将が無事だといいが」

 

 ライトが周囲を見回す。

 

「あっはは! 物足りないくらいじゃない?」

 

 バーニスが楽しそうに笑う。

 

「ニコ! エーテリアスだ!」

 

 猫又が敵を指差す。

 

「ただのザコよ! やったるわ!」

 

 ニコが銃を構える。

 

「っしゃあ!」

 

 シーザーも大盾を構えた。

 

「デケェのはオレ様が!」

 

 次々と集結する援軍。

 

 邪兎屋、白祇重工、ヴィクトリア家政、カリュドーンの子。それぞれが雑兵のエーテリアスへと襲いかかり、瞬く間に周囲の敵を蹴散らしていく。

 

 しかし――。

 

「ハハハ!」

 

 ブリンガーは笑っていた。

 

「妖刀の力は、既に私のものだ!」

 

 奪い取った力が、巨大な腕となって形成される。

 

「やってみるがいい!」

 

 巨大な腕が振り下ろされた。

 

「――っ!」

 

 全員が散開する。

 

「速い……!」

 

 悠真が息を呑む。

 

 巨体に似合わない速度。それだけではない。

 

 人間だった頃の知性を完全に維持しているブリンガーは、こちらの動きを読み、戦術的に攻撃を繰り出してくる。

 

「油断しないでください!」

 

 柳が叫ぶ。

 

「一つの隙が命取りになります!」

 

「分かってる!」

 

 シーザーが正面から突撃した。

 

「オラァッ!」

 

 大盾で巨大な腕を受け止める。

 

 ――ズドォン!!

 

「ぐっ……!」

 

 衝撃で地面が沈む。

 

「まだまだぁ!」

 

 シーザーが力任せに押し返す。

 

 その隙を突き、六課が一斉に攻撃を仕掛けた。

 

「今です!」

 

 柳が踏み込む。

 

 だが――。

 

 ブリンガーの身体から、もう一本の異形の腕が伸びた。

 

「なっ!?」

 

 柳が目を見開く。

 

「柳!」

 

 悠真が叫ぶ。

 

 巨大な腕が迫る。柳は間一髪で回避した。

 

 しかし――。

 

「蒼角!」

 

 悠真の声が響く。

 

「え?」

 

 蒼角が振り返った。

 

 ――ドォン!!

 

「きゃあああっ!」

 

 巨大な腕の薙ぎ払いをまともに受け、蒼角の身体が吹き飛ばされる。

 

「蒼角!」

 

 六課の意識が、一瞬だけ彼女へ向いた。

 

 それは――ほんの僅かな隙だった。

 

 ブリンガーは、その瞬間を見逃さない。

 

「今だ!」

 

 巨大な腕が振り上げられる。

 

「まとめて消えろ!」

 

「――っ!」

 

 柳たちが身構える。

 

 避けるには遅い。受け止めるには、あまりにも重い。

 

 その時だった。

 

 夜空から、一つの影が落ちてきた。

 

「……?」

 

 ブリンガーが空を見上げる。

 

 そこには月が浮かんでいた。

 

 その月を背にして――一人の男が落下してくる。

 

 赤いコート。白い髪。背中には巨大な剣。

 

「……なに?」

 

 柳が目を見開く。

 

「上です!」

 

 悠真が叫ぶ。

 

 男は一直線に落下してくる。

 

 その手には――リベリオン。

 

「なっ――!?」

 

 ブリンガーが巨大な腕を構える。

 

 だが、遅い。

 

「――遅ぇよ」

 

 男が呟いた。

 

 次の瞬間――。

 

 ――ズバァァァン!!

 

 リベリオンが振り下ろされた。

 

 巨大な刃がブリンガーの異形の身体を深々と斬り裂く。

 

「グオオオオオッ!?」

 

 ブリンガーが大きくよろめいた。

 

 そのまま男は地面へ着地する。

 

 ――ドォン!!

 

 砂埃が舞い上がる。

 

 男はリベリオンを肩へ担ぎ、ゆっくりと立ち上がった。

 

「……悪い」

 

 そして――。

 

「遅れた」

 

「……!」

 

 アキラの目が大きく見開かれる。

 

「ダンテ!」

 

 赤いコート。白い髪。そして、その特徴的な姿。

 

 デビルメイクライの便利屋――ダンテ。

 

 つい先ほどまで雅を救うために奔走していた男が、ようやくこの場へ駆けつけた。

 

「ずいぶん派手にやってるじゃねぇか」

 

 ダンテが周囲を見渡す。

 

 六課。邪兎屋。白祇重工。ヴィクトリア家政。カリュドーンの子。そして、目の前で怒り狂う異形。

 

「俺がいない間に、随分と楽しそうなパーティーを始めてくれたもんだ」

 

「ダンテさん……!」

 

 柳が驚きの声を上げる。

 

 ダンテは軽く手を上げた。

 

「よう」

 

 その視線が、少し離れた場所へ向く。

 

 そこでは、先ほど吹き飛ばされた蒼角がゆっくりと起き上がっていた。

 

「蒼角。怪我はないか?」

 

「う、うん……」

 

「なら上出来だ」

 

 ダンテは安心したように頷き、再びブリンガーへ視線を戻す。

 

「さて……」

 

 リベリオンを構える。

 

「お前が今回の黒幕ってわけか」

 

「貴様……!」

 

 ブリンガーが怒りに震える。

 

「どこから現れた!?」

 

「俺か?」

 

 ダンテは口元を吊り上げる。

 

「ちょっと寄り道してただけさ」

 

「寄り道だと……!?」

 

「ま、間に合ったみたいで何よりだ」

 

 ブリンガーの無数の目がダンテを睨みつける。

 

「私を……斬っただと……?」

 

「まだ浅いだろ?」

 

 ダンテは肩をすくめた。

 

「そいつは挨拶代わりだ」

 

「貴様ァァァァッ!!」

 

 ブリンガーが咆哮する。

 

 巨大な腕が再び持ち上がった。

 

 しかし――。

 

 ダンテだけではない。

 

 その場にいる全員が、それぞれの武器を構え直していた。

 

 その時。

 

「……あれは」

 

 悠真が目を見開いた。

 

「まさか……!」

 

 視線の先。

 

 医療拠点へ向かったはずの少女が、こちらへ歩いてくる。

 

「課長!?」

 

 柳が驚愕する。

 

「どうしてここに……!」

 

 星見雅だった。

 

 朱鳶に付き添われているはずだった彼女は、無尾を手にして立っている。

 

「私は大丈夫だ」

 

「ですが、課長……!」

 

「心配するな」

 

 雅はブリンガーを見据える。

 

 その瞳には、先ほどまでの虚脱感はない。そこにあるのは――凛とした意志だった。

 

「それに……」

 

 無尾を構える。

 

「私には、まだやるべきことがある」

 

 ブリンガーが笑った。

 

「貴様……! まだ私に逆らうか!」

 

 雅は一歩前へ出る。

 

「当然だ」

 

 そして、静かに告げる。

 

「対ホロウ六課――」

 

 無尾の刀身に、淡い光が走る。

 

「いざ参る」

 

「……おいおい」

 

 隣に立ったダンテが雅を見る。

 

「もう動いて大丈夫なのか?」

 

「問題ない」

 

「そうか」

 

 ダンテは小さく笑う。

 

「なら――」

 

 リベリオンを構える。

 

「一緒に終わらせようぜ」

 

 雅が僅かに頷いた。

 

「頼む」

 

 月明かりの下。

 

 赤いコートを纏った悪魔狩りと、白い尾を持つ最強の虚狩りが並び立つ。

 

 その前には、人間の姿を捨てながらも知性を保ち、妖刀の力を奪った怪物――サクリファイス・ブリンガー。

 

「来い……!」

 

 ブリンガーが巨大な腕を振り上げる。

 

「貴様ら全員、私の礎にしてくれる!」

 

 ダンテが笑った。

 

「やってみな」

 

 雅も無尾を握り直す。

 

「……行くぞ」

 

 そして――。

 

 全員が一斉に駆け出した。

 

 決着の戦いが、始まった。

 

――――

 

 ――戦場は、すでに人間の手に負える領域を越えていた。

 

 巨大な白い腕が大地を薙ぎ払う。そのたびに地面が抉れ、瓦礫が宙へ舞い上がる。

 

 対ホロウ六課。邪兎屋。白祇重工。ヴィクトリア家政。カリュドーンの子。そして――ダンテ。

 

 これだけの戦力が揃っているにもかかわらず、サクリファイス・ブリンガーは倒れなかった。

 

「ハァッ!」

 

 ダンテがリベリオンを振り抜く。

 

 ――ズバァン!!

 

 白い異形の肉体が大きく裂ける。

 

「そこだ!」

 

 続けざまにエボニー&アイボリーを抜き放つ。

 

 ――ズダダダダダッ!!

 

 無数の弾丸が傷口へ叩き込まれる。

 

 さらにダンテは武器を切り替える。コヨーテA。アグニ&ルドラ。そして再びリベリオン。次々と攻撃を叩き込んでいく。

 

 だが――。

 

「フハハハハハッ!」

 

 ブリンガーは笑っていた。

 

「無駄だ!」

 

 斬り裂かれた肉体が蠢く。傷口から大量のエーテルが噴き出し、それが白い肉体を瞬く間に再構築していく。

 

 裂けた皮膚が繋がる。砕けた肉が戻る。そして――完全に元通りになる。

 

「……チッ」

 

 ダンテが舌打ちする。

 

 斬った。撃った。殴った。焼いた。ありとあらゆる攻撃を叩き込んだ。

 

 それでも――。

 

 傷が塞がっていく。

 

「どうした、悪魔狩り!」

 

 ブリンガーが巨大な腕を振り上げる。

 

「その程度の力で、私を倒せると思っているのか!」

 

「……なるほどな」

 

 ダンテは距離を取りながら、敵の身体をじっと観察する。

 

 そして――。

 

 ようやく、その正体に気づいた。

 

「そういうことか」

 

「何?」

 

 ブリンガーが笑う。

 

「お前……傷を治してやがるな」

 

「その通りだ!」

 

 巨大な目が一斉に開く。

 

「妖刀から得た力!」

 

 身体から膨大なエーテルが噴き出す。

 

「そして、船に蓄えられていた大量のエーテル!」

 

 ブリンガーは両腕を広げる。

 

「この身体には、無限とも思えるほどの力が満ちている!」

 

 再び傷が塞がる。

 

「いくら斬ろうと!」

 

 傷が消える。

 

「いくら撃とうと!」

 

 肉体が再生する。

 

「いくら攻撃を重ねようと!」

 

 ブリンガーが高らかに笑った。

 

「私には届かん!」

 

「……厄介だな」

 

 ダンテが眉をひそめる。

 

 火力が足りないわけではない。

 

 こちらには対ホロウ六課がいる。邪兎屋。白祇重工。ヴィクトリア家政。カリュドーンの子。そして自分自身もいる。

 

 それでも倒し切れない。

 

 理由は単純だった。

 

 削った端から、回復している。

 

「なら――」

 

 柳が声を張る。

 

「回復する暇を与えなければいい!」

 

「その通り!」

 

 悠真が踏み込む。

 

「はあっ!」

 

 鋭い攻撃がブリンガーの身体を切り裂く。

 

 その隙に雅も無尾を振るう。

 

「――斬る!」

 

 ――ズバァン!!

 

 白い肉体が大きく裂ける。

 

 しかし――。

 

「無駄だァッ!」

 

 ブリンガーが吠える。

 

 傷口からエーテルが噴き出す。

 

 そして――。

 

 またしても傷が塞がっていく。

 

「……!」

 

 雅が目を細める。

 

「やはり……」

 

「こいつを倒すには、回復の元を潰すしかねぇな」

 

 ダンテが言う。

 

「それまで全員、持ちこたえてください!」

 

 柳が指示を飛ばす。

 

「分かってる!」

 

 シーザーが大盾を構える。

 

「だったら、何度でもぶっ叩いてやる!」

 

「頼もしいねぇ」

 

 ダンテが笑う。

 

「だが――」

 

 その瞬間だった。

 

 ブリンガーの身体から、凄まじいエーテルが噴き出す。

 

「……!」

 

 雅が振り向く。

 

「来ます!」

 

 柳が叫ぶ。

 

「全員、避けて!」

 

 巨大な腕が持ち上がる。無数の目が一斉に開く。

 

「まとめて消し飛ばしてやる!!」

 

 巨大な腕が、戦場全体へ向けて振り下ろされた。

 

「まずい!」

 

 ダンテは即座に判断した。このままでは全員が巻き込まれる。

 

「だったら――!」

 

 地面を蹴る。

 

 ダンテが一気に巨大な腕へ接近する。

 

 リベリオンを構えた。

 

 狙うのは――手首。

 

 あそこを切り落とせば、少なくとも攻撃を止められる。

 

「――ハァッ!!」

 

 ダンテが跳ぶ。

 

 リベリオンが閃いた。

 

 だが――。

 

「なに!?」

 

 横から、もう一本の巨大な腕が出現した。

 

「ダンテ!」

 

 シーザーが叫ぶ。

 

「ダンテ!」

 

 雅も叫ぶ。

 

「ダンテ!」

 

 柳たちも声を上げる。

 

 巨大な腕が、真正面からダンテへ迫る。

 

 避けるには遅い。

 

 リベリオンを振り切った直後では、防御も間に合わない。

 

「……!」

 

 ダンテが目を見開く。

 

 次の瞬間――。

 

 世界が、切れた。

 

 いや。

 

 切れたのは世界ではない。

 

 空間そのものだった。

 

 ――キィィィン。

 

 静かな音が響く。

 

 巨大な腕に、無数の線が走った。

 

 次の瞬間。

 

 ――ズバババババッ!!

 

 腕が細切れになる。

 

 肉片すら残さず。

 

 まるで最初から存在していなかったかのように、消滅した。

 

「…………」

 

 ダンテは空中で静止する。

 

 そして、ゆっくりと地面へ着地した。

 

「……?」

 

 ブリンガーも何が起きたのか理解できず、周囲を見回す。

 

「な、なんだ……?」

 

 その時だった。

 

「――腕が、なまったようだな。ダンテ」

 

「…………!」

 

 その声。

 

 ダンテの表情が止まった。

 

 聞き間違えるはずがない。

 

 どれほど長い年月が経とうと。どれほど遠く離れていようと。忘れるはずがない。

 

 ダンテがゆっくりと振り返る。

 

「……その声は」

 

 瓦礫の向こう。

 

 一人の男が立っていた。

 

 全身を黒いローブで覆い、片手には日本刀のような長剣を携えている。

 

 男は静かに歩いてくる。

 

 そして――。

 

 ローブを脱ぎ捨てた。

 

 月明かりが、その姿を照らす。

 

 白銀の髪。鋭い眼差し。整った顔立ち。そして、その手に握られた一振りの刀。

 

「…………!」

 

 ダンテの目が大きく見開かれる。

 

 これまでどんな敵を前にしても余裕を崩さなかった男が――この時ばかりは、明らかに驚いていた。

 

「……まさか」

 

 ダンテの口から、かすかな声が漏れる。

 

「お前……」

 

 男は何も答えない。

 

 ただ、静かに刀を構える。

 

「貴様は何者だ!」

 

 ブリンガーが怒鳴る。

 

 男はゆっくりとブリンガーへ視線を向けた。

 

「……俺か?」

 

 冷たい声。

 

「貴様に名乗る必要があるとは思えんな」

 

「何だと……!」

 

 ブリンガーが巨大な腕を振り上げる。

 

 だが――男は動かない。

 

「……ふむ」

 

 男の手が刀の柄へ添えられる。

 

「では、分かりやすく教えてやろう」

 

 次の瞬間。

 

 男の姿が消えた。

 

「――!」

 

 ブリンガーの身体に無数の斬撃が走る。

 

 ――ズバババババッ!!

 

「ぐおおおおおおっ!?」

 

 遅れて、空間に無数の亀裂が走った。

 

 男はすでに元の位置へ戻っている。

 

「私は――」

 

 刀を鞘へ納める。

 

 ――カチン。

 

「バージルだ」

 

「…………!」

 

 ダンテは言葉を失っていた。

 

 バージル。

 

 自分の兄。

 

 かつて死んだと思っていた男。

 

 何度も戦い。何度も刃を交え。そして――何度も別れた。

 

 その兄が。

 

 今、目の前に若返った姿で立っている。

 

「……バージル」

 

 ダンテが呟く。

 

 バージルはダンテを見る。

 

「久しいな、ダンテ」

 

「……ああ」

 

 ダンテは苦笑する。

 

「久しぶりってレベルじゃねぇだろ」

 

「そうかもしれんな」

 

 バージルは淡々と答える。

 

「だが、こうして再び会えた。それだけのことだ」

 

「相変わらずだな」

 

「お前もな」

 

 短い会話。

 

 それだけで、二人の間には長い年月の重みがあった。

 

 だが――。

 

 その二人を知る者は、この場にはいない。

 

「ダンテさん……?」

 

 柳が戸惑ったように尋ねる。

 

「この方は……?」

 

 ダンテは一瞬だけ黙る。

 

 そして――。

 

「俺の兄だ」

 

「……!」

 

 その場にいた全員が驚いた。

 

「兄……?」

 

 悠真が目を丸くする。

 

「ダンテさんに……お兄さんが?」

 

 雅もバージルを見つめていた。

 

 その立ち姿。

 

 刀を構える姿。

 

 何より――。

 

 そこに立っているだけで伝わってくる、圧倒的な威圧感。

 

「……」

 

 雅は無意識に無尾の柄を握り直した。

 

 この男は――。

 

 ただ者ではない。

 

「兄だと……?」

 

 ブリンガーが怒りを露わにする。

 

「ふざけるな!」

 

 巨大な腕がバージルへ向かって振り下ろされる。

 

「貴様一人増えたところで、何が変わる!」

 

 バージルは動かない。

 

 ただ、閻魔刀へ手を添える。

 

「……遅い」

 

 次の瞬間。

 

 ――ズン。

 

 巨大な腕が止まった。

 

「……?」

 

 ブリンガーが目を見開く。

 

 腕には一本の線が走っていた。

 

 バージルがいつ斬ったのか。

 

 誰にも見えなかった。

 

「な……」

 

 腕がゆっくりと滑り落ちる。

 

 ――ドォン!!

 

「ば、馬鹿な……!」

 

 ブリンガーが後退する。

 

「この私の身体を……!」

 

 バージルは冷たい目で見つめる。

 

「お前は力を得たようだな」

 

「当然だ!」

 

「だが――」

 

 バージルが閻魔刀を抜く。

 

 その刀身が月明かりを反射する。

 

「力に呑まれた者に、力を語る資格はない」

 

「黙れェェェッ!!」

 

 ブリンガーが咆哮する。

 

 巨大な腕がいくつも出現する。同時に、無数のエーテルが周囲へ渦巻いた。

 

「死ねェェェッ!!」

 

「……」

 

 バージルは静かに構える。

 

 ダンテもリベリオンを握り直した。

 

「……へぇ」

 

 ダンテが口元を吊り上げる。

 

「相変わらず、登場早々に喧嘩を売るねぇ」

 

「お前こそ、余計なことを言うな」

 

 バージルが正面を向いたまま答える。

 

「足手まといにはなるなよ」

 

「それはこっちの台詞だぜ、バージル」

 

 ダンテがリベリオンを構える。

 

 その隣で、バージルも閻魔刀を抜いた。

 

 赤いコート。

 

 白い髪。

 

 そして、青い衣装に身を包んだ剣士。

 

 かつて何度も刃を交えた二人が――。

 

 今度は同じ敵へ刃を向ける。

 

「ふざけるな……!」

 

 ブリンガーが怒りに震える。

 

 無数の目が二人を睨みつける。

 

「私の前に立つ者は、全員消してやる!」

 

 ダンテが笑う。

 

「聞いたか、バージル?」

 

「聞こえている」

 

「じゃあ――」

 

 リベリオンを肩に担ぐ。

 

「目の前の敵を斬る」

 

 バージルが閻魔刀を構える。

 

「それだけだ」

 

「はいはい」

 

 ダンテが笑う。

 

「相変わらず堅いねぇ」

 

 そして――。

 

 二人は同時に踏み出した。

 

「来い!」

 

 ブリンガーが咆哮する。

 

 巨大な腕が迫る。

 

 ダンテがリベリオンを振り上げる。

 

 バージルが閻魔刀を抜き放つ。

 

 ――ズバァァァン!!

 

 赤と青。

 

 二つの斬撃が、同時に夜の戦場を駆け抜けた。

 

 再び――。

 

 二人の悪魔狩りの戦いが始まった。

 




今回オリジナル多めです。
サクリファイス強くしないとすぐに終わっちゃう。
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