悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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―カチャッ

――――ズドンッ!


『『JACKPOT!』』


第二十五話 決着

 

 

 ――戦場は、終幕へ向かっていた。

 

 これまで何度斬られても立ち上がり、何度傷を負っても再生してきたサクリファイス・ブリンガー。その姿は、今や見る影もなかった。白い異形の身体からは大量のエーテルが噴き出し、無数にあった目のいくつかは閉じ、巨大な腕も明らかに動きが鈍っている。

 

「ぐ……! まだだ……! 私は……まだ負けていない!」

 

 ブリンガーが吠え、巨大な腕を振り上げる。しかし、その腕が振り下ろされるより早く、赤い影が一気に懐へ飛び込んだ。

 

「遅ぇ!」

 

「ハァッ!」

 

 ――ズバァン!!

 

 ダンテのリベリオンが、ブリンガーの身体を深々と斬り裂く。続けざまに青い影がその横を通り過ぎた。

 

「次は俺だ」

 

 ――ズバッ!!

 

 バージルの閻魔刀が、ダンテとは異なる軌道を描きながら異形の肉体を切り裂く。

 

「ぐあああああっ!」

 

「まだ終わらん!」

 

 ブリンガーが怒号とともに腕を振り回す。だが、ダンテは身を翻して紙一重でかわし、そのままリベリオンを振り抜いた。

 

「そこだ!」

 

 ――ズバッ!!

 

「ガァッ!」

 

 さらにバージルが踏み込み、閻魔刀を抜き放つ。

 

「――疾い」

 

 ――ズンッ!!

 

 空間そのものが裂け、無数の斬撃がブリンガーの巨体へ走った。

 

「グオオオオオオオオッ!!」

 

 絶叫が戦場に響き渡る。それでもブリンガーは倒れない。傷口からエーテルが噴き出し、再生しようと肉体が蠢く。

 

「なぜだ……! なぜ私が……!」

 

 しかし、これまでとは明らかに違っていた。傷が塞がる速度は遅く、再生した肉体にも大きな亀裂が残っている。

 

「……効いてるな」

 

 ダンテが口元を吊り上げる。

 

「当然だ。奴の力も限界が近い」

 

 バージルも冷静に敵を見据える。

 

「だったら――一気に行くぜ!」

 

「言われるまでもない」

 

 二人は同時に踏み込んだ。

 

「やめろォォォォッ!!」

 

 ブリンガーが巨大な腕を振り回す。だが、ダンテとバージルは互いの位置すら確認することなく同時に跳躍した。

 

 ――ズブッ!!

 

 ダンテのリベリオンが、ブリンガーの身体へ深々と突き刺さる。

 

 同時に――。

 

 ――ズンッ!!

 

 反対側からバージルの閻魔刀も突き刺さった。

 

「ぐ……!」

 

 ブリンガーが苦悶の声を漏らす。そして、二人へ向けて巨大な腕を振り回した。

 

「――来るぞ!」

 

「分かっている!」

 

 二人は剣を抜かなかった。突き刺したまま身体だけを翻し、迫り来る腕を紙一重でかわす。巨大な腕が二人の頭上を通過し、背後の建物を粉砕した。

 

「危ねぇ!」

 

「余裕だ」

 

 その直後、二人は互いの得物を握り直す。

 

 ダンテが手にしたのはバージルの閻魔刀。バージルが手にしたのはダンテのリベリオンだった。

 

「……貴様ら……!」

 

 ブリンガーが驚愕する。

 

「悪いな、ちょっと借りるぜ」

 

 ダンテが閻魔刀を構える。

 

 バージルはリベリオンを手に取り、刀身を一瞥した。

 

「ふむ……悪くない」

 

「俺の剣は最高なんだぜ」

 

「持ち主が騒がしくなければな」

 

「おいおい、そりゃひでぇな」

 

 軽口を交わしながらも、二人の動きには一切の無駄がなかった。

 

 ダンテが閻魔刀を振るう。

 

 ――ズバァン!!

 

 鋭い一閃がブリンガーの腕を切り裂く。

 

「グアアッ!」

 

 その直後、バージルがリベリオンを横薙ぎに振り抜いた。

 

 ――ズバァァン!!

 

 巨大な身体が大きくよろめく。

 

「まだだ!」

 

 ブリンガーが反撃する。しかし、ダンテは閻魔刀で攻撃を受け流し、バージルはリベリオンで巨大な腕を弾き飛ばす。

 

「――そこだ!」

 

 ダンテが閻魔刀を突き込む。

 

「――終わりだ」

 

 バージルがリベリオンを振り抜いた。

 

「ぐ……!」

 

 ブリンガーの身体が大きく揺れる。そして――。

 

 ――ズン。

 

 ついに、その巨体が片膝をついた。

 

「ハァ……ハァ……。私が……この私が……!」

 

 ブリンガーが地面を殴りつける。

 

 ダンテは肩で息をしながらも、不敵に笑った。

 

「ようやく膝をついたな」

 

「終わりが近い」

 

 バージルが静かに見下ろす。

 

「そうだな」

 

 二人は手元を見る。ダンテが握っているのは閻魔刀。バージルが握っているのはリベリオン。

 

「……そろそろ返すか」

 

「異論はない」

 

 二人は互いの得物を投げる。宙を舞った二本の武器は、それぞれの持ち主の手へ戻った。

 

「やっぱりこれだな」

 

 ダンテがリベリオンを肩へ担ぐ。

 

「私にはこちらの方が馴染む」

 

 バージルも閻魔刀を鞘へ収める。

 

「そりゃそうだ」

 

 ダンテが笑った。

 

 だが――。

 

「まだ……終わっていない……!」

 

 ブリンガーがゆっくりと立ち上がる。傷だらけの身体から再び大量のエーテルが噴き出し、巨大な腕がいくつも形成された。

 

「私には……まだ力がある! 全員、道連れにしてやる!」

 

「おっと」

 

 ダンテがエボニー&アイボリーを抜く。二丁の拳銃をくるりと回しながら構えた。

 

「まだ一つ仕事が残ってたな」

 

「死ねェェェッ!!」

 

 ブリンガーの巨大な腕が振り下ろされる。

 

 ――ドォン!!

 

 凄まじい衝撃が走り、ダンテは後方へ跳んだ。

 

「チッ!」

 

 その瞬間、ブリンガーの攻撃がエボニーを弾き飛ばした。

 

「――!」

 

 黒い拳銃が宙を舞う。

 

 そして――。

 

 カシャン。

 

 一人の男の手に収まった。

 

「……」

 

 バージルだった。

 

「お前――」

 

 ダンテが目を丸くする。

 

 バージルは手の中にあるエボニーを静かに見つめた。普段なら決して手にしない、人間の武器。だが、その銃を握ることに躊躇はなかった。

 

 そして、ダンテへ視線を向ける。

 

「今回も、お前に付き合ってやる」

 

「……!」

 

 ダンテの口元が吊り上がった。

 

「へぇ……憶えてるよな?」

 

「……何をだ」

 

「決めゼリフだよ」

 

「……くだらん」

 

 呆れたように言いながらも、バージルの口元にはほんの僅かな笑みが浮かんでいた。

 

「……忘れてはいない」

 

「そうこなくっちゃな!」

 

 二人が並ぶ。

 

 ダンテがアイボリーを構え、バージルがエボニーを構える。やがて二人は互いの銃口を勢いよく近づけた。

 

「やめろ……!」

 

 ブリンガーが叫ぶ。

 

「私は――!」

 

 カチン。

 

 二つの銃身が触れ合う。

 

「「JACKPOT!」」{大当たり!}

 

 ――ドォォォォォン!!

 

 二つの銃から、赤と青の魔弾が同時に放たれた。

 

 二つの弾丸は一直線に飛翔し、ブリンガーの胸部へ直撃する。

 

「ぐおおおおおおおおおおっ!!」

 

 爆発。

 

 巨大な身体が大きく仰け反る。

 

「な、何だ……これは……!」

 

 ブリンガーが自らの身体を見下ろす。

 

 傷口が――塞がらない。

 

「な……!」

 

 今までなら瞬く間に再生していた肉体が、崩れたままになっている。

 

「どうして……! なぜ再生しない!」

 

 ダンテが銃をくるりと回す。

 

「やっと効いたな」

 

 バージルもブリンガーを見据えた。

 

「……なるほど。再生能力が止まったか」

 

「ビンゴだ」

 

 ダンテが笑う。

 

「どうやら、あいつの回復もここまでらしい」

 

 ブリンガーが震える。

 

「いや……! 私は……まだ……!」

 

 その時、バージルがダンテへ視線を向けた。

 

「……いいのか?」

 

「ん?」

 

「止めを刺さないのか」

 

 ダンテは笑う。

 

「ああ」

 

 そして、肩をすくめた。

 

「いいところは嬢ちゃんにやるよ!」

 

「……嬢ちゃん?」

 

 ブリンガーが怪訝そうに呟いた――その瞬間。

 

「――!」

 

 ダンテとバージルが左右へ跳んだ。

 

 二人の間を、一人の少女が駆け抜けていく。

 

「雅……!」

 

 柳が叫ぶ。

 

「課長!」

 

 雅は答えない。

 

 ただ静かに目を閉じ、無尾を握る手へ力を込めた。

 

 妖刀から凄まじい力が溢れ出す。

 

 無尾が震える。その刀身から放たれるエーテルは、これまでとは比較にならないほど濃密だった。

 

「これは……!」

 

 ブリンガーが目を見開く。

 

「妖刀の力……!」

 

「違う」

 

 雅がゆっくりと目を開く。

 

 その瞳には、一切の迷いがなかった。

 

「これは――私の力だ」

 

 一歩、踏み込む。

 

「貴様に奪われたものを――」

 

 さらに一歩。

 

「来るなァァァァッ!!」

 

 ブリンガーが妖刀の力を無理やり引き出し、巨大な刀を形成する。

 

 だが――遅い。

 

 雅は無尾を構えた。

 

 周囲の空気が震える。

 

 ホロウそのものが、彼女の存在に呼応するかのように歪んでいく。

 

 次の瞬間――。

 

 雅の姿が消えた。

 

 ――キィィィィン。

 

 静寂の中、ただ一つの音だけが響く。

 

 そして――。

 

 ブリンガーの眼前を、一閃が駆け抜けた。

 

 ――――ズバァァァァァァン!!

 

「…………」

 

 ブリンガーの巨体が止まる。

 

 その身体に一本の線が走っていた。

 

「な……」

 

 ブリンガーが震える。

 

「何……を……」

 

 雅はすでに、その背後に立っていた。

 

 無尾を静かに振り抜いた姿勢のまま。

 

「……終わりだ」

 

 次の瞬間――。

 

 ブリンガーの身体が左右に分かれた。

 

 だが、その斬撃はそこで終わらなかった。

 

 ブリンガーだけではない。

 

 その背後に広がっていたホロウの「壁」すらも――。

 

 一直線に切り裂かれていた。

 

 ――――ズガァァァァァァン!!

 

 黒い壁に巨大な亀裂が走る。

 

 無数のエーテルが吹き荒れ、その向こうから夜空が姿を現した。

 

 月明かりが裂けたホロウの隙間から差し込み、戦場を静かに照らす。

 

「…………」

 

 全員が言葉を失った。

 

 やがて、ブリンガーの身体がゆっくりと崩れ始める。無数の目が一つ、また一つと消えていき、最後まで抵抗するように伸ばされた手も、エーテルの粒子となって崩れていった。

 

「……こんな……はずでは……」

 

 最後の声が消える。

 

 ――静寂。

 

 戦場を覆っていた異形の気配が、完全に消え去った。

 

 サクリファイス・ブリンガー。

 

 その脅威は――ここに終わった。

 

「…………」

 

 雅は無尾を鞘へ納める。

 

 ――カチン。

 

 その音が、静まり返った戦場に響いた。

 

 柳がゆっくりと息を吐く。

 

「……終わった」

 

 悠真も肩の力を抜いた。

 

「はあ……。ようやく、か」

 

 蒼角はその場にへたり込み、ぽつりと呟く。

 

「お腹……空いた……」

 

「おいおい」

 

 ダンテが笑う。

 

「さっきまであんな化け物と戦ってたってのに、食欲は健在か?」

 

「だって……終わったんだもん」

 

「まあ、それもそうか」

 

 ダンテが苦笑する。

 

 その隣では、バージルが黙って雅を見ていた。

 

 雅もまた、バージルへ視線を向ける。

 

 しばしの沈黙。

 

「……見事だ」

 

 バージルが言った。

 

「……ありがとう」

 

 雅が短く答える。

 

 すると、横からダンテが口を挟んだ。

 

「だろ?」

 

「お前が得意げになることではない」

 

「いいじゃねぇか」

 

 ダンテが肩をすくめる。

 

「俺たちが弱らせて、嬢ちゃんがトドメを刺した。それでいいだろ?」

 

「……その通りだ」

 

 バージルは静かに頷いた。

 

 そして二人は、同時に空を見上げる。

 

 裂けたホロウの向こう。

 

 そこには――。

 

 静かな夜空が広がっていた。

 

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