悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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Wanna know the name?


『『Devil May Cry』』


第二十六話 二人の半人半魔

 

 

 ブリンガーとの戦いが終わった。

 

 ポート・エルビスに広がっていた戦場には、ようやく静寂が戻り始めていた。巨大な異形の身体は崩れ落ちる。あれほど激しかった戦闘が終わったことで、そこにいた者たちはようやく緊張を解き始めていた。

 

 ――ただし。

 

「それで、ダンテさん!」

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

「どうしてお兄さんがここにいるんですか!?」

 

「それは俺も聞きたい!」

 

「バージルさんは一体どこから来たんですか?」

 

「だから俺に聞くなって!」

 

「二人は本当に兄弟なんですか?」

 

「見れば分かるだろ」

 

「それより、あの空間を斬った技は一体――」

 

「待て待て待て!」

 

 ダンテとバージルは、完全に質問攻めにされていた。

 

 対ホロウ六課だけではない。邪兎屋、白祇重工、ヴィクトリア家政、カリュドーンの子たちまで加わり、二人を取り囲んでいる。特に先ほどの戦いを間近で見ていた者たちからすれば、聞きたいことはいくらでもあった。

 

 ダンテは頭を掻きながら周囲を見渡す。

 

「……こりゃ、長くなりそうだな」

 

「俺は帰るぞ」

 

 隣に立っていたバージルが淡々と言った。

 

「おい、バージル。逃げるのか?」

 

「逃げるのではない。くだらん質問に付き合うつもりがないだけだ」

 

「ははっ。相変わらずだな」

 

 ダンテは苦笑する。

 

「じゃあ俺も帰るか」

 

「帰る?」

 

 柳が首を傾げる。

 

「どこへです?」

 

「俺の事務所」

 

「事務所?」

 

「そう。そこで話すことなら話してやるよ。まあ、俺が覚えてる範囲でだけどな」

 

 そう言ってダンテは踵を返す。

 

 だが、その時だった。

 

「……待て」

 

 バージルが呼び止める。

 

「ん?」

 

「お前の事務所と言ったな」

 

「ああ」

 

「そこに住んでいるのか?」

 

「まあな」

 

 バージルは少しだけ考え込む。そして――。

 

「……なら、俺も行く」

 

「お?」

 

 ダンテが振り返る。

 

「珍しいな。お前から俺のところに来たいなんて」

 

「勘違いするな」

 

 バージルは冷たい目を向けた。

 

「俺には今、住む場所がない。それだけだ」

 

「ああ、なるほど」

 

 ダンテは納得したように頷く。

 

「じゃあ、しばらく俺の事務所に住めばいい」

 

「……仕方がない」

 

「素直じゃねぇなぁ」

 

「うるさい」

 

 こうして――かつて何度も殺し合った兄弟は、まさかの同居生活を始めることになった。

 

 もっとも、二人ともこの時点では、それがどれほど騒がしい日々を生み出すことになるのか、まだ理解していなかった。

 

――――

 

 撤収の準備を終えたダンテは、愛用の魔具――キャバリエーレを呼び出した。巨大なバイクが轟音とともに姿を現す。

 

「よし。バージル、乗れ」

 

「……これにか?」

 

「ああ。俺の事務所まで送ってやる」

 

 バージルはキャバリエーレを見下ろした。

 

「趣味の悪い乗り物だな」

 

 ダンテが笑う。

 

「乗るのか、乗らないのか?」

 

「……乗る」

 

 バージルは仕方なく後部座席へ乗り込んだ。

 

 その直後だった。

 

「待って、ダンテ!」

 

 グレースが目を輝かせながら駆け寄ってくる。

 

「そのバイク、ちょっとだけ調べさせて――」

 

「やべっ」

 

 ダンテがアクセルを捻る。

 

「悪いな!」

 

「えっ?」

 

「また今度な!」

 

「待ってぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 グレースが手を伸ばす。だが、キャバリエーレはすでに猛スピードで走り出していた。

 

「グレース!」

 

 アンドーが叫ぶ。

 

「無茶するな!」

 

「だってあれ、絶対に面白い構造なのよ!」

 

「……」

 

 その様子を見ていたバージルは、無言でダンテの肩越しに後ろを見る。

 

「……あの女は危険だな」

 

 ダンテは笑う。

 

「だから逃げたんだよ」

 

「お前も大概だがな」

 

「ひでぇな、バージル」

 

「事実だ」

 

 こうして二人を乗せたキャバリエーレは、新エリー都の街を駆け抜けていった。

 

――――

 

 ――数日後。

 

 ダンテの事務所には、奇妙な変化が起きていた。

 

 事務所の入口から中を見れば、まず左側には以前と変わらないダンテの空間が広がっている。ジュークボックスやテレビ、ソファー、ギター。その他にもいくつもの音楽機器が並び、その奥にはビリヤード台まで置かれていた。

 

 一方、右側には以前には存在しなかったものが増えていた。本棚、机、椅子。そして壁には数本の刀が飾られている。どれも丁寧に手入れされており、並べ方にも妙な規則性があった。

 

 まるで――一つの事務所を、二人の男が強引に半分ずつ占領しているような状態だった。

 

 中央に置かれた長机では、ダンテが椅子に座ったまま居眠りしている。その一方、右側の机ではバージルが静かに本を読んでいた。ページをめくる音だけが、妙に静かな事務所へ響いている。

 

 この奇妙な二分化が完成するまでには、いくつかの事件があった。

 

 そもそも最初、バージルは事務所へやって来るなり、勝手に荷物を持ち込み始めた。

 

「この辺りに本棚を置く」

 

「待て待て待て!」

 

 ダンテが慌てて止める。

 

「そこ、俺のソファー置いてるんだが?」

 

「邪魔だ。どかせ」

 

「どかせってお前……」

 

 次の日には、

 

「この棚も必要だな」

 

「おいバージル!」

 

 さらに翌日には、

 

「ここに机を置く」

 

「勝手に増やすな!」

 

「俺には必要だ」

 

「ここ俺の事務所なんだが!?」

 

 当然のように兄弟喧嘩が始まりかけた。

 

「お前が勝手に物を増やすからだろ!」

 

「お前の事務所には無駄な物が多すぎる」

 

「ジュークボックスを無駄って言うな!」

 

「ギターもだ」

 

「ギターまで!?」

 

「ビリヤード台も必要ない」

 

「それは俺の趣味だ!」

 

「なら俺の本棚も俺の趣味だ」

 

「屁理屈だろ!」

 

「同じことだ」

 

「バージル!」

 

 今にも殴り合いが始まりそうになった、その時だった。

 

「……あの」

 

 たまたま事務所へ来ていたパエトーン兄妹が、二人の間に割って入った。

 

 リンは困ったように二人を見る。

 

「えっと……だったら、左右で分けたらいいんじゃない?」

 

 アキラも頷く。

 

「そうすれば、どちらの物を置くかで揉める必要もなくなるし」

 

「…………」

 

 ダンテとバージルは顔を見合わせる。

 

「……悪くない」

 

 先に口を開いたのはバージルだった。

 

「俺もそれで構わん」

 

 こうして苦肉の策として、事務所は二分化された。

 

 左半分――ダンテ。

 

 右半分――バージル。

 

 中央だけは共有スペース。

 

 その結果、現在の妙な事務所が完成したのである。

 

 ダンテは長机に突っ伏したまま眠り、バージルは本を読んでいる。まるで、最初からこうなることが決まっていたかのような静けさだった。

 

 ――その時。

 

 事務所の扉が開いた。

 

「失礼する」

 

 入ってきたのは、一人ではない。

 

 オボルス小隊のメンバー全員だった。

 

 鬼火隊長、オルペウス、11号、シード、トリガー。

 

 五人が揃って事務所へ入ってくる。

 

 オルペウスは一歩足を踏み入れたところで、思わず口を滑らせそうになった。

 

「お邪魔しま――」

 

 そこまで言って、口を閉じる。

 

 今回の目的は遊びに来たわけではない。鬼火隊長はダンテの悪魔に関する情報収集と、先日の一連の事件を含め、最近の出来事に対する労いを伝えるために訪れていた。

 

 しかし――。

 

 五人の視線が、同時に事務所の内部へ向く。

 

 左側には、相変わらず雑然としたダンテの趣味空間。ジュークボックスやテレビ、ソファー、ギターに、その他の音楽機器。そして、その奥にはビリヤード台まで置かれている。

 

 対して右側は、まるで別の部屋だった。本棚、机、椅子。壁には丁寧に手入れされた刀が数本飾られている。そして中央の長机では、ダンテが堂々と居眠りをしていた。

 

「…………」

 

 鬼火の3Dで作られた吊り上がった目が、ゆっくりと細くなる。

 

『……何だ、こりゃ』

 

 オルペウスの機械の尾、その先端に取り付けられた鬼火が呟いた。

 

「えっと……その……」

 

 オルペウスは困ったように笑う。

 

「どうやら、事務所の中が……二つに分かれているようであります」

 

『見りゃ分かるだろ』

 

「す、すみませんであります!」

 

『お前に怒ってるんじゃない!』

 

「は、はい!」

 

 さっそくいつものやり取りが始まる。

 

 11号はそんな二人を横目に見ながら、改めて室内を見回した。

 

「……随分と様変わりしたな、ダンテ」

 

「……ん?」

 

 その声で、中央の長机に突っ伏していたダンテがゆっくりと顔を上げた。

 

「……お客さんか?」

 

 寝ぼけた目を擦りながら周囲を見渡し、五人の姿を確認すると、軽く手を上げる。

 

「よう。オボルス小隊じゃねぇか。全員揃ってるとは珍しいな」

 

「相変わらず緊張感がないな」

 

 11号が淡々と言う。

 

「先日の戦闘から数日しか経っていない。普通なら少しくらい警戒しているものだと思うが」

 

「仕方ねぇだろ。疲れてんだから」

 

「寝ていただけに見えるが」

 

「それも仕事のうちだ」

 

「どういう仕事だ」

 

 11号が真顔で返す。

 

「休むことも大事だぜ?」

 

「……そういうことにしておこう」

 

 そんな二人のやり取りを横で聞きながら、トリガーは黙って事務所の内部を把握していた。

 

 黒いバイザーに覆われた彼女の視界には、普通の人間とは違う世界が広がっている。音、気配、呼吸、足音。それらを組み合わせ、室内にいる者たちの位置を正確に捉えていた。

 

 そして――。

 

「……一人、増えていますね」

 

 静かな声が響いた。

 

 バージルが本から視線を上げる。

 

「…………」

 

 トリガーの顔が、彼の方向へ向いた。

 

「こちらの方は?」

 

 ダンテが答える。

 

「こいつが俺の兄、バージルだ」

 

 バージルは読んでいた本を閉じると、静かに立ち上がった。

 

「バージルだ」

 

 短い自己紹介。それだけだった。

 

 オルペウスは慌てて姿勢を正す。

 

「は、初めまして! オボルス小隊所属、オルペウス・マグヌッソンであります!」

 

「11号だ」

 

「トリガーです」

 

 続いて二人が名乗る。

 

 シードはキックボードに乗ったまま、ひょいと手を上げた。

 

「僕はシード。よろしくね」

 

 そして最後に、オルペウスの機械の尾が動いた。

 

 鬼火の3Dの目が、バージルをじっと見つめる。

 

『私はオボルス小隊隊長の鬼火だ』

 

 バージルは数秒間、鬼火を見つめた。

 

「……随分と変わった隊長だな」

 

『あぁ?』

 

 鬼火の目が鋭く吊り上がる。

 

 オルペウスの表情が引きつった。

 

「ひっ……!」

 

『誰が変わっただ。この野郎!』

 

「姉さん、落ち着いてください!」

 

『誰が姉さんだ!』

 

 鬼火が噛みつくように叫ぶ。

 

「す、すみませんであります……!」

 

 オルペウスが小さくなった。

 

 ダンテは楽しそうに笑う。

 

 バージルはそんな二人を見ながら、わずかに眉をひそめた。

 

「……騒がしい」

 

「だろ?」

 

 ダンテが笑う。

 

「だから面白いんだよ」

 

「俺には理解できんな」

 

「お前は昔からそうだな」

 

『……おい』

 

 鬼火が二人の会話へ割り込む。

 

『そこの兄弟』

 

「ん?」

 

「何だ?」

 

 二人が同時に鬼火を見る。

 

『……本当に兄弟なのか?』

 

 鬼火の目が、ダンテとバージルを交互に見る。

 

「本当だぜ。俺の兄だ」

 

「俺も否定するつもりはない」

 

『…………』

 

 鬼火の口が閉じる。

 

 数秒の沈黙。

 

『……あまり似てないな』

 

「よく言われる」

 

「俺たちが?」

 

 ダンテが尋ねる。

 

「そうだ」

 

 バージルは答えた。

 

「性格が正反対だと言われる」

 

「そりゃそうだ」

 

 ダンテは肩をすくめる。

 

「俺は気楽で自由。こいつは堅物」

 

「……誰が堅物だ」

 

「お前だよ」

 

「お前よりはな」

 

「ははっ!」

 

 そのやり取りを見ていた11号は、わずかに目を細める。

 

「……確かに兄弟らしい」

 

「え?」

 

 オルペウスが振り返る。

 

「どこがでありますか?」

 

「喧嘩の仕方が同じだ」

 

「なるほど……」

 

「納得するなよ」

 

 ダンテが苦笑する。

 

 その時だった。

 

「へぇ……」

 

 シードが右側の本棚へ近づいていた。

 

「…………」

 

 バージルが本を読む手を止める。

 

「本、いっぱいあるね」

 

「そうだ」

 

「全部読むの?」

 

「当然だ」

 

「面白い?」

 

「知識を得ることに面白いも何もない」

 

「ふーん」

 

 シードは本棚を眺めながら考え込む。

 

「じゃあ、僕が読んでもいい?」

 

「……構わん」

 

「やった」

 

 シードは嬉しそうに本棚を見上げた。

 

 その様子を見ていたダンテが口を挟む。

 

「おいおい、バージル。いつの間にか他人に本を貸すようになったのか?」

 

「別に構わん」

 

「へぇ。丸くなったじゃねぇか」

 

「黙れ」

 

 ダンテはニヤニヤしながら笑った。

 

 一方、トリガーは再び室内を見回す。

 

「……随分と綺麗に分けましたね」

 

「まあな」

 

 ダンテが答える。

 

「最初はもっと酷かったんだぜ」

 

『もっと酷かったのか?』

 

「ああ。バージルが勝手に本棚を置こうとするわ、俺のソファーをどかそうとするわでな」

 

「お前の物が多すぎた」

 

「だからって勝手に片付けるなよ!」

 

「不要な物を整理しただけだ」

 

「ジュークボックスまで不要って言っただろ!」

 

「不要だ」

 

「まだ言うか!」

 

 ダンテが声を荒らげる。

 

 鬼火は二人を眺めながら、呆れたように目を細めた。

 

『……なるほどな』

 

 そしてオルペウスを見る。

 

『つまり、こいつらは事務所で毎日のように兄弟喧嘩をしてるわけだ』

 

「一回どころではないであります……」

 

 オルペウスが遠い目をする。

 

「私が聞いただけでも、三回は……」

 

『……まったく。騒がしい連中だ』

 

 そう言いながらも、その口調にはどこか呆れた親しみが混じっていた。

 




なんだこの半人半魔兄弟....
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