悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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Wanna know the name?

『Devil May Cry』


第二話 依頼

古びたバーを改装した空間に、静かな空気が流れていた。

 

向かい合う二人。

 

椅子に腰掛ける白髪の青年、ダンテ。

 

そして、その前に立つスーツ姿の女性、サラ。

 

互いに相手を探るような沈黙が続く。

 

時計の秒針だけが、静かに時を刻んでいた。

 

そんな沈黙を破ったのは――

 

「……っくしゅ。」

 

ダンテだった。

 

鼻をすすりながら頭を掻く。

 

「さすがに上裸で話すもんじゃねぇか。」

 

そう言うと、ソファの横へ無造作に置いてあった黒いTシャツを手に取る。頭から被り、続いて見慣れた赤いロングコートを肩へ羽織った。

 

袖を通し、襟を軽く整える。

 

ようやく落ち着いたのか、ダンテは椅子へ深く座り直した。

 

「さて。それじゃ、本題に入ろうか」

 

足を組み直し、赤い瞳でサラを真っ直ぐ見つめる。

 

「依頼ってのは何だ? 回りくどい話は苦手でね。単刀直入に頼む」

 

サラは静かに頷いた。

 

「もちろん」

 

彼女はバッグから一枚の写真を取り出し、机の上へ置く。

 

そこに写っていたのは、巨大な高層建築。二本並んでそびえ立つビルだった。

 

「ここは――バレエツインズ」

 

サラが静かに口を開く。

 

「何年も前、共生ホロウに呑み込まれた施設よ」

 

ダンテは写真を手に取る。

 

写真越しでも、どこか異様な雰囲気が伝わってくる。

 

「最近、ここへ侵入する者が後を絶たないの」

 

サラは続ける。

 

「許可なく侵入し、何かを探している人間たち。その人数も、少しずつ増えている」

 

ダンテは写真から目を離さない。

 

「で? 俺に何をしろって?」

 

サラは迷いなく答えた。

 

「その侵入者たちを妨害してほしいの」

 

「それだけ?」

 

ダンテが聞き返す。

 

「それだけよ」

 

サラは小さく頷いた。

 

「排除でも、護衛でもない」

 

「……。」

 

ダンテは顎へ手を当てる。

 

拍子抜けするほど簡単な内容だった。

 

ホロウへ潜る。

 

侵入者を追い返す。

 

それだけ。

 

「報酬は?」

 

現実的な質問だった。

 

慈善事業をするつもりはない。便利屋である以上、金は必要だ。

 

するとサラは、足元へ置いていた黒いスーツケースを静かに持ち上げた。

 

カチャリ。

 

鍵を外す音。

 

ゆっくりと蓋が開く。

 

その瞬間、ダンテの眉がわずかに動いた。

 

中に入っていたのは、札束。

 

整然と積み重ねられた大量のディニーだった。

 

「前金として、五百万ディニー」

 

サラは穏やかな口調で言う。

 

「……。」

 

ダンテは無言になる。

 

サラはさらに続けた。

 

「依頼を完遂していただければ、追加でこの二倍。一千万ディニーをお支払いします」

 

店内が静まり返る。

 

五百万。

 

前金だけで、この事務所の改装費、設備費、そして残っているローンまで、すべて返済できる金額だった。

 

ダンテは札束を見る。

 

次にサラを見る。

 

そして、また札束を見る。

 

「お嬢さん」

 

ようやく口を開いた。

 

「普通、こんな仕事にここまで払うか?」

 

サラは表情一つ変えない。

 

「必要な仕事だからよ」

 

「それだけ?」

 

「ええ」

 

「……。」

 

怪しい。

 

どう考えても怪しい。

 

ただ侵入者を妨害するだけ。それだけの仕事に、一千五百万ディニー。

 

どう考えても釣り合わない。

 

何か裏がある。

 

それくらいはダンテにも分かる。

 

だが――。

 

「まあ」

 

ダンテは肩をすくめた。

 

昔も、悪魔退治の依頼には面倒事がつきものだった。

 

今回も、きっと同じだろう。

 

「内容は簡単。金払いは最高」

 

そう言って笑う。

 

「嫌いじゃないぜ」

 

サラは静かにダンテを見つめる。

 

「つまり、受けていただけるのね?」

 

ダンテは立ち上がる。

 

ビリヤード台へ歩き、そこへ置かれていたリベリオンを肩へ担いだ。

 

そして、口元を吊り上げる。

 

「契約成立だ」

 

「その侵入者ども、まとめて追い返してやるよ」

 

その笑みに、サラもまた小さく微笑んだ。

 

だが、そう告げる彼女の瞳の奥では、誰にも気づかれないほど小さく、何かを企むような光が揺れていた。

 

――――

 

バレエツインズ。

 

今では共生ホロウに呑み込まれ、人の手が及ばぬ危険地帯となっていた。

 

A棟。

 

そしてB棟。

 

その二つを繋ぐ渡り廊下。

 

構造物の陰に、数人の兵士が身を潜めていた。

 

全員が戦闘服を纏い、統率の取れた動きを見せている。

 

その中で、一人だけ異質な存在がいた。

 

赤いロングコート。

 

白い髪。

 

巨大な剣を背負った青年。

 

ダンテだった。

 

「……。」

 

兵士の一人が横目で彼を見る。

 

上からは「協力者がいる」とだけ聞かされていた。

 

だが、まさかこんな男だとは思ってもいなかった。

 

戦闘服すら着ていない。

 

軍人にも見えない。

 

傭兵にも見えない。

 

そして何より――。

 

ダンテはストロベリーサンデーを幸せそうな顔で頬張っていた。

 

「……。」

 

兵士のこめかみに青筋が浮かぶ。

 

(ふざけているのか……?)

 

ホロウ内部。

 

作戦中。

 

いつ敵が現れてもおかしくない状況。

 

それなのに、この男はアイスを食べている。

 

しかも実に美味そうに。

 

「おい」

 

兵士が低い声で話しかける。

 

「少しは緊張感を――」

 

その時だった。

 

コツ。

 

コツ。

 

コツ。

 

静かな足音が響く。

 

全員の表情が変わった。

 

ダンテだけを除いて。

 

「来た」

 

兵士が小さく呟く。

 

A棟の奥。

 

崩れた廊下の向こうから、人影が現れた。

 

数人の侵入者。

 

そして、その傍らにはボンプの姿もある。

 

彼らは周囲を警戒しながら、慎重に進んでくる。

 

「予定通りだ」

 

兵士が小声で指示を出す。

 

侵入者たちは、そのまま渡り廊下へ踏み込んだ。

 

その瞬間、仕掛けられていた装置が作動する。

 

録音機から音楽が流れ、影から二体の巨大なエーテリアスが飛び出した。

 

マリオネット・ツインズ。

 

双子のように舞う、危険な怪物だった。

 

侵入者たちはすぐさま迎撃を開始する。

 

「ダンスのお誘いとお見受けしました……」

 

「お相手を務めさせていただきます」

 

激しい戦闘が始まった。

 

マリオネット・ツインズも、激しく踊るように刃を振るう。

 

「いいぞ……」

 

兵士が呟く。

 

「そのまま消耗しろ」

 

だが――。

 

「おーい、怪物! こっちだ!」

 

ボンプが声を上げた。

 

次の瞬間、ボンプによって投げ飛ばされた録音機が、裂け目へ向かって転がっていく。

 

録音機はそのまま裂け目へ落下した。

 

それを追うように、マリオネット・ツインズも吸い込まれていく。

 

ズズズッ――。

 

裂け目の向こうへ消えていく二体。

 

そして、裂け目は閉じた。

 

「なっ……」

 

兵士たちが息を呑む。

 

予定が狂った。

 

このままでは侵入者を止められない。

 

「次の手だ!」

 

兵士が叫ぶ。

 

別の兵士が、肩に担いでいた小型ミサイルランチャーを構えた。

 

照準。

 

ロックオン。

 

「撃て!」

 

シュゴォォッ!!

 

小型ミサイルが侵入者へ向かって一直線に飛ぶ。

 

その間も――。

 

「んー」

 

ダンテはストロベリーサンデーを食べ続けていた。

 

兵士は思わず叫ぶ。

 

「お前も戦え!」

 

しかし、ダンテは返事すらしない。

 

そして、侵入者側。

 

「……!」

 

メイド服を纏ったサメのシリオンが前へ出る。

 

エレン。

 

その紅い瞳がミサイルを捉えた。

 

一閃。

 

巨大な鋏型武器が振るわれる。

 

ズバァッ!!

 

一発。

 

二発。

 

三発。

 

飛来するミサイルは次々と真っ二つに斬り裂かれ、左右へ逸れて爆発する。

 

爆煙を突き抜け、エレンは一気に距離を詰めた。

 

「しまっ――」

 

兵士たちの顔から血の気が引く。

 

もう目の前だ。

 

振り下ろされる巨大な刃。

 

誰もが終わりを覚悟した。

 

その時だった。

 

ダンテは、ようやく食べ終わりかけていたストロベリーサンデーを空へ放り投げた。

 

「……やれやれ」

 

「せっかくのデザートタイムだったんだけどな」

 

そう呟くと同時に、エボニーとアイボリー――二丁拳銃が抜き放たれた。

 

ドドドドドドドドッ!!

 

凄まじい連射。

 

放たれた銃弾は寸分違わずエレンへ襲い掛かる。

 

「っ!」

 

エレンは即座に攻撃を中断し、鋏を盾代わりにしながら横へ跳ぶ。

 

着弾。

 

爆煙。

 

床が砕ける。

 

「……。」

 

着地したエレンは無言でダンテを見る。

 

ただものではない。

 

その一瞬で理解した。

 

そして空中では、くるくると回転していたストロベリーサンデーが落ちてくる。

 

ダンテは視線を逸らすことなく片手で受け止めた。

 

そのまま最後の一口を口へ運ぶ。

 

空になった容器を無造作に放り捨てる。

 

カラン、と乾いた音が響いた。

 

「悪いな」

 

ダンテはエレンを見据える。

 

「俺のデザートを邪魔する奴は、誰であろうと容赦しない主義なんだ」

 

その光景を見ていたのは、エレンだけではない。

 

その後方にいたヴィクトリア家政の面々。

 

そして、パエトーン。

 

全員が無言だった。

 

赤いコートの青年。

 

ふざけたような態度。

 

だが、先ほどの射撃は人間離れした精度だった。

 

「……気を付けて」

 

エレンが静かに呟く。

 

「こいつ」

 

そして、僅かに鋭い視線を向ける。

 

「強い」

 

その言葉に、その場の全員が目の前の青年を新たな脅威として認識した。

 

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