悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

31 / 52
Wanna know the name?


『『Devil May Cry』』


第三十話 影に隠れた襲撃

 

 

 ――儀玄との話を終えた後。

 

 アキラたちと別れたダンテは、一度デビルメイクライ事務所へ戻っていた。今回の調査では衛非地区にしばらく滞在することになるため、必要な装備をまとめておく必要がある。

 

 荷物をまとめながら、ダンテはぼやいた。悪魔退治なら何度も経験してきた。ホロウの調査も、今となっては珍しくない。しかし、今回ばかりは勝手が違う。悪魔の調査だけでなく、アキラとリンの恩師であるカローレの消息、そして雲嶽山との共同調査まで絡んでいる。

 

 机の上に置かれた黄色と白の道着へ、ダンテは視線を落とす。

 

「俺には似合わねぇだろ、これ」

 

 そう言いながらも、結局は着替えることにした。

 

 しばらくして。

 

「……よし」

 

 着替え終えたダンテは、鏡の前で自分の姿を眺める。

 

「やっぱり似合わねぇな」

 

 本人はそう呟いたものの、武器の準備は抜かりない。愛用の二丁拳銃、エボニーとアイボリー。魔剣リベリオン。そして、今回の調査に必要となる装備をまとめていく。

 

 準備を終えると、ダンテは事務所の奥へ声をかけた。

 

「しばらく留守にするぜ」

 

 すると、奥からバージルが姿を現した。

 

「……もう行くのか」

 

「ああ。今回の依頼、しばらく向こうに泊まり込みになりそうだからな」

 

「そうか」

 

 バージルは頷き、それからダンテの姿を上から下まで眺める。

 

「…………」

 

「なんだよ」

 

「とうとう修行をする気になったか」

 

「違ぇよ」

 

 ダンテが即答する。

 

「これは仕事だ」

 

「ほう」

 

 バージルは腕を組む。

 

「その割には随分と奇妙な格好だな」

 

「言うな」

 

「似合っていないぞ」

 

 ダンテは顔をしかめる。

 

「じゃあ行ってくるぜ」

 

「……ああ」

 

「留守番頼んだぜ、バージル」

 

 ダンテは苦笑しながら、事務所を後にした。

 

 

――――

 

 

 ――その頃。

 

 ビデオ屋「Random Play」では、アキラが出発の準備を進めていた。

 

 バックヤードで雲嶽山の道着に着替えたアキラは、自分の姿を確認する。白を基調とした道着は、普段の服装とは大きく違っていた。

 

「……なんだか新鮮だな」

 

 そこへリンが顔を出す。

 

「お兄……」

 

 一瞬、いつもの呼び方が出かけたが、リンは慌てて咳払いをした。

 

「コホン。兄弟子さん!」

 

「けっこう似合ってるじゃん!」

 

「そうかな?」

 

「うん。なんか本当に雲嶽山の弟子っぽいよ」

 

「君も着替えてみたらどうだい?」

 

「私は別に急いで着なくてもいいし……」

 

 リンは自分の服を見ながら答える。

 

「あとでお店の掃除もするから、汚れちゃったらヤだもん」

 

「ああ、それもそうか」

 

「それに今回は衛非地区でしばらく暮らすことになるんだから、出発前に荷物をまとめとかないとね」

 

 そう言って、リンはバックヤードに置かれた荷物を確認する。

 

「先生のことも調べなきゃいけないし、ラマニアンホロウの異常も原因を探らないといけない。やることは多そうだね」

 

「うん」

 

 アキラが頷いた、その時だった。

 

 ――カラン。

 

 ビデオ屋の入口にある扉が開いた。

 

「……!」

 

 アキラとリンが同時に振り向く。

 

「ダンテかな?」

 

「たぶんね」

 

 二人は入口へ視線を向ける。

 

 考えてみれば、ダンテが普段着ている服はほとんど決まっていた。赤いコートに黒い服。いつ見ても似たような格好をしている。

 

 だからこそ、今回ばかりは少し気になった。

 

「……どんな感じになるんだろう」

 

 リンが楽しそうに呟く。

 

「道着を着たダンテって、想像つかないね」

 

「確かに」

 

 アキラも興味深そうに入口を見る。

 

 そして――扉が開いた。

 

「よう」

 

 入ってきた男を見て。

 

「…………」

 

 アキラが固まった。

 

「…………」

 

 リンも固まる。

 

 そこにいたのは、白と黄色を基調とした雲嶽山の道着に身を包んだダンテだった。

 

「どうだ?」

 

 本人はいつも通り、何食わぬ顔をしている。

 

 しかし。

 

 その上には――。

 

 いつもの赤いコート。

 

 そして。

 

 背中には。

 

 巨大なギターケース。

 

「…………」

 

「…………」

 

 アキラとリンは、しばらく言葉を失った。

 

 やがて二人は、ほとんど同時に同じことを思った。

 

 ――そこだけは、いつも通りなんだ。

 

 

――――

 

 

 ――やがて。

 

 新エリー都の街並みが、少しずつ遠ざかっていく。窓の外には、巨大なホロウが見えていた。

 

 黒く広がる異様な空間。その内部には、通常の街とは明らかに違う景色が広がっている。

 

 アキラは窓際の席に座り、じっと外を見つめていた。

 

「…………」

 

 やがて、視界の先に巨大な黒い領域が迫ってくる。

 

「あれは……」

 

 アキラが目を細める。

 

「ラマニアンホロウ?」

 

 儀玄も窓の外を見る。

 

「どうやら、もう少しで到着しそうだ」

 

「途中で何が起きるでもなく、順調で良かった」

 

「ああ」

 

 儀玄も頷いた。

 

「このまま何事もなければ、それに越したことはない」

 

「…………」

 

 その頃。

 

 同じ飛行船の別の座席では――。

 

「…………」

 

 ダンテが腕を組み、目を閉じていた。どうやら眠っているらしい。

 

 いつものように緊張感などまるでない。

 

 儀玄がちらりとダンテを見る。

 

「……まったく。よくこんな状況で寝られるものだ」

 

「ダンテだからね」

 

 アキラが苦笑する。

 

「敵の気配でも感じれば、すぐ起きると思うよ」

 

「ほう」

 

 儀玄が興味深そうにダンテを見る。

 

「ならば、試してみるか?」

 

「いやいや、やめたほうがいいと思う」

 

「そうか」

 

 儀玄は窓の外へ視線を戻した。

 

 ――その時だった。

 

 地上。

 

 ラマニアンホロウ周辺から少し離れた場所。崩れた建物の陰に、一人の人物が身を潜めていた。

 

 手にしているのは大型のミサイルランチャー。その照準は、上空を進む飛行船へ向けられている。

 

 人物はスコープを覗き込む。

 

「…………」

 

 無線機から、機械的な音声が響く。

 

『目標、予定地点に接近』

 

 人物は静かに照準を合わせる。

 

「…………」

 

 次の瞬間。

 

 ――ドンッ!!

 

 ミサイルが発射された。煙を引きながら、一直線に飛行船へ向かっていく。

 

 その時。

 

「…………?」

 

 眠っていたダンテの目が開いた。

 

「……!」

 

 何かを感じ取った。

 

 明確な殺意。そして、こちらへ迫ってくる危険。

 

「伏せろ!!」

 

 突然の叫び。

 

「え?」

 

 アキラが振り向く。儀玄も同時に顔を上げる。

 

「何だ?」

 

「――伏せろ!」

 

 ダンテが立ち上がる。

 

 直後。

 

 ――ドォォォォォン!!

 

 凄まじい爆発が飛行船の後部で起こる。

 

 飛行船は大きく傾き、そのまま高度を失っていき、ラマニアンホロウへ墜落するのだった。

 

 

――――

 

 

 

 ――ラマニアンホロウ内部。

 

「…………」

 

 ダンテはゆっくりと目を開けた。

 

「……痛ぇな」

 

 身体を起こす。視界に飛び込んできたのは、崩壊した建物と大量の瓦礫だった。道路らしき場所も大きく崩れ、周囲には見慣れない植物のような物体が地面や建物にへばりついている。

 

「……ここは?」

 

 ダンテは周囲を見回す。そして、すぐに気づいた。

 

「ラマニアンホロウの中か」

 

 どうやら飛行船は墜落したらしい。しかし、アキラや儀玄の姿は見当たらない。

 

「……二人は無事だといいんだがな」

 

 ダンテは立ち上がる。その時、目の前の道を塞いでいる異様な物体が目に入った。

 

「なんだ、こりゃ?」

 

 黒紫色の植物のような物体。地面だけではない。崩れた建物の壁や瓦礫にまでびっしりと絡みついている。

 

「ミアズマ……ってやつか?」

 

 事前に聞いていた情報を思い出す。

 

 ダンテは背中のギターケースを下ろした。

 

「邪魔だな」

 

 ケースを開く。中から魔剣リベリオンを取り出した。

 

「……よっと」

 

 そのまま剣を振り抜く。

 

 ザンッ!!

 

 ミアズマの一部が切り裂かれる。

 

 しかし――。

 

「…………」

 

 切断されたはずのミアズマは、しばらくすると再び蠢き始めた。

 

「……効いてねぇな」

 

 ダンテは眉をひそめる。

 

「普通に斬るだけじゃダメか」

 

 もう一度斬りつける。

 

 ザシュッ!!

 

 しかし、結果は同じだった。

 

「参ったねぇ」

 

 ダンテはリベリオンを見つめる。

 

「こういう時は……」

 

 ふと、ある考えが浮かんだ。

 

「試してみるか」

 

 ダンテは魔剣を構える。そして、自身の体内にある魔力をゆっくりとリベリオンへ流し込んでいく。

 

「…………」

 

 刀身が僅かに震える。

 

「これでどうだ?」

 

 ダンテは剣先をミアズマへ突きつけた。

 

 ――触れた瞬間。

 

 シュゥゥゥゥ……。

 

「……!」

 

 ミアズマが、まるで熱に溶かされるように消滅していく。その場に残っていたものも、次々と消えていった。

 

「…………」

 

 しばらく様子を見る。再生する気配はない。

 

「……なるほど」

 

 原理は分からない。だが、今はそれで十分だった。

 

「魔力を流せば消せるってわけか」

 

 ダンテはリベリオンを肩へ担ぐ。

 

「こいつは覚えておこう」

 

 そして、道を塞いでいたミアズマを次々と消滅させていく。やがて、前方に広い道が開けた。

 

「よし」

 

 ダンテはリベリオンを背負い直す。

 

「だったら、急ぐとするか」

 

 次の瞬間、ダンテの周囲に黒い魔力が集まる。

 

「――来い」

 

 巨大な悪魔の力が具現化する。姿を現したのは、巨大な魔具――キャバリエーレだった。

 

「さて……」

 

 ダンテは跨る。

 

「アキラたちを探さねぇとな」

 

 アクセルを捻る。

 

 ――ヴォォォォォン!!

 

 轟音と共に、キャバリエーレがホロウの奥へと駆け出した。

 

――――

 

 ――その頃。

 

「……!」

 

 アキラは息を呑んでいた。

 

 周囲には崩壊した建物。そして。

 

「ギィィィィィッ!!」

 

 目の前には、複数のエーテリアス。

 

「くっ……!」

 

 アキラが身構える。しかし、次の瞬間。

 

「そこを動くな」

 

 声が響いた。

 

「え?」

 

 アキラの前へ、銀色の髪が翻る。

 

 儀玄だった。

 

 儀玄が手を振る。空中に黒い陣が展開される。墨汁のような黒い液体が瞬時に広がり、巨大な鳥の形へ変化した。

 

「行け」

 

 黒い鳥が飛び出す。

 

 ――ズバァッ!!

 

 エーテリアスを貫いた。

 

「ギィッ!?」

 

 その身体が一瞬で崩れ、エーテルの粒子となって消えていく。

 

「すごい……」

 

 アキラが呟く。

 

「感心している場合ではないぞ」

 

 儀玄が前を見る。

 

「まだ来る」

 

「……え?」

 

「ギィィィィィッ!!」

 

「グルァァァッ!!」

 

 さらに大量のエーテリアスが姿を現した。

 

 アキラが息を呑む。儀玄は小さく息を吐く。

 

「数が多いな」

 

 再び手を構える。

 

「まあいい」

 

 その目が鋭くなる。

 

「まとめて相手をしてやろう」

 

 しかし。

 

 次の瞬間だった。

 

「…………?」

 

 遠くから、何かが聞こえてきた。

 

 低く。重い。そして、徐々に大きくなっていく。

 

 ――ヴォォォォォン……。

 

「……何の音だ?」

 

 アキラが振り返る。

 

 儀玄も音の方向を見る。

 

 ――ヴォォォォォン!!

 

 エンジン音が近づいてくる。

 

「まさか……」

 

 アキラの顔が明るくなる。

 

「ダンテ?」

 

 その直後。

 

 瓦礫の向こうから、巨大なバイクが飛び出してきた。

 

「――来たぜぇ!!」

 

「ダンテ!」

 

 エーテリアスが一斉にダンテへ襲い掛かる。

 

「邪魔だ!」

 

 ダンテがアクセルを踏み込む。

 

 ――ドォン!!

 

 キャバリエーレが一気に加速する。巨大な車体がエーテリアスへ突っ込んだ。

 

 ドゴォン!!

 

「ギィィッ!?」

 

 一体が吹き飛ぶ。

 

 さらに。

 

 ドガァン!!

 

「グォッ!?」

 

 もう一体。

 

「まだまだ!」

 

 ダンテはキャバリエーレを振り回す。車体そのものが巨大な刃のようにエーテリアスを次々と薙ぎ倒していく。

 

「…………」

 

 アキラは呆然とその光景を見つめる。

 

「すごい……」

 

 儀玄も黙っている。

 

 キャバリエーレが大きく跳ねる。

 

「――よっと!」

 

 ダンテがバイクから飛び上がった。そのまま空中で身体を捻る。

 

 そして背中のリベリオンを抜き、振り下ろす。

 

 ズガァン!!

 

「ギィィィィィッ!!」

 

 エーテリアスの頭部を真正面から叩き斬る。その衝撃で周囲のエーテリアスの身体が大きく吹き飛んだ。

 

 ダンテはそのまま着地する。

 

 そして。

 

 ドンッ!!

 

 吹き飛んだエーテリアスの背中へ着地した。

 

「……!」

 

 アキラが目を見開く。

 

「ちょっと借りるぜ」

 

 エボニー。アイボリー。二丁の拳銃を抜く。

 

「――行くぜ!」

 

 ――ズダダダダダッ!!

 

 無数の弾丸が放たれる。エーテリアスが地面を滑りながら、ダンテは周囲のエーテリアスへ銃弾を叩き込んでいく。

 

「ギィッ!」

 

「グァッ!」

 

「ギィィィッ!!」

 

 一体。また一体。次々とエーテリアスが崩れていく。

 

 最後に残った一体が、ダンテへ向かって飛び掛かった。

 

「おっと」

 

 ダンテはエーテリアスの攻撃をかわす。そして、身体を低く構える。

 

 次の瞬間。

 

 ドンッ!!

 

 凄まじい速度で突進する。リベリオンの切っ先が、エーテリアスの身体を真正面から貫いた。

 

「ギィィィィィッ!!」

 

 その身体が大きく吹き飛ぶ。

 

 そして。

 

 ――ドォン!!

 

 地面へ叩きつけられ、そのままエーテルの粒子となって消滅した。

 

「…………」

 

 静寂。

 

 先ほどまで大量にいたエーテリアスは、すべて消えていた。

 

 ダンテはリベリオンを肩に担ぐ。

 

「ふぅ」

 

 そしてアキラへ振り返る。

 

「よう、無事だったか?」

 

「……うん」

 

 アキラは呆然としながら頷く。

 

「ありがとう……」

 

「礼なんていいさ」

 

 ダンテは笑う。

 

「それより、怪我はないか?」

 

「ああ。私も問題ない」

 

 儀玄が答える。

 

 そして。

 

 彼女はダンテをじっと見つめていた。

 

 正確には、その戦い方。そして、ダンテの手に握られた魔剣リベリオンを。

 

「…………」

 

 儀玄は何か言いたげだった。

 

 だが。

 

 結局、何も言わなかった。

 




誤字 ラマニアンホロウ内部にしばらく滞在→衛非地区に変えました。

ホロウ内部に滞在ってなんだ?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。