悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

32 / 38
Wanna know the name?


『『Devil May Cry』』


第三十一話 衛非地区

 

 ――ラマニアンホロウ内部。

 

 アキラ、ダンテ、そして儀玄の三人は合流を果たしていた。儀玄が持っていたキャロットを使いながら、三人はホロウからの脱出を目指して進んでいく。

 

 道中、儀玄は墜落した飛行船を確認してきたことを二人に伝えた。どうやら飛行船には外部から受けた損傷があり、単なる事故ではなかったらしい。

 

 三人はそのまま先へ進む。

 

 やがて、前方に淡い光が見えてきた。そこには、空間そのものが裂けたような巨大な亀裂が存在していた。裂け目の向こうには、ホロウの外側と思われる光景が見えている。

 

「ようやくか」

 

 ダンテが肩を回す。

 

「長かったな」

 

「では、行くぞ」

 

 儀玄を先頭に、三人は空間の裂け目へ足を踏み入れた。

 

 ――その瞬間。

 

「……っ」

 

 アキラの視界が大きく揺れる。身体が浮遊するような奇妙な感覚。そして、いつもの目眩が襲ってくる。

 

 次の瞬間。

 

 三人は、ホロウ辺縁部の無人エリアへと到着していた。

 

「…………」

 

 アキラはゆっくりと目を開く。

 

 目の前には、青い海。そして、どこまでも広がる青空。海の向こうには、遠く街の姿も見えていた。

 

 ダンテも周囲を見回す。儀玄も海を眺める。

 

 アキラは改めて周囲を確認する。

 

「師匠、僕たちはついに出られたようだ……」

 

 しかし、すぐに困ったような顔になる。

 

「とはいえ、ここは海辺か……。衛非地区はまだ先のようだけれど、どうやって行こう?」

 

「うーむ」

 

 儀玄は腕を組む。

 

「そうだな。この際だ……」

 

 そして、何気ない調子で二人を見る。

 

「アキラ、ダンテ。お前さん達、泳げるか?」

 

「…………」

 

 アキラが固まる。

 

「まさか、師匠……」

 

 海を指差す。

 

「あんなところまで泳げと?」

 

「今まで海とかで泳いだことはあまりないな」

 

 ダンテも海を眺める。

 

「まあ、泳げなくはないが……」

 

 アキラは海の向こうに見える街へ視線を向ける。

 

「うーん……『少し』遠そうだ……」

 

 そして儀玄を見る。

 

「師匠、本当に泳ぐかい?」

 

「なんてな」

 

 儀玄はあっさり笑った。

 

「あくまで最後の手段だ。あれだけ派手に墜落したんだから、誰かしら様子を見に来るだろう」

 

「なるほど」

 

「それに、このあたりは澄輝坪の航路だからな。船くらい通る」

 

「よかった……」

 

 アキラが胸を撫で下ろす。

 

「本当に泳いでいくつもりなのかと思ったよ」

 

 すると、ダンテが海の向こうを見る。

 

「おっと。言ったそばから、船が来たみたいだぜ」

 

 三人が同時に海を見る。

 

 しばらくすると、ホロウの近くを一隻の貨物船が通りかかった。

 

「おーい!」

 

 アキラが手を振る。儀玄とダンテも手を上げる。

 

 幸いにも、船員たちはすぐに三人の存在に気づいた。船は三人の近くまで寄ってきて、縄梯子が下ろされる。

 

「助かったな」

 

 ダンテが笑う。

 

「泳がずに済んだな」

 

 こうして三人は貨物船へ乗せてもらい、衛非地区へ向かうことになった。

 

 ――しばらくして。

 

 貨物船はゆっくりと岸辺へ近づいていく。船の上から周囲を眺めていた船頭が、三人へ声をかけた。

 

(お二人さん、ラマニアンから出てきたのかね? そりゃあたいした幸運だ)

 

(そうだ)

 

 儀玄が頷く。

 

(乗せてくれて助かった。礼を言おう)

 

(それで? 衛非地区に行きたいってんなら、案内を呼んでやってもいいが……)

 

(いや、岸で降ろしてもらえれば十分だ。迎えは呼んである)

 

「…………」

 

 アキラは二人の会話を聞きながら、困惑した表情を浮かべる。

 

「……まったく言葉がわからないのだけれど」

 

「俺もだ」

 

 ダンテが儀玄を見る。

 

「儀シェ……」

 

 そこで言葉を止める。

 

「……師匠は、さっきから何の話を?」

 

「ん?」

 

 儀玄が振り返る。

 

「ああ、このあたりの方言だ。心配はいらない」

 

「方言……」

 

 ダンテが呟く。

 

「あとダンテ、呼びづらかったら儀玄でいいぞ」

 

「そうか?」

 

「ああ」

 

 儀玄は海の向こうを見る。

 

「さっき、お前さん達の姉弟子に迎えを頼んでおいたという話をしていた」

 

「姉弟子?」

 

 アキラが首を傾げる。

 

「ああ、確かに……。雲嶽山の門下生は僕だけじゃないだろうし、先輩がいて当然だろうな」

 

 そして、自分たちの立場について考える。

 

「とはいえ、僕とリンとダンテは今日入門したばかりだ。もしかすると、雲嶽山でいちばん下っ端ということになるんだろうか?」

 

「ああ」

 

 儀玄は頷く。

 

「弟子は何人かいる。入門した順で言えば、たしかにお前さん達が一番下の門弟だが……」

 

 そこで儀玄は三人を見る。

 

「下っ端だからなんだということはない。普通に接しろ。何かあれば、気楽にあいつらを頼るといい」

 

「先輩、か……」

 

 アキラは少し楽しそうに呟く。

 

「どんな人たちなんだろう。だんだん気になってきたな」

 

「面白い奴らだといいんだがな」

 

 ダンテも笑う。

 

「落ち着け」

 

 儀玄は淡々と答えた。

 

「どうせすぐ会うことになる」

 

「まあ、それもそうか」

 

 アキラが頷く。

 

 

――――

 

 

 ――しばらくすると、貨物船が近くの停泊所へ到着した。

 

「ここで大丈夫かね? 迎えは呼んどるか?」

 

 船頭が尋ねる。

 

「ああ。弟子に連絡してある。今向かっているところだろう」

 

 儀玄が答えた、その時だった。

 

「お師匠さま~! 福福がお迎えに来ましたよっ!」

 

 遠くから元気な声が響く。

 

「ん?」

 

 アキラが振り向く。

 

 停泊所の向こうから、こちらへ向かって走ってくる少女の姿が見えた。

 

「お師匠さま~!」

 

 少女はそのまま儀玄のもとまで駆け寄ると、息を整えながら笑顔を浮かべる。

 

「お待たせしました! ……あれえっ?」

 

 そして、儀玄の隣にいるアキラとダンテへ視線を向けた。

 

「こちらの方々は?」

 

「ああ」

 

 儀玄が二人を紹介しようとするより先に、少女の表情がぱっと明るくなる。

 

「きっと、お師匠さまが言ってたお弟子さん達ですねぇ?」

 

 さらに二人をじろじろと眺める。

 

「……あれぇ? あたしたち、前にもどこかで会いましたっけ? なんだか見覚えがあるような……うーん」

 

 アキラも少し考える。

 

「そう言われてみると……」

 

「まあ、気のせいじゃないか?」

 

 ダンテが肩をすくめる。

 

 少女はそんなダンテを見て、今度はにっこりと笑った。

 

「あたしは橘福福(チー・フーフー)。あなた達にとっては、姉弟子ってことになりますね!」

 

「姉弟子……」

 

 アキラが目を瞬かせる。

 

「はいっ!」

 

 福福は胸を張った。

 

「立派なお弟子さん達じゃないですか~。お師匠さまったら、全然教えてくれないんだから……」

 

「別に隠していたわけではない」

 

 儀玄が淡々と返す。

 

「そういうことにしておきますねっ!」

 

 福福は楽しそうに笑った。

 

「でも、お弟子さん。福福が来たからにはもう安心ですよっ! この辺で何かあっても、姉弟子のあたしが全部なんとかしてあげます!」

 

 ダンテは福福を眺めながら思った。

 

 ――元気な子だな。

 

 だが、不思議と嫌な感じはしなかった。

 

「そういうことなら」

 

 アキラが笑う。

 

「姉弟子さんには、あらかじめお礼を言っておくよ。何かあったら頼りにさせてもらおう」

 

「もちろんです!」

 

 福福が元気よく頷く。

 

「俺も頼らせてもらうぜ」

 

 ダンテも笑った。

 

「修行以外はな」

 

 小声で付け加える。

 

「え?」

 

 福福が首を傾げる。

 

「何か言いました?」

 

「いや、何でもねぇ」

 

 ダンテは素知らぬ顔をする。

 

「食べ物も、遊びも、修行のことも、なんでもどんとこいですからねっ! あっ、そうだ! このへんにいいお茶屋さんがあるんですけど……!」

 

「福福」

 

 儀玄が静かに口を挟む。

 

「お喋りは適当観に戻ってからだ。こっちはホロウから出てきたばかりだからな」

 

「あわわ……ごめんなさい、お師匠さま。ちょっとはしゃぎ過ぎちゃいました……」

 

 福福は慌てて頭を下げる。

 

 しかし、すぐに顔を上げると、アキラとダンテを見る。

 

「すぐに道観へ戻りましょうっ! あっ、でも……帰り道ついでに、お弟子さん達を案内するくらいなら、いいですよね?」

 

「まあいいか……好きにしろ」

 

 儀玄は諦めたように頷いた。

 

「じゃ、私は先に戻る。お前さん達も、あまり方々で油を売るんじゃないぞ」

 

「もちろんです、お師匠さまっ!」

 

 福福が元気よく返事をする。

 

「そうそう、まずは三人の船賃を払ってきますねっ」

 

 福福は船頭のところへ駆け寄った。

 

「おかげさまで助かりました~。合わせて何ディニーですかね?」

 

「お嬢さん方、もしかして適当観の人たちかね?」

 

「へ?」

 

 福福が首を傾げる。

 

「それなら駄賃なんて取れませんや」

 

「へ? いいんですか?」

 

「そりゃなんたって、あの時あなた方が助けてくれなかったら、俺たちみたいなのは……」

 

 船頭はそこで言葉を濁す。

 

「とにかく、早めに帰って休んだらよろしいがな」

 

「ありがとうございます!」

 

 福福が頭を下げる。

 

 船頭はさらに続けた。

 

「あと、これからはもうホロウに近づかんといてくださいよ」

 

「はい、気を付けますねっ! ありがとうございます! お手伝いが必要なことがあったら、ぜひ適当観に来て、あたしたちを探してくださいっ!」

 

「ハハッ、そうさせてもらうよ、先生!」

 

 船頭が笑う。

 

 三人は船頭に礼を告げ、貨物船を降りた。

 

 その後、儀玄は事務処理のため、先に適当観へ戻ることになった。

 

「では、また後でな」

 

「はい、師匠」

 

 アキラが頭を下げる。

 

「じゃあな」

 

 ダンテも軽く手を上げる。

 

「お師匠さま、またあとで!」

 

 福福が手を振る。

 

 儀玄はそんな三人を一瞥すると、そのまま適当観の方へ歩いていった。

 

 そして――。

 

「さあて……」

 

 福福は儀玄の姿が見えなくなったことを確認する。

 

「お師匠さまも行っちゃったことですし……」

 

 にやり。

 

 どこか楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「誰も福福たちを咎める人はいません!」

 

「……」

 

 アキラが少し嫌な予感を覚える。

 

「ついてきてくださいっ、お弟子さん! このへん、面白いものがほんとにいっぱいなんですから!」

 

「お、なら色々教えてもらうぜ」

 

 ダンテが楽しそうに笑う。

 

「もちろんです!」

 

 福福も嬉しそうに頷いた。

 

「まずはですね――」

 

 こうして、三人は福福と共に衛非地区を歩き始めた。

 

 適当観へ向かう道すがら、福福はこの地域で有名な店や観光名所、地元の人間しか知らないような場所まで次々と紹介していく。

 

「これが衛非地区名物のロープウェイです!」

 

「ほう」

 

 ダンテが興味深そうに見る。

 

 

「お弟子さん、この先は澄輝坪の市場で、中には面白いお店がいっぱいあるんですっ!」

 

「それは重要だな」

 

「ですよねっ!」

 

 福福が嬉しそうに頷く。

 

 

「それから――」

 

「福福さん」

 

 アキラが苦笑する。

 

「師匠に『あまり油を売るな』って言われたばかりじゃないか?」

 

「大丈夫ですよ!」

 

 福福は胸を張る。

 

「これは道案内ですから!」

 

「……まあ、確かに」

 

 アキラも笑った。

 

 ダンテは二人のやり取りを聞きながら、衛非地区の街並みを眺めていた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。