悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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Wanna know the name?


『『Devil May Cry』』


第三十三話 波乱に満ちた地

 

 

 

――その日の夜。

 

ラマニアンホロウから戻ったダンテは、簡単な夕食を済ませ、休むことになった。

 

「ふぅ……」

 

自室へ戻ったダンテは、ベッドへ身体を投げ出す。今日はホロウ内での戦闘に加え、長時間の移動まであった。さすがのダンテも疲労は隠せない。

 

「……明日は、どうなるかねぇ」

 

そう呟いた直後には、もう眠りへ落ちていた。

 

――――

 

――翌朝。

 

適当観の門前に、一台の車が停まった。そこから降りてきたのは、白いスーツに身を包んだ男だった。整えられた髪、冷静な目つき、そして隙のない立ち振る舞い。

 

男の名は、ダミアン・ブラックウッド。

 

TOPS傘下の特殊開発企業――ポーセルメックス。その衛非地区における最高責任者である。

 

ラマニアンホロウ内の輝磁採掘を主導しているのもポーセルメックス社だ。彼によれば、輝磁の生産エリアでは事故が発生しており、現在も安全が確認できていないため、くれぐれも立ち入らないようにとのことだった。

 

事故が起きた。そして、その場所へ近づくなと言う。

 

あまりにも都合が良すぎる。

 

「まずは、労働者たちから話を聞いてみよう」

 

アキラが腕を組む。

 

「事故の実態を知るには、それが一番早い」

 

儀玄も頷いた。

 

そしてさっそく動こうとした。しかし、その時だった。

 

「あれ?」

 

アキラが周囲を見回す。

 

「どうしたんですか?」

 

福福が尋ねる。

 

「ダンテは?」

 

「……」

 

一瞬、全員が黙った。

 

確かに、そこにダンテはいなかった。

 

「まさか……」

 

福福が適当観の中を見回す。

 

「まだ寝てるんでしょうか?」

 

「部屋を確認してくる」

 

儀玄が言う。

 

「福福も行きます!」

 

「僕も行くよ」

 

三人はダンテが泊まっている部屋へ向かった。

 

コンコン。

 

儀玄が扉を叩く。

 

「ダンテ」

 

返事はない。

 

「……」

 

もう一度。

 

コンコン。

 

「ダンテ、起きているか?」

 

やはり返事はなかった。

 

「入りますよ~?」

 

福福が恐る恐る扉を開ける。

 

すると、部屋の中にはベッドで普通に眠っているダンテの姿があった。

 

「……寝てますね」

 

「寝ているな」

 

福福と儀玄が呆れたように呟く。

 

外では朝から人の出入りがあり、適当観の中でも何度も話し声が響いている。それなのに、ダンテはまるで何も聞こえていないかのように熟睡していた。

 

アキラがベッドへ近づき、ダンテの肩を揺する。

 

「ダンテ、起きてくれ」

 

「……」

 

反応はない。

 

「ダンテ?」

 

今度は少し強く揺する。

 

それでも、起きる気配はまったくなかった。

 

「……すごいな」

 

アキラが思わず呟く。

 

「昨日、よほど疲れていたんでしょうか」

 

「それにしても、ぐっすりですねぇ……」

 

福福は呆れながらも部屋の中を見回す。そして、ふと部屋の隅に置かれたものへ目を留めた。

 

「……あれ?」

 

そこに立て掛けられていたのは、一つのギターケースだった。

 

「お弟子さんって、ギターも弾くんですか?」

 

「さあ……」

 

アキラが首を傾げる。

 

福福は興味深そうにケースへ近づいた。

 

「どんなギターが入ってるんでしょうねぇ」

 

「福福」

 

儀玄が声をかける。

 

「勝手に触るな」

 

「……はい」

 

一度は素直に手を引いた福福だったが、しばらくすると再びケースを見る。

 

「……」

 

「……」

 

「……ちょっとだけなら」

 

「福福」

 

「開けるだけですよ!」

 

儀玄は小さくため息をついた。福福はそっとギターケースを開く。

 

「……え?」

 

そこに入っていたのは、ギターではなかった。

 

銀一色の大剣。

 

巨大な刀身には異様な存在感があり、鍔に当たる部分の中央には、二本の角を生やした髑髏の彫刻が施されている。

 

そして――その髑髏の両目が。

 

カッ。

 

赤く発光した。

 

「ひっ……!」

 

福福が思わず一歩後退する。

 

儀玄の表情も変わった。

 

以前、ダンテがこの剣を扱っているところを見た時から、ただの武器ではないことは分かっていた。しかし、こうして間近で見ることで、その正体の一端をはっきりと感じ取る。

 

これは、ただの刀剣ではない。

 

儀玄の脳裏に、雲嶽山の歴代宗主へ代々受け継がれてきた特殊な刀剣――青溟剣が浮かんだ。

 

形状も、その力も完全に同じというわけではない。だが、この剣から感じられる異質な気配には、青溟剣と通じるものがある。

 

「これは……」

 

儀玄の顔が険しくなる。

 

「お師匠さま……?」

 

福福も不安そうに大剣を見つめる。

 

その時だった。

 

「……そいつは」

 

「……!」

 

三人が振り返る。

 

ベッドの上で、先ほどまで眠っていたはずのダンテが目を開けていた。

 

「魔剣リベリオン」

 

ダンテはゆっくりと上半身を起こす。その身体には、いつの間にか赤いコートが戻っていた。

 

「かつて俺の親父が所有していた、三振りの剣のうちの一つだ」

 

福福が目を丸くする。

 

「お父さんの……?」

 

「ああ」

 

ダンテはリベリオンへ視線を向ける。

 

「そして、幼い頃の俺に、この剣を託した」

 

「……」

 

儀玄は黙ってダンテを見る。

 

「魔剣……」

 

その言葉を、確かめるように呟いた。

 

ダンテはベッドから立ち上がると、福福のもとへ歩いていく。そして、リベリオンを手に取る。

 

「こいつは、俺が持ってる限り問題ない」

 

「……」

 

「だから、悪いが勝手に開けるのはこれっきりにしてくれよ」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

福福が慌てて頭を下げる。

 

ダンテは苦笑しながらリベリオンをケースへ戻した。

 

「まあ、気になるのは分かるけどな」

 

そして。

 

パチン。

 

ギターケースを閉じる。

 

儀玄は、その様子を静かに見つめていた。

 

――魔剣。

 

――青溟剣と近しい、異質な力を持つ刀剣。

 

そして、その剣を幼い頃から託されていたというダンテ。

 

一体、この男は何者なのか。

 

 

――――

 

 

――そして。

 

アキラとダンテは、労働者たちへの聞き込みを始めていた。

 

儀玄と福福、潘は別行動を取っている。儀玄たちは別の場所から情報を集め、葉釈淵はリンを迎えに行った後、戻り次第合流する予定だった。

 

その時だった。

 

「アンタ達よぉ……」

 

低い声が響いた。

 

アキラとダンテが振り向く。そこには、赤く染まった前髪と傷のある厳めしい顔をした、大柄な犬のシリオンが立っていた。その隣には、やや小柄な青年――パロがいる。

 

犬のシリオンは、二人を睨みつけた。

 

「さっきからうろちょろしやがって、何が狙いだ? ああ?」

 

パロが慌てて口を挟む。

 

「き、きっとポーセルメックスの刺客ですよっ……!」

 

「だから言ったでしょう!」

 

「ちょっと黙っとけ、パロ」

 

青年――狛野真斗が眉をひそめる。

 

「メンチ切ってる最中だろが……」

 

そして、再びアキラたちへ向き直った。

 

「もっかい聞くぞ……なにが狙いだコラ」

 

一歩。

 

真斗が近づく。

 

「ケンカ売りにきたってんなら買ってやるよ。とっととこの顔面に一発ぶち込め!」

 

「……。」

 

アキラが困惑する。

 

一方、ダンテは真斗の顔を眺めていた。

 

そして。

 

「おいおい」

 

ニヤリと笑う。

 

「お前は殴ってほしいのか? 奇特な人もいるものだな」

 

「アンタらのやり口だろが」

 

真斗は鼻を鳴らす。

 

「こっちが手ぇ出したくなるように揉めさせといて、いざ殴られたら被害者ぶって訴訟だ賠償だと……」

 

拳を握る。

 

「とっくにお見通しなんだよ。ぜってぇ先に手は出さねぇ!」

 

そして、胸を張った。

 

「オラ、やれよ。先攻はくれてやるって言ってんだ……」

 

真斗はニヤリと笑う。

 

「けどわかってんだろうな……一発入れたら、そっからは『正当防衛』だぜ」

 

「なるほど」

 

ダンテが楽しそうに笑う。

 

「ずいぶん律儀なケンカの売り方だな」

 

アキラが慌てて二人の間に入った。

 

「落ち着いてくれ。ポーセルメックスの人間じゃない」

 

「……あ?」

 

「僕はアキラ。適当観から派遣されてきたんだ」

 

「適当観……?」

 

真斗の表情が変わる。

 

その横でパロも目を瞬かせた。

 

「その……えーと、どっから来たって……?」

 

「適当観だよ」

 

「え、適当観!?」

 

二人が顔を見合わせる。

 

真斗は先ほどまでの険しい表情を少しだけ緩めた。

 

「……何が知りたいんスか?」

 

アキラは頷いた。

 

「中で事故が起きたと聞いて、ラマニアンホロウの状況を調べに来た。けれど、当のポーセルメックスが何も教えてくれないせいで、具体的なことが全くわからなくてね」

 

そして、真剣な表情で続ける。

 

「とにかく、TOPSと関係ないことだけは確かだ」

 

「……なるほどな」

 

真斗が腕を組む。

 

「そっちも、ポーセルメックスに手ぇ焼かされてるクチってわけか」

 

「そういうこと」

 

アキラが答える。

 

真斗は少し申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「すいません。早とちりしちまって……」

 

そして、自分の胸を軽く叩く。

 

「ジブンは狛野……狛野真斗っス」

 

「よろしく」

 

「俺はダンテだ。よろしくな」

 

「こちらこそ」

 

先ほどまでの険悪な空気が、少しだけ和らいだ。

 

だが、真斗の表情はすぐに真剣なものへと戻る。

 

「ダチが例の労災で入院する羽目になって、まだ意識が戻らねぇんだ」

 

「……。」

 

アキラの表情が曇る。

 

「だから何が起こったのかハッキリさせて、キッチリ落とし前をつけさせねぇと」

 

真斗は拳を握った。

 

「アンタもこの件を調査してくれてんなら、きっと助け合える」

 

その隣で、パロも頷いた。

 

「びっくりした……。ついにポーセルメックスが刺客を送り込んできたのかと思いましたよ……」

 

「君も、この事故を追っているのかい?」

 

アキラが尋ねる。

 

「はい」

 

パロは頷いた。

 

「僕も侵蝕事故を追っています」

 

「侵蝕事故?」

 

アキラが聞き返す。

 

「事情を知っているようだけれど、詳しく教えてくれないかい?」

 

「もちろんです」

 

パロは少しだけ息を呑んだ。

 

「なにせ僕は、病気になった人たちと同じチームにいたんです。侵蝕症状が起きるのを、この目で見ました……」

 

そこで、パロはゆっくりと語り始めた。

 

輝磁生産エリアで働く労働者たちは、旧都陥落の際に大なり小なり侵蝕を受けた者たちだった。そのため彼らは、ポーセルメックスから支給される安価な侵蝕緩和剤に頼っていた。

 

しかし、今回、その緩和剤に問題があったらしい。

 

複数人の労働者に、次々と侵蝕症状が現れたのだ。

 

そして事故を知ったダミアンは、ただちに緘口令を敷いた。さらに事故が起きたエリアを封鎖。労働者たちに対しては、詳しい説明もないまま「立入禁止」とだけ告げたという。

 

そのやり方に、労働者たちはひどく憤慨していた。

 

「いつもお世話になってるロア先生から、薬に問題があると聞いたのはその後でした……」

 

パロが悔しそうに俯く。

 

「ひどい粗悪品らしくて……」

 

「……。」

 

「どうやら、あの悪徳企業……僕たちの命なんて、はなから眼中になかったんです!」

 

「そんなひどいことを……」

 

アキラが拳を握る。

 

「ポーセルメックスは、平気でそんなことをやっていたって言うのか?」

 

「ああ」

 

真斗が答えた。

 

「それにダミアンは事故の起きたエリアを封鎖した。『あそこは廃棄された』の一点張りだ。もはや近づくこともできねぇ」

 

「……。」

 

アキラは黙り込む。

 

あまりにも不自然だった。

 

事故。

 

粗悪な薬。

 

侵蝕症状。

 

そして、事故現場の封鎖。

 

「雲行きは、とことん怪しいな……」

 

アキラは静かに呟いた。

 

「やはり何とかして、問題のエリアに行ってみないと」

 

「でも」

 

パロが不安そうに言う。

 

「封鎖されているんですよ?」

 

「分かっている」

 

アキラは頷いた。

 

「だからこそ、協力者が必要なんだ」

 

そして、アキラは二人を見る。

 

「本当のことを言うと、僕は市長その人に派遣された調査員だ」

 

「……!」

 

真斗とパロが目を見開く。

 

「彼は、ホロウの中でいったい何が起きたのかを解明したがっている。だから僕たちはここに来た」

 

アキラは真剣な目で続ける。

 

「協力してくれたら、きっと僕たちも助けになる。それこそ、十分な補償を勝ち取る手伝いだってできるかもしれない」

 

「そ、それは……」

 

パロが言葉を詰まらせる。

 

その横で、真斗の目が大きく見開かれた。

 

「市長の……調査員だって?」

 

そして、真斗はパロの肩を叩く。

 

「こりゃチャンスだぞ、パロ!」

 

「ここで賠償金が勝ち取れりゃ、アンタの家族も侵蝕の治療ができるかもしれねぇ!」

 

「……。」

 

パロはしばらく黙っていた。

 

やがて。

 

「そう、ですね……」

 

小さく頷く。

 

「雲嶽山の先生方には、旧都陥落の時もずいぶんお世話になったことですし……」

 

そして、顔を上げた。

 

「わかりました!」

 

「協力します!」

 

「それなら、ホロウ内にあるロープウェイまで来てください。こっそり乗せてもらえるよう、同僚には頼んでおきます!」

 

「本当かい?」

 

「はい」

 

パロは頷いた。

 

「僕では侵蝕エリアの中までお連れできませんが、助けてくれそうな人を知ってるんです。それに、彼なら今回の侵蝕事故についても詳しい!」

 

「ありがとう……」

 

アキラは安堵したように笑った。

 

「安心してほしい。この件は必ずはっきりさせてみせる!」

 

「おし……」

 

真斗も拳を握る。

 

「ジブンにできることがあったら、なんでも言って下さい。本気でやります!」

 

「それなら」

 

アキラがふと思い出したように言った。

 

「もう一つ聞きたいことがあるんだ」

 

アキラは端末を取り出した。

 

そして、市長から渡されていた写真を表示する。

 

「この写真に写っている人を、衛非地区で見かけてないかい? 撮影場所だけでもわかったらありがたいんだけれど……」

 

真斗とパロが写真を覗き込む。

 

「……。」

 

パロが首を傾げる。

 

「うーん……僕は見かけたことないですね。場所についても、ホロウの中らしいということしか……」

 

「そうか」

 

アキラが頷く。

 

真斗も写真をじっと見つめる。

 

「すんません。ジブンもちょっと……」

 

そこで、真斗が顔を上げた。

 

「けど、顔の広いダチがいるんで、聞き込みしてもらいます!」

 

「それは助かるよ」

 

アキラが笑う。

 

「ありがとう」

 

こうして、アキラとダンテは新たな協力者を得た。

 

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