悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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Wanna know the name?


『『Devil May Cry』』


第三十四話 災厄兵器

 

 

 

情報を聞き終えたアキラとダンテは、適当観へ戻るために歩いていた。

 

「それにしても……」

 

アキラは先ほど聞いた話を思い返す。

 

「まさか侵蝕緩和剤そのものに問題があったなんてな」

 

「ああ」

 

隣を歩くダンテが答える。

 

「薬が原因で複数の人間が侵蝕症状を起こした。なのに会社は現場を封鎖して、何も説明しない……か」

 

「明らかに何か隠している」

 

「だな」

 

ダンテはそう言って――ふと、足を止めた。

 

「……ん?」

 

「どうした?」

 

アキラが振り返る。

 

ダンテの視線の先には、一軒の店があった。

 

――骨董屋『不隠れ』。

 

店先には雑多な骨董品が並べられている。その中に、ダンテの目を引くものがあった。

 

「……あれは」

 

商品棚の隅に置かれていたのは、一見すると何の変哲もないアタッシュケースだった。

 

だが、ダンテには、それがただのアタッシュケースではないことが分かった。

 

見覚えがある。

 

「あのケース……」

 

ダンテは目を細める。

 

「アキラ、悪い。先に帰っててくれ」

 

「え?」

 

「ちょっと用事ができた」

 

そう言うなり、ダンテは店へと歩いていった。

 

「ちょ、ダンテ!」

 

呼び止めようとしたアキラだったが、ダンテは振り返らない。

 

「……まあ、いいか」

 

アキラは小さくため息をつく。

 

「適当観で待ってるとするか」

 

そうしてアキラは先に帰っていった。

 

一方、ダンテは骨董屋『不隠れ』へ入る。

 

「いらっしゃい」

 

店員が声をかける。

 

だが、ダンテは挨拶もそこそこに、先ほど目に留まったアタッシュケースを指差した。

 

「なあ。あれ、どこで手に入れた?」

 

「ああ、それですか?」

 

店員は商品棚へ目を向ける。

 

「ホロウで見つけたんですよ。ずいぶん変わったケースだったんで拾ってきたんですけどね」

 

「ホロウで?」

 

「ああ。けど、どうやっても開かなくて」

 

店員は肩をすくめた。

 

「鍵もないし、壊れてるんでしょう。だから不良品ですよ」

 

「……なるほどな」

 

ダンテはケースをじっと見つめる。

 

その外見。質感。そして、わずかに感じる魔力。

 

間違いない。

 

「いくらだ?」

 

「え?」

 

「これ」

 

ダンテはアタッシュケースを指差した。

 

「売ってくれ」

 

店員は目を丸くした。

 

「そんな不良品を?」

 

「構わない」

 

ダンテは財布を取り出した。

 

「金ならある」

 

「……まあ、買ってくれるってんなら」

 

店員は提示された金額を確認し、ケースをダンテへ手渡した。

 

「毎度あり」

 

ダンテはアタッシュケースを受け取る。そして、ほんの少しだけ口元を吊り上げた。

 

「……まさか、こんなところで見つかるとはな」

 

ケースは何も答えない。

 

だが、その中に眠るものをダンテは知っていた。

 

――災厄兵器パンドラ。

 

かつて魔界の名工マキャヴェリによって生み出された、恐るべき魔具。

 

アタッシュケースという姿は仮のもの。その内部には変形機構が組み込まれており、数多の形態へと姿を変える。

 

そして、存在する変形バリエーションは――六百六十六。

 

それぞれが、パンドラの箱から漏れ出した災厄を示す名を持つ。

 

「……随分と懐かしい顔をしてるじゃねぇか」

 

ダンテはケースを肩に担ぐ。

 

そのまま店を出て、適当観へ向かって歩き始めた。

 

――――

 

――適当観。

 

アキラが戻ってくると、すでに儀玄たちは集まっていた。

 

儀玄が弟子たちを見回す。

 

「どうだ弟子たち、調査は捗っているか?」

 

「すいませんお師さん、おれんとこはボウズで……」

 

潘引壺が申し訳なさそうに頭を掻く。

 

「私もですぅ……」

 

橘福福も困ったように続けた。

 

「ポーセルメックスがしっかり緘口令を敷いてるみたいで、何があったかだ~れも教えてくれません!」

 

「ホロウにあるロープウェイも行ってみたんですけど……」

 

福福は肩を落とす。

 

「どさくさに紛れて入るのは、ちょっと無理がありそうでした~……。ホロウに入る方法から考えないとダメですねぇ。うーん……このあいだの船頭さんに、またお願いしちゃいますか?」

 

「心配いらない」

 

アキラが答えた。

 

「僕の方で労働者と話をつけた。ホロウの中まで連れて行ってくれるそうだ」

 

「えっ?」

 

福福が顔を上げる。

 

「その人は労災の当事者でもあったから、直接話を聞けたんだ。TOPSが支給していた侵蝕緩和剤のせいで、侵蝕症状を起こす労働者が続出したらしい」

 

「なるほど……だからみんな賠償金だけじゃなくて、医療費も欲しいって言ってたんですねっ」

 

儀玄は腕を組む。

 

「アキラ、その情報は確かか?」

 

「もちろん嘘をついてるようには見えなかった。とはいえ、現場を調べないことにはなんともだな」

 

アキラはそこで、ふと思い出したように続けた。

 

「そういえば、こんなこともあった。僕が適当観から来たと言ったら、彼はすぐ警戒を解いてくれたんだ。どうも彼らは、昔助けてもらったことがあると……」

 

儀玄は静かに目を細める。

 

「ああ、まさに昔のことだ」

 

そして、遠い記憶を思い返すように語った。

 

「旧都が陥落したあのとき、雲嶽山は山を下りて住民の避難を手伝った。当時生き残った人々は、衛非地区にも移り住んでいる」

 

「もっとも、それを境に、我らが適当観を訪れることはあまりなくなったが……」

 

儀玄は少しだけ寂しそうに笑う。

 

「そうか……あれからずいぶん経つが、まだ覚えてくれている者もいるのか」

 

「そうだったのか……」

 

アキラも頷いた。

 

「道理であのとき、船頭さんがお金を受け取ってくれなかったわけだ」

 

そして、ふと疑問を口にする。

 

「ただ、こっちに来なくなってしまったのはなぜだ? 適当観のまわりも居心地よさそうだけれど……」

 

「「「…………」」」

 

その場の空気が、わずかに固まった。

 

「……あー、コホンコホン……!」

 

福福がわざとらしく咳払いする。

 

「ちょっと話題を変えませんかっ……!?」

 

「そ、そうだそうだ!」

 

潘も慌てて声を上げた。

 

「ホロウへ行く前に腹ごしらえしておかないか? よし、ちゃちゃっと作ってくるかあ!」

 

「取り乱すな阿呆」

 

儀玄が呆れたように言う。

 

「昔のことだと言ったろうが。いずれ機会があれば、彼らにも話すさ」

 

そして、パンと手を叩いた。

 

「さあ、今は調査に集中するぞ」

 

「はーい……」

 

福福が頷く。

 

その直後、ふと思い出したようにアキラへ尋ねた。

 

「そういえばダンテさんは今どこにいるんですか?」

 

「先に帰ってくれと言われてね」

 

アキラは苦笑する。

 

「どこにいるかはわからないけど、もうすぐ帰ってくるんじゃないかな」

 

――その時。

 

適当観の扉が開いた。

 

「よう」

 

全員が振り向く。

 

そこに立っていたのは、ダンテだった。

 

「ダンテさん!」

 

福福が声を上げる。

 

「おかえりなさいです~!」

 

「ああ、ただいま」

 

ダンテはいつもの調子で答える。

 

だが、アキラはすぐに気づいた。

 

「……ん?」

 

ダンテの手には、一つのアタッシュケースが握られていた。

 

「ダンテ」

 

「ん?」

 

「そのアタッシュケースは何だい?」

 

アキラが尋ねる。

 

ダンテはケースを見下ろした。

 

そして。

 

ニヤリ。

 

「秘密だ」

 

ダンテは笑うだけだった。

 

 

――――

 

 

――翌日。

 

準備を済ませた一行は、パロが指定した集合場所へと集まっていた。

 

周囲を確認していたパロが、全員の顔を見回す。

 

「全員揃いましたか? 準備ができたら、ホロウに案内しますので」

 

「ああ、みんな揃っている。出発できるよ」

 

アキラが頷き、目の前にあるロープウェイへ視線を向けた。

 

「ロープウェイで生産エリアに入るのかい?」

 

「ええ」

 

パロもロープウェイを見上げる。

 

「ここのケーブルは安定した大型の裂け目と繋がっていて、ポーセルメックスがホロウ内外を行き来しやすくするために、ロープウェイを設置したんです」

 

「なるほど……」

 

アキラは頷いた。

 

パロは懐から一枚のIDカードを取り出す。

 

「交代した同僚からIDカードを借りてきたので、これで一緒に生産エリアに入りましょう。後で労災に詳しい人を君たちに紹介します」

 

「助かるよ」

 

「でも、ホロウに入ったら下手に動き回らないでくださいよ」

 

パロは少し心配そうな表情になる。

 

「この辺りはミアズマが多いし、迷子になったら大変ですから!」

 

「ああ、分かった。心配しないでくれ。安全にはしっかり気を配るさ」

 

アキラが答える。

 

「よし、じゃあロープウェイに乗りましょうか!」

 

パロの案内に従い、一行はロープウェイへ乗り込んだ。

 

扉が閉まる。

 

ゴウン……。

 

低い駆動音が響き、ロープウェイがゆっくりと動き始める。窓の向こうに広がる景色が、徐々に変化していく。

 

やがて、黒く巨大な空間が視界を覆った。

 

――ラマニアンホロウ。

 

一行は再び、その内部へと足を踏み入れる。

 

――――

 

しばらくして。

 

一行はラマニアンホロウ内部を歩いていた。

 

福福が周囲を見回す。

 

「前に来たときよりも、なんだか嫌な感じがしますねぇ……」

 

「気を抜くな」

 

儀玄が周囲を警戒する。

 

「ホロウ内では何が起こるかわからん」

 

「分かってますって~」

 

福福はそう答えながらも、手にした武器を構える。

 

潘も周囲を見回していた。

 

「しかし、こうして見るとやっぱり広いなあ……」

 

「油断するな、潘」

 

「へいへい、お師さん」

 

その時だった。

 

――ガサッ。

 

「……?」

 

全員の足が止まる。

 

前方。

 

何かが蠢いていた。

 

「何かいる」

 

アキラが低い声で言う。

 

次の瞬間。

 

「ギィィィィッ!」

 

エーテリアスが姿を現した。

 

さらに、その背後から、いくつもの影がゆっくりと姿を現す。

 

「……なんだ、あれ?」

 

潘が目を細める。

 

それは、エーテリアスとは明らかに違っていた。

 

全身を覆っているのは、まるで継ぎ接ぎだらけの麻袋。その両腕には、古びた刃物が取り付けられている。顔には不気味な仮面。

 

そして――その身体の内部から、無数の甲虫が蠢いていた。

 

「……エーテリアスじゃない?」

 

福福が呟く。

 

その怪物は、ゆっくりと首を傾ける。

 

「ケケケケケ……」

 

まるで笑っているような声が響いた。

 

「なんなんですか、あれぇ……!」

 

福福が思わず後ずさる。

 

儀玄も目を細めた。

 

「……未知の怪物か」

 

その怪物の名は――スケアクロウ。

 

這い寄る魔蟲。

 

魔界の甲虫の群れが麻袋に入り込んだ低級悪魔。手に付けている刃は、昔処刑用に使われていた物。そして、顔には仮面まで付いている。

 

一見すれば、ただのツギハギだらけの麻袋。

 

だが、その内部には無数の魔蟲が蠢いている。そして何より――虫の群れであるにもかかわらず、スケアクロウは楽しそうに笑っていた。

 

「ケケ……ケケケケ……!」

 

「……気持ち悪いですねぇ」

 

福福が顔をしかめる。

 

「でも、来るなら迎え撃つしかないか!」

 

潘が構える。

 

儀玄も静かに腰を落とした。

 

「二人とも、油断するな」

 

三人が戦闘態勢に入る。

 

エーテリアスとスケアクロウが、一斉に動こうとした。

 

その時だった。

 

「待て」

 

低い声が響いた。

 

「……?」

 

三人が振り返る。

 

その横を――一人の男がゆっくりと歩いていく。

 

赤いコート。

 

白い髪。

 

そして、その背中には巨大な魔剣が背負われていた。

 

――リベリオン。

 

だが、ダンテはその魔剣へ手を伸ばさなかった。

 

彼が握っていたのは――昨日、骨董屋で手に入れたアタッシュケース。

 

「ダンテさん?」

 

福福が目を丸くする。

 

「どうしたんですか?」

 

ダンテは答えない。

 

ただ、目の前の怪物を見据えていた。

 

スケアクロウが仮面の奥からダンテを見つめる。

 

「ケケケケ……!」

 

「……」

 

ダンテは無言でアタッシュケースを持ち上げた。

 

その表情には、昨日までとは違う笑みが浮かんでいる。

 

「久しぶりだな」

 

「こいつを使うのは」

 

その手にはパンドラが握られていた。

 

「……さて」

 

ダンテがケースを構える。

 

「どれだけ通用するか試してみるか」

 

スケアクロウが腕の刃を振り上げる。

 

「ケケケケケケッ!」

 

エーテリアスも咆哮を上げ、一斉に襲いかかってくる。

 

「ダンテさん!」

 

福福が叫ぶ。

 

だが、ダンテは振り返らない。

 

「……来い」

 

ダンテは笑った。

 

「災厄をぶちまけようぜ」

 

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