『『Devil May Cry』』
スケアクロウとエーテリアスが、一斉にダンテへ襲いかかった。
「ケケケケケッ!」
麻袋の身体が跳ね、腕に取り付けられた刃が左右からダンテを挟み込むように振り下ろされる。同時に、周囲のエーテリアスも爪を振り上げた。
だが――ダンテはパンドラを地面に置いた。
次の瞬間、アタッシュケースが輝く。
ガキンッ!
複数の砲身がせり出し、六つの銃口が一斉に怪物たちへ向いた。そのまま引き金を引く。
ダダダダダダッ!
凄まじい連射音。無数の弾丸が飛び出し、先頭のエーテリアスを蜂の巣にする。
「ギィィィッ!」
吹き飛ぶ。
さらに横から迫っていた別のエーテリアスにも弾丸が叩き込まれ、その身体が大きく仰け反った。
ダンテは一歩も動かない。パンドラだけが唸りを上げ続ける。
「ケケケケケ!」
スケアクロウが刃を振り下ろす。
ダンテは身体を僅かに傾けた。刃が赤いコートの脇を掠める。
「おっと」
「まだ終わりじゃないだろ?」
ダンテが笑う。
その言葉に応えるように、パンドラが再び変形した。砲身が収納され、代わって巨大な三つの砲門が展開する。
「……こいつはどうだ?」
ドンッ!
三発の大型弾頭が一斉に放たれた。
一発目が地面を抉り、二発目がエーテリアスの群れへ直撃する。そして三発目がスケアクロウへ叩き込まれた。
――ドォォォン!!
爆炎がホロウの空間を赤く染める。衝撃波が一行のところまで届き、福福が思わず目を閉じた。
「わぁっ!?」
「……!」
儀玄が腕で顔を庇う。
やがて爆炎が晴れる。
そこには、無数のエーテリアスが転がっていた。その中でスケアクロウだけが、まだ立っている。
身体は大きく損傷していた。
しかし。
「ケ……ケケ……」
笑っている。
そして、残った力を振り絞るようにダンテへ向かって跳びかかった。
その瞬間、パンドラが再び変形した。
今度は円形に連なる刃。
ダンテはそれを軽く振り抜く。
円盤状の刃が高速回転しながら飛翔した。
ギュルルルルッ!
スケアクロウの身体を横切る。
一度、二度、三度。
回転する刃が何度も怪物を切り裂き、そのまま大きく弧を描いて戻ってくる。
ダンテは片手を伸ばした。
パシッ。
戻ってきた刃を掴む。
そして、ダンテの手の中でパンドラが再び姿を変えた。
巨大な浮遊砲台。
ダンテの周囲に展開した砲台が、一斉にスケアクロウへ照準を合わせる。
「さあ、派手にいこうぜ」
――ドドドドドドドドッ!!
大量のミサイルが放たれた。
空中を飛翔したミサイルが一斉に軌道を変え、スケアクロウへ殺到する。
「ケ――」
直後。
巨大な爆発が起こった。
「――ケケ……!」
爆炎の中から、無数の甲虫が飛び散る。
そして、その中心にいたスケアクロウの身体が、ゆっくりと崩れ落ちた。
完全に沈黙する。
周囲に残っていたエーテリアスも、すでに動くものはいなかった。
「…………」
静寂。
福福は呆然とダンテを見つめる。
「……えっと」
潘も口を開けたまま固まっている。
「終わった……?」
「そのようだな」
儀玄が答える。
ダンテは周囲を見回し、それからパンドラを見る。
その顔に満足そうな笑みが浮かぶ。
「ちゃんと動くじゃねぇか」
アキラが恐る恐る近づいてくる。
「ダンテ……そのケース、昨日買ったばかりだよな?」
「ああ」
「……何なんだ、それ」
「魔具だ」
「またそれか……」
アキラが呆れたようにため息をつく。
その一方、ダンテは再びパンドラを眺めていた。
そして――。
「……まだ一つ、試してないな」
パンドラがゆっくりと姿を変える。
アタッシュケースへ戻った。
ダンテはケースを地面へ置いた。
「せっかくだ」
「これも試してみるか」
ダンテが足を掛ける。
カチッ。
ケースが展開を始めた。
周囲の空気が震える。
「……?」
福福が首を傾げる。
儀玄だけが、何かを察したように目を見開いた。
「待て」
「ん?」
ダンテが振り返る。
儀玄は無言で歩み寄る。
そして――。
パタン。
何の説明もなく、儀玄は展開しかけていたパンドラを無言のまま閉じた。
しばしの沈黙。
やがてダンテは、肩をすくめた。
「……分かったよ」
パンドラを片手で持ち上げる。
「次の機会にするか」
儀玄は満足そうに頷いた。
その横で福福と潘は、いったい何が起きたのか分からず、ただ二人を交互に見つめていた。
アキラだけが、小さく呟く。
「……あのケース、いったい何なんだ……?」
ダンテは答えなかった。
ただ、パンドラを肩に担ぎながら、何事もなかったかのように歩き始めた。
――――
しばらく進んでいると、前方から一人の男がこちらへ歩いてくるのが見えた。
「おお、パロの言ってた調査員さんたちだな!?」
男は一行の姿を確認すると、嬉しそうに声を上げた。
「よかった、おかげでポーセルメックスと交渉ができそうだよ」
アキラが歩み寄る。
「名前を聞いても?」
「エリックだ。ポーセルメックス従業員互助会の責任者をやってる。普段は困ったことがあったときの支援や、救助活動なんかを組織してるのさ。このあいだの労災については、もう知ってるだろう?」
「だいたいの経緯は聞きましたっ。侵蝕緩和剤に問題があって、ホロウで採掘をしてたみなさんに侵蝕症状が起きちゃったんですよね?」
福福が答えると、エリックの表情が険しくなった。
「ああ、そうだ。労災が起きてからこの方、みんなを集めてダミアンに賠償のことを直談判しようとしてるんだが……やっこさん、のらりくらりとかわしてやがる。どうせ賠償金を渋れるだけ渋ろうって魂胆だろう。何か打つ手がないか探してるとこなんだ」
エリックは拳を握りしめる。
「行動を起こすときだ。これ以上好き勝手させてたまるものか」
「なにかプランはあるのか?」
ダンテが尋ねる。
「ポーセルメックスが強硬な態度を取れるのは、なんといっても俺たちに証拠がないからだ。奴らにかかれば、労働者たちの集団入院も『偶然、旧都陥落時の後遺症が出た』ってことで片付けられちまう」
エリックは一行を真っ直ぐに見据えた。
「だから、ポーセルメックスの薬に問題があるって証拠を探すんだ! 確固たる証拠さえあれば、みんなでやつらの不正にバシッと抗議できる!」
「でもでも……」
福福が少し不安そうに口を挟む。
「侵蝕の後遺症がある人たちにとって、安価な緩和剤が必要なことは変わりないんですよね? 証拠をつかんでも交渉が決裂しちゃったら、しばらくはお薬に困っちゃうことになりませんか?」
「そう、それが今までみんなが我慢してきた理由なんだ」
エリックは頷いた。
「ところが最近、事情が変わってきてな……!」
その表情が、少しだけ明るくなる。
「ロアさんというお医者先生が、俺たちにもっと安価な侵蝕緩和剤を提供してくださったんだ! ポーセルメックスの支配を振り切る決心がついたのは、彼のお陰と言っていい……。いまや互助会でも中心的な存在だよ」
「それはすごいな」
アキラも感心したように頷いた。
「そのロア先生が、どうやって安価な緩和剤を配れているのかは気になるけれど」
「専門的なことは俺にもわからない。人を集めて独自に薬を作ってるとか、ポーセルメックスがホロウに廃棄した設備を流用しているとか聞いたな」
「それ……あんまり安全じゃなさそうに聞こえますけどね……」
福福が困ったように言う。
「そんなの気にしちゃいられない!」
エリックは即座に言い返した。
「ここで抵抗しなかったら、本当に俺たちはお先真っ暗なんだ」
そして、何かを思い出したように続ける。
「そうそう……ロア先生はちょうど事故のあったエリアで、ポーセルメックスを追究できる証拠を探すそうだ。もしよかったら、そこで色々聞いてみちゃどうだい?」
「わかった、色々とありがとう……」
アキラが頷く。
「もう一つだけ聞きたいのだけれど、この写真に写っている人を見ていないかい?」
アキラは例の写真をエリックへ見せた。
「それか、撮られた場所がわかるだけでもいいんだ」
エリックは写真を覗き込み、しばらく考え込む。そして、写真に写り込んだ景色を注意深く見る。
「うーん……少なくともこのへんでは見かけてないな。ただ、かなりミアズマが写りこんでいるようだし、場所はラマニアンホロウの深部じゃないか?」
「俺にわかるのはそれぐらいだな」
「そうか……ありがとう。また他の人にも聞いてみよう」
アキラが写真をしまう。
「それじゃあ、ロア先生を探すとするか」
「おう。気をつけてな!」
一行はエリックに別れを告げ、その場を後にした。
ラマニアンホロウの奥へ続く道を進んでいく。
「ロア先生、か……」
ダンテが呟く。
その声が、薄暗いホロウの中へ静かに消えていった。