『『Devil May Cry』』
讃頌会の者たちと、変貌したエーテリアスが一斉に襲いかかってくる。
「来ますよっ!」
福福が身構えた。
「任せろ!」
儀玄が前へ出る。
次の瞬間、襲いかかってきたエーテリアスの攻撃を軽々とかわし、その懐へ入り込む。掌底が叩き込まれ、強烈な衝撃と共にエーテリアスの身体が吹き飛んだ。
「はあっ!」
福福も負けじと拳を振り抜く。
ドンッ!
直撃を受けたエーテリアスが地面を転がる。
「まだまだですっ!」
福福はそのまま別の敵へと飛びかかり、連続して拳を叩き込んでいく。
一方、潘も冷静に敵の動きを見極めていた。
「そこだ!」
攻撃をかわし、相手の隙を突いて反撃する。讃頌会の男が体勢を崩したところへ、さらに一撃を加えて無力化した。
「よし……これで一人!」
その横を、銃声が駆け抜ける。
――ズダンッ!!
「ギィッ!」
エーテリアスの頭部を弾丸が撃ち抜いた。
「こっちだぜ」
ダンテだった。
エボニー&アイボリーを両手に構え、次々と引き金を引いていく。
――ズダダダダダッ!!
正確無比な弾丸がエーテリアスの身体を次々と貫き、敵が倒れていく。
「ギィィィッ!」
背後から別のエーテリアスが襲いかかる。
ダンテは振り返りざまに片方の銃を突き出した。
「遅い」
――ズダンッ!!
至近距離から放たれた弾丸がエーテリアスを吹き飛ばす。
さらに、襲いかかってきた讃頌会の男の拳を片手で受け止める。
「なっ……!」
「悪いな」
ダンテはそのまま拳を叩き込んだ。
ドゴッ!
男はその場で意識を失い、崩れ落ちる。
ダンテは倒れた男を一瞥すると、再び銃口をエーテリアスへ向けた。
――ズダダダダダッ!!
最後のエーテリアスが倒れる。
そして――。
「これで終わりか……?」
辺りには、倒れた讃頌会の者たちとエーテリアスが転がっている。
「どうやら、そのようだな」
儀玄が息を吐く。
「ふう……」
福福も肩の力を抜いた。
「やりましたねっ!」
しかし。
その瞬間だった。
「――ギィィィ……」
アキラの背後。
倒れていたエーテリアスの一体が、ゆっくりと身体を起こした。
その身体には異様なほどのエーテルが集まり、赤黒い光が明滅している。
「アキラ、後ろだ!」
儀玄が叫んだ。
「え――?」
アキラが振り返る。
だが、遅い。
エーテリアスの身体が大きく膨れ上がる。
自爆。
そう判断した儀玄は、一瞬でアキラのもとへ駆け出した。
儀玄はアキラを抱えると、そのまま横へ飛び込む。
次の瞬間。
ドォォォォォン!!
凄まじい爆発がホロウ内に響き渡った。
衝撃波が一行を襲い、周囲の床や壁が大きく揺れる。
「大丈夫か?」
儀玄が聞く。
だが――。
二人の身体には、自爆したエーテリアスから飛び散ったミアズマが僅かに付着していた。
「――アキラ」
突然、聞き覚えのある声がした。
「……?」
アキラが振り返る。
そこには――。
「カローレ……?」
見慣れた女性が立っていた。
「アキラ」
カローレは優しく微笑む。
「体、辛くはない?」
「……先生?」
アキラは呆然とする。
「またボーっとして……」
その声が、どこか遠くから響いてくる。
「……え?」
アキラが目を細める。
その瞬間。
別の声が聞こえた。
「聞いて……」
「……?」
「受け入れよ……」
「真実を……」
その声は、頭の中へ直接響いてくるようだった。
「――っ!」
アキラが頭を押さえる。
「アキラ!」
遠くから声が聞こえる。
次の瞬間、ダンテ、福福、そして潘が駆けつけてきた。
「大丈夫か?」
ダンテがアキラの肩を支える。
「いまのは……幻?」
アキラは息を乱しながら呟く。
福福が心配そうに顔を覗き込む。
「あのぅ……平気ですか?」
「……師匠……」
アキラは儀玄を見る。
儀玄はアキラの様子を静かに見つめていた。
――――
場面は変わり、ホロウのどこか。
薄暗い空間。
その中央には、異様な紋様が描かれた祭壇が置かれている。
ロア先生は、その場にいた。
「司教様」
静かな声が響く。
「雲嶽山の連中に、我々の儀式のひとつを妨害されましてございます」
サラが答える。
「雲嶽山……」
「ずいぶん早く、私たちのことを突き止めたものね」
「ご心配には及びません」
ロアは答える。
「市内の拠点にいる者たちはすでに撤収させ、物資も全てホロウに移しました」
「全ては、計画通りに進んでおります……」
「連中が何を企んでいようと、我々を阻止することなどできません」
「始まりの主の儀式は……つつがなく、執り行われることでしょう……」
その言葉に、サラは僅かに笑った。
「そう。ならば問題はないわね」
その時だった。
「そして例の悪魔はどうだ?」
低く、不気味な声が響く。
メヴォラクだった。
ロアはすぐにそちらへ向き直る。
「彼には招待状を送っております」
「……よろしい」
メヴォラクは目を細める。
「ホロウの内も、外も、主の御意思のままに……」
「一切は静寂へと帰すでしょう」
その言葉が、暗闇の中へ静かに消えていった。
――――
「ぜんぶ、讃頌会がうしろにいたってこと……?」
リンが険しい表情で呟いた。
「治療っていう建前で行われてたのは、讃頌会による生贄の儀式……」
「なるほど……」
葉釈淵が静かに頷く。
「ロア先生が意図的に虚言を広め、対立を煽っていたのは……人々を欺き、薬を飲ませるためだったのですね」
「それの行きつくところが、所謂『儀式』であったと……」
「……軽蔑に値する所業です」
「みんなが生贄にされるところを……」
福福は拳を強く握り締める。
「ただ、見てることしかできませんでした……」
そして、顔を上げる。
「讃頌会も、ロア先生も……あたし、ぜっっったいに許しません!」
「……ああ!」
潘も力強く頷いた。
「福姐の言う通りだ! あんな罰当たりども、何があろうと許してなるものか!」
「みんな、一旦冷静になったらどうだ?」
ダンテが二人を宥める。
「ダンテの言う通りだ」
アキラも頷いた。
「讃頌会にはいつか、絶対にこの落とし前をつけてもらう……けれど今は、次の狙いを阻止することを優先すべきだ」
アキラは真剣な表情で続ける。
「ロア先生が『治療』を施したのは、あの場にいた人だけに留まらない。今もたくさんの人たちが命の危険に晒されている」
「彼らの侵蝕症状は、いつ一線を越えてもおかしくないんだ……」
「僕たちは急いで、被害者の正確な数を把握する必要がある」
「あっ!」
リンが声を上げた。
「ロア先生の診療所!」
「手掛かりがあるとしたら、まずはあそこじゃない?」
「僕が行こう」
アキラが立ち上がる。
「役立ちそうな手掛かりを探してくる」
「お弟子さん、危ないからあたしも一緒に行きます!」
福福も立ち上がった。
「讃頌会の人たちが出てきたら、福福の鉄拳をお見舞いしてやりますよっ!」
「潘、釈淵」
儀玄が二人を見る。
「労働者達にこのことを知らせて来い。これ以上被害者が増える前にな」
「ええ、僕と潘にお任せください」
葉釈淵が頷く。
「互助会にもすぐ連絡を取って、真実を伝えてくるぞ!」
潘も頷いた。
それぞれが動き始める。
アキラと福福はロアの診療所へ向かい、潘と葉釈淵は労働者たちへ事情を伝えるために適当観を出ていく。
そしてダンテは、一度自分の部屋へ戻ることにした。
「……少し休むとするか」
部屋へ戻ったダンテは、椅子へ腰を下ろす。
しかし、その直後だった。
「……ん?」
机の上に、見覚えのない封筒が置かれている。
ダンテは眉をひそめた。
「手紙……?」
封筒には、差出人の名前が書かれていない。
だが、裏面に刻まれた文字を見た瞬間、ダンテの表情が変わった。
「……ロアか」
ダンテは封筒を開く。
中には、一枚の紙が入っていた。
そこに書かれていたのは、短い文章だった。
『一人でラマニアンホロウへ来い』
『さもなくば、人間が何人か犠牲になる』
「…………」
ダンテは黙って手紙を見つめる。
普通なら、誰かに相談するところだろう。
アキラや儀玄に知らせることもできる。
だが――。
「……面倒なことになったな」
ダンテは手紙を折り畳む。
讃頌会が何を企んでいるのかは分からない。
しかし、ロアがわざわざ自分を名指しして呼び出した以上、何か目的があることだけは確かだった。
「人間を犠牲にする、ねぇ……」
ダンテは小さく息を吐く。
「随分と古典的な脅し文句だ」
それでも。
その手紙を無視するつもりはなかった。
「俺一人なら、どうとでもなる」
ダンテは立ち上がる。
リベリオンを背負い、エボニー&アイボリーを確認する。
そして、誰にも何も告げることなく部屋を出た。
「ラマニアンホロウ……」
ダンテは適当観を後にする。
その背中を見送る者は、誰もいなかった。
「さて……」
「どんな歓迎をしてくれるのか、楽しみだぜ」
そう呟きながら、ダンテは一人、ラマニアンホロウへ向かって歩き始めた。
――――
ロアは讃頌会の人間だった。
彼は侵蝕緩和剤を意図的に汚染することで、先の労災を引き起こした。
そして、その事故を利用してポーセルメックス製の薬剤に対する不信感を煽り、人々を別の治療法へと誘導したのだ。
その先にあったのが、「解悩水」だった。
ミアズマを混ぜた解悩水を人々に与え、あたかも侵蝕症状を緩和する薬であるかのように信じ込ませる。
そうして人々を依存させ、最終的には怪しげな儀式のための「供物」として利用する。
そして、ラマニアンホロウ内部の観測データに異常な数値が出ていた理由も判明した。
讃頌会がホロウに何かを仕掛けようとしており、その観測を妨害するために意図的な干渉を行っていたのだ。
「……つまり、最初から全部仕組まれていたってことか」
アキラが険しい表情で呟く。
「労災も、解悩水も……ラマニアンホロウの異常も」
リンが頷く。
「うん。全部、讃頌会の計画につながってるみたい」
その時だった。
福福が周囲を見回す。
「……あれ?」
「どうした?」
「ダンテさんがいません」
「……え?」
アキラも辺りを見回す。
確かに、ダンテの姿がない。
「ダンテは?」
儀玄が尋ねる。
「さっきまでいたはずだけど……」
潘が首を傾げる。
「部屋じゃないか?」
一行は急いでダンテの部屋へ向かった。
しかし、そこにもダンテの姿はなかった。
部屋の中を確認していると、机の上に一枚の紙が置かれていることに気づく。
「……これ」
アキラが紙を手に取る。
そこには、短い文章だけが書かれていた。
『ラマニアンホロウに行ってくる』
「…………」
一行の間に、嫌な沈黙が流れる。
「まさか……」
福福の頬が引きつる。
「一人で行ったんですか……?」
儀玄は黙って紙を見つめていた。
「……あの馬鹿者め」
その声には、明らかな怒気が混じっていた。
だが、その時だった。
突然、外から苦しそうな声が聞こえた。
「何だ!?」
一行が外へ飛び出す。
すると、通りにいた人々が次々と胸を押さえて苦しんでいた。
なんと、初期の「解悩水」服用者たちが、一斉に侵蝕症状を発症した。
街の各所から、苦しむ人々の報告が相次いで届く。
このままでは、発症した患者から漏れ出したエーテルが衛非地区へ拡散してしまう。
事態を察した儀玄は、すぐさま患者たちのもとへ向かった。
「このままでは間に合わん……!」
そして儀玄は雲嶽山のみんなの手を借り大規模な術法を使用した。
「師匠!」
アキラが叫ぶ。
「大丈夫だ!」
やがて、患者たちの症状が少しずつ落ち着いていく。
さらに悪い知らせが続いた。
ロアたちが仕込んでいた計画は、すでにかなり前から始まっていた。
ポーセルメックスへの不信感を抱いていた人々は、今や完全に怒りに駆られていた。
その流れを止めるには、すでに遅すぎた。
だが――。
ポーセルメックス側では、ダミアンが適当観のすぐそばに新たな緩和剤の供給拠点を設置した。
リンたちの懸命な訴えも、多少の効果を見せていた。
アキラは声を張り上げた。
「急いでみんなを集めよう!」
「今の状況について、全部説明するんだ!」
適当観には、雲嶽山の一行が集まっていた。
アキラはこれまでに判明した情報を、説明していく。
そして、ホロウ内に存在する讃頌会の拠点のことも。
話を聞き終えた福福は、目を輝かせた。
「ええっ! あの悪者たちの隠れ家、見つかったんですかぁ!?」
「そういうことだ」
アキラが頷く。
「やった!」
福福が拳を握る。
「これでやっと本丸に突撃して、こてんぱんにしてやれるんですねっ!」
「よくやってくれましたね、お弟子さん」
釈淵が感心したように頷く。
「あなたに計画を任せたこと……まさしく師匠の目利きが確かであったと言わざるを得ません」
「おうよ!」
潘も拳を握る。
「本当のことが分かった今、あいつらを徹底的に懲らしめる時だ!」
「ただ……」
アキラは儀玄を見る。
「師匠が一緒に来られないことだけが残念だ」
「それに、誰かが傍に残っていたほうがいいだろう」
アキラは釈淵へ向き直る。
「釈淵さん。このまま適当観で、師匠と妹の護衛をお願いできないかい?」
「ええ……共にあの恥知らずたちに教訓を与えてやりたいところですが……」
釈淵は一瞬だけ悔しそうな表情を浮かべ、それから頷いた。
「他ならぬお弟子さんの頼みです。僕が残りましょう」
「安心してください!」
福福が胸を張る。
「釈淵さんの分も、あいつらをボコボコにしてきますからっ!」
そして福福は周囲を見回した。
「みんな、全員揃いましたね?」
「よしっ!」
「準備ができたら出発しますよっ!」
福福は拳を握り締める。
「讃頌会の拠点を突き止めて、たっぷりこらしめてやりましょう!」
そして、最後に付け加えた。
「それから――」
「ダンテさんには、キツイ説教をしてやりましょう!」
その言葉に、アキラは苦笑した。
福福は満面の笑みを浮かべた。
――――
一方――。
その頃、ダンテは一人、ラマニアンホロウの奥深くを進んでいた。
「……ったく」
周囲には、倒されたエーテリアスが無数に転がっている。
長時間にわたる戦闘。
しかもホロウという特殊な環境。
普段なら余裕で突破できるような敵であっても、今のダンテにとっては少しずつ負担が積み重なっていた。
「さすがに……ちょっと数が多すぎるぜ」
ダンテは軽口を叩きながら、エボニー&アイボリーを構える。
「ギィィィッ!」
エーテリアスが飛びかかってくる。
――ズダンッ!!
――ズダンッ!!
二発の銃声。
敵の動きが止まる。
だが、その直後にも別のエーテリアスが襲いかかってくる。
ダンテは身体を捻り、攻撃をかわす。
そして剣を振り抜いた。
「……まだまだ!」
しかし、動きに僅かな鈍りがあった。
ダンテは着地した瞬間、片膝をつく。
「……っ」
呼吸が乱れる。
額には汗が浮かんでいた。
「やれやれ……」
ダンテは苦笑する。
「ホロウの中で長時間戦い続けるってのは、さすがに堪えるな」
立ち上がろうとした、その時だった。
「――今だ!」
声が響いた。
ダンテが顔を上げる。
周囲の暗闇から、次々と人影が現れた。
讃頌会の者たちだ。
「……なるほど」
ダンテは状況を理解する。
「最初からこれが狙いだったってわけか」
彼らはダンテを倒そうとしていたわけではない。
長時間戦わせ、疲労させる。
力を十分に発揮できなくなったところを狙って、捕縛する。
それが讃頌会の目的だった。
「随分と念入りな歓迎じゃねえか」
ダンテは立ち上がり、リベリオンを構える。
顔には、まだ笑みが残っていた。
だが――。
明らかに分が悪い。
その時だった。
「お弟子さんから離れてくださいっ!」
声が響く。
「なにっ!?」
讃頌会の男が振り返った瞬間――。
ドゴォンッ!
拳が、その身体を吹き飛ばした。
「ぐあああっ!」
「ダンテさんを複数人で襲うなんて……!」
福福が拳を構えて立っている。
「卑怯ですよっ!」
続けざまに、別の讃頌会の者が襲いかかる。
「せいっ!」
福福の拳が炸裂する。
「ぐっ!」
男が地面を転がった。
「おいおい……」
ダンテは目を丸くする。
「助けに来てくれたのか?」
その時、さらに奥から足音が聞こえてきた。
「ダンテ!」
アキラだった。
その隣には潘もいる。
「ようやく見つけたぞ!」
潘が叫ぶ。
「勝手に一人で行きやがって!」
「……あー」
ダンテは苦笑する。
「その……助かった……」
そう言おうとした。
しかし――。
アキラも。
福福も。
潘も。
みんな笑っていた。
笑ってはいる。
だが、その目はまったく笑っていない。
「…………」
ダンテは口を閉じた。
「……なんだい?」
アキラが笑顔のまま尋ねる。
「いや……」
ダンテは視線を逸らした。
「なんでもない」
福福も笑顔を浮かべる。
「ダンテさん」
「……なんだ?」
「帰ったら、ちょーっとだけお話しましょうね?」
「…………」
潘が肩を叩く。
「福姐、『ちょっと』じゃ済まねえだろ」
「そうですねっ!」
「おいおい……」
ダンテは苦笑する。
しかし、その瞬間。
アキラたちの背後から、再び讃頌会の者たちが現れた。
「話は後ですね」
「まずはこいつらを片付けましょう!」
「おう!」
潘が構える。
ダンテは三人を見て、口元を僅かに上げた。
「……やっぱり、仲間ってのはいいもんだな」