悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

42 / 46
Wanna know the name?


『『Devil May Cry』』



第四十一話 雲嶽山、出動

 

 

しばらくの沈黙のあと、儀玄は静かに口を開いた。

 

「最近、衛非地区に舞い戻り、ここで暮らす人々を見たとき……ふと気づいたんだ」

 

儀玄は外へ目を向ける。

 

「誰もが必死にもがき、懸命に生きている……。たとえぼろを纏っていようと、その顔には笑みと希望がある」

 

「彼らこそ、姉様が自分の命と引き換えに守ったものであり……」

 

「そして彼女が、私との約束よりも優先したものなのだと」

 

「その理由にまだ納得はいっていないが……」

 

儀玄は拳を握った。

 

「今はただ、そんな彼らに、姉様の犠牲に背を向けてはならないと思っている」

 

「儀玄、それはつまり……」

 

ダンテが尋ねる。

 

儀玄はゆっくりと立ち上がった。

 

「適当観の前に集合するよう、みなに伝えろ」

 

そして、静かながら力強い声で告げる。

 

「……この一切に、終止符を打つときだ」

 

その時だった。

 

「大変だ……!」

 

入口の方から、エリックが慌てた様子で駆け込んできた。

 

「みんな、もうホロウに集まりだしてる。集会にむけて準備が進んでるぞ!」

 

「一応、説得しようとしたんだが、誰も耳を傾けてくれなくてな……」

 

エリックは困ったように頭を掻く。

 

「終いにゃ、『ポーセルメックスにいくら貰ったんだ!』なんて、逆に疑われる始末だ……信用ないなあ……」

 

「そういうわけですまん。いま来れるのは、ここにいる俺たちで全部だ」

 

「もおー!」

 

福福が頭を抱える。

 

「讃頌会の計画はビクともしてませんね……。これもやっぱり、黒幕が別にいるからなんでしょうか!」

 

「どうしたもんかねぇ……」

 

潘が腕を組む。

 

「なんとか集会の場に紛れて、内側から止めてみるか?」

 

「ただ、お師さんが本調子じゃない以上、弟子のおれたちだけで動くわけだが……やれるか?」

 

「みんな、落ち着こう」

 

アキラが二人を制する。

 

「適当観の前で全員集合だと師匠が言っていた。何か話したいことがあるようだ」

 

「まずは師匠の話を聞こう」

 

しばらくして、雲嶽山の門下生たちとエリックたちは、適当観の前に集まった。

 

「お師匠さま!」

 

福福が駆け寄る。

 

「お体はもう大丈夫なんですか?」

 

「ああ、心配には及ばない」

 

儀玄は集まった者たちを見回す。

 

「ことの次第はアキラから聞いた。雲嶽山についてロアのやつが言ったこと、みな色々と思うところはあるだろうが……すべて事実だ」

 

「旧都陥落時、第十二代宗主、儀降が弟子たちを率いて人々を助けるべくホロウに入った……」

 

儀玄は目を伏せる。

 

「そして、生きて出てきたのは私だけ」

 

「……」

 

その言葉に、誰も口を挟めない。

 

「既に、我ら雲嶽山は人々を救うべく、数えきれないほどの犠牲を払ってきたのだ」

 

「だが今、再び同じ問題に直面しようとしている」

 

儀玄はラマニアンホロウの方角を見る。

 

「讃頌会の司教は、既にラマニアンホロウで長期間にわたって布陣を進めていた」

 

「私がこのまま雲嶽山をホロウに導けば、死闘となることは避けられない」

 

「門下の誰かが、別の誰かを救うべく命を落とすこともあり得るだろう……」

 

福福が不安そうに儀玄を見る。

 

だが、儀玄は力強く続けた。

 

「だが、かつてのように悲惨な代償を払うようなことはもうない」

 

「我ら雲嶽山は、けして同じ間違いを繰り返さない」

 

「お、お師匠さま……」

 

福福の声が震える。

 

「それってまさか、このまま放っておくってことじゃないですよね……?」

 

「そんな!」

 

エリックが慌てて前へ出る。

 

「儀玄先生! どうか頼む! 俺たちに力を貸してくれ!」

 

儀玄は呆れたように息を吐いた。

 

「阿呆」

 

「いつ私が見捨てると言った」

 

場の空気が止まる。

 

儀玄は一歩前へ出た。

 

「私は、先代宗主の失敗を繰り返さない」

 

「局勢が不利に傾いたとき、門下生は全員ホロウから撤退しろ」

 

「その場に残るのは、私一人で十分だ」

 

福福が目を見開く。

 

「お師匠さま……」

 

「第十三代宗主、儀玄として――」

 

儀玄は拳を握る。

 

「私は先代の遺志を継ぎ、死力を尽くして、衛非地区から讃頌会の残党を一人残らず排除し、ここに平和を取り戻す」

 

「十一年前のあの夜、崩れゆく旧都に向けて山門を開け放ち、世を救い、人々を助けるべく前進したように……」

 

儀玄は、真っ直ぐに前を見る。

 

「今夜も……同じことをするまでだ」

 

そして、声を張り上げた。

 

「では皆、今からホロウへ向かって、讃頌会の儀式を止めに行くぞ!」

 

「はい!」

 

一同から返事が響く。

 

儀玄は続ける。

 

「釈淵、リンの護衛を任せた。ナビに集中できるよう守ってやれ。それと、街にいる市民たちの様子にも目を配っておけよ」

 

「わかりました」

 

葉釈淵が頷く。

 

「讃頌会が街で騒ぎを起こしたり、市民たちを焚きつける真似をするようなら、僕が対処しておきます」

 

「ああ」

 

儀玄は頷く。

 

「残りの者は、準備が整い次第、私と共に来い」

 

その時だった。

 

「俺も行かせてくれ」

 

ダンテが口を開いた。

 

「……」

 

福福が振り返る。

 

「でも、お弟子ちゃんはまだ――」

 

「わかった」

 

儀玄が即答した。

 

「!」

 

福福が驚く。

 

儀玄はダンテを見つめた。

 

「ただし、ことが済めば、それ相応のものを受けてもらうぞ」

 

「……」

 

ダンテは苦笑する。

 

「……わかった」

 

「よろしい」

 

福福がニッコリと笑う。

 

その笑顔を見たダンテは、ほんの少しだけ背筋を伸ばした。

 

「今度こそ、全てを終わらせてみせる」

 

儀玄はそう告げた。

 

そして。

 

今度こそ、誰一人欠けることなく、衛非地区の人々を守り抜いてみせる。

 

その決意を胸に、儀玄は弟子たちと共にホロウへ向かう。

 

雲嶽山――出動。

 

今夜、すべてを終わらせるために。

 

 

――――

 

 

一行は、あたりに広がる異常なミアズマを処理しながら、襲い来るエーテリアスを次々と倒していた。

 

「せいやぁっ!」

 

福福の鉤爪がエーテリアスを切り裂く。

 

「そこだ!」

 

潘も間髪入れずに拳を叩き込み、敵を吹き飛ばした。アキラと儀玄もそれぞれ術法を駆使し、周囲に広がるミアズマを崩していく。

 

やがて――離れた場所から声が聞こえた。

 

そこには、抗議デモのためにホロウへ集まっていた労働者たちがいた。

 

「ここに残っていたら危険だ! 今すぐ外へ避難するんだ!」

 

アキラが呼びかける。

 

「でも、俺たちはポーセルメックスに――」

 

「その話は外に出てからだ!」

 

潘が強く言う。

 

「ここにいたら、本当に命を落としかねねぇぞ!」

 

「……分かった」

 

労働者たちは不安そうに顔を見合わせた。

 

「大丈夫ですよ」

 

福福が笑顔を見せる。

 

「ここはあたしたちが何とかしますからっ!」

 

 

――――

 

 

「よし……これでひとまず大丈夫だ」

 

アキラが息を吐く。

 

だが――。

 

儀玄が周囲を見回した。

 

「何か……おかしい」

 

「え?」

 

福福が振り返る。

 

あたりのミアズマの気配が、明らかに強くなっていた。先ほどまでとは比べものにならないほど濃いエーテルが漂い、空気そのものが重く感じられる。

 

「……儀式の場所は近いな」

 

儀玄が静かに呟く。

 

「情報が間違ってなければ、讃頌会の司教はここにいるだろう」

 

そして、アキラへ視線を向ける。

 

「お前さんにはホロウを出てもらったほうがいいと思ったが、万が一讃頌会の手先にでも出くわしたらことだからな。とはいえ、この状況で福福や潘が護衛で抜けるのも痛い」

 

「戦いが始まったら、安全な場所に隠れてろ。巻き込まれないように気をつけるんだぞ」

 

「了解だ」

 

アキラは頷く。

 

「安心してくれ、師匠。しっかり気を付けるさ」

 

一行はその場で短い休憩を取ることにした。アキラが周囲の状況を確認し、福福と潘が装備を整える。儀玄も静かに呼吸を整えていた。

 

やがて――。

 

「……そろそろ行くか」

 

儀玄が立ち上がる。

 

その時だった。

 

ダンテだけが、遠くを見つめていた。

 

「……」

 

「ダンテ?」

 

アキラが声をかける。

 

だが、ダンテは答えない。ただ、遠くから近づいてくる何かを見ていた。

 

そして――。

 

「……こんな時に来やがった」

 

「え?」

 

アキラが振り返る。

 

だが、何も見えない。福福も潘も儀玄も、同じ方向を見た。

 

「何かいるんですか?」

 

「……ああ」

 

ダンテは静かに答えた。

 

そして、懐から緊急用の携帯電話を取り出す。

 

「……お前らはそこにいろ」

 

「ダンテ?」

 

「ちょっと連絡する」

 

ダンテは携帯電話を操作し、どこかへ電話をかけ始めた。

 

「……」

 

アキラたちは不思議そうに見つめる。

 

その直後だった。

 

――――!

 

遠くの闇が、大きく揺れた。

 

次の瞬間。

 

ドォン!!

 

巨大な何かが、一行の前へ着地する。

 

地面が大きく震えた。

 

「な……!」

 

福福が目を見開く。

 

そこに立っていたのは、巨大な獣人型の悪魔だった。

 

黒い毛皮に包まれた獣のようにしなやかな巨体。ウロコと鋭い鉤爪を備えた屈強な手足。そして、白い燐光を放つ四枚の翼。

 

頭部には、前方へ向かって湾曲した一本角が生えている。顔の左側には、大きな傷跡が走っていた。

 

「グルルルル……」

 

その口から、低い唸り声が漏れる。

 

やがて、その悪魔はゆっくりと顔を上げた。

 

そして、その視線がダンテを捉える。

 

「……見つけたぞ」

 

低く、地の底から響くような声だった。

 

「その血……間違えるものか」

 

「……あれは」

 

儀玄が構える。

 

「悪魔……?」

 

アキラも息を呑む。

 

ダンテだけは、その姿を見ていた。

 

「ベオウルフ……」

 

その名を呟いた瞬間、ベオウルフの表情が歪んだ。

 

「その名で呼ぶか……スパーダの血族よ」

 

「あの時、お前の兄に切られたときから、この時を待っていた」

 

ベオウルフの拳が強く握り締められる。

 

「我が左眼を奪い、我らを魔界から封じた男の血……その臭いを、忘れたことなど一度もない!」

 

「グオオオオオオッ!!」

 

凄まじい咆哮。そして、その身体から明確な敵意が放たれる。

 

「……なるほど」

 

ダンテは苦笑した。

 

「匂いを覚えてやがったか」

 

「忘れるものか!」

 

ベオウルフが一歩踏み出す。

 

「今度こそ、その血を断ち切る!」

 

「ダンテさん!」

 

福福がすぐにダンテの前へ出る。

 

潘も構える。

 

「福姐、気をつけろ!」

 

儀玄も一歩前へ進み出た。

 

「三人で囲め。絶対にダンテへ通すな」

 

 

ベオウルフが低く姿勢を落とす。

 

翼が大きく広がる。

 

「来るぞ!」

 

儀玄が叫ぶ。

 

しかし――。

 

その瞬間、空間そのものが裂けた。

 

青白い亀裂が走る。

 

そこから、一人の男が歩み出た。

 

長い青いコート。白い髪。そして――手に携えた一振りの刀。

 

「……!」

 

誰もが息を呑む。

 

男が一歩進んだ。

 

「…………」

 

そして。

 

シュンッ!

 

音すら残さない斬撃が走った。

 

ベオウルフの身体が、一瞬だけ止まる。

 

「……?」

 

誰も何が起きたのか理解できない。

 

次の瞬間、ベオウルフの目に一本の切り傷が走った。

 

「な……」

 

福福が目を見開く。

 

「今の……見えましたか?」

 

潘も呆然としている。

 

「いや……」

 

儀玄でさえ、目を細める。

 

「私にも見えなかった」

 

アキラは男を見つめる。

 

「誰なんだ……?」

 

ダンテは、その男を見た。

 

そして――。

 

「……さすがに早い到着だな」

 

「え?」

 

アキラが振り返る。

 

ダンテが見ている方向へ、一同も視線を向ける。

 

そこには、一振りの刀――閻魔刀を手にした男が立っていた。

 

「……バージル」

 

ダンテが静かに呟く。

 

その言葉を聞いた福福が目を丸くする。

 

「バージル……?」

 

潘も驚いたように男を見る。

 

「ダンテさんの知り合いか?」

 

「いや」

 

ダンテが苦笑する。

 

「知り合いどころか……兄貴だ」

 

「兄ですか!?」

 

福福が驚く。

 

バージルはそれには答えず、ただベオウルフを見据えていた。

 

「…………」

 

ベオウルフも、目の前の新たな敵へ向き直る。

 

そして、バージルが握る閻魔刀を見た瞬間――。

 

「その刀……」

 

ベオウルフの片目が見開かれる。

 

「貴様!!」

 

ベオウルフが咆哮する。

 

「貴様ら兄弟まとめて、魔剣士スパーダの罪を償わせてやる!」

 

しかし、その直後。

 

バージルの姿が消えた。

 

「――――!」

 

次の瞬間。

 

ベオウルフの身体が大きく揺れた。

 

二度。

 

三度。

 

連続して閃く斬撃。それでも、その動きは誰にも捉えられない。

 

福福が目を見開く。

 

「速すぎる……!」

 

ベオウルフが怒りの咆哮を上げる。

 

「グオオオオッ!!」

 

翼を広げ、白い光弾が一斉に放たれる。

 

無数の光がバージルへ殺到する。

 

しかし。

 

バージルは一歩も動かない。

 

「――――」

 

閃光。

 

次の瞬間、光弾がすべて斬り落とされる。

 

「……!」

 

福福が絶句する。

 

ダンテはそんな兄の姿を見ながら、口元を少しだけ上げた。

 

「相変わらず、派手な登場だな」

 

バージルは一瞬だけダンテを見る。

 

「……ベオウルフは貰っていくぞ」

 

ベオウルフが低く唸る。

 

「我を……貴様ごときが……!」

 

バージルは静かに閻魔刀を構える。

 

「騒ぐな」

 

「貴様の相手は、この俺だ」

 




留守番していたバージル

ジリリリリッ

カチャ

バージル「.......デビルメイクライ」

ダンテ「よう、バージル」

バージル「...貴様、何の用で」

ダンテ「ベオウルフを見つけた」

バージル「...」

受話器を戻し、そっと閻魔刀を取り次元を切り裂くのであった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。