『『Devil May Cry』』
「貴様の相手は、この俺だ」
バージルが静かに閻魔刀を構える。ベオウルフは唸り声を上げながら、鋭い鉤爪を構えた。
「ならば……貴様から先に砕いてやる!」
「……好きにしろ」
その瞬間――。
「ダンテ」
バージルが視線だけを向ける。
「行け。こいつは俺が引き受ける」
ダンテは一瞬だけベオウルフを見る。そして、口元を吊り上げた。
「そうか。じゃあ――頼んだぜ、兄貴」
ダンテはそのまま、ホロウの奥へ向かって走り出す。
「えっ、お弟子ちゃん!?」
福福が驚く。
「ちょっと待ってくださいよっ!」
だが、ダンテは振り返らない。
「任せた!」
その言葉だけを残し、先へ進んでいった。
「……」
福福はベオウルフと向き合うバージルを見る。
「……じゃあ、ダンテさんのお兄さんにお願いします!」
潘も頷く。
「おう! 任せたぜ!」
儀玄も閻魔刀を構える男へ目を向けた。
「我々は先へ進む。頼んだぞ」
バージルは答えない。ただ、僅かに閻魔刀を傾けた。
「行け」
福福、潘、儀玄、アキラはダンテの後を追って走り出した。
その場に残ったのは――バージルとベオウルフ。
「……」
「…………」
互いに睨み合う。
やがて、ベオウルフが低く唸った。
「貴様……スパーダの血を継ぐ者、バージルよ。その刀も、その佇まいも……我が憎む男を思わせる」
バージルは冷たい視線を向ける。
「スパーダのことか」
「そうだ!」
ベオウルフが吠える。
「二千年前……奴は我らを裏切った! この左眼を奪い、我らをテメンニグルへ封じた!」
ベオウルフは傷跡の残る左側を指でなぞる。
「二千年だ……! 我はただ、復讐の時だけを待ち続けた! そしてようやく、奴の血族を見つけたが!」
「しかし貴様らに返り討ちにあった!」
「今度こそ貴様らを殺す!」
ベオウルフが地面を蹴った。
「グオオオオオッ!」
一瞬で距離が消える。鋭い鉤爪がバージルへ振り下ろされた。
しかし――。
「遅い」
バージルの身体が僅かに沈む。
閻魔刀が閃いた。
シュッ!
一撃。ベオウルフの腕を斬り上げる。
続けて二撃目。逆方向から斜めに切り払う。
そして三撃目。真正面から一閃。
シュンッ!
三つの斬撃が、ほぼ同時にベオウルフの身体へ刻まれる。
「……!」
ベオウルフが目を見開く。
バージルはそのまま一歩通り過ぎ――。
カチン。
閻魔刀を納刀した。
一瞬の静寂。
「…………」
ベオウルフは振り返る。
「ふん……その程度か!」
しかし、その身体には三本の斬撃痕が浮かび上がっていた。
「なるほど……」
ベオウルフが笑う。
「速さだけは認めてやろう! だが、我を倒すには足りん!」
ベオウルフが翼を大きく広げる。
「グオオオオオッ!」
白い光弾が一斉に放たれる。
しかし、バージルは動かなかった。
一歩。
そして――。
「…………」
閃光。
バージルの姿が消える。
次の瞬間、ベオウルフの眼前に現れた。
「――!」
閻魔刀が抜かれる。
下から上へ、一気に斬り上げる。
「グアッ!」
ベオウルフの巨体が宙へ打ち上げられた。
「何……!?」
その身体が空中へ浮かぶ。
バージルはその下で刀を構える。
空間そのものに亀裂が走った。
ベオウルフの周囲を無数の斬撃が走り抜ける。
ズシュッ! ズシュッ! ズシュッ!
目にも映らない斬撃が、空中のベオウルフを次々と切り刻んでいく。
「グオオオオッ!」
ベオウルフが翼を広げる。
何とか体勢を立て直し、空中からバージルへ突っ込んだ。
「死ねぇぇぇっ!」
「…………」
バージルは閻魔刀を構える。
「Die」
その一言と同時に、姿が消えた。
「なっ――」
ベオウルフの眼前へ瞬間移動。
超高速の突進。
「――ッ!」
強烈な斬撃が腹部を横一文字に切り裂く。
ズバァッ!
ベオウルフの身体が大きく吹き飛んだ。
「グオオオオオオッ!!」
地面を何度も跳ねながら転がる。
「……!」
それでもベオウルフは立ち上がった。
身体は傷だらけ。
しかし、その瞳にはまだ憎悪が燃えていた。
「まだだ……! この程度で……」
ベオウルフが拳を握る。
「我が憎悪を……終わらせられると思うな!」
翼を広げる。
白い光がホロウを照らす。
「貴様らスパーダの血族を――!」
ベオウルフが突進する。
しかし、バージルは静かに刀を構えた。
「……ならば」
「終わらせてやろう」
空気が変わる。
ベオウルフの本能が警鐘を鳴らした。
「……何だ?」
バージルは静かに目を細める。
「You shall die.」
その瞬間――バージルの姿が消えた。
いや。
一人ではない。
「……!?」
ベオウルフの周囲に、幾つものバージルの姿が現れる。
一人。二人。三人。それ以上。
高速移動によって生み出された残像が、まるで分身のようにベオウルフを取り囲む。
「な、何だ……これは!」
すべてのバージルが、一斉に閻魔刀を構える。
「――――」
静寂。
次の瞬間、一斉に刀が閃いた。
――次元斬・絶。
空間が裂ける。
一つ。二つ。三つ。
無数の次元斬が四方八方からベオウルフへ襲いかかる。
「グオオオオオオオオッ!!」
ベオウルフの身体が激しく揺れる。
縦。横。斜め。
あらゆる方向から放たれる超高速の斬撃が、巨体を完全に包み込んでいく。
「グ……ア……!」
ベオウルフはなおも立っていた。
「……この……程度……」
しかし――。
バージルはすでに、ベオウルフの背後に立っていた。
そして、何事もなかったかのように閻魔刀を鞘へ収める。
カチン。
ベオウルフは目を見開いた。
「…………?」
自分が斬られたことに、まだ気づいていない。
「なぜ……?」
一歩。
バージルが歩く。
「…………」
その瞬間だった。
ベオウルフの顔に一本の線が走る。
ピシッ。
そこから徐々に亀裂が広がり――。
「…………!」
顔が、左右に分かれた。
ズルッ。
首元からも深い斬撃が一周する。
次の瞬間。
ドサッ!
巨大な頭部が地面へ落ちた。
続いて、首から力を失った巨体が崩れ落ちる。
「…………」
完全な静寂。
やがて、ベオウルフの死体から白い光の玉がゆっくりと浮かび上がった。
バージルが手を伸ばす。
光はその掌へ吸い込まれていく。
「……」
その瞬間、バージルの腕に光が集まり、鋭い装甲が形成されていく。続いて両腕を覆う籠手。そして脚部にも、白く輝く具足が装着された。
「…………」
バージルは力を確かめるように、拳を握る。
そして――。
残されたベオウルフの死体へ向かって、一歩踏み込んだ。
「フッ!」
拳を叩き込む。
ドゴォン!!
巨大な死体が宙へ打ち上げられる。
その瞬間、バージルも跳躍した。
空中で身体を反転。
そして――。
ズドォン!!
凄まじい踵落としが、浮かび上がったベオウルフの身体へ叩き込まれた。
「――――!」
身体が地面へ落下する。
その衝撃で、ベオウルフの身体が胴体から真っ二つに割れた。
バージルは静かに着地する。
黒い籠手。黒い具足。
その姿は、まるで新たな力を手に入れた戦士そのものだった。
「…………」
バージルはゆっくりと構えるのだった。
――――
ダンテたちは、バージルをその場に残し、ホロウのさらに奥へと進んでいた。周囲に漂うミアズマは、これまでとは比べものにならないほど濃くなっている。空気そのものが重く、呼吸するだけでも身体にまとわりつくような不快感があった。
「……近いな」
儀玄が足を止める。
「ええ。さっきからミアズマの濃度がどんどん上がっている。儀式の場所は、この先だと思う」
アキラも周囲を見回す。
「ということは、ロア先生が言っていた司教ってやつも近くにいるんでしょうね」
福福が拳を握る。
「今度こそ、逃がしませんよっ!」
その時だった。
「……あれは?」
潘が前方を指差す。
そこには、異様な光景が広がっていた。七つの巨大なミアズマの塊が宙へ向かって伸び、まるで巨大な柱のように、黒紫色のエネルギーが上空へと立ち上っている。
そして、その中心に――一人が立っていた。
両手を広げ、七つのミアズマへ向かって何かを捧げるようにしている。
その人物がゆっくりと振り返った。
「よいところに……」
静かな声が響く。
「儀式は始まったばかり……」
その者こそ――讃頌会の司教、メヴォラクだった。
メヴォラクは一行を見つめたまま、ゆっくりと両手を下ろす。
その直後。
ズズズズズ……。
周囲のミアズマが一斉に蠢き始めた。
大量の黒紫色の物質が溢れ出し、メヴォラクの身体へと絡みついていく。
「……!」
福福が目を見開く。
「なんですか、あれ……!」
ミアズマはメヴォラクの腕へ、胸へ、肩へと纏わりつき、その全身を覆っていく。やがて巨大なミアズマの塊が、メヴォラクの姿を完全に包み込んだ。
だが――。
次の瞬間。
ドンッ!
ミアズマの塊が消えた。
そこから姿を現したメヴォラクの姿は、先ほどまでとはまるで違っていた。片手には長大な剣。そして全身には、黒紫色のミアズマがまるで鎧のように纏わりついている。
「主よ……ご照覧あれ!」
その声がホロウ全体へ響き渡った。
福福が身構える。
儀玄が構える。
「行くぞ!」
一行が一斉に飛び出した。
福福が真っ先に距離を詰め、鉤爪を振り抜く。
「せいやぁっ!」
しかし――。
ガキンッ!
ミアズマに阻まれる。
「なっ!?」
福福が目を見開く。
潘が横から拳を叩き込む。
「どりゃあっ!」
ドゴッ!
だが、その拳も分厚いミアズマに阻まれた。
「効いてねぇ……!」
「どうなってるんだ……!」
ダンテもリベリオンを抜き、斬撃を叩き込む。
シュンッ!
今度は剣に止められる。
メヴォラクは微動だにしない。
そして、ゆっくりと一行を見渡した。
「雲嶽山……まつろわぬ者どもよ」
そしてメヴォラクが距離を取り剣を掲げる。
「さあ……終わりにしましょう!」
その瞬間、上空に伸びていた七つのミアズマの塊が一斉に動いた。
ズズズズズ……。
七つの巨大な塊がメヴォラクの周囲を旋回し始める。
「……何だ?」
アキラが見上げる。
次の瞬間。
「来るぞ!」
儀玄が叫ぶ。
七つのミアズマの塊が、一斉に一行へ向かって飛来する。
「くっ!」
儀玄が両手を前へ突き出した。
術式が展開する。
ドォォォン!!
ミアズマの塊が儀玄の術へ激突した。
「ぐっ……!」
「師匠!」
アキラが叫ぶ。
「これは……!」
儀玄の顔が険しくなる。
「ただ攻撃するつもりではない……! この塊は、我々そのものを包むつもりだ!」
その言葉を聞いた瞬間、ダンテが前へ飛び出した。
「だったら――!」
「ダンテ! ダメだ!」
儀玄が叫ぶ。
だが、遅かった。
ダンテはミアズマの塊の間をすり抜け、メヴォラクへ向かって一直線に突っ込む。
リベリオンを振り抜く。
「はあっ!」
メヴォラクが剣で受け止める。
ガキィン!
二人の刃が激突した。
「くっ……!」
ダンテが力を込める。
メヴォラクは静かに笑った。
「無駄だ」
「な――」
次の瞬間。
ドンッ!
強烈な衝撃がダンテを吹き飛ばした。
その間に、ミアズマの塊が完全に広がる。
「ダンテ!」
儀玄が手を伸ばす。
だが――。
「師匠!」
アキラたちの周囲も、黒紫色のミアズマに完全に覆われた。
「……!」
視界が消える。
音も消える。
そして――。
儀玄の前に、青溟鳥らしきものがいた。
「儀玄……」
「…………!」
その声を聞いた瞬間、儀玄の表情が凍りつく。
「姉様……?」
そこにいたのは、儀降だった。かつての姿。あの日よりも若く、穏やかな顔をした姉。
「儀玄……」
儀降が微笑む。
「あなたは……私やみんなとは違う」
「……!」
「あなたの才は、みんなを守る武器になる。いずれ、私たちより遠くへ……」
「見知らぬ人……」
「……!」
儀玄の表情が変わる。
「これも……幻か?」
「妹に……伝えてほしい……」
儀玄は息を呑む。
「あるいは……記憶?」
儀降の声が、かすかに震える。
「あの子の姉は、偉大でも……高潔でもなかったと」
「今夜、悲劇を止めないと……私の儀玄が、エリー都と共に散ってしまう……」
「姉様……」
儀玄の声が震える。
「すべては……」
儀降が静かに続ける。
「世のためでなく」
「あの子のため……」
「儀玄のため……」
「どうか、生きて……」
「それが……」
儀降が微笑む。
「私たちの約束……」
「姉様……!」
ミアズマの塊が、突然揺らぐ。
パキィンッ!
眩い光が、暗闇の向こうから差し込んできた。
「――――!」
次の瞬間、ミアズマの塊が一斉に外側へ吹き飛んだ。
ドォォォン!!
黒紫色の霧が消し飛び、その場に立っていた儀玄の姿が露わになる。
しかし――。
その表情は、先ほどまでとは違っていた。
静かだった。
怒りも悲しみも、その奥にすべて押し込めたような顔。
そして、その身体からはただならぬ気配が立ち上っていた。
「…………」
アキラが息を呑む。
福福も儀玄を見る。
だが、儀玄は答えなかった。いや答れなかった。
その視線は、ただ一点へ向けられていた。
「…………!」
その先にあった光景。
「ダンテ……!」
アキラが叫ぶ。
メヴォラクの手にしたリベリオン。
その刃が――ダンテの身体を貫いていた。
「…………」
ダンテは、動かない。
そして。
リベリオン。
その刃からは、赤い血が一滴。
また一滴と、静かに滴り落ちていた。
これ曇らせなのかな?