悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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Pull my Devil Trigger!!



第四十三話 魔人

 

 

――少し時間を遡る。

 

ダンテがメヴォラクへ向かって飛び出した直後。

 

「うおおおおっ!」

 

リベリオンを振り抜く。

 

「はあっ!」

 

しかし、メヴォラクは手にした剣で受け止めた。

 

ガキィン!!

 

二人の刃が激しくぶつかり合う。

 

「くっ……!」

 

ダンテが力を込める。だが、メヴォラクは微動だにしない。

 

「無駄だ」

 

「な――」

 

次の瞬間。

 

ドンッ!!

 

強烈な力で押し返され、ダンテの身体が大きく吹き飛んだ。

 

「くそっ!」

 

空中で体勢を立て直しながら、ダンテはエボニー&アイボリーを抜く。

 

「食らえ!」

 

――ズダダダダダッ!!

 

連続して放たれた弾丸がメヴォラクへ殺到する。しかし――。

 

カンッ! キンッ! カンッ!

 

メヴォラクは剣を振るい、飛来する弾丸をすべて弾き落とした。

 

ダンテが着地する。

 

「その程度では、私には届かない」

 

「なら……届くまでやるだけだ!」

 

ダンテは再びリベリオンを握り、駆け出した。斬り上げ、横薙ぎ、袈裟斬り、突き。連続して叩き込まれる斬撃を、メヴォラクは一つずつ受け流していく。

 

ガキン! ギィン! ガキィン!

 

「くっ……!」

 

メヴォラクの剣がダンテの斬撃を受け流す。ダンテは一歩踏み込み、さらに一撃を叩き込んだ。

 

「おおおおっ!」

 

ガキィィン!!

 

またしても、つばぜり合い。二人の剣が激しく噛み合う。

 

ダンテは歯を食いしばる。

 

「……しぶといな」

 

「お前もな」

 

メヴォラクは静かに告げる。

 

「ダンテ。我々と共に来い」

 

「…………は?」

 

「お前ほどの力があれば、始まりの主の御前へ至る資格がある」

 

「俺を勧誘してるのか?」

 

「そうだ」

 

「断る!」

 

ダンテは即答した。

 

メヴォラクはしばらくダンテを見る。

 

「……そうか」

 

それだけだった。

 

次の瞬間。

 

ガキィン!!

 

メヴォラクの剣がリベリオンを弾き飛ばした。

 

「なっ――!」

 

ダンテが目を見開く。

 

その隙を逃さない。

 

メヴォラクは踏み込んだ。

 

ズシュッ!!

 

剣がダンテの身体を貫いた。

 

「……っ!」

 

そのままメヴォラクはダンテを持ち上げるようにして、地面へ叩き落とす。

 

ドォン!!

 

「ぐっ……!」

 

ダンテの身体が地面に叩き付けられる。

 

その直後。

 

カランッ。

 

宙へ弾き飛ばされたリベリオンが落下し、メヴォラクの足元へ転がった。

 

メヴォラクはそれを拾い上げる。

 

「……殺すつもりはなかったんだが」

 

そう呟き、ダンテへ背を向ける。

 

しかし――。

 

「……ぐっ」

 

ダンテが地面に手をつく。ゆっくりと上半身を起こそうとする。

 

「…………」

 

メヴォラクが足を止めた。そして、ゆっくりと振り返る。

 

「まだ……立つのか」

 

次の瞬間。

 

ズシュッ!!

 

メヴォラクは手にしたリベリオンを、再びダンテへ突き刺した。

 

「――――」

 

ダンテの身体が、完全に止まる。

 

メヴォラクは剣越しに伝わる感触を確かめる。

 

そして――。

 

「……終わったか」

 

メヴォラクはダンテの死を確信した。

 

「この魔剣……」

 

メヴォラクはリベリオンを見つめる。

 

「悪魔を殺す力があるのか」

 

そして、淡々と告げる。

 

「死体と、この魔剣は持ち帰らせてもらおう」

 

――――

 

「…………」

 

儀玄は、目の前の光景を見つめていた。

 

メヴォラクの手にした魔剣リベリオン。その刃が――ダンテの身体を貫いている。

 

「…………ダンテ」

 

儀玄の胸を、言いようのない絶望が満たしていく。

 

また遅れてしまった。

 

また、目の前で失ってしまった。

 

「……またなのか」

 

儀玄の拳が震える。

 

「また……私は……」

 

その隣で、福福は何も言わなかった。ただ――その顔から、いつもの愛らしさが完全に消えていた。

 

「…………」

 

怒り。悲しみ。そして、明確な黒い感情。

 

福福の手が、ゆっくりと握り締められる。

 

「……絶対に」

 

小さな声が漏れる。

 

「あの人……絶対に許さない」

 

メヴォラクはダンテからリベリオンを引き抜こうとする。

 

「さて……」

 

しかし――。

 

「……?」

 

抜けない。

 

メヴォラクが眉をひそめる。

 

「なぜだ?」

 

もう一度、力を込める。だが、リベリオンは微動だにしない。

 

「……何だ?」

 

その瞬間だった。

 

ダンテの目が――開いた。

 

「……!」

 

メヴォラクが息を呑む。

 

次の瞬間。

 

ガッ!

 

メヴォラクは慌ててリベリオンから手を離し、後方へ飛び退いた。

 

「……!」

 

その行動に、雲嶽山の一同も驚く。

 

「……今、何を?」

 

潘が呟く。

 

アキラも目を見開いた。

 

「まさか……」

 

儀玄だけが、呆然と呟く。

 

「……ダンテ?」

 

その時。

 

ダンテの胸に突き刺さっていたリベリオンの瞳が――。

 

ギラッ。

 

一瞬だけ、赤く輝いた。

 

「……!」

 

次の瞬間。

 

ドォン!!

 

リベリオンが何かに弾かれたように上空へ吹き飛ぶ。

 

高速回転しながら宙を舞い、ダンテの頭上へと飛んでいく。

 

「……」

 

ダンテがゆっくりと立ち上がる。

 

血に濡れた身体。それでも、その足取りは止まらない。

 

一歩。

 

また一歩。

 

メヴォラクへ向かって歩いていく。

 

「なぜ……立てる?」

 

メヴォラクの声に、僅かな動揺が混じる。

 

ダンテは答えない。ただ、大きく両手を広げた。

 

そして――。

 

「――――ッ!!」

 

次の瞬間。

 

眩い光がダンテの身体を包み込んだ。

 

「なっ……!」

 

アキラが息を呑む。

 

「何が起きてるんだ……!?」

 

光の中で、ダンテの身体が変化していく。人間の姿が崩れ、赤と黒を基調とした異形の身体へと変わっていく。背中から小さな翼が広がり、頭部には虫の触角を思わせる突起と、冠のような角が現れる。そして、全身から凄まじい悪魔の力が噴き出した。

 

「…………」

 

そこに立っていたのは――もはや、先ほどまでのダンテではない。

 

悪魔の力を完全に解放した姿。

 

福福が呆然と呟く。

 

「これが……ダンテさん……?」

 

潘も言葉を失う。

 

「……何て力だ」

 

アキラも目を見開く。

 

儀玄だけは黙って、その姿を見つめていた。

 

そして――。

 

上空からリベリオンが落ちてくる。

 

魔人と化したダンテが、片手を伸ばした。

 

パシッ。

 

リベリオンがその手に収まる。

 

「…………」

 

ダンテがメヴォラクを見る。

 

次の瞬間。

 

ズンッ!!

 

地面が砕けるほどの踏み込み。一瞬で距離が消える。

 

「なっ――!」

 

メヴォラクが剣を構える。

 

ガキィン!!

 

リベリオンが激突する。

 

「ぐっ……!」

 

メヴォラクの身体が大きく押される。

 

ダンテは止まらない。右。左。斜め。連続する剣撃がメヴォラクを圧倒していく。

 

「何だ、この力は……!」

 

攻撃力、防御力、そして行動速度。すべてが跳ね上がっている。

 

メヴォラクの剣がダンテの身体を掠める。

 

だが――。

 

傷が瞬時に塞がった。

 

「……再生だと!?」

 

並大抵の攻撃では傷一つ付かない。たとえ傷を負っても、瞬く間に再生する。

 

その姿は――反則級だった。

 

「…………」

 

雲嶽山の面々は、その光景に呆然としていた。

 

ただ一人を除いて。

 

儀玄だった。

 

その顔には、僅かな笑みが浮かんでいる。

 

「……なるほど」

 

そして――。

 

「まだ終わってはいないな」

 

ダンテがメヴォラクの懐へ踏み込む。

 

「――――!」

 

「オオオオオッ!!」

 

ズドォン!!

 

凄まじい勢いの突進。

 

リベリオンを構えたまま、ダンテはメヴォラクへ突っ込んだ。

 

「ぐあああああっ!!」

 

メヴォラクの身体が吹き飛ぶ。

 

地面を削りながら、何度も転がっていく。

 

「……!」

 

ダンテは次の攻撃へ移ろうとする。

 

その瞬間だった。

 

「…………」

 

魔人の身体が、僅かに揺らぐ。

 

「……!」

 

ダンテの変身が解け始めた。

 

赤黒い光が消えていく。翼が消え、身体も元の人間の姿へ戻っていく。

 

「……くっ」

 

ダンテが片膝をついた。

 

限界だった。

 

致命傷すら強引に押し切って発動したデビルトリガー。身体には、もうほとんど力が残っていなかった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

ダンテは荒い呼吸を繰り返す。

 

一方、吹き飛ばされたメヴォラクがゆっくりと立ち上がる。

 

「……まだだ」

 

メヴォラクが剣を構える。

 

その前に――。

 

一人の女性が立ちはだかった。

 

「――そこまでだ」

 

儀玄だった。

 

メヴォラクが目を見開く。

 

「貴様……!」

 

儀玄は静かに構える。

 

「私こそは雲嶽山第十三代宗主――」

 

一歩。踏み込む。

 

「儀玄!」

 

術式が広がる。

 

「世の諸悪を……」

 

周囲の空気が震える。

 

「灰燼に帰す!」

 

儀玄が一気に距離を詰めた。

 

「なっ……!」

 

メヴォラクが剣を振る。しかし、儀玄はそれをかわす。

 

一撃。二撃。三撃。

 

「速い……!」

 

メヴォラクが押される。

 

儀玄の動きは、これまでとは明らかに違っていた。

 

「邪祟滅殺!」

 

儀玄の背後から、黒い墨汁の羽が広がる。そのまま地面を蹴った。

 

一瞬で距離を詰める。

 

そして――。

 

ドンッ!

 

儀玄の姿を形取った墨汁の分身が現れる。一体、二体、三体。複数の分身が一斉にメヴォラクへ襲いかかる。

 

「ぐっ!」

 

「くそっ!」

 

メヴォラクの体勢が崩れる。

 

儀玄が掌を構える。

 

「破ぁ!」

 

掌の中で術が炸裂する。

 

「ぐあああああっ!」

 

直撃。

 

同時に、黒い鳥の形をした術式――青溟鳥が飛び出した。それがメヴォラクの身体へ絡みつく。

 

「な……!」

 

「終わりだ!」

 

ドォォォン!!

 

青溟鳥の力が一気に炸裂する。

 

メヴォラクの身体が大きく吹き飛び、そのまま壁へ激突した。

 

「ぐ……あ……!」

 

ドゴォン!!

 

壁が大きく砕ける。

 

メヴォラクは地面へ落下した。

 

「…………」

 

しばらく動かない。

 

やがて、ゆっくりと地面へ手をつく。

 

「主よ……」

 

メヴォラクの身体に纏わりついていたミアズマが、少しずつ剥がれていく。

 

「再創を……」

 

黒紫色の物質が消えていく。

 

「主よ……再創を……!」

 

最後までその言葉を呟きながら――。

 

メヴォラクの姿はミアズマの中へと溶けるように消えていった。

 

「…………」

 

静寂。

 

儀玄は消えたメヴォラクを見つめていた。

 

そして、背後で荒い息を吐くダンテへ振り返る。

 

「……まったく」

 

ダンテが苦笑する。

 

「何だよ?」

 

「また無茶をしたな」

 

「……まあ、そこは否定しねぇ」

 

福福が腕を組む。

 

「帰ったら……」

 

「……分かってる」

 

ダンテは苦笑した。

 

「説教だろ?」

 

「ええ」

 

福福は笑顔を浮かべる。

 

だが――。

 

「たっぷりですっ!」

 

ダンテは遠い目をした。

 

「……やっぱり、まだ終わってなかったか」

 

そしてダンテは、その場で力尽きるように倒れた。

 

――――

 

次にダンテが目を覚ました時。

 

そこは、適当観の自室だった。

 

「……ん」

 

ゆっくりと目を開ける。

 

見慣れた天井。

 

静かな部屋。

 

どうやら自分は、無事に戻ってこられたらしい。

 

「……ここは適当観か」

 

身体を起こそうとすると、僅かに痛みを感じる。

 

何気なく手を見ると、包帯が巻かれていた。足にも同じように包帯が巻かれている。

 

「……大げさだな」

 

傷そのものは、すでにほとんど治っている。自身の再生能力もあって、身体は思った以上に回復していた。

 

そんな時だった。

 

「ダンテ?」

 

扉の向こうから声がする。

 

ガチャ。

 

扉が開く。

 

そこに立っていたのは、アキラだった。

 

「起きたんだね!」

 

「おお、アキラか」

 

ダンテが笑う。

 

その後ろから、リン、葉釈淵、潘、福福、そして儀玄も姿を現した。

 

「ダンテさん!」

 

リンが嬉しそうに駆け寄る。

 

「よかったぁ……!」

 

「心配しましたよ!」

 

福福も笑顔を浮かべる。

 

潘も腕を組みながら、安堵したように息を吐いた。

 

「まったく、あれだけ無茶しておいて、よく無事だったな」

 

葉釈淵も微笑む。

 

「皆さん、本当に心配していたんですよ」

 

その光景を見て、ダンテは少しだけ目を細めた。

 

「……そうか」

 

自分が心配されていた。

 

それが、なんとなく嬉しかった。

 

そんなことを考えながら、ダンテは周囲を見回す。

 

アキラも、リンも、釈淵も、潘も、福福も――みんな笑っている。

 

そして最後に――儀玄が歩み寄ってきた。

 

「やっと起きたか」

 

「皆、心配していたぞ」

 

「……ああ」

 

ダンテは小さく笑った。

 

どこか温かい。

 

まるで家族のような空気。

 

「……こういうのも、悪くねぇな」

 

ダンテがそう思った――その瞬間だった。

 

儀玄が静かに腕を組んだ。

 

「さて、ダンテ」

 

「……ん?」

 

「起きて早々悪いが、今からお話をしてもらおうか」

 

「…………」

 

ダンテの笑顔が止まる。

 

「もちろん――」

 

儀玄は周囲を見回した。

 

「ここにいる全員と、だ」

 

「…………」

 

ダンテがゆっくりと周囲を見る。

 

アキラ。リン。釈淵。潘。福福。そして儀玄。

 

全員が笑っている。

 

「…………」

 

しかし、その笑顔は――明らかに以前より怖い。

 

特に福福。

 

「ダンテさん?」

 

福福が満面の笑みを浮かべる。

 

潘も腕を組む。

 

釈淵が微笑む。

 

リンも小さく頷く。

 

アキラは苦笑しながら言った。

 

「ダンテ。さすがに今回は、僕も見過ごせないよ」

 

「…………」

 

ダンテは無言で天井を見る。

 

逃げ道はない。

 

扉は一つ。

 

窓は一つ。

 

しかし、外へ出たとしても、この六人から逃げ切れる気がしなかった。

 

何より――。

 

「お前さん」

 

儀玄が静かに口を開く。

 

「自分がどれだけ心配をかけたのか、分かっているのか?」

 

「……まあ」

 

「まあ、ではない」

 

福福が少しだけ笑った。

 

「お弟子ちゃん、ちゃんと反省するんですよ!」

 

「そうだね」

 

アキラも頷く。

 

ダンテはしばらく黙っていた。

 

そして、心の中で静かに呟く。

 

「……悪魔でも泣くかもしれねぇ」

 

――Devil May Cry.

 




四十三話目にしてようやくデビルトリガー登場です。
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