――少し時間を遡る。
ダンテがメヴォラクへ向かって飛び出した直後。
「うおおおおっ!」
リベリオンを振り抜く。
「はあっ!」
しかし、メヴォラクは手にした剣で受け止めた。
ガキィン!!
二人の刃が激しくぶつかり合う。
「くっ……!」
ダンテが力を込める。だが、メヴォラクは微動だにしない。
「無駄だ」
「な――」
次の瞬間。
ドンッ!!
強烈な力で押し返され、ダンテの身体が大きく吹き飛んだ。
「くそっ!」
空中で体勢を立て直しながら、ダンテはエボニー&アイボリーを抜く。
「食らえ!」
――ズダダダダダッ!!
連続して放たれた弾丸がメヴォラクへ殺到する。しかし――。
カンッ! キンッ! カンッ!
メヴォラクは剣を振るい、飛来する弾丸をすべて弾き落とした。
ダンテが着地する。
「その程度では、私には届かない」
「なら……届くまでやるだけだ!」
ダンテは再びリベリオンを握り、駆け出した。斬り上げ、横薙ぎ、袈裟斬り、突き。連続して叩き込まれる斬撃を、メヴォラクは一つずつ受け流していく。
ガキン! ギィン! ガキィン!
「くっ……!」
メヴォラクの剣がダンテの斬撃を受け流す。ダンテは一歩踏み込み、さらに一撃を叩き込んだ。
「おおおおっ!」
ガキィィン!!
またしても、つばぜり合い。二人の剣が激しく噛み合う。
ダンテは歯を食いしばる。
「……しぶといな」
「お前もな」
メヴォラクは静かに告げる。
「ダンテ。我々と共に来い」
「…………は?」
「お前ほどの力があれば、始まりの主の御前へ至る資格がある」
「俺を勧誘してるのか?」
「そうだ」
「断る!」
ダンテは即答した。
メヴォラクはしばらくダンテを見る。
「……そうか」
それだけだった。
次の瞬間。
ガキィン!!
メヴォラクの剣がリベリオンを弾き飛ばした。
「なっ――!」
ダンテが目を見開く。
その隙を逃さない。
メヴォラクは踏み込んだ。
ズシュッ!!
剣がダンテの身体を貫いた。
「……っ!」
そのままメヴォラクはダンテを持ち上げるようにして、地面へ叩き落とす。
ドォン!!
「ぐっ……!」
ダンテの身体が地面に叩き付けられる。
その直後。
カランッ。
宙へ弾き飛ばされたリベリオンが落下し、メヴォラクの足元へ転がった。
メヴォラクはそれを拾い上げる。
「……殺すつもりはなかったんだが」
そう呟き、ダンテへ背を向ける。
しかし――。
「……ぐっ」
ダンテが地面に手をつく。ゆっくりと上半身を起こそうとする。
「…………」
メヴォラクが足を止めた。そして、ゆっくりと振り返る。
「まだ……立つのか」
次の瞬間。
ズシュッ!!
メヴォラクは手にしたリベリオンを、再びダンテへ突き刺した。
「――――」
ダンテの身体が、完全に止まる。
メヴォラクは剣越しに伝わる感触を確かめる。
そして――。
「……終わったか」
メヴォラクはダンテの死を確信した。
「この魔剣……」
メヴォラクはリベリオンを見つめる。
「悪魔を殺す力があるのか」
そして、淡々と告げる。
「死体と、この魔剣は持ち帰らせてもらおう」
――――
「…………」
儀玄は、目の前の光景を見つめていた。
メヴォラクの手にした魔剣リベリオン。その刃が――ダンテの身体を貫いている。
「…………ダンテ」
儀玄の胸を、言いようのない絶望が満たしていく。
また遅れてしまった。
また、目の前で失ってしまった。
「……またなのか」
儀玄の拳が震える。
「また……私は……」
その隣で、福福は何も言わなかった。ただ――その顔から、いつもの愛らしさが完全に消えていた。
「…………」
怒り。悲しみ。そして、明確な黒い感情。
福福の手が、ゆっくりと握り締められる。
「……絶対に」
小さな声が漏れる。
「あの人……絶対に許さない」
メヴォラクはダンテからリベリオンを引き抜こうとする。
「さて……」
しかし――。
「……?」
抜けない。
メヴォラクが眉をひそめる。
「なぜだ?」
もう一度、力を込める。だが、リベリオンは微動だにしない。
「……何だ?」
その瞬間だった。
ダンテの目が――開いた。
「……!」
メヴォラクが息を呑む。
次の瞬間。
ガッ!
メヴォラクは慌ててリベリオンから手を離し、後方へ飛び退いた。
「……!」
その行動に、雲嶽山の一同も驚く。
「……今、何を?」
潘が呟く。
アキラも目を見開いた。
「まさか……」
儀玄だけが、呆然と呟く。
「……ダンテ?」
その時。
ダンテの胸に突き刺さっていたリベリオンの瞳が――。
ギラッ。
一瞬だけ、赤く輝いた。
「……!」
次の瞬間。
ドォン!!
リベリオンが何かに弾かれたように上空へ吹き飛ぶ。
高速回転しながら宙を舞い、ダンテの頭上へと飛んでいく。
「……」
ダンテがゆっくりと立ち上がる。
血に濡れた身体。それでも、その足取りは止まらない。
一歩。
また一歩。
メヴォラクへ向かって歩いていく。
「なぜ……立てる?」
メヴォラクの声に、僅かな動揺が混じる。
ダンテは答えない。ただ、大きく両手を広げた。
そして――。
「――――ッ!!」
次の瞬間。
眩い光がダンテの身体を包み込んだ。
「なっ……!」
アキラが息を呑む。
「何が起きてるんだ……!?」
光の中で、ダンテの身体が変化していく。人間の姿が崩れ、赤と黒を基調とした異形の身体へと変わっていく。背中から小さな翼が広がり、頭部には虫の触角を思わせる突起と、冠のような角が現れる。そして、全身から凄まじい悪魔の力が噴き出した。
「…………」
そこに立っていたのは――もはや、先ほどまでのダンテではない。
悪魔の力を完全に解放した姿。
福福が呆然と呟く。
「これが……ダンテさん……?」
潘も言葉を失う。
「……何て力だ」
アキラも目を見開く。
儀玄だけは黙って、その姿を見つめていた。
そして――。
上空からリベリオンが落ちてくる。
魔人と化したダンテが、片手を伸ばした。
パシッ。
リベリオンがその手に収まる。
「…………」
ダンテがメヴォラクを見る。
次の瞬間。
ズンッ!!
地面が砕けるほどの踏み込み。一瞬で距離が消える。
「なっ――!」
メヴォラクが剣を構える。
ガキィン!!
リベリオンが激突する。
「ぐっ……!」
メヴォラクの身体が大きく押される。
ダンテは止まらない。右。左。斜め。連続する剣撃がメヴォラクを圧倒していく。
「何だ、この力は……!」
攻撃力、防御力、そして行動速度。すべてが跳ね上がっている。
メヴォラクの剣がダンテの身体を掠める。
だが――。
傷が瞬時に塞がった。
「……再生だと!?」
並大抵の攻撃では傷一つ付かない。たとえ傷を負っても、瞬く間に再生する。
その姿は――反則級だった。
「…………」
雲嶽山の面々は、その光景に呆然としていた。
ただ一人を除いて。
儀玄だった。
その顔には、僅かな笑みが浮かんでいる。
「……なるほど」
そして――。
「まだ終わってはいないな」
ダンテがメヴォラクの懐へ踏み込む。
「――――!」
「オオオオオッ!!」
ズドォン!!
凄まじい勢いの突進。
リベリオンを構えたまま、ダンテはメヴォラクへ突っ込んだ。
「ぐあああああっ!!」
メヴォラクの身体が吹き飛ぶ。
地面を削りながら、何度も転がっていく。
「……!」
ダンテは次の攻撃へ移ろうとする。
その瞬間だった。
「…………」
魔人の身体が、僅かに揺らぐ。
「……!」
ダンテの変身が解け始めた。
赤黒い光が消えていく。翼が消え、身体も元の人間の姿へ戻っていく。
「……くっ」
ダンテが片膝をついた。
限界だった。
致命傷すら強引に押し切って発動したデビルトリガー。身体には、もうほとんど力が残っていなかった。
「はぁ……はぁ……」
ダンテは荒い呼吸を繰り返す。
一方、吹き飛ばされたメヴォラクがゆっくりと立ち上がる。
「……まだだ」
メヴォラクが剣を構える。
その前に――。
一人の女性が立ちはだかった。
「――そこまでだ」
儀玄だった。
メヴォラクが目を見開く。
「貴様……!」
儀玄は静かに構える。
「私こそは雲嶽山第十三代宗主――」
一歩。踏み込む。
「儀玄!」
術式が広がる。
「世の諸悪を……」
周囲の空気が震える。
「灰燼に帰す!」
儀玄が一気に距離を詰めた。
「なっ……!」
メヴォラクが剣を振る。しかし、儀玄はそれをかわす。
一撃。二撃。三撃。
「速い……!」
メヴォラクが押される。
儀玄の動きは、これまでとは明らかに違っていた。
「邪祟滅殺!」
儀玄の背後から、黒い墨汁の羽が広がる。そのまま地面を蹴った。
一瞬で距離を詰める。
そして――。
ドンッ!
儀玄の姿を形取った墨汁の分身が現れる。一体、二体、三体。複数の分身が一斉にメヴォラクへ襲いかかる。
「ぐっ!」
「くそっ!」
メヴォラクの体勢が崩れる。
儀玄が掌を構える。
「破ぁ!」
掌の中で術が炸裂する。
「ぐあああああっ!」
直撃。
同時に、黒い鳥の形をした術式――青溟鳥が飛び出した。それがメヴォラクの身体へ絡みつく。
「な……!」
「終わりだ!」
ドォォォン!!
青溟鳥の力が一気に炸裂する。
メヴォラクの身体が大きく吹き飛び、そのまま壁へ激突した。
「ぐ……あ……!」
ドゴォン!!
壁が大きく砕ける。
メヴォラクは地面へ落下した。
「…………」
しばらく動かない。
やがて、ゆっくりと地面へ手をつく。
「主よ……」
メヴォラクの身体に纏わりついていたミアズマが、少しずつ剥がれていく。
「再創を……」
黒紫色の物質が消えていく。
「主よ……再創を……!」
最後までその言葉を呟きながら――。
メヴォラクの姿はミアズマの中へと溶けるように消えていった。
「…………」
静寂。
儀玄は消えたメヴォラクを見つめていた。
そして、背後で荒い息を吐くダンテへ振り返る。
「……まったく」
ダンテが苦笑する。
「何だよ?」
「また無茶をしたな」
「……まあ、そこは否定しねぇ」
福福が腕を組む。
「帰ったら……」
「……分かってる」
ダンテは苦笑した。
「説教だろ?」
「ええ」
福福は笑顔を浮かべる。
だが――。
「たっぷりですっ!」
ダンテは遠い目をした。
「……やっぱり、まだ終わってなかったか」
そしてダンテは、その場で力尽きるように倒れた。
――――
次にダンテが目を覚ました時。
そこは、適当観の自室だった。
「……ん」
ゆっくりと目を開ける。
見慣れた天井。
静かな部屋。
どうやら自分は、無事に戻ってこられたらしい。
「……ここは適当観か」
身体を起こそうとすると、僅かに痛みを感じる。
何気なく手を見ると、包帯が巻かれていた。足にも同じように包帯が巻かれている。
「……大げさだな」
傷そのものは、すでにほとんど治っている。自身の再生能力もあって、身体は思った以上に回復していた。
そんな時だった。
「ダンテ?」
扉の向こうから声がする。
ガチャ。
扉が開く。
そこに立っていたのは、アキラだった。
「起きたんだね!」
「おお、アキラか」
ダンテが笑う。
その後ろから、リン、葉釈淵、潘、福福、そして儀玄も姿を現した。
「ダンテさん!」
リンが嬉しそうに駆け寄る。
「よかったぁ……!」
「心配しましたよ!」
福福も笑顔を浮かべる。
潘も腕を組みながら、安堵したように息を吐いた。
「まったく、あれだけ無茶しておいて、よく無事だったな」
葉釈淵も微笑む。
「皆さん、本当に心配していたんですよ」
その光景を見て、ダンテは少しだけ目を細めた。
「……そうか」
自分が心配されていた。
それが、なんとなく嬉しかった。
そんなことを考えながら、ダンテは周囲を見回す。
アキラも、リンも、釈淵も、潘も、福福も――みんな笑っている。
そして最後に――儀玄が歩み寄ってきた。
「やっと起きたか」
「皆、心配していたぞ」
「……ああ」
ダンテは小さく笑った。
どこか温かい。
まるで家族のような空気。
「……こういうのも、悪くねぇな」
ダンテがそう思った――その瞬間だった。
儀玄が静かに腕を組んだ。
「さて、ダンテ」
「……ん?」
「起きて早々悪いが、今からお話をしてもらおうか」
「…………」
ダンテの笑顔が止まる。
「もちろん――」
儀玄は周囲を見回した。
「ここにいる全員と、だ」
「…………」
ダンテがゆっくりと周囲を見る。
アキラ。リン。釈淵。潘。福福。そして儀玄。
全員が笑っている。
「…………」
しかし、その笑顔は――明らかに以前より怖い。
特に福福。
「ダンテさん?」
福福が満面の笑みを浮かべる。
潘も腕を組む。
釈淵が微笑む。
リンも小さく頷く。
アキラは苦笑しながら言った。
「ダンテ。さすがに今回は、僕も見過ごせないよ」
「…………」
ダンテは無言で天井を見る。
逃げ道はない。
扉は一つ。
窓は一つ。
しかし、外へ出たとしても、この六人から逃げ切れる気がしなかった。
何より――。
「お前さん」
儀玄が静かに口を開く。
「自分がどれだけ心配をかけたのか、分かっているのか?」
「……まあ」
「まあ、ではない」
福福が少しだけ笑った。
「お弟子ちゃん、ちゃんと反省するんですよ!」
「そうだね」
アキラも頷く。
ダンテはしばらく黙っていた。
そして、心の中で静かに呟く。
「……悪魔でも泣くかもしれねぇ」
――Devil May Cry.
四十三話目にしてようやくデビルトリガー登場です。