悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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Wanna know the name?


『『Devil May Cry』』


第四十四話 謹慎処分

 

 

――同時刻。

 

ラマニアンホロウの深部で、秘密の集会は依然として続いていた。

 

薄暗い空間の中。その奥では、讃頌会の信者たちが不安げな表情を浮かべながら、サラの前に跪いていた。

 

「サラ様、我々は襲撃を受けたため――」

 

一人の信者が報告する。

 

「儀式を中断せざるをえませんでした」

 

「それから情報によりますと、司教様が……その……」

 

信者は言葉を濁した。

 

サラはしばらく黙っていた。

 

やがて――。

 

「なるほどね」

 

静かな声だった。

 

「ますます欲しくなったわ、あの魔剣と……あの兄弟の悪魔の力」

 

サラはそう呟くと、ゆっくりと振り返る。

 

「…………」

 

信者たちは俯いたまま、何も言えない。

 

「何度も言ったはずよ」

 

サラの声が、広い空間に響く。

 

「その目で見たものが、必ずしも真実だとは思わないこと、と……」

 

そして、穏やかな笑みを浮かべる。

 

「あなたたちは、ただ敬虔であれば、それでいいの」

 

「余計なことを考える必要なんてないわ」

 

その時だった。

 

サラの目の前に置かれていた、巨大なミアズマの球体がゆっくりと蠢いた。

 

「……?」

 

信者たちが息を呑む。

 

球体の表面から――手が伸びてきた。

 

やがて、その手に続くように腕が現れ、肩が現れる。

 

そして、ミアズマの中から一人の人物が姿を現した。

 

「司教様……!」

 

現れたのは、メヴォラクだった。

 

サラはメヴォラクを見つめる。

 

「司教様……計画は順調でしょうか……?」

 

「ええ……」

 

メヴォラクは静かに答えた。

 

「あの記憶は……既に手中に収めました」

 

「…………」

 

サラの目が細くなる。

 

その時――。

 

メヴォラクの背後にあったミアズマの球体が、再び大きく揺らいだ。

 

そこから、一人の人影が現れる。

 

長い髪。

 

見覚えのある姿。

 

それは――。

 

儀降。

 

……のように見えた。

 

そこにいたのは儀降ではなかった。

 

姿こそ似ている。

 

だが、その存在から感じられるものは、彼女とはまるで違っていた。

 

サラはその姿を見つめながら、静かに笑った。

 

「ええ……」

 

メヴォラクも頷く。

 

「計画を……続けましょう」

 

ミアズマの中で、人影がゆっくりとこちらを向いた。

 

そして――。

 

その瞳が、静かに開いた。

 

――――

 

一方、その頃。

 

適当観。

 

長い話し合いを終えたダンテは、部屋のベッドに座ったまま、周囲の視線を受けていた。

 

「…………」

 

アキラ。

 

リン。

 

釈淵。

 

潘。

 

福福。

 

儀玄。

 

「……で?」

 

儀玄が口を開く。

 

「つまり今回は、魔剣の力を使って、お前自身の力を解放するために、わざと刺されたのか?」

 

「ああ」

 

ダンテはあっさり答えた。

 

「そうだぜ」

 

「…………」

 

部屋が静まり返った。

 

誰も何も言わない。

 

ただ、全員の表情が固まっている。

 

「…………は?」

 

福福が小さく呟いた。

 

ダンテは肩をすくめる。

 

「リベリオンには人と魔を一つにする性質がある。あのままじゃメヴォラクを倒しきれなかったからな」

 

「だから、わざと……」

 

アキラも絶句する。

 

「……刺された?」

 

「ああ」

 

「…………」

 

その時だった。

 

部屋の隅から声がする。

 

「さすがに、それは周りを見なさすぎではないか?」

 

「……!」

 

ダンテが振り返る。

 

そこには、バージルが腕を組んで立っていた。

 

「いつからいたんだ、お前」

 

「最初からだ」

 

「そうか……」

 

バージルはダンテを冷たく見下ろす。

 

「自分一人が死ななければ、それでいいとでも思っているのか?」

 

「そういうわけじゃ――」

 

「ならば、事前に説明しておけ」

 

バージルが遮る。

 

「貴様が何を考えているのか、周囲に伝わっていなければ、ただの無謀な行動にしか見えん」

 

ダンテはお前が言うなと反論しようとした。

 

しかし、その前に儀玄へ視線を向ける。

 

「儀玄?」

 

儀玄は――俯いていた。

 

「…………」

 

拳が握り締められている。

 

「……儀玄」

 

ダンテが声をかける。

 

だが、儀玄は答えない。

 

しばしの沈黙。

 

そして、ダンテは以前と同じ言葉を口にした。

 

「前にも言っただろ」

 

「俺は簡単に死ぬつもりはないってな」

 

「…………」

 

空気が凍りついた。

 

福福が「ひっ」と小さく息を呑む。

 

潘も思わず目を逸らした。

 

アキラは頭を抱える。

 

「ダンテ……今のは……」

 

「……逆効果だったな」

 

釈淵が小さく呟く。

 

バージルも呆れたように目を閉じた。

 

「……本当に学習しないな、貴様は」

 

そして――。

 

儀玄が、ゆっくりと顔を上げた。

 

「…………そうか」

 

その表情には笑みがなかった。

 

「この大馬鹿弟子は……」

 

立ち上がる。

 

「どうやら、まだ理解――いや」

 

儀玄の目が細くなる。

 

「『わからせる』必要があるようだな」

 

ダンテが嫌な予感を覚える。

 

儀玄ははっきりと告げた。

 

「ダンテ」

 

「お前に、適当観での謹慎処分を命じる」

 

「……?」

 

「当分の間、適当観から出てはいけない」

 

「…………」

 

ダンテが固まる。

 

「さらに――」

 

儀玄は指を立てた。

 

「毎日の掃除」

 

「…………」

 

「早朝からの基礎修行」

 

「…………」

 

「術法の稽古」

 

「…………」

 

「そして、私の監督下での鍛錬だ」

 

「…………」

 

福福の顔が、みるみる笑顔になる。

 

「なるほど!」

 

「お弟子ちゃん、しっかり修行してもらいましょうねっ!」

 

潘も頷く。

 

「いやぁ、これはいい薬になるな」

 

「俺としては、まだ優しい処分だと思うが」

 

バージルが淡々と付け加える。

 

「バージルまで……」

 

ダンテが額を押さえる。

 

アキラも苦笑する。

 

「まあ……自業自得だよ」

 

「私もそう思う!」

 

リンは即答した。

 

完全に逃げ道がない。

 

儀玄は最後に、ダンテを真っ直ぐ見据えた。

 

「お前は強い」

 

「だが、強さとは一人で何でも背負い込むことではない」

 

「仲間を信じることも、また強さだ」

 

「今回のことで、それを少しは覚えてもらうぞ」

 

ダンテはしばらく黙っていた。

 

やがて――。

 

「……分かった」

 

珍しく素直に答える。

 

「しばらく大人しくしてるさ」

 

「よろしい」

 

儀玄が頷く。

 

福福も満足そうに笑った。

 

「これで安心ですねっ!」

 

ダンテは天井を見上げる。

 

これからの適当観での生活や修行のことを一瞬考える。

 

そして――。

 

小さく呟いた。

 

「……Devils never cry」{悪魔達は決して泣かない}

 

バージルが淡々と返す。

 

「ならば、最後までその意地を通せ」

 

「ただし――」

 

バージルは踵を返す。

 

「これからの掃除当番は貴様だ」

 

「…………」

 

ダンテはしばらく黙り込んだ。

 

その横で、福福が楽しそうに笑っていた。

 

 

――――

 

 

それからというもの、ダンテには辛い日々が続いていた。朝は福福に指示されながら、適当観の廊下を雑巾がけする。

 

「お弟子ちゃん、そこまだ汚れてますよっ!」

 

「……はいはい」

 

「はいは一回です!」

 

「……はい」

 

その後は儀玄から直々に術法を教え込まれる。

 

「ダンテ、集中しろ」

 

「門下生である以上、雲嶽山の術法を学ぶのは当然だ」

 

「……そういうもんかねぇ」

 

さらに午後になると、今度はバージルとの鍛錬が待っている。ただし、いくつかの条件付きだった。魔具の使用は禁止。適当観の敷地内から出ない。そして――建物や庭の物を壊さない。

 

「……随分と面倒な条件だな」

 

「当然だ。貴様は力加減というものを知らんからな」

 

バージルはそう言って構える。

 

「来い」

 

「……はいはい」

 

そうして始まった鍛錬は、毎回ダンテの体力を限界まで削った。

 

そして、何日か経った頃。

 

ダンテは、ついに理解した。

 

「…………」

 

布団の上に横たわり、天井を見つめる。

 

「このままだと……死んでしまう」

 

――大げさである。

 

だが、ダンテにとっては深刻だった。悪魔を相手に戦うよりも、毎日の掃除と修行のほうが精神的に堪えている。

 

「……何とかしねぇとな」

 

ダンテは起き上がる。

 

そして、その日から密かに脱走計画を練り始めた。

 

まず、儀玄。今日は釈淵と一緒に雲嶽山へ戻っている。しばらく帰ってくる予定はない。

 

次に、福福。こちらは一番の難関だった。ダンテの一挙一動を最も注意深く見張っていたが――。

 

「……算術で不合格になったのがバレたらしいな」

 

どうやら儀玄にその事実が発覚し、夜中のうちに雲嶽山へ呼び戻されたらしい。今頃は儀玄による補習の真っ最中だろう。

 

そして最後。アキラ、リン、潘の三人は、ポーセルメックスの晩餐会に招かれていた。

 

「つまり……」

 

ダンテは腕を組む。

 

「今なら、かなり楽に抜け出せるってわけだ」

 

これはチャンスだった。

 

もちろん、正面から出ていけば誰かに見つかる可能性がある。そこでダンテは、念には念を入れて裏口から出ることにした。

 

「よし……」

 

静かに部屋を抜ける。廊下を歩き、誰もいないことを確認する。やがて裏口へ到着した。

 

「…………」

 

ダンテが扉に手を伸ばした、その瞬間だった。

 

「どこへ行く」

 

「…………」

 

聞き覚えのある声。

 

ダンテが止まり、ゆっくりと振り返る。

 

そこに立っていたのは、青いコート。その下には雲嶽山の道着。腕を組み、静かにこちらを見つめる男――バージルだった。

 

「……バージル!お前、なんでここにいるんだ?」

 

ダンテは眉をひそめた。

 

「事務所はどうした?」

 

「しばらく羊飼いが見てくれることになっている」

 

「アイツ……」

 

ダンテは思わず呆れる。

 

「いや、そこじゃねぇな。なんでお前がここで俺を見張ってるんだ?」

 

バージルは淡々と答える。

 

「俺は雲嶽山の術に興味を持った。それで、しばらく門下生として学ぶことにした」

 

「そして儀玄から言われた。『この大馬鹿弟子が逃げないよう見張っておけ』とな」

 

「…………」

 

ダンテは額を押さえる。

 

「儀玄のヤツ……抜け目ねぇな」

 

バージルは構わず続ける。

 

「俺はまだ雲嶽山に入ったばかりだ。だからこそ、ここで貴様を監視する役目を任された」

 

そこで、ダンテがニヤリと笑った。

 

「ちょっと待て」

 

「ん?」

 

「お前のほうが門下生としては日が浅いだろ?」

 

「…………」

 

「だったら、俺のほうが兄弟子ってことにならないか?」

 

ダンテはニヤニヤしながら言う。

 

「バージル、ちゃんと俺のこと敬えよ?」

 

バージルの目が僅かに細くなる。

 

「……戯言はその辺にしておけ」

 

「ん?」

 

バージルは一歩前へ出る。

 

「ここを出たければ、俺を倒せ」

 

「……」

 

ダンテの笑顔が少し引きつる。

 

「本気か?」

 

「ああ」

 

「ただし――」

 

バージルは構える。

 

「俺は他の者と違って、容赦はしないぞ」

 

「…………」

 

ダンテはしばらくバージルを見る。

 

そして、深いため息を吐いた。

 

「……やめとく」

 

「賢明だな」

 

「ここでお前と戦ったら、どうせ建物を壊すまでやることになるだろ」

 

「その通りだ」

 

ダンテは肩をすくめる。

 

「……今日は戻るとするか」

 

そして、そのまま部屋へ戻っていった。

 

「…………」

 

バージルは何も言わず、ダンテの背中を見送った。

 

やがて――ダンテが自室へ戻る。ベッドへ腰を下ろし、そのまま横になった。

 

「……どうせ出られねぇなら、寝るか」

 

目を閉じる。

 

しばらくして、外から足音が聞こえてきた。

 

「ただいまー!」

 

リンの声。

 

続いてアキラや潘の声も聞こえる。

 

ダンテは目を閉じたまま考える。

 

「……バージルから話は聞かされるだろうな」

 

きっとそうだ。脱走しようとしたことも、裏口まで行ったことも、全部バレるに違いない。

 

「……もういい」

 

ダンテは布団を被る。

 

「今日くらいは寝かせてくれ」

 

そのまま、眠りへ落ちかけた。

 

――その時だった。

 

ドンドンドンドン!!

 

「……?」

 

激しく門を叩く音が響いた。

 

一度。二度。三度。

 

明らかに普通ではない。

 

「誰だ……?」

 

ダンテは目を開く。

 

門を叩く音は、さらに激しくなる。

 

ドンドンドンドン!!

 

ダンテはゆっくりとベッドから身体を起こす。

 

「……何かあったな」

 

ただ事ではない。

 

先ほどまでの眠気は、完全に消えていた。

 

そして――適当観の門を叩く、その必死な音だけが、静かに響き続けていた。

 

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