悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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Wanna know the name?


『『Devil May Cry』』


第四十五話 特別な依頼

 

 

適当観にて――。

 

ドンドンドンドン!!

 

門を叩く切迫した音が、静かな夜の中に響き渡った。

 

外から女性の声が聞こえる。

 

「……何事だ?」

 

アキラたちは急いで適当観の入口へ向かった。

 

そこでは一人の女性が潘に必死に話しかけていた。

 

「本当に、窓の外に光る物体がいたのだわ! 誓ってもいいのだわ!」

 

「お嬢さん、落ち着け、落ち着くんだ! ゆっくり話してくれ!」

 

潘が両手を広げて宥める。

 

「……先生! 本当よ! 本当に、窓の外に光る物体がいたのだわ! タイムフィールド家の名に誓ってもいいのだわ!」

 

「アリスさん、あ~コラコラ、誓うな、誓うな……。潘先生はな、可憐なお嬢さんが、健気にそういうことしてくるのにめっぽう弱いんだ!」

 

潘は困ったように頭を掻く。

 

「こんな夜中に適当観を訪ねてきたんだ。別に嘘だと思ってるワケじゃあないぞ、お嬢さん……。しかしその、なんだ……『バン』とか、『ドン』とか……『影が20度ちかく傾いてた』とか言われてもさっぱりだ……。そもそも、おれたち雲嶽山に術法があるとはいえ、幽霊退治となるとなぁ……」

 

「コホン……正確には、左にきっかり『22度』傾いてたのだわ。私、はっきり覚えてるもの」

 

女性は少しだけ胸を張る。

 

「とはいえ、ちょっと性急すぎた感は否めないかも……。ごめんあそばせ」

 

そして、丁寧に頭を下げた。

 

「貴方がた雲嶽山の専門も存じ上げているのだわ。こんな夜分にお伺いしたのは、私の友人から、こちらにいらっしゃるアキラさんとリンさんが……」

 

「潘さん、お待たせ」

 

その時、アキラたちが入口へやってきた。

 

「何かあったのかい?」

 

ダンテも後ろから顔を出す。

 

「おいおい、こんな夜遅くに何かあったのか?」

 

「おあ、三人ともいいところに来た!」

 

潘が振り向く。

 

「こちらにいる、タイムフィールドさんとこのお嬢さんがな……どうもお前さんたちに用があるらしいぞ」

 

「なっ――」

 

女性の目が大きく見開かれる。

 

「あ、貴方たちが……『アキラさん』と『リンさん』!?」

 

「えっと、ど、どうも……」

 

アキラが少し戸惑いながら頭を下げる。

 

「僕がアキラで、こっちは妹のリン」

 

「よろしくお願いします」

 

「あっ、あれぇ? また会えるなんて思わなかったなぁ、アハハ……」

 

リンが笑う。

 

「……そんな目で見ないでよお兄ちゃん、今のはまずかったって自分でも思ったから」

 

アキラは何とも言えない顔をした。

 

「……まあ、そうだね」

 

――数分後。

 

アリスからこれまでの経緯を大まかに聞いていた。

 

「……えーとつまり、窓の外に正体不明の発光体を見て、アキラとリンたちに助けを求めに来たと?」

 

ダンテが確認する。

 

「そういうことなのだわ」

 

アリスが頷く。

 

「それにしても、まさかルーシーの紹介だったなんて!」

 

リンが目を丸くする。

 

アリスは少し嬉しそうに笑う。

 

「何を隠そう、私とモンテフィーノさんは二人ともセレスティア女学院の生徒。彼女がお父様と決別し、何も告げずに家出した後も、私たちはずっと連絡を取り合っていたのだわ」

 

「なるほど……」

 

アキラも納得したように頷く。

 

「最初は、ポーセルメックスのスタッフに頼むつもりだったのだけど……こんな真夜中では、それもできないでしょう?」

 

アリスは少し困ったように眉を下げる。

 

「詳細はお話できないけれど、夜が明けてからではダメなのだわ。荒唐無稽な怪談の類として、きっと一蹴されてしまうでしょうから」

 

「…………」

 

アキラは考え込む。

 

――アリスが調査監督チームにいるのは、タイムフィールド家の人だからという話だった。

 

以前Fairyに調べてもらったところ、祖父が病気になったため、その代理として来ているということだった。

 

けれど、具体的な事情までは分からない。

 

もしかすると――ポーセルメックスに何か弱みを握られている可能性もある。

 

彼女を気にかけている様子はない。

 

他のゲストと比べても、扱いにはどこか差がある。

 

「お二人とも!」

 

アリスが声を上げる。

 

「モンテフィーノさんのお墨付きとあれば、窓の外に現れた未確認物体について、ぜひ真相を究明して頂きたいのだわ!」

 

「予定ではあと二週間、衛非地区に留まらないといけなくて……」

 

「解決しないままだと、私は大変困ってしまうのだわ……」

 

リンがアキラを見る。

 

「お兄ちゃん、どう思う?」

 

アキラは少し考えたあと、答えた。

 

「ルーシーのご学友ということなら、力を貸してあげるべきだ」

 

「気まずい初対面ではあったけれど、それはこちらに原因があったわけだし……」

 

「ありがとうございます!」

 

アリスがほっとしたように笑う。

 

しかし、次の瞬間。

 

「それで……お二人には、いくらお支払いすれば?」

 

アキラが固まる。

 

「え?」

 

「案件ごとに決まった額が? それとも日給か時給だったり?」

 

「いや、そこは――」

 

「お金のことなら、何も気を揉まなくていいのだわ」

 

アリスはさらりと言った。

 

「私にエーテル力学を教えていた家庭教師なんて、5分ごとに授業料が発生してたのだから……」

 

「5分ごと……」

 

アキラが絶句する。

 

その横で、潘の目が輝いた。

 

「ああ、気を揉むことなんてあるもんか!」

 

「え?」

 

「何せ、あのタイムフィールド家のご令嬢だぞ!?」

 

潘はアリスの前で胸を張る。

 

「身内の友なら、手を貸すなんて当然じゃあないか!」

 

「安心してくれよ、お嬢さんっ!」

 

「おれたち雲嶽山の取り柄は術法だけじゃないんだ! 調べものから探しものまで、何でもござれだからな!」

 

「潘さん、せめて相談を挟んでからだと嬉しいな……」

 

アキラが苦笑する。

 

しかし潘は気にしない。

 

「なあに言ってるんだ! この兄弟子みずから、お前さんたちのためにチャンスを掴んでやってるんじゃないか!」

 

「いいかあ、弟子たちよ……タイムフィールド家の財力はな、そんじょそこらの連中とは比べ物にならないんだ!」

 

「オシシたちの有休、それに福姐の来月のメシに肉が入るかは……ぜんぶお前さんたちにかかってるんだぞ!」

 

「兄弟子さん、あまりプレッシャーをかけないでくれるかな……」

 

そしてダンテもそれに付け加えるように言った。

 

「それに、もし見たものが本物の幽霊だとしても、俺たちにかかれば一瞬だしな!」

 

「ムハハ……!」

 

潘が豪快に笑う。

 

「さあお嬢さん、今日は適当観に泊ってくといい!」

 

「一晩ぐっすり休んで、朝メシ食ったら、お弟子ちゃんが調査を手伝ってくれるからな!」

 

「本当に、引き受けてくれるの?」

 

アリスは少し不安そうに尋ねる。

 

「ポーセルメックスが招いた人間と関わるのに、気が進まないなら……無理はしないほうがいいのだわ」

 

「考えすぎさ、タイムフィールドさん」

 

アキラは穏やかに笑う。

 

「君に助けが必要なら、僕たちは喜んで引き受ける」

 

「本当にありがとう」

 

アリスは胸に手を当てる。

 

「ではお言葉に甘えて、今晩はお世話になるのだわ」

 

「よし! 話は決まりだな!」

 

潘が満足そうに頷く。

 

その後、一行はアリスを適当観の空き部屋へ案内した。

 

 

――――

 

 

翌朝。

 

適当観には、昨夜とは打って変わって穏やかな朝の空気が流れていた。

 

「おはようございますなのだわ、アキラさん。昨日は深夜に押しかけてしまって、本当にごめんあそばせ」

 

アリスが丁寧に頭を下げる。

 

「大丈夫。君は助けを求めに来てくれたんだからね」

 

アキラは笑って答える。

 

「それと、僕のことだけれど……呼び捨てで構わないよ」

 

「そう……」

 

アリスは少しだけ考え、それから微笑んだ。

 

「それじゃ、私のことも気安く『アリス』と呼んでほしいのだわ」

 

「ああ、分かったよ。アリス」

 

「ふふ……よろしくお願いするのだわ、アキラ」

 

二人は準備を整える。

 

昨夜、アリスが目撃したという発光体の正体を確かめるため、調査へ向かおうとしていたその時だった。

 

「待て」

 

背後から、低い声が響いた。

 

「……?」

 

アキラとアリスが振り返る。

 

そこに立っていたのは、青いコートを羽織ったバージルだった。

 

「バージル?」

 

「ダンテから話は聞いた」

 

バージルはアリスを見る。

 

「昨夜、正体不明の発光体を目撃したそうだな」

 

「ええ、その通りなのだわ」

 

「本物の幽霊である可能性もあるのか?」

 

「そこまでは……分からないのだわ」

 

「ならば、俺も行く」

 

バージルは即答した。

 

「もしそれが本物の幽霊だとしたら――」

 

手に持っている閻魔刀を見る。

 

「俺が斬る」

 

「……」

 

アリスが少しだけ目を丸くする。

 

「心強いのだわ……」

 

しかしアキラは、一つ気になることがあった。

 

「その間、ダンテの見張りはどうするんだい?」

 

バージルは平然と答える。

 

「潘に頼んだ」

 

「潘さんに?」

 

「ああ。ダンテは信用ならないが、潘の実力は確かだ」

 

「それに――」

 

ほんの僅かに口元が緩む。

 

「今のあいつは、潘にピザで釣られている」

 

「……ピザ?」

 

アキラは呆れたような顔になる。

 

「見張りの方法として、それでいいのか……?」

 

遠くの部屋からダンテのぼやく声が聞こえた気がした。

 

アキラは頭を抱える。

 

「……まあ、潘さんなら大丈夫か」

 

アリスも二人を見比べる。

 

「では、バージルさんにも同行していただくのだわ」

 

「分かった」

 

こうして、アキラ、アリス、そしてバージルの三人で調査へ向かうことになった。

 

 

――――

 

 

アリスの話によれば、昨夜目撃した発光体は彼女の宿泊場所の窓の外に現れ、その後消えていったらしい。

 

三人が周囲を捜索していると――。

 

小さな動物が一匹、こちらを振り返る。

 

ふさふさとした尾。

 

丸い耳。

 

そして、どこか悪戯っぽい目。

 

そしてその動物は全力で逃げ始めた!

 

アリスが追いかける。

 

「逃がさないのだわ!」

 

「ちょ、アリス!」

 

アキラも慌てて走り出す。

 

一方――。

 

「…………」

 

バージルは歩いていた。

 

「いや、バージル!」

 

アキラが振り返る。

 

「走らないのかい!?」

 

「急ぐ必要はない」

 

「いや、逃げられるよ!?」

 

「問題ない」

 

バージルは淡々と歩き続ける。

 

その間にも、狸は路地を抜け、角を曲がっていく。

 

「待つのだわー!」

 

アリスとアキラは全力で追いかける。

 

「いた!」

 

狸が一軒の店へ飛び込んだ。

 

「店内に逃げ込んだ!」

 

アキラが叫ぶ。

 

その店の前には、一人の大柄な青年がいた。

 

赤く染まった前髪。

 

厳めしい顔。

 

そして、傍らでは大型のバイクを整備している。

 

青年は二人の姿を見ると、怪訝そうに眉をひそめた。

 

「……なんだ?」

 

アリスが息を整えながら近づく。

 

「昨日のいたずらは、貴方の――」

 

青年が立ち上がる。

 

想像していた以上に大きな体格だった。

 

「しわ……」

 

アリスの声が止まる。

 

「……ざ……」

 

そして、ようやく名前が出てくる。

 

「狛野くん?」

 

「…………」

 

青年――狛野真斗が目を細めた。

 

「はぁ……たく」

 

「柚葉! 客だ」

 

店の奥へ向かって声を飛ばす。

 

すると、すぐに明るい声が返ってきた。

 

「いまいく~!」

 

しばらくして、一人の少女が姿を現した。

 

ボリューミーな赤い髪。

 

黒いセーラー服。

 

ピンク色のカーディガン。

 

「何をお求めですか~?」

 

彼女はにこにこと笑いながら、アリスたちを見る。

 

だが――。

 

アリスの表情が、みるみる険しくなっていく。

 

「…………」

 

柚葉はそんなアリスを見て、目を細める。

 

そして。

 

「あれ?」

 

口元に、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「ありゃりゃ……」

 

「やっぱりバレちゃった?」

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