『『Devil May Cry』』
警備セキュリティメカを片付けた一行は、封鎖されていた山道を進み、泗瓏囲へ向かっていた。
先頭を歩くのは柚葉と真斗。その少し後ろをアキラ、バージルが続いている。
しばらく歩いたところで、柚葉がふと足を止めた。
「……待って、こっち来て」
「ん?」
真斗が振り返る。
柚葉は声を潜めた。
「私たち、出発してからずっと、誰かにつけられてる気がするんだけど」
「……尾行ってことか?」
真斗が周囲を見回す。
「気のせいじゃねぇのか?」
「そう思いたいんだけどね~」
柚葉は後ろをちらりと見る。
「何度か、人影みたいなのが見えたんだよね」
「俺もだ」
バージルが口を開いた。
「え?」
真斗が振り返る。
「バージルさんもか?」
「ああ。かなり慎重に追っているようだが、間違いない」
「Fairy、何かわかる?」
アキラがFairyへ問いかける。
「すみません。山道区間では、利用可能な映像記録デバイスが不足しています。現時点では、追跡者の特定は困難です」
「ったく、どこのどいつだ……」
真斗が苛立ったように呟く。
バージルは周囲を見回した。
「ここにいれば、いずれ分かる」
「……そうだね」
アキラも頷く。
柚葉が口元に指を当てた。
「シッ……来たよ!」
全員が身を潜める。
しばらく待つ。
「…………」
誰かがこちらへ近づいてくる。
柚葉はニヤリと笑う。
そして、影が姿を現した瞬間――。
「バア!」
「いゃあああああ――っ!」
突然飛び出した柚葉に、人影が飛び上がった。
「……」
バージルが呆れたように目を細める。
「何をしているんだ」
そこにいたのは――アリスだった。
「アリス?」
アキラが驚く。
「アリス、怖がらなくていい。僕たちだ」
「……ああ、アキラだったの」
アリスは胸に手を当て、息を整える。
「ふぅ……びっくりしたのだわ……」
「こっそり柚葉たちを尾けてたくせに、どうしてそっちがビックリするかな~」
柚葉が楽しそうに笑う。
「で、何しに来たの?」
「う……」
アリスは少しだけ言葉を詰まらせた。
「浮波さん、狛野さん……私にも、オブスキュラの調査を手伝わせてほしいのだわ」
「……」
柚葉と真斗が顔を見合わせる。
「戻ってから、よく考えてみたのだけど……」
アリスは続ける。
「せっかく調査チームに加わったのに、何もできないままだなんて……そんな自分を、どうしても許せなくて」
「だから、私も行きたいのだわ」
柚葉は腕を組む。
「ふーん」
そして、少し厳しい目でアリスを見る。
「忠告してあげるけど……今のあなたは、ポーセルメックスに雇われてる身でしょ?」
「そうやって、どっちつかずなことしてると、ろくなことにならないよ」
「人からどう思われるかばっかり気にしてたら……将来、なんにもできない大人になっちゃうんだから」
「――!!」
アリスの表情が強張る。
その横から、真斗がため息混じりに口を挟んだ。
「柚葉は、アンタがポーセルメックスに報復されんのを心配してんだ」
「そうは聞こえねぇかもしんねぇけどな」
「はぁ!? 真斗うるさい!」
柚葉が睨む。
「…………」
アキラはそんな二人を見ながら、アリスへ向き直った。
「アリス、気持ちはうれしいけれど……無理はしないでくれ」
「アキラ、ありがとう」
アリスは微笑む。
「私は大丈夫だから、心配いらないのだわ」
「ブラックウッド氏は態度こそ強硬だけど、少なくとも契約は守る人だと聞いてるのだわ」
「私たちのやっていることが今回の安全調査に関わっていなければ、バレたとしても対処する方法はあるはず」
そして柚葉を真っ直ぐ見つめる。
「それと、浮波さん?」
「貴方の言葉は確かにもっともだけれど……私がそれに迎合していたら、結局『人からどう思われるか』を気にしてることになるのだわ」
「…………」
「タイムフィールド家を継ぐ者として、私は自分の選択に責任を持つ」
アリスは胸を張った。
「皆さん、どうか心配はしないで」
柚葉はしばらく黙っていたが、やがて肩をすくめた。
「はあ、別にいいけど……」
「さっきの話も聞いてたよね?」
「泗瓏囲の調査が終わったら、次はホロウに行くかもしれないの」
柚葉はアリスを見ながら笑う。
「お嬢様のお散歩コースとしては、ちょっと過酷だよ」
「ホロウの研究をするなら、現地調査のひとつもできなくては一人前とはいえないのだわ」
アリスは即答した。
「私、幼少のころからフェンシングと、ホロウでのサバイバル術を専門に叩き込まれてきたの」
「……へぇ」
柚葉が少しだけ目を丸くする。
「そ。じゃあ柚葉は、とくに問題ないかな~」
そして真斗を見る。
「真斗は?」
「俺は歓迎するぜ」
真斗が笑う。
「戦力が増えるなら、願ったりかなったりだ」
「ありがとう、狛野さん」
アリスも嬉しそうに頷く。
その時。
「話は終わったか?」
バージルが先頭へ向き直る。
「では先を急ぐぞ」
「ちょっと!」
柚葉が慌てて追いかける。
「歩くの早い!」
「俺は普通に歩いているだけだ」
「それが速いんだってば!」
――――
泗瓏囲に到着した一行は、まず柚葉の知り合いである子供・月から情報を聞く。月によれば、ポーセルメックスの荷物を運んでいた兄が、輝磁の原石や「白い髪に金色の翼を持つ女の幽霊」を目撃したという。また、山道では以前から「変なため息」が聞こえるという噂もあり、柚葉は月の話には大げさな部分もあると考えつつ、材料を買い取る。
同時に柚葉は、以前自分の店へ届けられた材料の中にあったオブスキュラの欠片について月に尋ねる。月は自分の物ではなく、メローか方おじさんの荷物ではないかと答える。そこで柚葉と真斗は方を、アキラ、アリス、バージルはメローを調べることになる。
メローは壊れたタウンハンターのラジコンを直すのに夢中で、最初は調査に協力しようとしない。アリスがラジコンを修理してあげると、メローは欠片の出所を教えると約束するが、ポーセルメックスが部外者を警戒していることから、一行を怪しい人物だと疑い、約束を破って情報を明かそうとしない。
その後、柚葉が現れ、一行が信用できることを保証する。メローによれば、謎の輝磁はダンテが見つけたものだった。ダンテが高値で売れると言ったことに対してメローが反発し、口論になった結果、ダンテがメローのラジコンを壊し、メローも仕返しにダンテのディニーガンを壊したという。つまり、謎の輝磁の直接的な出所はダンテであることが判明する。ちなみにバージルは一瞬ダンテという名前が出たとき身構えたが名前が同じだけの別人だと理解し、顔に手を置くのだった。
さらに、メローとの会話を通して、柚葉が「浮波」姓を名乗っていることが、泗瓏囲の住民から見れば不自然だったことも明らかになる。実際、柚葉は宝栄という男性に引き取られた養女であり、彼の本当の姓は「黎」。柚葉は家のない自分を引き取ってくれた宝栄を優しい父親として慕っているらしい。
一方、アリスも自分の身の上を明かす。タイムフィールド家はすでに人が少なく、父親は数年前に事故で亡くなり、現在は病床にいる祖父と二人きりだという。
互いの境遇を知った柚葉は、アリスに「ペコペコしてばかりではなく、自信を持つべきだ」と励ます。アリスもその言葉を受け入れ、一行は改めてダンテの行方と、謎の輝磁が何を意味するのかを調べるため先へ進むことになる。
――――
「そのダンテとかいうヤツの家はどこだ?」
バージルが柚葉へ尋ねる。
ただし、「ダンテ」と口にした瞬間だけ、妙にぎこちない。
柚葉はそれに気づいた様子もなく、上を指差した。
「この上の階。すぐ着くよ」
「そうか」
三人は泗瓏囲の集合住宅を進んでいく。
「ダンテ、メローのおもちゃを壊しちゃったから、仕返しに僕の銃を壊して……」
「焦らないでくれ、ダンテくん」
イゾルデが穏やかに言う。
「私が直してみせよう」
「本当?」
ダンテは嬉しそうにイゾルデを見る。
「イゾルデさん……このディニーガン、まだ直せるかなあ?」
「もちろん。お姉さんは軍にいたんだ。もっと複雑な銃だって直せるとも」
イゾルデは壊れた玩具を手に取る。
「トリガーに繋がるロッドが外れているだけだから、こうして分解してやれば……」
慣れた手つきで内部を確認し、部品を組み直していく。
「うん……よし、これでいいんじゃないかな」
イゾルデは銃をダンテへ返す。
「さあ、ダンテくん。弾を……ディニーを一発くれないか。試しに撃ってみよう」
「うん!」
ダンテが嬉しそうに銃を構える。
「それっ!」
パァン!
おもちゃの銃から放たれたディニーの弾丸は、近くの物陰へ飛んでいった。
「……!」
そこに隠れていたアキラたちは咄嗟に身を固める。
しかし――。
パシッ。
飛んできたディニーの弾丸を、バージルが指で摘まんだ。
「…………」
「五人とも、なかなか肝が据わっているね」
イゾルデは少し驚いたように言う。
「特にそこの青年は、不意打ちでキャッチするとはね」
バージルは指先のディニーを見つめる。
「では、こう言った方がいいか?」
イゾルデが少しだけ笑った。
「次は実弾だ」
「なるほど」
バージルが閻魔刀へ手を伸ばし、そのままイゾルデへ向かおうとする。
「ちょ、ちょっと待って!」
アキラが慌てて止めた。
「……?」
バージルが振り返る。
どうやら、冗談を真に受けたらしい。
アキラは苦笑しながら、イゾルデへ向き直った。
「防衛軍を代表して来てるあなたが、ポーセルメックスの言いつけを破ってこんなところにいる……少し想定外だったんだ」
「ふっ、交渉ごとに長けているのだな、アキラくん」
イゾルデは笑う。
「こちらが先手を取ったつもりだったのだが」
そして、表情を改めた。
「いかにも。私も諸君と同じく、秘密裏にここを訪れた。今や互いに弱みを握り合う仲というわけだ……まずは私から誠意を示そうか」
「ここに来たのは、ダンテくんの御実家を訪ねるためだ」
イゾルデは静かに続ける。
「彼の叔父とは、軍属時代の戦友だったものでね」
その言葉を聞いたダンテが、柚葉へ向かって笑う。
「柚葉姉ちゃん、大丈夫だよ! イゾルデさんは悪い人じゃないから!」
「昔から毎年、僕たちに会いに来てくれるんだ!」
「そういうことならよかった」
アキラが安堵する。
「変に勘ぐってしまってすまなかったね」
「気にするな。慎重なのはいいことだ」
イゾルデが頷く。
「私はここでダンテくんの母上が帰ってくるのを待つ。君たちは好きにするといい」
その時だった。
「あら、今日はうちの前が賑やかねぇ……」
聞き覚えのある女性の声。
「柚葉ちゃんに真斗くん……あら、イゾルデさんまで!?」
振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
「久しぶりだね、アイタナ」
イゾルデが穏やかに笑う。
「そっか……もう一年経ったのねぇ――」
アイタナも懐かしそうに目を細める。
「最近はポーセルメックスが厳しくしてるから、泗瓏囲まで来てくれるなんて思わなかったわ」
そして、息子の姿に気づく。
「こら、ダンテ。みんな来てくださってるなら、どうしてお家に上がってもらわなかったの!」
「え?」
ダンテが振り返る。
「あっ、それにまたその鉄砲を持ち出して……!」
アイタナの目が銃に向く。
「前にお母さんと約束したでしょ? もうそれで遊ばないって!」
「えー、月やメローは他におもちゃがあるけど、僕にはこれしかないもん!」
ダンテが不満そうに言い返す。
「どうやって遊んだらいいのさ!」
そして、さらに続ける。
「どうして母さん、僕が大きくなって防衛軍に入るのがそんなに嫌なの!? 僕、わかんなーい!」
「この悪ガキ、今なんて――こらぁ! 戻ってきなさい!」
「嫌だ!」
ダンテはそのまま走り去ってしまった。
「はぁ……」
アイタナが深いため息を吐く。
「来てもらって早々、みっともないとこ見せちゃったわね」
イゾルデは苦笑する。
「ダンテくん、将来は防衛軍を?」
「そうねぇ」
アイタナは遠くを見る。
「いつも『叔父さんが、叔父さんが』って言ってるくらいだから……あの子にとっては、うちの旦那より叔父さんのほうがよっぽどすごいみたい」
「会ったこともないのにね」
イゾルデは少しだけ目を伏せた。
「最近はどうだ。みんな元気にやっているのか?」
「うーん、まあまあかしら」
アイタナが答える。
「私と旦那が仕事に行ってる間、ダンテも他の子と輝磁の廃材を拾いに行けるようになったからね。一応はお金に換えられてるのよ」
「そうか」
イゾルデは懐から何かを取り出した。
「それなら、あまり多くはないが、この金を受け取ってくれ。生活の足しにしてくれたらいい」
「これは……あなたのお金?」
アイタナは受け取った金を見つめる。
「それとも、防衛軍からの遺族補償金?」
「防衛軍からだ」
「……ウソばっかり」
アイタナは静かに首を振る。
「防衛軍が補償をくれるつもりなら、とっくに支払ってたはずよ」
「弟が受けるべき敬意は、軍からのものでなければいけないから……そのお金は受け取れないわ」
「…………」
しばらく沈黙が流れる。
アイタナはやがて、苦しそうに言葉を絞り出した。
「時々……いいえ、時々じゃないわね。旧都があんなことになってから、ずっと思ってる」
「弟の死も、あなたたちの今までの頑張りも……何の意味もなかったって」
イゾルデは静かに首を振る。
「アイタナ、そんなことはない」
「マクシムや他の戦友たちの努力がなければ、ダンテくんのような子供たちが、こうして浜辺を自由に走り回れる日は来なかったろう」
「もちろん、あのとき防衛軍が受けた損害は甚大だった」
イゾルデは遠くを見る。
「旧都陥落を阻止できなかったことで、今でも市民たちが私たちに向ける目は冷ややかだ……」
「悲しみに暮れる遺族にしかるべき補償が行き渡らず、犠牲となった兵士たちの名誉を守ることもできなかった――それは防衛軍の重大な怠慢だと私は思っている」
そして、深く頭を下げる。
「すまない……君たちは本来、もっとよい場所で暮らすことができたはずなのに。私に力がなかったばかりに……」
アイタナはしばらく黙っていた。
やがて、穏やかな笑みを浮かべる。
「昔の戦友を忘れないで、こうして毎年会いに来てくれるだけで十分嬉しいわ」
「はあ……こんな昔話するつもりじゃなかったのに。あの悪ガキのせいね……」
そして、遠くへ走っていったダンテの姿を見る。
「過去は過去として、受け入れるしかないわね。私にはダンテとあの人がいるんだもの」
「前を向いていかなきゃ」
「そうだな」
イゾルデも頷く。
「この世界にはまだ、君にとって大切なものがたくさんある」
その時、アイタナが柚葉たちを見る。
「あ、ごめんね柚葉ちゃん。久しぶりに友達が来てくれたものだから、ついほったらかしにしちゃったわ……」
「私たちになにか用だった?」
「うん」
柚葉が頷く。
「実はダンテたちに会いに来たの」
「あの子がどこかから拾ってきた輝磁のことで、ちょっと話を聞きたくて。たいした用事でもないんだけどね」
「そうだったの……」
アイタナが考える。
「あの子ったらスネて飛び出してっちゃったけど、きっと浜辺に行ったんだと思うわ」
「しばらくしたらケロっとして戻ってくると思うから、うちで休んでいかない?」
「ありがと、おばさん」
柚葉は少し考えたあと、首を横に振った。
「でも、やっぱり浜辺まで行ってみようかな」
「ダンテくらいの年頃の子って、私たちが思ってる以上に悩みが多いから」
バリバリ戦う予定だったアリス、しかし周囲にはセキュリティロボットの残骸しかなかったのである。
???:I need more power.....
???:また発作が起きてるぜ