『『Devil May Cry』』
一行は、浜辺へとやって来た。
「よう、ダンテ。ここだったのか」
真斗が声をかける。
「真斗兄ちゃんに、柚葉姉ちゃんも……どうしてここに来たの?」
ダンテが振り返る。
「今日はもともと、ダンテが拾った輝磁について聞きたかったんだ。あー……もちろん、ここへ来たのは心配だったからだけどよ……」
「真斗?」
柚葉が呆れたように横を見る。
「たぶん前半は余計だったよ」
「ぷっ」
ダンテが笑う。
「真斗兄ちゃんはいつもそうだよね」
「うるせぇなぁ……」
ダンテは少しだけ笑ってから、海へ視線を向けた。
「ありがとう。……わかってるんだ、母さんが心配してるのも」
「命がけで戦ったのに、誰もほめてくれなかった叔父さんのことを、ずっと引きずってて……」
「誰にももう、そんな思いはさせたくないって」
ダンテは小さな拳を握る。
「だから、母さんのつらさはちゃんとわかってる。イゾルデさんも前に言ってたけど……旧都陥落で軍人だった大黒柱をなくしちゃったお家は、たくさんあるって」
そして、真っ直ぐ前を見る。
「それでも僕、防衛軍に入りたいんだ」
「母さんが我慢するしかなかった防衛軍の悪いところを、僕が変えたい! もう誰も傷つけないように変えたいんだ!」
アキラはその言葉を聞き、少しだけ笑った。
「いいんじゃないかな」
「簡単なことではないというのは、言っておかないといけないけれど……この街は、僕たちが思っている以上に複雑だ」
「それでも、自分がどうしたいのかを考えることは大切だと思うよ」
「……うん!」
その時、静かに海を見つめていたイゾルデが口を開いた。
「ふふ……子どもの夢というのは、時間がゆっくりと育ててくれるものだ」
そして――。
「素晴らしい夢だと思うぞ、少年」
バージルだった。
「……!」
アキラが目を見開く。
――まさかバージルが、そんなことを言うなんて。
ダンテも意外そうにバージルを見る。
「兄ちゃん……」
「……何だ」
「いや、なんでもない」
ダンテは嬉しそうに笑った。
その時、イゾルデが時計を確認する。
「ダンテくん。私がここにいるということは……もうこのまま帰ってしまうのか、と聞きたいのだろう?」
「うん」
ダンテが頷く。
「さっきポーセルメックスの人間から、私に会いたいと連絡があってね」
イゾルデは少しだけ苦笑する。
「防衛軍の腹の内を、今一度探っておきたいのだろう」
そしてダンテを見る。
「ダンテくん、母上がとても心配していたぞ。彼女に対して怒っているわけではないのなら、早く帰ってやるといい」
「……うん。わかったよ」
ダンテは素直に頷いた。
そして、何かを思い出したように柚葉たちを見る。
「そうだ、柚葉姉ちゃんたちは輝磁の何を聞きたかったの?」
バージルが持っていた欠片を見せる。
「この輝磁の欠片、覚えているか?」
「俺たちは、これをどこで手に入れたのか知りたい」
「……ああ、これ?」
ダンテは欠片を覗き込む。
「三日前くらいかな……午前中に、舟で釣りに出かけたとき拾ったんだ」
「岸から三キロくらい離れた、沖合の小さな島らへん」
「長いことあそこで待ってたら、この欠片がホロウのほうから流れてくるのが見えてさ」
イゾルデは欠片を受け取り、慎重に確認する。
「私の見間違いでなければ、これはオブスキュラ装置の破片だな」
「衛非地区で製造していたとは知らなかったが……」
そして、一行を見渡す。
「なるほど。君たちが泗瓏囲に来た理由がなんとなくわかった」
「だが、詳しく聞くつもりはない……時には知らないほうがいいこともあるからね」
「そう言ってもらえて、僕たちもひと安心だ」
アキラが答える。
アリスは海を見ながら首を傾げた。
「疑問があるとしたら……どうしてオブスキュラの欠片が、ホロウから漂流してきたのかしら?」
「うん……」
柚葉も海へ目を向ける。
「ラマニアン島って水の流れがたくさんあるから、地下に川なんかもあったりするの」
「この欠片は何かの拍子に水に落ちて、そのまま流れてきちゃったんじゃないかな」
「ただ、ホロウがあれだけおっきいから……どこから来たのかってなると、絞り込めないかもね」
「近くにあるホロウの出口を、Fairyに片っ端から探してもらおっかな……」
アキラは考え込む。
「まあ、結局そのあと、オブスキュラが流れてきた出口を特定するのが一番大変なんだけど……」
その時だった。
「実は、計算で割り出す方法がある」
イゾルデが言った。
「そうだ。ダンテくん」
「ん?」
「母上に疎まれているうえに、よく壊れるディニーガン……いっそ私に売ってくれないか?」
「ええ?」
ダンテが目を丸くする。
「それで新しいおもちゃを買うといい」
「まあ……別にいいけど、イゾルデさん、こんなの買ってどうするの?」
「ふふ……もしかしたら、このお兄さんやお姉さんの役に立つかもしれない」
イゾルデはディニーガンを受け取り、それをアキラへ差し出した。
「さあ、アキラくん。受け取ってくれ」
「えっと……イゾルデさん、僕はこれをどうしたら……?」
「腕を高く上げろ。岸に対して垂直に……遠く海に向かって一発撃て」
「分かった」
アキラは言われた通り、海へ向けてディニーガンを構える。
パァン!
放たれたディニーが水面へ落ち、ゆっくりと漂い始める。
「撃ったディニーが、水面を漂っていくのだわ!」
アリスが声を上げる。
「時間を計り始めた」
イゾルデは時計を確認する。
「あのディニーは、しばらくしたら岸辺まで来るはずだ」
「だが、ホロウによる潮汐と風の双方に影響を受けているため、まっすぐ岸に着くことはなく、ある程度のズレが生じる」
イゾルデは持っていた端末を確認する。
「今日のラマニアンホロウの活性レポートを確認してみよう……ああ、三日前の午前中とさほど変わらないね」
「それに、この季節はあたりの風速も安定しているから、時間差による影響もほとんどないとみていい」
そしてディニーを見つめる。
「あのディニーの密度は、オブスキュラの破片とほぼ同じ。後で流れ着いた岸の位置と時間がわかれば、海水の流れる速さから逆算して、出口の場所を割り出せるはずだ」
「ほう……」
アキラは頷く。
「よく分からなかったけれど、僕たちは運がいいようだな」
ダンテが笑う。
「たぶん柚葉姉ちゃんがいるからだよ!」
「いつもびっくりするくらい運がいいんだから……傘を忘れた日は雨が降ってても下校前に止むし、こないだは一か月くらい、ソーダを買うたびに『もう一本』が当たってたんだから!」
「ダンテ……」
柚葉が苦笑する。
「そんな大げさな……」
「でも、あのとき輝磁の欠片が流れてきたのも、ひょっとして柚葉姉ちゃんに必要だったから……?」
「…………」
真斗が突然、声を漏らした。
「あ……」
柚葉が振り返る。
「なに、真斗? 急に声出して」
「何でもねぇよ」
「はい絶対ウソ」
柚葉が真斗へ顔を近づける。
「早く言って、3、2、1――」
「……マジでなんでもねえって」
「怪しいなぁ」
真斗は少し迷ってから、口を開いた。
「ただ、柚葉の苗字を思い出してさ」
アリスが首を傾げる。
「浮波さんの……苗字?」
「そう」
柚葉が苦笑する。
「あー……ホラ、柚葉のパパは『黎』だから」
「だって変でしょ、『リー・柚葉』」
「自分の子供になる以上、そんなセンスのない名前は許せない――って、柚葉がどうやってパパのところに来たかをヒントに、別の苗字をくれたの」
「黎さんという方は、とても面白い方のようなのだわ……」
アリスが微笑む。
アキラも気になったように尋ねる。
「浮波……それが、お父さんと君が出会ったきっかけだと?」
「うん」
柚葉は海を眺めながら答えた。
「柚葉は海からどんぶら流れてきて、泗瓏囲の海岸でパパに拾われたんだ」
「そうだったの……」
アリスが目を丸くする。
「それは、海難事故とかで?」
「違うよ」
柚葉は悪戯っぽく笑った。
「知ってた?」
そして――。
「実はラマニアンホロウには竜宮城があるの」
「……竜宮城?」
アリスが聞き返す。
「柚葉、そこのお姫様だったんだ~」
「…………」
一瞬の沈黙。
「家来たちに大事にされて、毎日幸せに暮らしてたけど……ある日、竜宮城に迷い込んだ人から、外にある人間の世界について色々聞いたの」
「それでつい、勢いでその人についてっちゃったんだよね~」
柚葉は肩をすくめる。
「こっちに来たら竜宮城の場所もすっかり忘れて、それで……みんなが言うところの『孤児』ってことになっちゃった」
アリスが呆然とする。
「それ、あのおとぎ話みたい……」
「舞台がラマニアンホロウになってはいるけれど」
真斗が苦笑する。
「まあ、『みたい』っつーか……まんまだからな」
「もう、聞いたことあるからって茶々いれないでよ!」
柚葉が頬を膨らませる。
しかし、すぐに海へ視線を戻した。
「でも本当に不思議だよね……」
「潮の流れって、いろんなものをこの浜辺に運んでくれるんだから」
「柚葉もそうだし、あのオブスキュラの欠片だってそう」
一行は、おもちゃのディニーが岸に流れ着くのを待ちながら、遠くのラマニアンホロウを見つめていた。
そうしているうちに――ずいぶんと時間が経っていた。
「ふう、ようやく計算が終わった」
イゾルデが端末を閉じる。
「ずいぶん使っていなかったとはいえ……軍で学んだ地形学のスキルが、こんなに錆びついているとは思わなかった」
「イゾルデさん、お疲れさま」
アリスが笑う。
「おかげで大助かりなのだわ!」
「礼には及ばない」
イゾルデは微笑む。
「それに……タイムフィールドのお嬢さんも、晩餐会の時より元気そうで何よりだ」
「やはり、歳の近い子たちといると違うらしい」
「……」
アリスは少し照れたように目を逸らした。
イゾルデは立ち上がる。
「諸君、それではこれにて失礼する」
「くれぐれも無茶なことはしないようにな」
「はい。ありがとうございました!」
イゾルデは一行に背を向け、その場を後にした。
そして――。
「よし!」
柚葉が立ち上がる。
「オブスキュラが流れてきた場所も特定できたことだし、次はホロウに入ってみない?」
アキラも頷く。
「ああ。まだ暗くなるまで時間があるし、少し様子を見に行くだけならいいだろう」
「柚葉姉ちゃん、みんなでホロウに行くの?」
ダンテが声を上げる。
「なら、僕たちの舟に乗ってってよ」
「お手伝いできたら、メローや月もきっと喜ぶと思うし」
柚葉は少し驚いたあと、笑った。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
アリスも頷く。
「私もお手伝いするのだわ」
バージルは黙ってホロウを見つめていた。
「……行くぞ」
「よし!」
一行はダンテたちの舟へ乗り込み、オブスキュラの欠片が流れてきたという場所を確かめるため、ラマニアンホロウへ向かって出発した。
――――
オブスキュラの欠片が流れてきた場所からホロウへ入った一行は、周囲を慎重に調べながら先へ進んでいた。
「あっ、見て! あそこに排水管があるよ!」
アリスは配管を確認する。
しかし、さらに進むにつれて、その配管は次第に地面の中へと潜り込んでいった。
「山の上へいくほど、配管が地中に埋まってる……」
アリスが周囲を見回す。
「だんだん見つけにくくなってきたのだわ」
その時、リンが通信越しに話しかけてきた。
「ごめんね。Fairyは配管の大まかな進路を計算できるけど、このへんはホロウのデータが限られていて、これ以上正確な位置は特定できないの」
その直後、リンの声が少し心配そうになる。
「お兄ちゃん、バージル、たくさんミアズマを浄化してきたけど……体のほうは大丈夫?」
「安心してくれ。問題ない」
「問題などない」
「よかった……」
リンの声が少しだけ和らぐ。
アリスは周囲を見渡した。
「ここは輝磁を製造している工業港からはかなり距離があるし、しかもだいぶ目立たないのだわ」
「こんな場所に、わざわざ配管を通す理由が気になるね」
アキラが呟く。
「情報によると、数年前に閉鎖された材料の研究所があったんだって」
リンが続ける。
「ミアズマが増える前は、エーテル濃度もずっと安全なレベルに保たれていたみたい」
「最先端の設備が整っていたから、当時は研究員が常駐していただけじゃなく、わざわざ学者が視察に来ることもあったんだって」
真斗が腕を組む。
「これはカンっスけど……その研究所、閉鎖したフリして違法に輝磁製品を作る工場になってんじゃ?」
柚葉が嫌そうな顔をする。
「それ、いかにもポーセルメックスがやりそー……」
柚葉は水路の上流を見つめる。
「じゃあ、水の流れをたどって上流まで行こ」
一行は水の流れを遡りながら、オブスキュラの出所を慎重に探っていく。
ご報告があります。
この小説ですが少し前にシーズン2の6章まで書き貯めしていたのですが、当時ストーリをやっていた時期にアカウントが吹き飛んでしまい、最初からになったんですけどそのときに主人公をリンにしてしまったので、パエトーンの主人公がリンで3章から小説を書いてしまったため次章からの文はリンが主人公になってしまっています。
そこでアンケートを取ろうと思いまして、
3章から主人公がリンの文章を投稿していくか。この場合辻褄合わせは頑張ります。
3章から6章までの書き貯めを一から書き直すか。この場合書き直すので投稿ペースが落ちます。
パエトーン主人公どっちがいいですか?
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アキラ
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リン