悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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Wanna know the name?


『『Devil May Cry』』


第四十九話 オブスキュラの出所

 

 

最後に残ったエーテリアスが、バージルの前へ飛びかかる。

 

「――――」

 

閃いた閻魔刀。

 

シュンッ!

 

次の瞬間、エーテリアスの身体が綺麗に二つへ分かれ、そのまま地面へ崩れ落ちた。

 

「すばらしいシンメトリーなのだわ!」

 

アリスが感嘆の声を上げる。

 

「…………?」

 

バージルは、意味が分からないといった表情で首を傾げた。

 

アキラが苦笑する。

 

戦闘が終わり、一行は周囲を調べ始めた。

 

「ミアズマの後ろも調べてみよう」

 

アキラがそう言うと、柚葉たちは通路を塞いでいたミアズマのコブを破壊していく。

 

そして

 

「……あっ!」

 

柚葉が目を輝かせる。

 

「これ、下りのエレベーターだね!」

 

エレベーターの周囲には、何かを運搬したようなタイヤの跡が残っていた。

 

「タイヤの跡がここまで続いてるってことは、あの人たちは下層区域に行ったのかも」

 

柚葉は以前拾った認証カードを取り出す。

 

「前に拾った認証カードで、このエレベーターを動かせそ?」

 

「やってみよう」

 

柚葉がカードを認証装置へ差し込む。

 

ピッ。

 

システム通知音が鳴った。

 

『警告:認証カードの権限が不十分です。所定権限を有する認証カードに交換し、音声案内の後にパスワードを入力してください』

 

「カードだけじゃなくてパスワードも?」

 

柚葉が呆れる。

 

「このエレベーター、セキュリティ厳しすぎない?」

 

アキラが端末を見る。

 

「Fairy、なんとかできそう?」

 

『すみません。当該装置はオフラインのシステムおよびアナログなパスワードを組み合わせた旧態依然としたものであり、Fairyには有効な解析を行うことができかねます』

 

「そっか……」

 

アキラは周囲を見渡す。

 

「じゃあ、別の方法で通れないか、あたりを調べてみよう」

 

一行はエレベーター周辺だけでなく、壁面や地形、近くの設備まで念入りに調査した。しかし――。

 

「……駄目だな」

 

アキラが首を振る。

 

「他に先へ進めそうな道がない」

 

結局のところ、この場で見つかったのは封鎖されたエレベーターだけだった。

 

「そんな~、ここで終わり?」

 

柚葉が肩を落とす。

 

「ちょー悔しい……柚葉のラッキーをもってしても、うまくいかないなんて」

 

「みんな、安心してくれ」

 

アキラが地形を確認しながら言う。

 

「エレベーターのパスワードロックは解除できなかったけれど、Fairyと周囲の地形を分析してみたら、後ろの崖はそこまで高低差がなかった」

 

「ちゃんと越えられるルートが見つかるはずだ。ただ、測定には時間がかかるし、誰も崖登りができるような装備の持ち合わせはない」

 

アキラは一度周囲を見回した。

 

「今日はひとまず撤退しよう」

 

「さんせー」

 

柚葉がすぐに賛成する。

 

「夜のホロウなんて長居したくないもん。戻る準備しよっか。ホラ、お嬢様も……」

 

「…………」

 

「おじょ――さま――!?」

 

柚葉が脅かすと、アリスが飛び上がる。

 

「いゃあああああ!」

 

「びびび、びっくりしたのだわ……!」

 

「こっちが先にびっくりしたのだわ」

 

柚葉が呆れる。

 

「何もないとこで、急にぼーっとして……どしたの?」

 

「実は……」

 

アリスは少し考え込む。

 

「さっきの箱にあったラベル、なんだか見覚えがある気がして……」

 

「いつごろ見たか、とかなら覚えてる?」

 

「……本当に、最近だとは思うのだけれど」

 

アリスは申し訳なさそうに俯く。

 

「ごめんなさい。こんなことで皆さんの時間を取らせて……ひとまず急いでホロウを出なくては」

 

「気にしないで」

 

アキラが頷く。

 

「思い出せそうなら、後でまた教えてくれればいい」

 

こうして一行は、これ以上の調査を切り上げてホロウを離れることにした。

 

――――

 

ホロウを離れたあと、一行はそろって澄輝坪へと戻った。

 

「ふう……やっと澄輝坪に戻ってこられたのだわ。もう日が暮れているなんて」

 

アリスが空を見上げる。

 

柚葉が伸びをする。

 

「今日はもうやることもなさそうだし、ここで解散にしよっか」

 

「ルート測定が終わったら、すぐに連絡する」

 

「わかった。ルートの測定が終わったら、すぐに連絡するね」

 

アキラが答えた。

 

ちょうどそのとき――。

 

「失礼します。お邪魔してすみません……」

 

一人の男が近づいてきた。

 

「アリス・タイムフィールドさまでしょうか?」

 

「ええ、そうだけれど、貴方は……?」

 

「私、ポーセルメックスにて皆さまのお世話係を担当しております」

 

男は丁寧に頭を下げる。

 

「先程、あなたさま宛てのお荷物が届きましたので、お知らせに参りました」

 

「荷物? 差出人は?」

 

「申し訳ありませんが、お荷物に記載がなく……またサイズが大きいため、ひとまず私共の倉庫に保管させて頂いております」

 

「もしよろしければ、これから確認していただいても?」

 

男は穏やかな笑顔を浮かべる。

 

「わざわざ衛非地区まで送られてきたものですから、大事なものかもしれませんので」

 

「そう……」

 

アリスは少し考える。

 

「それでは皆さん、私はこれで失礼するのだわ」

 

「うん。気をつけて」

 

アキラが手を振る。

 

そしてアリスは、男に案内されてその場を後にした。

 

――――

 

それからしばらくして、澄輝坪某所。

 

「荷物の保管場所までは、あとどれほどなのかしら?」

 

アリスが尋ねる。

 

「遠くてすみません。もうすぐそこですから」

 

コンシェルジュを名乗った男は、変わらぬ笑顔で答える。

 

「かなり大きな荷物でしたので、私共も気が気ではなく……輸送中に、万一のことでもあれば――」

 

「…………」

 

男の魔の手が迫る、その瞬間。

 

男の足が止まった。

 

「くっ! こ……これは一体……」

 

「…………」

 

バージルによって片手で腕を抑えられていた。

 

「まさか、予想が当たるとはね」

 

背後から声がする。

 

「……!」

 

そこには、アキラたちの姿があった。

 

「はあ……」

 

アリスは呆れたように息を吐く。

 

「私たちが、何の備えもなく、ただホイホイついていくと?」

 

バージルが冷たく言い放った。

 

「愚かだな」

 

「…………」

 

偽のコンシェルジュは、完全に包囲されていた。

 

――――

 

しばらくして、適当観の中。

 

アキラは廊下を歩きながら考えていた。

 

――あの偽物のお世話係を連れ戻してから、潘さんと真斗くんとバージルさんは、彼を尋問しに行った。

 

――もう終わったのかな。

 

アキラは少しだけ足を速める。

 

「様子を見に行こう……」

 

 

――――

 

 

「お兄ちゃん、来たね」

 

リンが振り返る。

 

「中の状況はどうなっているんだい?」

 

アキラが尋ねると、アリスは何とも言えない表情を浮かべた。

 

「うーん……なんて言えばいいのかしら……。なんだか、潘先生とバージルさんのすごい一面を見てしまった気がするのだわ」

 

柚葉が苦笑する。

 

「潘さんって、刑事ドラマとか見てた? 『白状すれば大目に見てやる、黙るとひどいぞ』、『あいにくここは寺だ』みたいなセリフが次々に……あ、『チャーシュー丼でも食うか?』ってやつもあったかな」

 

「バージルさんは……言わないでおこう」

 

リンはアリスへ近づく。

 

「アリス、大丈夫? さっきは囮になってくれたけど、きっと怖かったよね」

 

「ご心配なくなのだわ。アドリブは苦手だけれど、今回はしっかり準備していたから」

 

「それならよかった」

 

柚葉が腕を組む。

 

「柚葉の推測は合ってたね。あのお世話係になりすましてた人が、物資をこっそりホロウに運び込んでた張本人だよ」

 

「箱を見ただけのアリスを口封じなんて、よっぽどヤバいもの運んでたんじゃない?」

 

「それは一理あるな」

 

アキラが頷いた。

 

ちょうどその時、建物の奥から足音が聞こえてきた。

 

「あっ、見て!」

 

アリスが顔を上げる。

 

「潘さんと狛野さんたちが出てきたのだわ」

 

やがて、尋問を終えた潘と真斗、そしてバージルが姿を現した。

 

「兄弟子さん、バージルさん、取り調べはどうだった?」

 

リンが尋ねる。

 

「おう、白状したぞ」

 

潘が豪快に笑う。

 

「洗いざらい吐かせてやった! ガハハ!」

 

バージルは無言だった。

 

「……ちょっと離れて話そう」

 

潘が声を潜める。

 

「あの坊主に聞かれたら困るしな。大丈夫、オシシたちがちゃんと見張ってくれる」

 

一行は少し離れた場所へ移動する。

 

「よし、この辺でいいか。手短に話すぞ――」

 

潘の表情が真剣になる。

 

「あの坊主がホロウにこっそり運び込んでたのはな……」

 

「エーテル爆薬だ」

 

バージルが淡々と告げた。

 

「え?」

 

リンが目を丸くする。

 

「どうりであんなに重かったわけだあ……!」

 

「そういうことだ」

 

潘が頷く。

 

「ああ。断熱材に偽装して運んでたんだと。ただ、あんまりいかついロープで吊っても怪しまれるだろ? それで強度をケチった結果、途中で切れちまったんだそうだ」

 

「やつはアリスちゃんの叫び声を聞き、箱も壊れたもんだから、エーテル爆薬を見られたと勘違いした……」

 

潘はため息をつく。

 

「それでバレるのを恐れて、口封じなんて不届きなことを考えたんだ」

 

「でも、私は箱の中身なんてまったく見てなかったの」

 

アリスが悲しそうに言う。

 

「罪を隠すために、かえってもっと大きな罪を重ねるなんて……本当に悲しいことなのだわ」

 

「お前さんたちが機転を利かせてくれたおかげで、あいつはまんまと墓穴を掘ったわけだなあ」

 

潘が笑う。

 

「しかし、爆薬を運んで何するつもりだったんだろ?」

 

リンが尋ねる。

 

「それが、当人も知らんそうだ」

 

潘は首を振る。

 

「やつは末端の使いっ走りで、指示を出してたのはポーセルメックスにいるやつの上司だからな」

 

「ただ、もう爆薬の搬入は二週間くらい続いてるそうでな……」

 

潘の表情が曇る。

 

「ホロウにある爆薬の量をざっと見積もってみたが――適当観を百棟は吹き飛ばせるぞ」

 

「百棟……」

 

アキラが絶句する。

 

柚葉はしばらく考え込んだ。

 

「ふーん。その爆薬で、跡形もなく消したい何かがあるんじゃない?」

 

「悪いことしてるとは思ってたけど……違法なものの製造で私腹を肥やしてるとか、そんな単純な話じゃなさそう」

 

「ああ。おれもそう思うよ」

 

潘は頷いた。

 

「それと最後に、いい知らせと悪い知らせがひとつずつあるんだが……どっちから聞きたい?」

 

「兄弟子さん、私はどんなときも前向きなの」

 

リンが元気よく答える。

 

「だから、いいほうから聞かせて!」

 

「よおし」

 

潘が笑った。

 

「いい知らせは、あの坊主からIDとパスワードが手に入ったことだな。これでお前さんたちを阻んでたエレベーターに入れるだろう」

 

「それは大きいね」

 

アキラが頷く。

 

バージルが静かに続けた。

 

「悪い知らせだ。明日の夜で、もう爆薬の搬入はラストだ」

 

「……!」

 

一同の顔から笑みが消える。

 

「つまり、タイムリミットは明日ということか」

 

アキラが考え込む。

 

「相手が何を企んでるにせよ、実行寸前というわけだからね」

 

そして、全員を見る。

 

「みんな、どうする?」

 

「必ず阻止しなければいけないわ」

 

アリスが真っ直ぐ答える。

 

「タイムフィールド家を継ぐ者として、このような悪事を黙って見てるわけにはいかないのだわ!」

 

「…………」

 

柚葉がアリスをじっと見つめる。

 

「な、なにか?」

 

「ビビリで優柔不断、しかも頑固……」

 

柚葉が少し笑う。

 

「そんなふうに思ってたけど、意外と熱いとこもあるんだな~って」

 

「そ、そうかしら……?」

 

真斗が苦笑する。

 

「柚葉が言いてぇのはだな……タイムフィールドのお嬢サマがオレらに手ぇ貸してくれて、マジで感謝してるってことだ」

 

「もちろん、オレもそう思ってる」

 

「真斗?」

 

柚葉が睨む。

 

「次、バイトで実習サボるとき、もう代返してあげないから」

 

「なんでそうなるんだよ!」

 

「ふふっ……」

 

アリスが思わず笑った。

 

リンも笑う。

 

「みんな、結論が出たみたいだね?」

 

端末を開く。

 

「明日の早朝にもう一度ホロウへ調査に行こう。そこで重要な手がかりが見つかったら、すぐ援軍を呼ぶからね」

 

「そういうことなら、おれとお弟子くんは適当観でバックアップに回る」

 

潘が頷く。

 

「お弟子ちゃん、今すぐお師さんに電話して指示を仰いでくれ!」

 

「分かった」

 

リンが端末を手にする。

 

「今日はもう遅いし、明日も早いんだ。みんな適当観に泊まっていけ」

 

潘が周囲を見回した。

 

「万が一なにかあっても、みんないるしな」

 

「じゃあリン、師匠に電話してもらえるかい?」

 

アキラも頷く。

 

「みんなの部屋は僕と兄弟子で用意しておくよ」

 

「了解!」

 

リンはすぐに儀玄へ通信を繋いだ。

 

そして、ここ数日の出来事を一つずつ説明していく。

 

「なるほど。いきさつはわかった……」

 

通信越しの儀玄の声が聞こえる。

 

「お前さんたち、ホロウへ行くならくれぐれも気を付けろ」

 

「ポーセルメックスは総出で安全調査の対応に追われてるが、『敵』は計画の手を緩める気配がない……もう一刻の猶予もないんだろう」

 

「今のところ、向こうの思い通りにいってない……ってこと?」

 

リンが考え込む。

 

「何か別の原因があって、切羽詰まってるっていう……」

 

「だろうな」

 

儀玄が答える。

 

「ともかく、明日は用事を片付け次第すぐここを出る。夜には適当観に戻れるだろう」

 

「依然として、雲嶽山が衛非地区に干渉するのはあれだが……今はそうも言ってられん」

 

「やったね!」

 

リンの顔が明るくなる。

 

「師匠がいてくれるなら百人力!」

 

「こんなときくらい、師匠らしいことをしないとな」

 

儀玄が少し笑う。

 

「ああ、そうだ――」

 

「……いや、やめとこう」

 

「師匠、どうかした?」

 

「些細なことだ」

 

儀玄の声が少し低くなる。

 

「ここ数日、どうも落ち着かない」

 

「侵蝕事件が解決してまもないある日、ホロウの一部データスタンドに突然異常があった」

 

「だが一瞬のことだったせいで、当局はミアズマの増加による一時的な機材トラブルと結論づけた……よくあることだとな」

 

「私の考えすぎならいいんだが」

 

リンが心配そうにする。

 

「……」

 

儀玄は少し間を置いた。

 

「まあそんなところだ。とっとと寝ろ」

 

「健康には、どんな術法よりも早寝早起きが効く」

 

「はーい! 師匠の言う通りにします!」

 

リンが笑う。

 

「じゃあ私、みんなの荷解きを見守ってくるね!」

 

「それじゃ切るぞ。また明日な」

 

通信が切れる。

 

リンはみんなのところへ戻っていった。

 

「おや、リン」

 

アキラが振り返る。

 

「電話はもう終わってしまったのかい? 師匠と少し話そうと思っていたのに」

 

「お兄ちゃん、お泊りの準備は進んでるの?」

 

「ちょうど考えているところだ……」

 

アキラは部屋を見回した。

 

「だって師匠と姉弟子の部屋は、さすがに使えないだろう? アリスが前に泊まった部屋は犯人を閉じ込めているし……残りの部屋でどうにかしないと」

 

「でもひとまず浮波さんと相談して、私たちは同じ部屋を使うことにしたのだわ」

 

アリスが言う。

 

「じゃあ、女の子組は私の部屋においでよ!」

 

リンが手を上げる。

 

「H.D.Dを置けるようにちょっと広めになってるから。寝る前にガールズトークだってできるよ!」

 

「いいんじゃないか」

 

アキラも笑う。

 

「君たちが楽しんでくれれば」

 

その後、一行は家具を動かし、布団や折りたたみベッドなどをきちんと整えていった。

 

「ほんとに三人まとめて寝るのか?」

 

真斗が部屋を覗き込む。

 

「普通に狭ぇだろ」

 

「真斗のガタイで考えないでよ」

 

柚葉が呆れる。

 

「それにアレっぽくていいじゃん~。ホラ、修学旅行!」

 

「言われてみればそうなのだわ!」

 

アリスの目が輝く。

 

「話に聞いたことはあるけれど、参加したことはないから」

 

「え、学校で無かったの?」

 

「私の通う学校は貴族の子供ばかりで、学校側からしたら団体旅行なんてリスクの塊なのだわ」

 

「どこへ行こうと生徒が見栄の張り合いをはじめるし……だから、ずっとないの」

 

「じゃあ、ちょうどいいね」

 

柚葉が笑う。

 

「今日は庶民の楽しみってやつを味わってよ!」

 

そして、悪戯っぽく目を輝かせる。

 

「定番のイベントといえば――もちろん怪談百物語だよね!」

 

「ふえぇ……か、怪談……」

 

アリスの顔が引きつる。

 

「あはは、わかりやす~い!」

 

「絶対、最高のリアクションをくれるって分かるもん」

 

「安心して、お嬢様。忘れられない夜にしようね?」

 

「きゃー! 絶対やろうね!」

 

リンも嬉しそうに笑う。

 

「…………」

 

しかし、アリスが何かに気づいた。

 

「あれっ……」

 

「どうしたの?」

 

柚葉が尋ねる。

 

「ベルトがちょっと重いから外そうと思ったのだけれど……バックルが引っ掛かって、外れないのだわ」

 

「んー、見てあげるから動かないで」

 

柚葉が工具を取り出す。

 

「うちの工芸品にもたまーにあるから、いつも道具を持ち歩いてるんだよね。ジャ~ン!」

 

「そ、それって……」

 

アリスが目を丸くする。

 

「ん? これ?」

 

柚葉は手にしたヘアピンを見せる。

 

「キャラもののヘアピンを改造したんだ~。柚葉のお守りだよ」

 

「あなたもこのアニメ知ってるでしょ? ちっちゃいころ流行ってたし」

 

「わあ、『マジカルボンプ・セイラープー』だ!」

 

リンが声を上げる。

 

「子供のころは毎週楽しみにしてたなあ。懐かし~!」

 

「ええ。そ……そうだったわね……」

 

アリスの表情が、僅かに曇る。

 

「どうしたの?」

 

柚葉が気づく。

 

「急に浮かない顔するじゃん……ヘアピンがなんかダメだった?」

 

「何でも、ないのだわ」

 

「ごまかしちゃダメだよ」

 

柚葉は優しく言った。

 

「何かあるんでしょ?」

 

「…………」

 

アリスはしばらく黙っていた。

 

「……実は子供のころ、まったく同じヘアピンを一対持っていたのだわ」

 

「お気に入りだったのだけれど、片方なくしてしまって……」

 

「どうしてなくしちゃったの?」

 

柚葉が尋ねる。

 

リンはアリスの顔を見る。

 

――アリスの顔……これは、ただ失くしたって感じじゃないね。

 

「……実は、私が衛非地区に来るのは、これが初めてじゃないのだわ」

 

アリスが静かに語り始める。

 

「まだ小さかった頃、祖父と父に連れられて、ホロウにあるポーセルメックスの研究所を見学したの」

 

「初めてのホロウに浮かれて、そのヘアピンをつけていって……」

 

「けれど衛非地区を離れるとき、左側がなくなっていることに気付いたのだわ」

 

「私たち家族は帰りの車に乗り込んでいたけれど……」

 

アリスの声が少し震える。

 

「ヘアピンをなくして涙ぐむ私を見かねて、父は車を降りたの……」

 

そして――。

 

アリスは、あの日の記憶をゆっくりと辿る。

 

アリスの父ライオネルは、娘アリスが大切にしているヘアピン「セイラープー」を探すことを約束する。アリスを祖父と先に帰らせ、自分は研究所で用事を済ませながらヘアピンを探し、必ず見つけて帰ると約束する。アリスは「見つけるまで帰ってきては駄目」と念を押し、ライオネルは騎士になぞらえて、必ず大切な宝を取り戻すと誓う。

 

アリスは俯いていた。

 

「……まさか、あれが父との、最後のやりとりになるなんて」

 

「えっ……?」

 

柚葉が言葉を失う。

 

部屋の空気が静まり返る。

 

リンも、アキラも、そしてバージルさえも、何も言わずアリスを見つめていた。

 




パエトーンの主人公はリンにすることにしました。
話の辻褄を合わせるためにこの章からだんだんと変更を加えていきます。
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