悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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Wanna know the name?


『『Devil May Cry』』


第五十話 秘められしもの

 

 

「父は、帰りの高速道路で事故を起こしたと聞かされたのだわ」

 

静かな部屋の中で、アリスはぽつりぽつりと語り続けていた。

 

「治安局の見立てでは、疲労した状態での運転が祟って、急カーブを曲がり切れなかったのだと……」

 

その声には、長い間胸の奥へ抱え込んできた悲しみが滲んでいる。

 

「車が激しく燃えたからといって、祖父は父の最期の姿に会わせてくれなかった。私は……お葬式にだけ出たのだわ」

 

柚葉はしばらく黙っていたが、やがて慎重に口を開く。

 

「あの……ひとつ聞いてもいい?」

 

「なくしちゃったヘアピンは、それからどうなったの?」

 

「……」

 

アリスは俯く。

 

「治安局が事故車を調べたけれど、それらしいものは、欠片も……」

 

「ぜんぶ、私がヘアピンを失くしたせいなのだわ……」

 

「……あんなこと、言わなければ……」

 

その言葉を聞いた瞬間、柚葉の表情が変わった。

 

「ほんっとバカ!」

 

「……!」

 

「そんなのまであなたのせいにしてどうするの!」

 

柚葉が珍しく強い口調になる。

 

「自分を責めるのにも限度があるよ」

 

「おい……柚葉、一体どうした……」

 

真斗が戸惑ったように声をかける。

 

柚葉は、はっとしたように目を伏せた。

 

「……ごめん。言い方がよくなかった」

 

アリスは小さく首を振る。

 

「平気なのだわ」

 

「浮波さんが優しさで言ってくれてることはわかるし……」

 

「せっかくの機会に、空気を重くしてしまってごめんなさい。話題を変えましょう」

 

そして、少しだけ表情を明るくする。

 

「そうそう!」

 

「浮波さんのヘアピンはお守りだと言ってたけれど……それは素敵な由来があるのではなくて?」

 

「よかったら聞かせてほしいのだわ」

 

「えっと……」

 

柚葉は自分のヘアピンを指でつまむ。

 

「子供の頃にはじめて貰ったプレゼントなの」

 

「お守りにしてる理由っていったら、それだけなんだけどね~……」

 

「ん?」

 

リンが首を傾げる。

 

「なんか、ちょっと濁した?」

 

「同感だな」

 

真斗も腕を組む。

 

「だよね」

 

「……あ、リンと狛野さんもそう思ったの?」

 

柚葉が苦笑する。

 

「だって事実だも~ん」

 

そして、柚葉は少しだけ悪戯っぽく笑った。

 

「ところでアリスお嬢様」

 

「私たち、もうこんなに仲良しなんだから、いつまでもお互いのこと他人行儀に呼ばなくっていいよね?」

 

「とくに『狛野さん』なんて……聞くたびに笑っちゃいそうになるから。もう柚葉、お腹いたいよ」

 

「……」

 

真斗が呆れた顔をする。

 

「お前なぁ……」

 

アリスは思わず笑った。

 

「いいでしょう」

 

「ではこれからは、みんなお互いに、もっと気さくに呼び合うのだわ!」

 

「おう」

 

真斗が頷く。

 

「じゃあ、柚葉でいいな」

 

「もちろん!」

 

「私もアリスって呼ぶね!」

 

リンも嬉しそうに笑う。

 

やがて、みんなでしばらく他愛のない話を続けた。

 

やがて夜も深くなり――。

 

真斗とアキラ、そしてバージルはそれぞれの部屋へ戻っていった。

 

私たちも、明日のためにもっと話したい気持ちをぐっとこらえ、おとなしく目を閉じた。

 

 

――――

 

 

――そして朝。

 

「おっ、みんな起きてるな。元気そうで何よりだ」

 

潘が部屋へ入ってくる。

 

「それじゃあ、そろそろ作戦開始といくか!」

 

「リン、みんなとイアスを連れてホロウに行ってくれ」

 

アキラが確認する。

 

「僕と兄弟子さんは遠隔でサポートする」

 

「分かった!」

 

リンが頷く。

 

その時、バージルがふと疑問を口にした。

 

「今回は、お前がホロウへ行くのか?」

 

「うん」

 

リンは頷いた。

 

「本来、パエトーンとして主体になって動いてきたのは私なんだけどね」

 

「ちょうどダンテと会う少し前くらいから、H.D.D.システムと私の相性が悪くなっちゃって……」

 

「市長のH.D.D.システムのアップグレードプランの後もしばらく体調が優れなかったりして、今まではお兄ちゃんに頼んでたの」

 

「そうだったのか」

 

バージルは静かにリンを見る。

 

ダンテが活動を始めた時期。

 

そして、リンにH.D.D.システムとの相性の悪化や体調不良が現れた時期。

 

――妙に一致している。

 

「…………」

 

偶然。

 

本当に、ただの偶然なのか。

 

バージルには、そうは思えなかった。

 

だが、今ここで口に出すことはしなかった。

 

「でも、こうやって元気になったから」

 

リンが笑う。

 

「これからはよろしくね、バージルさん!」

 

「……ああ」

 

バージルは短く答えた。

 

しかし、その目には僅かな疑念が残っていた。

 

 

――――

 

 

しばらくして。

 

一行は、以前発見したエレベーターの近くへ到着した。

 

「あっ!」

 

リンが声を上げる。

 

「みんな早く! 今ならエレベーターが使えるよ!」

 

「本当?」

 

柚葉が駆け寄る。

 

リンが電子盤を確認する。

 

ピッ。

 

システム通知音が流れる。

 

『注意:エレベーターを起動するには、所定権限を有する認証カードを使用し、音声案内の後にパスワードを入力してください』

 

「はい、認証カード」

 

柚葉がカードを取り出す。

 

「潘先生が言ってたパスワードは、確か110011だっけ」

 

「そうだ」

 

真斗が頷く。

 

「早速試してみよ!」

 

柚葉がパネルへ数字を入力する。

 

「1、1、0、0、1、1……」

 

ピッ。

 

しばらくして――。

 

ゴウン……。

 

重い駆動音が響く。

 

「開いた!」

 

リンが嬉しそうに声を上げる。

 

「よし、乗ろう!」

 

一行は次々とエレベーターへ乗り込む。

 

 

――――

 

 

リンたちはエーテリアスを倒しながら、ホロウ内部に仕掛けられた様々な装置を解除し、先へ進んでいた。いくつもの扉や障害物を突破してきたことで、これまで以上に奥深くへ入り込んでいる。

 

「うん、なんだか真相にどんどん近付いてる気がするよ!」

 

リンが周囲を見回しながら言う。

 

「私もそう思う」

 

柚葉も頷いた。

 

しかし、目の前には巨大なゲートが立ちはだかっている。

 

「でもこのゲート……ぜんぜん動かな~い!」

 

柚葉が操作盤を確認する。

 

「衝撃で歪んじゃったみたい」

 

真斗が前へ出る。

 

「オレに任しとけ」

 

「どりゃああーーッ!!」

 

ドゴォン!

 

強烈な一撃がゲートへ叩き込まれる。

 

しかし――。

 

「……だめだ、ビクともしねえ」

 

「真斗でダメなら、もう開かないね」

 

柚葉がため息をつく。

 

「どうする? かまちーに隙間から入ってもらう?」

 

「いや、それじゃ中の仕掛けを操作できないよ」

 

リンが困ったように言う。

 

その時、アリスが上を見上げた。

 

「皆さん、中に入るなら別の方法があるかもしれないのだわ」

 

「別の方法?」

 

リンが振り返る。

 

「どんな?」

 

「上をご覧になって」

 

アリスが指を差す。

 

「左側の天井付近に、二棟をつなぐダクトがあるのだわ。ちょうど私たちが通れるくらいの大きさだと思うの」

 

一同が上を見る。

 

確かに、近くに太いダクトが通っている。

 

「――!!」

 

柚葉が一瞬だけ目を見開いた。

 

「柚葉、どしたの?」

 

リンが不思議そうに尋ねる。

 

「え? あ~なんでもないよ」

 

柚葉は慌てて笑う。

 

「このまえ家にねずみが出たんだけど、こんなとこから入ってきたのかな~って思っただけ」

 

「ねずみ?」

 

真斗が眉をひそめる。

 

「柚葉ん家にか? 初耳だけどな……」

 

「違うでしょ真斗」

 

柚葉が呆れたように言う。

 

「うちのねずみは今どうでもいいの」

 

「とにかく、柚葉はアリスに賛成。あのダクトはきっと使えると思う」

 

「じゃあ、行ってみよう!」

 

リンが頷いた。

 

一行は周囲の設備を足場にしてダクトへ入り込んだ。

 

――カン、カン。

 

狭い金属製の通路を、慎重に進んでいく。

 

「ダクトの中って、思ったより広いんだね……」

 

リンが前方を照らしながら進む。

 

「みんな、ついて来れてる?」

 

「押忍、大丈夫っス」

 

真斗が答える。

 

「問題ない」

 

バージルも淡々と返す。

 

アリスは周囲を見回しながら歩いていた。

 

「あら?」

 

突然、足を止める。

 

「地面に何か……」

 

「え?」

 

リンが視線を落とす。

 

薄暗いダクトの下の部屋には、何か黒いものが残されていた。

 

「……あの形」

 

リンの声が小さくなる。

 

「まさか、誰かが死んじゃってる……?」

 

「…………」

 

全員が警戒する。

 

しかし、はっきりとした姿を確認する前に、どこかから物音が響いた。

 

カサ……。

 

「今聞こえたのなに?」

 

リンが振り返る。

 

「どうした、柚葉。急に黙っちまって」

 

真斗が尋ねる。

 

「へっ?」

 

柚葉が一瞬だけ固まる。

 

「べ、別に……?」

 

「……?」

 

リンは周囲を見回した。

 

「この辺、ミアズマの濃度が上がってる気がする」

 

「確かに……」

 

アリスが前方を見る。

 

「向こうに光が見えるのだわ! 左にお部屋があるはず!」

 

「行ってみよ!」

 

リンが先を急ぐ。

 

やがてダクトの端へ到着すると、通気口の向こう側に広い空間が見えた。

 

「……あれ?」

 

真斗が目を細める。

 

「ん? ありゃ……」

 

壁に描かれた特徴的な紋章。

 

「讃頌会のシンボルじゃねぇか!」

 

「そんな?」

 

アリスが驚く。

 

「ここはポーセルメックスの工場では……?」

 

「だったら、どういうことだよ……」

 

真斗が険しい顔になる。

 

「どうにか下行って調べねぇと!」

 

リンが周囲を探す。

 

「あっ、こっち!」

 

「出口があるよ!」

 

一行はダクトの出口を見つけ、慎重に下へ降りていく。

 

「この先に通気口があるよ」

 

リンが指差す。

 

その先には、広い部屋へ続く通気口があった。

 

アキラから通信が入る。

 

「みんな、現場に残された資料があるなら、できる限り調べてみてくれ」

 

「了解!」

 

リンが答える。

 

一行は通気口を抜け、広い部屋へ降り立った。

 

「……ここは」

 

アリスが周囲を見回す。

 

「この広い部屋は、讃頌会が礼拝を行う場所なのでしょうね」

 

壁には見覚えのある紋章。

 

床にはいくつもの椅子が並べられ、奥には祭壇のような設備まで残されている。

 

しかし、それだけではなかった。

 

「見ろ」

 

真斗が床を指差す。

 

「床に何やらごちゃごちゃに散らかってんぞ」

 

そこには書類、端末、空になった容器、奇妙な器具などが無造作に放置されていた。

 

「ポーセルメックスの設備のようなものもあるのだわ」

 

アリスが拾い上げた資料を確認する。

 

「でも、ここに讃頌会の活動記録まである……」

 

「ってことは、この施設は――」

 

リンが息を呑む。

 

「ポーセルメックスの施設であると同時に、讃頌会の拠点として使われていた?」

 

「……可能性は高そうだね」

 

アキラが通信越しに答える。

 

「みんな、証拠になりそうなものを探してくれ」

 

「分かった!」

 

その後、一行は手分けして部屋の中を調べ始めた。

 

 

――――

 

 

「ポーセルメックスと讃頌会……」

 

アリスは、手にした資料を見つめながら呟いた。

 

「裏で結託してたなんて……」

 

「うん」

 

リンも周囲に散らばる資料へ目を向ける。

 

「思ったより面倒なことになってる……」

 

その一方で、バージルは一枚の資料に記された、ある言葉を見つめていた。

 

――「始まりの主」。

 

その単語を目にして以来、バージルの脳裏からそれが離れない。

 

「……始まりの主、か」

 

小さく呟き、再び資料へ目を落とす。

 

しかし、その時だった。

 

ポタッ。

 

「……?」

 

リンの開いていた資料の上に、何かが落ちた。

 

透明にも黒紫にも見える、不気味な液体。

 

ジュウッ……。

 

紙が僅かに溶ける。

 

「……ミアズマ!」

 

リンが叫んだ。

 

その瞬間、全員が一斉に上を見上げる。

 

「――!」

 

天井。

 

そこには、いつの間にか巨大な影が張り付いていた。

 

「アリス!」

 

柚葉が叫ぶ。

 

アリスの頭上へ、鋭い刃が飛来する。

 

シュッ!

 

「――――」

 

次の瞬間、バージルの姿が消えた。

 

カンッ!

 

閻魔刀の鞘が刃を弾き飛ばす。

 

金属音が響き、刃は壁へ突き刺さった。

 

「え……?」

 

アリスが呆然とする。

 

バージルはすでに彼女の前に立っていた。

 

「下がれ」

 

「は、はい……!」

 

直後。

 

ドォン!

 

天井から巨大な怪物が落下した。

 

四本の腕。

 

二本の手には、槍のような武器。

 

全身を覆うのは濃密なミアズマ。

 

「……あれは」

 

アリスが息を呑む。

 

ミアズマフィーンドが四本の腕を広げる。

 

「グァァァァ……!」

 

「来るぞ!」

 

真斗が大剣を構える。

 

「オラァッ!」

 

ドゴォン!

 

大剣がミアズマフィーンドの胴体を捉えた。

 

確かな手応え。

 

だが――。

 

「……!」

 

裂けた傷口から、黒紫色のミアズマが流れ込む。

 

ズズズズ……。

 

傷が、みるみる塞がっていく。

 

「なっ……!」

 

「まだだ!」

 

真斗が再び大剣を振り下ろす。

 

ガキィン!

 

今度は腕の一本を叩き潰す。

 

しかし、それも一瞬のことだった。

 

グジュ……。

 

歪んだ肉体が蠢き、砕かれた腕が元の形へ戻っていく。

 

「チッ、ぶん殴っても回復されるんじゃ、こっちがもたねぇ!」

 

真斗が舌打ちする。

 

「なんとかなんねえのか……!」

 

「私もやります!」

 

アリスがレイピアを構え、踏み込む。

 

「はっ!」

 

シュッ!

 

鋭い突きがミアズマフィーンドの胸を貫く。

 

「――――!」

 

だが、刃を引き抜いた瞬間には、傷口が再び閉じ始めていた。

 

「あっ! また回復しはじめたのだわ!」

 

「くっ……!」

 

アリスが後退する。

 

ミアズマフィーンドが二本の槍を一斉に振り回す。

 

「危ない!」

 

リンが叫ぶ。

 

真斗とアリスが同時に後ろへ跳ぶ。

 

しかし――。

 

一閃。

 

シュンッ!

 

バージルが二人の間をすり抜けた。

 

閻魔刀が抜かれる。

 

ザンッ!

 

ミアズマフィーンドの胸部が大きく切り裂かれた。

 

「――――!」

 

怪物がよろめく。

 

だが、バージルは止まらない。

 

二閃。

 

三閃。

 

四閃。

 

シュンッ! シュッ! ザンッ!

 

四本の腕。

 

一本。

 

また一本。

 

槍ごと斬り落とす。

 

だが――。

 

ボコッ。

 

切断された腕の付け根から、新たなミアズマが噴き出す。

 

グジュグジュ……。

 

失われた腕が、再び形を取り戻していく。

 

「……再生するか」

 

バージルが目を細める。

 

ミアズマフィーンドが槍を振り上げる。

 

バージルは一歩退く。

 

その瞬間、槍が床を粉砕した。

 

「――――」

 

バージルが身体を捻る。

 

槍を紙一重でかわし、そのままミアズマフィーンドの懐へ潜り込む。

 

閻魔刀が横薙ぎに走った。

 

ズバッ!

 

胴体を深く切り裂く。

 

大量のミアズマが吹き出す。

 

「効いてる……!」

 

柚葉が叫ぶ。

 

だが――。

 

傷口が蠢き始める。

 

「……また回復するよ!」

 

リンが叫ぶ。

 

しかし、先ほどまでとは違った。

 

すぐには塞がらない。

 

「……?」

 

アキラが目を細める。

 

「今の傷……治るのが少し遅くないか?」

 

「確かに……」

 

アリスも傷口を見つめる。

 

他の攻撃なら瞬く間に再生していた。

 

だが、閻魔刀による傷だけは、ミアズマが何度も蠢いているにもかかわらず、なかなか完全には閉じない。

 

バージルもそれに気づいていた。

 

「……なるほど」

 

閻魔刀を構える。

 

「俺の魔力と閻魔刀なら、傷の再生を遅らせられるか」

 

「バージル!」

 

真斗が叫ぶ。

 

「だったら、あんたの刀で――」

 

「……まだ足りない」

 

バージルが答える。

 

「切り続けても、こちらが消耗するだけだ」

 

ミアズマフィーンドが咆哮する。

 

「グオオオオオッ!」

 

二本の槍が一斉に振り下ろされた。

 

バージルはその全てをかわす。

 

一歩。

 

二歩。

 

そして――。

 

シュンッ!

 

斬る。

 

横。

 

ザンッ!

 

縦。

 

シュッ!

 

斜め。

 

ミアズマフィーンドの身体に次々と傷が刻まれていく。

 

しかし、切られた端からミアズマが集まり、傷を修復していく。

 

「くそっ……!」

 

真斗が大剣を構える。

 

「こいつ、どんだけしぶといんだよ!」

 

アリスもレイピアを握り直す。

 

「このままでは、いつまで経っても決着がつかないのだわ……!」

 

その時。

 

「みんな聞いて!」

 

リンが声を上げた。

 

「脱出方法を思いついたよ!」

 

全員の動きが止まる。

 

「廊下の向こうにある裂け目の話、覚えてる?」

 

「裂け目?」

 

アキラが聞き返す。

 

「あの裂け目は、ちょうどこの建物の外にあるの!」

 

リンは端末を確認する。

 

「裂け目を通ったあと、怪物が通る前に近くの爆薬を起爆しよ!」

 

「そうすれば、追ってくるこいつを足止めできる!」

 

柚葉の顔が明るくなる。

 

「リンちゃんナイス!」

 

「そのプラン、さんせー!」

 

「決まりだな!」

 

真斗が叫ぶ。

 

しかし、ミアズマフィーンドがこちらへ向かってくる。

 

「来たぞ!」

 

アリスが叫ぶ。

 

その瞬間――。

 

バージルが前へ出た。

 

「…………」

 

閻魔刀を構える。

 

ミアズマフィーンドが二本の槍を広げ、一斉に突進してくる。

 

「――――」

 

バージルは閻魔刀の鞘を握る。

 

そして――。

 

ドォン!!

 

強烈な一撃。

 

ミアズマフィーンドの巨体が大きく弾き飛ばされた。

 

「グオオオッ!」

 

怪物は壁へ叩き付けられる。

 

「今だ!」

 

アキラが叫ぶ。

 

「走れ!」

 

一行は一斉に出口へ向かって駆け出した。

 

「こっち!」

 

リンが先頭を走る。

 

真斗、柚葉、アリスが続く。

 

「バージル!」

 

アキラが同期したイアスが振り返る。

 

「先に行け」

 

バージルはミアズマフィーンドを見据えたまま答える。

 

「俺が最後に出る」

 

「分かった!」

 

イアスが前を向く。

 

「急ごう!」

 

リン達は裂け目へ向かって走り出す。

 

遅れてバージルも走り出す。

 

背後では、ミアズマフィーンドがゆっくりと立ち上がっていた。

 

そして――。

 

その視線が、逃げていく一行を追う。

 

「グ……ォォォ……」

 

不気味な咆哮が、研究施設の奥へ響き渡っていた。

 

 

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