『Devil May Cry』
無数のヘル=プライド。
そのすべてが巨大な鎌を構え、ダンテを、そしてヴィクトリア家政とイアスを完全に包囲していた。
「……。」
一瞬、静寂が訪れる。
次の瞬間。
「ギィィィィィッ!!」
一体のヘル=プライドが鎌を振り上げた。
ダンテは避けなかった。
グッ。
身体を捻る。
そして、そのまま腕に突き刺さった鎌を振り抜いた。
ザシュッ!!
目の前にいたヘル=プライドが真っ二つに裂け、ザァァァ……と砂となって崩れ落ちる。
「……。」
ダンテは自分の腕を見る。
未だに巨大な刃が突き刺さっていた。
「……自分に刺さってる武器を。」
エレンが思わず目を丸くする。
「武器として使ってる……。」
ライカンも僅かに目を見開いた。
「実に合理的……。」
「合理的なのかな……。」
カリンが困惑する。
その間にも、ヘル=プライドが次々と襲い掛かってくる。
「ギィィッ!!」
「ガァァァッ!!」
ダンテは一歩踏み込み、拳を握った。
ドゴォン!!
拳が一体のヘル=プライドの顔面へ叩き込まれる。
骸骨の頭部が大きく歪み、そのまま後方へ吹き飛んでいった。
ダンテは拳を振り抜いた姿勢のまま、短く呟く。
「次。」
「――来ます!」
カリンが叫ぶ。
左右から二体のヘル=プライドが迫り、巨大な鎌が同時に振り下ろされた。
ダンテは身体を沈める。
二本の鎌が頭上を通過した。
その瞬間、ダンテは足に突き刺さった鎌を利用して身体を回転させる。
ザンッ!!
低い位置から鎌が薙ぎ払われ、二体のヘル=プライドの身体が同時に切り裂かれた。
「ギィッ!?」
「グァッ!」
ザァァァ……。
二体が砂となって崩れ落ちる。
「……。」
エレンは言葉を失っていた。
「何なの、この戦い方。」
ダンテは笑う。
「即席武器ってやつだ。」
「絶対違うと思う。」
エレンが即答した。
その時、一体のヘル=プライドがダンテの背後へ回り込む。
「――!」
鎌が振り上げられる。
だが、ダンテは振り返らない。
ズブッ!!
ダンテがヘル=プライドへ刃を突き刺した。
ヘル=プライドが吹き飛び、その反動でダンテの腕から鎌が抜ける。
「――!」
ダンテはそのまま身体を大きく回転させ、腰へ手を伸ばした。
そして二丁の拳銃を抜く。
エボニー。
アイボリー。
ドンッ!!
ドドドドドドドッ!!
左右の銃口から無数の弾丸が放たれる。
ヘル=プライドの頭部、胸部、腕へ次々と弾丸が撃ち込まれていく。
「ギィィッ!!」
「グァァッ!!」
一体、また一体と砂へ変わっていく。
ダンテは止まらない。
身体を回転させながら左右の銃を交互に撃ち続ける。
まるで銃弾そのものが舞っているような、異常な射撃だった。
「すごい……。」
カリンが息を呑む。
「全部、一発ずつ狙ってる……。」
ライカンも周囲を確認しながら呟いた。
「しかも、こちらには一発も流れ弾が来ていない。」
「……。」
エレンはダンテを見る。
「本当に、どんな神経してるの。」
「褒めてるのか?」
「もうそれでいい。」
「そうか。」
ダンテは笑った。
「じゃあ、ありがとよ。」
その時、ヘル=プライドの群れがヴィクトリア家政へ向かって押し寄せた。
「来ます!」
リナが叫ぶ。
「ドリシラ!」
「アナステラ!」
二体のボンプが前方へ飛び出す。
電撃が走った。
「ビリビリするよ!」
「逃がさない!」
電撃がヘル=プライドを打ち抜き、その動きを止める。
「ギィッ!!」
そこへエレンが踏み込んだ。
「そこ。」
鋏が一閃する。
ザシュッ!!
ヘル=プライドの身体が大きく裂けた。
エレンはそのまま次の敵へ向かう。
「次。」
「お任せください。」
ライカンが静かに前へ出る。
冷気が足元から広がった。
「失礼。」
一瞬、姿が消える。
次の瞬間にはヘル=プライドの懐へ潜り込んでいた。
「――ッ!」
冷気を纏った蹴撃が叩き込まれる。
ドガァッ!!
ヘル=プライドが大きく吹き飛び、そのまま別の個体へ激突した。
二体まとめて砂へと崩れていく。
「えいっ!」
カリンもチェーンソーを振り抜く。
ギュイィィィィン!!
回転する刃がヘル=プライドを切り裂いた。
「やりました!」
「いいぞ、お嬢ちゃん!」
ダンテが銃を撃ちながら叫ぶ。
「ありがとうございます!」
カリンは嬉しそうに返す。
「……褒められた。」
「よかったね。」
エレンが呟く。
「はい!」
戦場の中心では、ヴィクトリア家政もヘル=プライドを次々と倒していた。
確かに数は多い。
一体一体が普通の人間ならば、十分すぎるほどの脅威だ。
しかし、この場にいる者たちにとっては――。
「……。」
ライカンは一体を蹴り飛ばす。
エレンは鋏で切り裂き、カリンはチェーンソーで吹き飛ばす。
リナはボンプたちへ指示を送り、ダンテは二丁拳銃を撃ち続ける。
そんな光景を見ながら、ダンテはふと思った。
「……。」
この世界。
妙だな。
エーテリアスという怪物が存在する。
ホロウという異常空間もある。
それなのに。
「人間のほうも。」
ダンテは一体のヘル=プライドを殴り飛ばす。
「やたら強いじゃないか。」
拳を振り抜くと、ヘル=プライドが瓦礫の向こうへ吹き飛んでいった。
「俺の知ってる人間より。」
「……何か言いました?」
ライカンが尋ねる。
「いや。」
ダンテは笑った。
「こっちの話だ。」
その瞬間、一体のヘル=プライドがダンテへ飛び掛かった。
「おっと。」
ダンテはその身体を掴む。
そして、そのまま地面へ叩きつけた。
ドゴォン!!
「ギッ!?」
ヘル=プライドが地面に倒れる。
ダンテはその背中へ足を乗せた。
「……。」
そして、そのまま滑り出す。
「え?」
カリンが目を丸くする。
ダンテは倒したヘル=プライドを、まるでサーフボードのように足場として、そのまま瓦礫の上を滑っていく。
「ちょっと!」
エレンが叫ぶ。
「何してるの!?」
「見りゃ分かるだろ!」
ダンテは笑う。
「サーフィンだ!」
「分かるわけないでしょ!」
ダンテはそのまま身体を回転させる。
エボニー。
アイボリー。
両手に二丁拳銃。
ドドドドドドドドッ!!
回転しながら、周囲のヘル=プライドを撃ち抜いていく。
一体。
二体。
三体。
四体。
弾丸が次々と骸骨の身体を貫いていく。
それでも、味方には一発も当たらない。
リナは呆然とその光景を見ていた。
「……。」
「すごいですね。」
アキラもイアス越しにその姿を見る。
「すごいっていうか……。」
「めちゃくちゃだ。」
「でも。」
リンが呟く。
「全部当たってる。」
ダンテは回転しながら叫んだ。
「悪いな!」
「そこ、ちょっとどいてくれ!」
「え?」
アキラが慌ててイアスを動かす。
次の瞬間。
ドドドドドッ!!
アキラのいた場所を弾丸が通過し、その先にいたヘル=プライドが蜂の巣になった。
「……。」
アキラはしばらく固まる。
「……今の。」
「わざと外したのか?」
「たぶん。」
「たぶんって……。」
その時。
ダンテの動きが突然止まった。
「……。」
今まで楽しそうに戦っていた男が、静かに顔を上げる。
何かを感じていた。
遠く。
ホロウの奥。
瓦礫の向こう。
暗闇のさらに向こう側。
そこから微かな気配が漂ってくる。
「……。」
ダンテの表情から笑みが消える。
この感じ。
懐かしい。
あまりにも懐かしい。
「……まさか。」
エボニーとアイボリーを腰へ戻す。
そして、足元にしていたヘル=プライドを蹴り飛ばした。
エレンが叫ぶ。
「どこ行くの!?」
ダンテは振り返る。
「ちょっとな。」
「何が?」
「懐かしい奴の気配がする。」
「……懐かしい?」
ライカンが尋ねる。
しかし、ダンテはそれ以上答えなかった。
次の瞬間。
「じゃあな!」
ドンッ!!
地面が砕ける。
ダンテの姿が一瞬で消えた。
「――!」
エレンが目を見開く。
「速っ……!」
ライカンもすぐに走り出す。
「追いましょう!」
「はい!」
カリンが続く。
リナもボンプたちを呼び戻す。
「ドリシラ!」
「アナステラ!」
アキラもイアスを前進させた。
「お兄ちゃん!」
「分かってる!」
全員がダンテの後を追う。
しかし、速すぎる。
瓦礫を飛び越え、崩れた建物を抜け、暗い通路を駆け抜ける。
その姿は、どんどん遠ざかっていく。
「待って!」
エレンが叫ぶ。
「ダンテ!」
返事はない。
「……。」
ライカンは走りながら目を細める。
「この速度では、追いつけませんね。」
「そんな……!」
カリンが息を切らす。
リナも前方を確認する。
「もう見えません。」
アキラはイアスを高速で移動させる。
「どんどん離れていく……。」
リンが呟く。
「何を感じたんだろう。」
誰にも分からなかった。
ただ、ダンテだけはホロウの奥へ向かって、ひたすら走っていた。
「……。」
赤いコートが暗闇の中で翻る。
その顔には、先ほどまでの余裕はない。
ただ、懐かしい気配を追う。
それだけだった。
「この気配……。」
ダンテが呟く。
「間違いねぇ。」
そして口元が僅かに吊り上がる。
「まさか。」
「こんなところで会えるとはな。」
――――
――同じ頃。
ダンテがホロウの奥へ駆けていった頃。
別の場所では、新エリー都防衛軍による救援活動が行われていた。
「前方、クリア!」
「避難に遅れた市民を優先して捜索!」
「了解!」
ホロウの中。
崩壊した街並みを、大量の防衛軍兵士たちが進んでいく。
今回、新エリー都防衛軍から招集されたのはオブシディアン大隊。
その中でも、ホロウ内での戦闘経験が豊富な――。
オボルス小隊だった。
先頭を進むのは、赤い髪をツインテールにまとめた女性。
オルペウス・マグヌッソン。
そして彼女の機械的な尻尾。
その先には、龍の頭を思わせる赤い銃――鬼火が取り付けられている。
『……チッ。』
鬼火が不機嫌そうに口を開く。
『ったく。』
『上は何を考えてやがる。』
『エーテリアスとは違う未知の存在が市民を襲ってる、だぁ?』
『そんな報告だけで私たちをホロウの奥まで突っ込ませやがって。』
「姉さん。」
オルペウスが困ったように言う。
「上層部の命令であります。」
『分かってる。』
『だから文句言ってんだよ。』
鬼火の三次元的な目が、ぎょろりと動く。
『そもそも未知の存在って何だ。』
『形は?』
『数は?』
『能力は?』
『報告が雑すぎんだろ。』
「……。」
その後ろでは、11号が静かに歩いている。
「情報が少ないのは事実だ。」
「だが、現場に来た以上、任務を遂行する。」
『当然だ。』
鬼火が鼻を鳴らす。
『お前は相変わらず真面目だな、11号。』
「軍人だからな。」
『……まあいい。』
その横では、トリガーが立ち止まった。
「……。」
黒いバイザー。
その奥の視線は、周囲を見ているようで何も見ていない。
だが、彼女には別のものが見えていた。
「……います。」
『何がだ?』
11号が尋ねる。
「エーテリアス。」
トリガーが答える。
「それと……。」
僅かに眉が動く。
「別の反応があります。」
鬼火の目が細くなる。
『……未知の存在か?』
「恐らく。」
『数は?』
「……多い。」
トリガーは耳を澄ませる。
「エーテル波動が複数。」
「ですが、その中に混じって……。」
「違う波動があります。」
「……。」
小隊全員が前方を見る。
次の瞬間。
瓦礫の向こうから。
「ギィィィィィッ!!」
一体の怪物が飛び出した。
「来た!」
11号がナタを抜く。
「迎撃!」
ドンッ!!
銃声。
エーテリアスとは違う異形の姿。
白い皮膚。
ボロボロの黒いローブ。
そして、巨大な鎌。
怪物が襲い掛かる。
11号が一歩踏み込む。
ギィンッ!!
振り下ろされた鎌をナタで弾き飛ばす。
「遅い。」
そのまま斬撃。
ザシュッ!!
怪物の身体が裂けた。
「ギィッ!?」
そこへビッグ・シードが突っ込む。
ドゴォン!!
巨大な拳が悪魔を吹き飛ばした。
「はい、どーん!」
シードの声が通信機から響く。
「やっぱり普通のエーテリアスとは違うね。」
「でも。」
「そんなに強くないよ。」
ガガガガガガッ!!
ガトリング砲が火を吹く。
悪魔の群れが一斉に吹き飛んでいく。
「うわぁ……。」
オルペウスが呟く。
「ちょっと撃ちすぎでは……?」
「大丈夫、大丈夫。」
シードが笑う。
「当たれば倒れるから。」
「当たり前であります……。」
鬼火が呆れたように言う。
『だが。』
『確かに。』
『強さはそこらのエーテリアスと大差ねぇな。』
トリガーが銃を構える。
「右。」
「二体。」
「上。」
「一体。」
ドンッ!!
一発。
弾丸が遠くの悪魔の頭部を正確に撃ち抜いた。
「撃破。」
11号も周囲を確認する。
「左。」
「三体。」
「了解。」
駆け出す。
一瞬。
ナタが閃く。
ザシュッ!
ザンッ!
三体の悪魔が次々と崩れ落ちた。
「問題ない。」
「この程度なら。」
オルペウスも大型ナイフを構える。
「私も行くであります!」
『おう!』
鬼火が叫ぶ。
『行け、オルペウス!』
「はい!」
二人。
いや、一人と一尾。
一体となって敵へ突っ込む。
鬼火の銃口が開く。
『吹っ飛べ!』
ドンッ!!
エネルギー弾が直撃する。
オルペウスがその隙に踏み込み、大型ナイフを振り抜いた。
ザシュッ!!
「撃破であります!」
『よし!』
鬼火が笑う。
『――って。』
『おい。』
「何だ?」
11号が振り向く。
鬼火が前方を見る。
『まだ来やがるぞ。』
暗闇。
その奥から無数の気配が近づいてくる。
「……。」
トリガーが静かに言った。
「十。」
「二十。」
「……もっと。」
「かなりいます。」
「迎撃する。」
11号が言う。
『全員、構えろ。』
「了解!」
再び、戦闘が始まった。
銃声。
斬撃。
爆発。
ガトリングの轟音。
そして、無数の悪魔が砂のように崩れていく。
「……。」
鬼火は次々と敵を撃ち落としながら、少しずつ違和感を覚えていた。
『おかしい。』
「何がでありますか?」
『数だ。』
『さっきから奥から奥から湧いてきやがる。』
「……。」
11号も周囲を確認する。
「確かに。」
「通常のホロウ現象とは違う。」
トリガーが突然、顔を上げた。
「……。」
「どうした?」
11号が尋ねる。
「音が。」
『音?』
「……何か来ます。」
その瞬間。
――ドン。
地面が僅かに揺れた。
「……。」
全員が動きを止める。
――ドン。
もう一度。
今度は明確に地面が揺れた。
「……足音?」
オルペウスが呟く。
――ドン。
――ドン。
――ドン。
近づいてくる。
巨大な何か。
鬼火の目が大きく見開かれる。
『おいおい。』
『何だよ、これ。』
トリガーがエーテル・サイトで暗闇の奥を捉える。
「……大きい。」
「とても。」
シードがビッグ・シードを停止させる。
「へぇ。」
「これはちょっと珍しいね。」
11号がナタを構える。
「全員。」
「警戒。」
そして、暗闇の向こうから巨大な影が現れた。
最初に見えたのは、巨大な爪。
次に、鋭い牙。
そして――。
三つの頭。
「……。」
オルペウスの顔が強張る。
「……あれは。」
巨大な身体。
氷に覆われた装甲。
三つの首。
三つの頭。
それぞれの口から白い冷気が漏れている。
「……。」
鬼火が絶句する。
『……冗談だろ。』
怪物がゆっくりとこちらを見る。
三つの頭。
そのすべてがオボルス小隊を見据えた。
そして、低く重い声が響く。
「……ダンテは。」
「……?」
オルペウスが目を瞬かせる。
「え?」
中央の頭がもう一度尋ねた。
「ダンテはどこだ。」
11号が答える。
「ダンテ?」
「誰のことだ。」
ケルベロスの目が鋭く光る。
「知らぬのか。」
「……。」
「ならば。」
巨大な身体が一歩踏み出す。
――ズン。
地面が揺れる。
「お前たちに用はない。」
鬼火が銃口を開く。
『待て。』
『わたしたちが質問に答えられねぇからって――』
「失せろ。」
ケルベロスが前足を持ち上げる。
「――!」
オルペウスが息を呑む。
「姉さん!」
『オルペウス!』
巨大な前足が振り下ろされる。
『逃げろ!!』
だが、遅い。
オルペウスは足を取られていた。
「くっ……!」
「動け……!」
巨大な影が視界を覆う。
「――ッ!」
踏み潰される。
そう思った、その瞬間。
「――おい。」
声がした。
全員が振り向く。
ドンッ!!
何かが横から飛び込んできた。
「――なっ!?」
ギィィィン!!
巨大な大剣がケルベロスの前足を真正面から弾き飛ばした。
「グルァッ!?」
衝撃で氷の巨体が僅かに後退する。
その間に、赤いコートがオルペウスの前へ滑り込んだ。
「大丈夫か?」
「……え?」
オルペウスが呆然と見上げる。
赤いコート。
白髪。
そして、二丁の拳銃。
「……誰でありますか?」
男は振り返ることなく笑った。
「ダンテ。」
「――!」
ケルベロスの三つの頭が同時に反応した。
「……!」
ダンテは大剣――リベリオンを構える。
そして、ゆっくりとケルベロスを見る。
「久しぶりだな。」
その瞬間、ケルベロスの瞳が大きく見開かれた。
「……ダンテ。」
「よう。」
ダンテが笑う。
「探したぜ。」
「貴様……。」
ケルベロスの声が僅かに震える。
「生きていたのか。」
「俺を誰だと思ってる?」
ダンテは肩をすくめる。
「そう簡単に死ぬと思うなよ。」
鬼火が横から叫ぶ。
『おい!』
『何なんだ、お前!』
ダンテがちらりと振り返る。
「ん?」
『赤いコートの変な男!』
「……。」
『お前、誰だ!』
「ダンテ。」
『だから名前じゃねぇ!』
ダンテが首を傾げる。
オルペウスが慌てて鬼火を止める。
「姉さん!」
「今はそれどころじゃないであります!」
『分かってる!』
そんなやり取りをしている間にも、ケルベロスが低く唸る。
「ダンテ。」
「随分と。」
「懐かしい姿だ。」
「そうか?」
ダンテがリベリオンを肩に担ぐ。
「俺はお前のこと、結構覚えてるぜ。」
「……。」
ケルベロスは三つの頭でダンテを見つめる。
「我も。」
「忘れてはいない。」
その言葉に、ダンテが僅かに笑う。
「そりゃよかった。」
そして腰へ手を伸ばす。
エボニー。
アイボリー。
二丁の拳銃を抜く。
「じゃあ。」
「昔話の前に。」
「一発くらい、挨拶しようぜ。」
ドンッ!!
ドドドドドドドドッ!!
二丁の銃口から無数の弾丸が放たれる。
ケルベロスの身体へ次々と着弾し、氷の装甲が火花を散らす。
「グォォォォォッ!!」
だが、ケルベロスは倒れない。
むしろ、その三つの頭が同時に牙を剥いた。
「……相変わらず。」
「無礼な男だ。」
ダンテの口元が大きく吊り上がる。
「そういうところも。」
「変わってねぇな。」
ケルベロスが吠える。
「グォォォォォォォォォッ!!」
その咆哮がホロウ全体を震わせた。
オボルス小隊の全員が構える。
11号がダンテを見る。
「……あの男。」
「あの怪物を知っているのか。」
トリガーが静かに答える。
「……ええ。」
「二人とも。」
「互いを知っているようです。」
鬼火が目を細める。
『つまり。』
『こいつが。』
『さっき言ってた未知の存在の知り合いってことか?』
シードが楽しそうに言う。
「面白くなってきたね。」
オルペウスは、大剣を構えるダンテの背中を見る。
「……。」
先ほど、自分を助けてくれた見知らぬ男。
しかし、その背中からは不思議なほど安心感があった。
ダンテはリベリオンを握り直す。
「さて。」
「ケルベロス。」
「お嬢ちゃん達に手ぇ出したのは、ちょっといただけねぇな。」
ケルベロスの三つの頭が同時にダンテを睨む。
「我は。」
「貴様を探していただけだ。」
「なら。」
ダンテは笑う。
「俺を探す途中で、他の奴に八つ当たりするなよ。」
一歩、踏み出す。
「相手なら。」
「俺がしてやる。」
ケルベロスの口から白い冷気が噴き出す。
「……よかろう。」
「ならば。」
三つの頭が同時に牙を剥く。
「久方ぶりに。」
「貴様と遊ぶとしよう。」
ダンテが笑った。
「上等だ。」
「――来いよ。ワンちゃん!」
ホロウの奥。
再会した悪魔と、悪魔狩りの男。
その戦いが、再び始まろうとしていた。