悪魔も泣き出す新エリー都   作:オムライスα

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Wanna know the name?

『Devil May Cry』


第六話 ケルベロス

無数のヘル=プライド。

 

そのすべてが巨大な鎌を構え、ダンテを、そしてヴィクトリア家政とイアスを完全に包囲していた。

 

「……。」

 

一瞬、静寂が訪れる。

 

次の瞬間。

 

「ギィィィィィッ!!」

 

一体のヘル=プライドが鎌を振り上げた。

 

ダンテは避けなかった。

 

グッ。

 

身体を捻る。

 

そして、そのまま腕に突き刺さった鎌を振り抜いた。

 

ザシュッ!!

 

目の前にいたヘル=プライドが真っ二つに裂け、ザァァァ……と砂となって崩れ落ちる。

 

「……。」

 

ダンテは自分の腕を見る。

 

未だに巨大な刃が突き刺さっていた。

 

「……自分に刺さってる武器を。」

 

エレンが思わず目を丸くする。

 

「武器として使ってる……。」

 

ライカンも僅かに目を見開いた。

 

「実に合理的……。」

 

「合理的なのかな……。」

 

カリンが困惑する。

 

その間にも、ヘル=プライドが次々と襲い掛かってくる。

 

「ギィィッ!!」

 

「ガァァァッ!!」

 

ダンテは一歩踏み込み、拳を握った。

 

ドゴォン!!

 

拳が一体のヘル=プライドの顔面へ叩き込まれる。

 

骸骨の頭部が大きく歪み、そのまま後方へ吹き飛んでいった。

 

ダンテは拳を振り抜いた姿勢のまま、短く呟く。

 

「次。」

 

「――来ます!」

 

カリンが叫ぶ。

 

左右から二体のヘル=プライドが迫り、巨大な鎌が同時に振り下ろされた。

 

ダンテは身体を沈める。

 

二本の鎌が頭上を通過した。

 

その瞬間、ダンテは足に突き刺さった鎌を利用して身体を回転させる。

 

ザンッ!!

 

低い位置から鎌が薙ぎ払われ、二体のヘル=プライドの身体が同時に切り裂かれた。

 

「ギィッ!?」

 

「グァッ!」

 

ザァァァ……。

 

二体が砂となって崩れ落ちる。

 

「……。」

 

エレンは言葉を失っていた。

 

「何なの、この戦い方。」

 

ダンテは笑う。

 

「即席武器ってやつだ。」

 

「絶対違うと思う。」

 

エレンが即答した。

 

その時、一体のヘル=プライドがダンテの背後へ回り込む。

 

「――!」

 

鎌が振り上げられる。

 

だが、ダンテは振り返らない。

 

ズブッ!!

 

ダンテがヘル=プライドへ刃を突き刺した。

 

ヘル=プライドが吹き飛び、その反動でダンテの腕から鎌が抜ける。

 

「――!」

 

ダンテはそのまま身体を大きく回転させ、腰へ手を伸ばした。

 

そして二丁の拳銃を抜く。

 

エボニー。

 

アイボリー。

 

ドンッ!!

 

ドドドドドドドッ!!

 

左右の銃口から無数の弾丸が放たれる。

 

ヘル=プライドの頭部、胸部、腕へ次々と弾丸が撃ち込まれていく。

 

「ギィィッ!!」

 

「グァァッ!!」

 

一体、また一体と砂へ変わっていく。

 

ダンテは止まらない。

 

身体を回転させながら左右の銃を交互に撃ち続ける。

 

まるで銃弾そのものが舞っているような、異常な射撃だった。

 

「すごい……。」

 

カリンが息を呑む。

 

「全部、一発ずつ狙ってる……。」

 

ライカンも周囲を確認しながら呟いた。

 

「しかも、こちらには一発も流れ弾が来ていない。」

 

「……。」

 

エレンはダンテを見る。

 

「本当に、どんな神経してるの。」

 

「褒めてるのか?」

 

「もうそれでいい。」

 

「そうか。」

 

ダンテは笑った。

 

「じゃあ、ありがとよ。」

 

その時、ヘル=プライドの群れがヴィクトリア家政へ向かって押し寄せた。

 

「来ます!」

 

リナが叫ぶ。

 

「ドリシラ!」

 

「アナステラ!」

 

二体のボンプが前方へ飛び出す。

 

電撃が走った。

 

「ビリビリするよ!」

 

「逃がさない!」

 

電撃がヘル=プライドを打ち抜き、その動きを止める。

 

「ギィッ!!」

 

そこへエレンが踏み込んだ。

 

「そこ。」

 

鋏が一閃する。

 

ザシュッ!!

 

ヘル=プライドの身体が大きく裂けた。

 

エレンはそのまま次の敵へ向かう。

 

「次。」

 

「お任せください。」

 

ライカンが静かに前へ出る。

 

冷気が足元から広がった。

 

「失礼。」

 

一瞬、姿が消える。

 

次の瞬間にはヘル=プライドの懐へ潜り込んでいた。

 

「――ッ!」

 

冷気を纏った蹴撃が叩き込まれる。

 

ドガァッ!!

 

ヘル=プライドが大きく吹き飛び、そのまま別の個体へ激突した。

 

二体まとめて砂へと崩れていく。

 

「えいっ!」

 

カリンもチェーンソーを振り抜く。

 

ギュイィィィィン!!

 

回転する刃がヘル=プライドを切り裂いた。

 

「やりました!」

 

「いいぞ、お嬢ちゃん!」

 

ダンテが銃を撃ちながら叫ぶ。

 

「ありがとうございます!」

 

カリンは嬉しそうに返す。

 

「……褒められた。」

 

「よかったね。」

 

エレンが呟く。

 

「はい!」

 

戦場の中心では、ヴィクトリア家政もヘル=プライドを次々と倒していた。

 

確かに数は多い。

 

一体一体が普通の人間ならば、十分すぎるほどの脅威だ。

 

しかし、この場にいる者たちにとっては――。

 

「……。」

 

ライカンは一体を蹴り飛ばす。

 

エレンは鋏で切り裂き、カリンはチェーンソーで吹き飛ばす。

 

リナはボンプたちへ指示を送り、ダンテは二丁拳銃を撃ち続ける。

 

そんな光景を見ながら、ダンテはふと思った。

 

「……。」

 

この世界。

 

妙だな。

 

エーテリアスという怪物が存在する。

 

ホロウという異常空間もある。

 

それなのに。

 

「人間のほうも。」

 

ダンテは一体のヘル=プライドを殴り飛ばす。

 

「やたら強いじゃないか。」

 

拳を振り抜くと、ヘル=プライドが瓦礫の向こうへ吹き飛んでいった。

 

「俺の知ってる人間より。」

 

「……何か言いました?」

 

ライカンが尋ねる。

 

「いや。」

 

ダンテは笑った。

 

「こっちの話だ。」

 

その瞬間、一体のヘル=プライドがダンテへ飛び掛かった。

 

「おっと。」

 

ダンテはその身体を掴む。

 

そして、そのまま地面へ叩きつけた。

 

ドゴォン!!

 

「ギッ!?」

 

ヘル=プライドが地面に倒れる。

 

ダンテはその背中へ足を乗せた。

 

「……。」

 

そして、そのまま滑り出す。

 

「え?」

 

カリンが目を丸くする。

 

ダンテは倒したヘル=プライドを、まるでサーフボードのように足場として、そのまま瓦礫の上を滑っていく。

 

「ちょっと!」

 

エレンが叫ぶ。

 

「何してるの!?」

 

「見りゃ分かるだろ!」

 

ダンテは笑う。

 

「サーフィンだ!」

 

「分かるわけないでしょ!」

 

ダンテはそのまま身体を回転させる。

 

エボニー。

 

アイボリー。

 

両手に二丁拳銃。

 

ドドドドドドドドッ!!

 

回転しながら、周囲のヘル=プライドを撃ち抜いていく。

 

一体。

 

二体。

 

三体。

 

四体。

 

弾丸が次々と骸骨の身体を貫いていく。

 

それでも、味方には一発も当たらない。

 

リナは呆然とその光景を見ていた。

 

「……。」

 

「すごいですね。」

 

アキラもイアス越しにその姿を見る。

 

「すごいっていうか……。」

 

「めちゃくちゃだ。」

 

「でも。」

 

リンが呟く。

 

「全部当たってる。」

 

ダンテは回転しながら叫んだ。

 

「悪いな!」

 

「そこ、ちょっとどいてくれ!」

 

「え?」

 

アキラが慌ててイアスを動かす。

 

次の瞬間。

 

ドドドドドッ!!

 

アキラのいた場所を弾丸が通過し、その先にいたヘル=プライドが蜂の巣になった。

 

「……。」

 

アキラはしばらく固まる。

 

「……今の。」

 

「わざと外したのか?」

 

「たぶん。」

 

「たぶんって……。」

 

その時。

 

ダンテの動きが突然止まった。

 

「……。」

 

今まで楽しそうに戦っていた男が、静かに顔を上げる。

 

何かを感じていた。

 

遠く。

 

ホロウの奥。

 

瓦礫の向こう。

 

暗闇のさらに向こう側。

 

そこから微かな気配が漂ってくる。

 

「……。」

 

ダンテの表情から笑みが消える。

 

この感じ。

 

懐かしい。

 

あまりにも懐かしい。

 

「……まさか。」

 

エボニーとアイボリーを腰へ戻す。

 

そして、足元にしていたヘル=プライドを蹴り飛ばした。

 

エレンが叫ぶ。

 

「どこ行くの!?」

 

ダンテは振り返る。

 

「ちょっとな。」

 

「何が?」

 

「懐かしい奴の気配がする。」

 

「……懐かしい?」

 

ライカンが尋ねる。

 

しかし、ダンテはそれ以上答えなかった。

 

次の瞬間。

 

「じゃあな!」

 

ドンッ!!

 

地面が砕ける。

 

ダンテの姿が一瞬で消えた。

 

「――!」

 

エレンが目を見開く。

 

「速っ……!」

 

ライカンもすぐに走り出す。

 

「追いましょう!」

 

「はい!」

 

カリンが続く。

 

リナもボンプたちを呼び戻す。

 

「ドリシラ!」

 

「アナステラ!」

 

アキラもイアスを前進させた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「分かってる!」

 

全員がダンテの後を追う。

 

しかし、速すぎる。

 

瓦礫を飛び越え、崩れた建物を抜け、暗い通路を駆け抜ける。

 

その姿は、どんどん遠ざかっていく。

 

「待って!」

 

エレンが叫ぶ。

 

「ダンテ!」

 

返事はない。

 

「……。」

 

ライカンは走りながら目を細める。

 

「この速度では、追いつけませんね。」

 

「そんな……!」

 

カリンが息を切らす。

 

リナも前方を確認する。

 

「もう見えません。」

 

アキラはイアスを高速で移動させる。

 

「どんどん離れていく……。」

 

リンが呟く。

 

「何を感じたんだろう。」

 

誰にも分からなかった。

 

ただ、ダンテだけはホロウの奥へ向かって、ひたすら走っていた。

 

「……。」

 

赤いコートが暗闇の中で翻る。

 

その顔には、先ほどまでの余裕はない。

 

ただ、懐かしい気配を追う。

 

それだけだった。

 

「この気配……。」

 

ダンテが呟く。

 

「間違いねぇ。」

 

そして口元が僅かに吊り上がる。

 

「まさか。」

 

「こんなところで会えるとはな。」

 

――――

 

――同じ頃。

 

ダンテがホロウの奥へ駆けていった頃。

 

別の場所では、新エリー都防衛軍による救援活動が行われていた。

 

「前方、クリア!」

 

「避難に遅れた市民を優先して捜索!」

 

「了解!」

 

ホロウの中。

 

崩壊した街並みを、大量の防衛軍兵士たちが進んでいく。

 

今回、新エリー都防衛軍から招集されたのはオブシディアン大隊。

 

その中でも、ホロウ内での戦闘経験が豊富な――。

 

オボルス小隊だった。

 

先頭を進むのは、赤い髪をツインテールにまとめた女性。

 

オルペウス・マグヌッソン。

 

そして彼女の機械的な尻尾。

 

その先には、龍の頭を思わせる赤い銃――鬼火が取り付けられている。

 

『……チッ。』

 

鬼火が不機嫌そうに口を開く。

 

『ったく。』

 

『上は何を考えてやがる。』

 

『エーテリアスとは違う未知の存在が市民を襲ってる、だぁ?』

 

『そんな報告だけで私たちをホロウの奥まで突っ込ませやがって。』

 

「姉さん。」

 

オルペウスが困ったように言う。

 

「上層部の命令であります。」

 

『分かってる。』

 

『だから文句言ってんだよ。』

 

鬼火の三次元的な目が、ぎょろりと動く。

 

『そもそも未知の存在って何だ。』

 

『形は?』

 

『数は?』

 

『能力は?』

 

『報告が雑すぎんだろ。』

 

「……。」

 

その後ろでは、11号が静かに歩いている。

 

「情報が少ないのは事実だ。」

 

「だが、現場に来た以上、任務を遂行する。」

 

『当然だ。』

 

鬼火が鼻を鳴らす。

 

『お前は相変わらず真面目だな、11号。』

 

「軍人だからな。」

 

『……まあいい。』

 

その横では、トリガーが立ち止まった。

 

「……。」

 

黒いバイザー。

 

その奥の視線は、周囲を見ているようで何も見ていない。

 

だが、彼女には別のものが見えていた。

 

「……います。」

 

『何がだ?』

 

11号が尋ねる。

 

「エーテリアス。」

 

トリガーが答える。

 

「それと……。」

 

僅かに眉が動く。

 

「別の反応があります。」

 

鬼火の目が細くなる。

 

『……未知の存在か?』

 

「恐らく。」

 

『数は?』

 

「……多い。」

 

トリガーは耳を澄ませる。

 

「エーテル波動が複数。」

 

「ですが、その中に混じって……。」

 

「違う波動があります。」

 

「……。」

 

小隊全員が前方を見る。

 

次の瞬間。

 

瓦礫の向こうから。

 

「ギィィィィィッ!!」

 

一体の怪物が飛び出した。

 

「来た!」

 

11号がナタを抜く。

 

「迎撃!」

 

ドンッ!!

 

銃声。

 

エーテリアスとは違う異形の姿。

 

白い皮膚。

 

ボロボロの黒いローブ。

 

そして、巨大な鎌。

 

怪物が襲い掛かる。

 

11号が一歩踏み込む。

 

ギィンッ!!

 

振り下ろされた鎌をナタで弾き飛ばす。

 

「遅い。」

 

そのまま斬撃。

 

ザシュッ!!

 

怪物の身体が裂けた。

 

「ギィッ!?」

 

そこへビッグ・シードが突っ込む。

 

ドゴォン!!

 

巨大な拳が悪魔を吹き飛ばした。

 

「はい、どーん!」

 

シードの声が通信機から響く。

 

「やっぱり普通のエーテリアスとは違うね。」

 

「でも。」

 

「そんなに強くないよ。」

 

ガガガガガガッ!!

 

ガトリング砲が火を吹く。

 

悪魔の群れが一斉に吹き飛んでいく。

 

「うわぁ……。」

 

オルペウスが呟く。

 

「ちょっと撃ちすぎでは……?」

 

「大丈夫、大丈夫。」

 

シードが笑う。

 

「当たれば倒れるから。」

 

「当たり前であります……。」

 

鬼火が呆れたように言う。

 

『だが。』

 

『確かに。』

 

『強さはそこらのエーテリアスと大差ねぇな。』

 

トリガーが銃を構える。

 

「右。」

 

「二体。」

 

「上。」

 

「一体。」

 

ドンッ!!

 

一発。

 

弾丸が遠くの悪魔の頭部を正確に撃ち抜いた。

 

「撃破。」

 

11号も周囲を確認する。

 

「左。」

 

「三体。」

 

「了解。」

 

駆け出す。

 

一瞬。

 

ナタが閃く。

 

ザシュッ!

 

ザンッ!

 

三体の悪魔が次々と崩れ落ちた。

 

「問題ない。」

 

「この程度なら。」

 

オルペウスも大型ナイフを構える。

 

「私も行くであります!」

 

『おう!』

 

鬼火が叫ぶ。

 

『行け、オルペウス!』

 

「はい!」

 

二人。

 

いや、一人と一尾。

 

一体となって敵へ突っ込む。

 

鬼火の銃口が開く。

 

『吹っ飛べ!』

 

ドンッ!!

 

エネルギー弾が直撃する。

 

オルペウスがその隙に踏み込み、大型ナイフを振り抜いた。

 

ザシュッ!!

 

「撃破であります!」

 

『よし!』

 

鬼火が笑う。

 

『――って。』

 

『おい。』

 

「何だ?」

 

11号が振り向く。

 

鬼火が前方を見る。

 

『まだ来やがるぞ。』

 

暗闇。

 

その奥から無数の気配が近づいてくる。

 

「……。」

 

トリガーが静かに言った。

 

「十。」

 

「二十。」

 

「……もっと。」

 

「かなりいます。」

 

「迎撃する。」

 

11号が言う。

 

『全員、構えろ。』

 

「了解!」

 

再び、戦闘が始まった。

 

銃声。

 

斬撃。

 

爆発。

 

ガトリングの轟音。

 

そして、無数の悪魔が砂のように崩れていく。

 

「……。」

 

鬼火は次々と敵を撃ち落としながら、少しずつ違和感を覚えていた。

 

『おかしい。』

 

「何がでありますか?」

 

『数だ。』

 

『さっきから奥から奥から湧いてきやがる。』

 

「……。」

 

11号も周囲を確認する。

 

「確かに。」

 

「通常のホロウ現象とは違う。」

 

トリガーが突然、顔を上げた。

 

「……。」

 

「どうした?」

 

11号が尋ねる。

 

「音が。」

 

『音?』

 

「……何か来ます。」

 

その瞬間。

 

――ドン。

 

地面が僅かに揺れた。

 

「……。」

 

全員が動きを止める。

 

――ドン。

 

もう一度。

 

今度は明確に地面が揺れた。

 

「……足音?」

 

オルペウスが呟く。

 

――ドン。

 

――ドン。

 

――ドン。

 

近づいてくる。

 

巨大な何か。

 

鬼火の目が大きく見開かれる。

 

『おいおい。』

 

『何だよ、これ。』

 

トリガーがエーテル・サイトで暗闇の奥を捉える。

 

「……大きい。」

 

「とても。」

 

シードがビッグ・シードを停止させる。

 

「へぇ。」

 

「これはちょっと珍しいね。」

 

11号がナタを構える。

 

「全員。」

 

「警戒。」

 

そして、暗闇の向こうから巨大な影が現れた。

 

最初に見えたのは、巨大な爪。

 

次に、鋭い牙。

 

そして――。

 

三つの頭。

 

「……。」

 

オルペウスの顔が強張る。

 

「……あれは。」

 

巨大な身体。

 

氷に覆われた装甲。

 

三つの首。

 

三つの頭。

 

それぞれの口から白い冷気が漏れている。

 

「……。」

 

鬼火が絶句する。

 

『……冗談だろ。』

 

怪物がゆっくりとこちらを見る。

 

三つの頭。

 

そのすべてがオボルス小隊を見据えた。

 

そして、低く重い声が響く。

 

「……ダンテは。」

 

「……?」

 

オルペウスが目を瞬かせる。

 

「え?」

 

中央の頭がもう一度尋ねた。

 

「ダンテはどこだ。」

 

11号が答える。

 

「ダンテ?」

 

「誰のことだ。」

 

ケルベロスの目が鋭く光る。

 

「知らぬのか。」

 

「……。」

 

「ならば。」

 

巨大な身体が一歩踏み出す。

 

――ズン。

 

地面が揺れる。

 

「お前たちに用はない。」

 

鬼火が銃口を開く。

 

『待て。』

 

『わたしたちが質問に答えられねぇからって――』

 

「失せろ。」

 

ケルベロスが前足を持ち上げる。

 

「――!」

 

オルペウスが息を呑む。

 

「姉さん!」

 

『オルペウス!』

 

巨大な前足が振り下ろされる。

 

『逃げろ!!』

 

だが、遅い。

 

オルペウスは足を取られていた。

 

「くっ……!」

 

「動け……!」

 

巨大な影が視界を覆う。

 

「――ッ!」

 

踏み潰される。

 

そう思った、その瞬間。

 

「――おい。」

 

声がした。

 

全員が振り向く。

 

ドンッ!!

 

何かが横から飛び込んできた。

 

「――なっ!?」

 

ギィィィン!!

 

巨大な大剣がケルベロスの前足を真正面から弾き飛ばした。

 

「グルァッ!?」

 

衝撃で氷の巨体が僅かに後退する。

 

その間に、赤いコートがオルペウスの前へ滑り込んだ。

 

「大丈夫か?」

 

「……え?」

 

オルペウスが呆然と見上げる。

 

赤いコート。

 

白髪。

 

そして、二丁の拳銃。

 

「……誰でありますか?」

 

男は振り返ることなく笑った。

 

「ダンテ。」

 

「――!」

 

ケルベロスの三つの頭が同時に反応した。

 

「……!」

 

ダンテは大剣――リベリオンを構える。

 

そして、ゆっくりとケルベロスを見る。

 

「久しぶりだな。」

 

その瞬間、ケルベロスの瞳が大きく見開かれた。

 

「……ダンテ。」

 

「よう。」

 

ダンテが笑う。

 

「探したぜ。」

 

「貴様……。」

 

ケルベロスの声が僅かに震える。

 

「生きていたのか。」

 

「俺を誰だと思ってる?」

 

ダンテは肩をすくめる。

 

「そう簡単に死ぬと思うなよ。」

 

鬼火が横から叫ぶ。

 

『おい!』

 

『何なんだ、お前!』

 

ダンテがちらりと振り返る。

 

「ん?」

 

『赤いコートの変な男!』

 

「……。」

 

『お前、誰だ!』

 

「ダンテ。」

 

『だから名前じゃねぇ!』

 

ダンテが首を傾げる。

 

オルペウスが慌てて鬼火を止める。

 

「姉さん!」

 

「今はそれどころじゃないであります!」

 

『分かってる!』

 

そんなやり取りをしている間にも、ケルベロスが低く唸る。

 

「ダンテ。」

 

「随分と。」

 

「懐かしい姿だ。」

 

「そうか?」

 

ダンテがリベリオンを肩に担ぐ。

 

「俺はお前のこと、結構覚えてるぜ。」

 

「……。」

 

ケルベロスは三つの頭でダンテを見つめる。

 

「我も。」

 

「忘れてはいない。」

 

その言葉に、ダンテが僅かに笑う。

 

「そりゃよかった。」

 

そして腰へ手を伸ばす。

 

エボニー。

 

アイボリー。

 

二丁の拳銃を抜く。

 

「じゃあ。」

 

「昔話の前に。」

 

「一発くらい、挨拶しようぜ。」

 

ドンッ!!

 

ドドドドドドドドッ!!

 

二丁の銃口から無数の弾丸が放たれる。

 

ケルベロスの身体へ次々と着弾し、氷の装甲が火花を散らす。

 

「グォォォォォッ!!」

 

だが、ケルベロスは倒れない。

 

むしろ、その三つの頭が同時に牙を剥いた。

 

「……相変わらず。」

 

「無礼な男だ。」

 

ダンテの口元が大きく吊り上がる。

 

「そういうところも。」

 

「変わってねぇな。」

 

ケルベロスが吠える。

 

「グォォォォォォォォォッ!!」

 

その咆哮がホロウ全体を震わせた。

 

オボルス小隊の全員が構える。

 

11号がダンテを見る。

 

「……あの男。」

 

「あの怪物を知っているのか。」

 

トリガーが静かに答える。

 

「……ええ。」

 

「二人とも。」

 

「互いを知っているようです。」

 

鬼火が目を細める。

 

『つまり。』

 

『こいつが。』

 

『さっき言ってた未知の存在の知り合いってことか?』

 

シードが楽しそうに言う。

 

「面白くなってきたね。」

 

オルペウスは、大剣を構えるダンテの背中を見る。

 

「……。」

 

先ほど、自分を助けてくれた見知らぬ男。

 

しかし、その背中からは不思議なほど安心感があった。

 

ダンテはリベリオンを握り直す。

 

「さて。」

 

「ケルベロス。」

 

「お嬢ちゃん達に手ぇ出したのは、ちょっといただけねぇな。」

 

ケルベロスの三つの頭が同時にダンテを睨む。

 

「我は。」

 

「貴様を探していただけだ。」

 

「なら。」

 

ダンテは笑う。

 

「俺を探す途中で、他の奴に八つ当たりするなよ。」

 

一歩、踏み出す。

 

「相手なら。」

 

「俺がしてやる。」

 

ケルベロスの口から白い冷気が噴き出す。

 

「……よかろう。」

 

「ならば。」

 

三つの頭が同時に牙を剥く。

 

「久方ぶりに。」

 

「貴様と遊ぶとしよう。」

 

ダンテが笑った。

 

「上等だ。」

 

「――来いよ。ワンちゃん!」

 

ホロウの奥。

 

再会した悪魔と、悪魔狩りの男。

 

その戦いが、再び始まろうとしていた。

 

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