『Devil May Cry』
――新エリー都防衛軍駐屯地。
暴走ホロウでの一件から数時間後。
駐屯地の一角には、軍用の尋問室があった。
無機質な白い壁、頑丈な扉。そして、部屋の中央に置かれた机。
その上には、ダンテがホロウ内で使用していた武器が並べられていた。
大剣、二丁の拳銃、そしてケルベロスから変化した三節棍型の魔具。
どれも防衛軍の装備とは明らかに違う。
「…………。」
机の向こう側で、ダンテは椅子に座っていた。
両手には特殊合金製の強力な手錠が付けられている。通常の兵士なら、簡単には外せない代物だ。
しかし、本人はというと――。
「なあ、この手錠。」
ダンテが自分の両手を持ち上げる。
「もうちょっとオシャレなやつにできなかったのか?」
「…………。」
向かい側に座る尋問官の額には、すでに青筋が浮かんでいた。
「質問に答えてください。」
「もちろん。」
ダンテは笑顔で答える。
「何でも聞いてくれ。」
「では。」
尋問官が端末を操作する。
「あなたの名前は?」
「ダンテ。」
「フルネームは?」
「ダンテ。」
「…………。」
「短くて覚えやすいだろ?」
「そういう意味で聞いているのではありません。」
「そうか?」
尋問官は深く息を吐く。
「では、所属組織は?」
「デビルハンター。」
「所属している軍や企業は?」
「ない。」
「活動拠点は?」
「店。」
「店の名称は?」
「デビルメイクライ。」
「所在地は?」
「…………。」
ダンテが少し考える。
「それは企業秘密だ。」
「…………。」
尋問官の手が、ぴたりと止まった。
「あなたは、我々が確認した未知の怪物――ケルベロスと呼ばれる存在を知っていましたね?」
「知ってる。」
「どの程度?」
「昔からの知り合い。」
「…………。」
尋問官が顔を上げる。
「……知り合い?」
「ああ。」
「あなたは、悪魔と面識があるのですか?」
「まあな。」
「他にも?」
「いっぱいいるぜ。」
「…………。」
「そいつらも呼んだ方がいいか?」
「結構です。」
即答だった。
ダンテは肩をすくめる。
「残念。」
尋問官の眉間にさらに皺が寄る。
「では、ケルベロスとは何者ですか?」
「悪魔。」
「それは聞きました。」
「じゃあ答えは出てるじゃねぇか。」
「…………。」
「もっと詳しくお願いします。」
「三つ頭、氷を使う、門番。以上。」
「…………。」
尋問官は額を押さえる。
「情報量が少なすぎます。」
「そうか?」
「そうです!」
思わず声を荒げる尋問官に、ダンテは少しだけ目を丸くした。
「お、怒った?」
「怒ってません。」
「顔に出てるぜ。」
「出ていません。」
「出てる出てる。」
「…………。」
尋問官の拳が、ゆっくりと握られる。
「……あなたは、こちらをからかっているのですか?」
「いや。」
ダンテは笑う。
「退屈だからさ。」
「…………。」
「尋問って、もっと面白いもんだと思ってた。」
「…………。」
「ピザくらい出ると思ってたんだけどな。」
「出ません。」
「ストロベリーサンデーは?」
「出ません。」
「水。」
「あります。」
「じゃあ、それで。」
「…………。」
尋問官が机の端に置かれていた水を、無言でダンテの前へ滑らせる。
「どうぞ。」
「お。」
ダンテは嬉しそうに受け取った。
「ありがとな。」
手錠をされた手で何とかグラスを持ち、一口ごくりと飲む。
「…………。」
そして。
「やっぱり、ピザが欲しい。」
「…………。」
尋問官のこめかみに、さらに青筋が浮かんだ。
しばしの沈黙。
やがて尋問官はゆっくりと立ち上がる。
「……少々お待ちください。」
「どこ行くんだ?」
「人を呼びます。」
「ピザか?」
「違います。」
「残念。」
尋問官は扉へ向かう。
その背中から、明らかに怒気が漂っていた。
しかし、扉へ手を伸ばしたその瞬間――。
「待て。」
部屋の外から声が響いた。
尋問官の動きが止まる。
「……鬼火隊長。」
扉が開く。
そこから現れたのは、オルペウスの尻尾の先に取り付けられた赤い銃身。そして、龍の頭を思わせる姿をした鬼火隊長だった。
オルペウスも、その後ろから続いて入ってくる。
鬼火は室内へ入るなり、真っ直ぐダンテを見た。
『お前。』
「よう。」
『…………。』
「また会ったな。」
鬼火は尋問官を見る。
『ご苦労だった。』
「はい。」
『後は私がやる。』
「了解しました。」
尋問官はそれ以上何も言わず、部屋から出ていく。
扉が閉まる。
カチャン。
静寂。
鬼火、オルペウス、そしてダンテ。
三者だけが同じ部屋に残った。
鬼火は机の上に並べられた武器を見る。
リベリオン。
エボニー&アイボリー。
そして、ケルベロス。
『…………。』
しばらくの間、無言。
やがて鬼火が口を開いた。
『改めて聞く。あの怪物は何だ。』
「ケルベロス。」
『それは名前だ。』
「名前を聞いたんだろ?」
『そうじゃねぇ!』
「…………。」
ダンテが楽しそうに笑う。
『お前……。』
鬼火の目が細くなる。
『本当に人の神経を逆撫でするのが上手いな。』
「褒め言葉として受け取っておくよ。」
『褒めてねぇ。』
「そうか。」
鬼火は深く息を吐く。
そして低い声で続けた。
『私はな。お前が何者なのかを知りたい。あの怪物が何者なのかも。そして、なぜ今になってこのホロウに現れたのかもな。』
「…………。」
ダンテの表情から、ほんの僅かに笑みが消える。
「それは……俺にも分からねぇ。」
『……本当か?』
「ああ。」
ダンテは椅子に背を預ける。
「俺が知ってるのは、この世界に俺の知ってる悪魔が現れたってことだけだ。」
『…………。』
オルペウスが静かにダンテを見る。
「この世界……?」
ダンテは、その言葉に僅かに視線を逸らした。
「…………。」
鬼火がそれを見逃さない。
『今の言葉。どういう意味だ?』
ダンテはしばらく黙っていた。
そして、いつものようにニヤリと笑う。
「さあな。」
『…………。』
鬼火の目が細くなる。
『……そうか。』
鬼火はゆっくりとダンテへ近づく。
『だったら、時間をかけて聞くとするか。』
「お手柔らかに頼むぜ。」
『断る。』
「即答かよ。」
『お前が口を割るまで、私は何時間でも付き合ってやる。』
ダンテが笑う。
「へぇ。そいつは楽しみだ。」
『…………。』
鬼火は笑わない。
オルペウスも何も言わない。
ただ机の上に置かれた三節棍型の魔具――ケルベロスの氷の装甲だけが、室内の照明を反射して不気味に輝いていた。
――――
――それから、数時間が経過した。
「…………。」
「…………。」
『…………。』
尋問室には、重苦しい沈黙が流れていた。
ダンテは相変わらず椅子に座ったまま、一向に口を割ろうとしない。
鬼火も一向に引かない。
ただ、時間だけが過ぎていく。
オルペウスは二人の間に挟まれながら、何度も時計を見る。
「……姉さん。」
『何だ。』
「もう数時間経っているであります。」
『分かってる。』
「ですが……。」
オルペウスがダンテを見る。
「この方、本当に何も話しませんね。」
『ああ。見事なくらいにな。』
「…………。」
ダンテは椅子に座ったまま、ぼんやりと天井を見ていた。
「なあ。」
『何だ。』
「腹減った。」
『知らん。』
「…………。」
「冷たいねぇ。」
『お前が喋らねぇからだ。』
「いや。」
ダンテは真顔で答える。
「腹が減ってるから喋れないんだ。」
『…………。』
鬼火の目が細くなる。
『さっきから何度も聞いてるが、本当にそれだけか?』
「ああ。腹が減った。」
『…………。』
オルペウスが困ったように笑う。
「姉さん。」
『何だ。』
「このままでは、ずっと平行線なのでは?」
『…………。』
鬼火はしばらく黙った。
そして――。
『……仕方ねぇ。』
「え?」
鬼火が通信回線を開く。
『誰か、ピザを持ってこい。』
「…………。」
オルペウスの目が大きく開く。
「ピザ……でありますか?」
『ああ。』
「なぜ?」
『餌だ。』
「餌……。」
ダンテが、その言葉に初めて反応した。
「…………。」
ゆっくりと鬼火を見る。
『どうした?』
「いや、聞き間違いか?」
『何をだ。』
「今、ピザって言ったよな?」
『言った。』
「…………。」
ダンテの目が僅かに輝いた。
「話が分かるじゃねぇか。」
『勘違いするな。これは取引だ。』
「取引?」
『ああ。お前が話すなら食わせてやる。』
「…………。」
ダンテは数秒、鬼火を見つめた。
『…………。』
鬼火はどこか疲れたように目を細める。
『食い物で釣れるとはな。』
「腹が減ってる時のピザは何より大事なんだよ。」
『知るか。』
しばらくして、尋問室の扉が開く。
「失礼します。」
防衛軍の兵士が、大きな箱を抱えて入ってきた。
その瞬間、室内に香ばしい匂いが広がる。
「…………。」
ダンテの視線が箱へ釘付けになる。
「おお、これは……。」
兵士が箱を机の上へ置く。
パカッ。
蓋が開く。
焼き立てのピザ。チーズがまだ熱でとろけている。
ダンテが身を乗り出す。
「…………。」
鬼火がそれを見て、小さく息を吐いた。
『オルペウス。』
「はい。」
『食え。』
「……え?」
『好きなだけ食っていい。』
オルペウスの顔がぱっと明るくなる。
「本当でありますか!?」
『ああ。』
「ありがとうございます!」
オルペウスは嬉しそうにピザを一切れ取った。
「では、いただきます!」
そして口へ運ぼうとした、その瞬間――。
「――待った。」
オルペウスの動きが止まる。
「……?」
ダンテがじっとピザを見ていた。
「俺も、一切れくれ。」
「…………。」
オルペウスが瞬きをする。
「え?」
ダンテは真剣な顔をしていた。
「話す。だから俺にも一切れ。」
『…………。』
鬼火がダンテを見る。
『本当に食いたかっただけか。』
「当たり前だろ。数時間も何も食ってないんだぜ? 腹ペコだ。」
『…………。』
鬼火はしばらく黙った。
そして――。
『いいだろう。』
「お?」
『約束通り、お前にはピザをやる。』
ダンテの顔が一気に明るくなる。
「話が分かるねぇ。」
『ただし――。』
「ん?」
『オルペウス。』
「はい。」
『食わせてやれ。』
「…………。」
オルペウスが目を丸くする。
「私が……でありますか?」
『ああ。』
「ですが……。」
『手錠をしているだろ。』
「…………。」
オルペウスがダンテを見る。
ダンテもオルペウスを見る。
「…………。」
「…………。」
ダンテが肩をすくめる。
オルペウスは困惑しながらもピザを一切れ取った。
「では……どうぞ。」
ダンテの口元へ差し出す。
「ああ。」
ダンテは素直に口を開ける。
ぱくっ。
「…………!」
チーズが伸びる。
ダンテが目を細めた。
「うめぇ……。」
『…………。』
鬼火が呆れたように呟く。
『そこまで喜ぶか。』
「腹減ってたからな。最高だぜ。」
オルペウスも少し嬉しそうに笑う。
「もう一切れいきますか?」
「もちろん。」
『…………お前。』
鬼火が声を低くする。
『話すんだろうな?』
ダンテはもぐもぐとピザを食べながら頷いた。
「ああ。約束は守る。」
「だから、もう一切れ。」
『…………。』
鬼火は頭を抱えたくなった。
それからしばらく、尋問室では奇妙な光景が続いた。
オルペウスがダンテへピザを食べさせる。
一切れ、また一切れ。
「うめぇ。」
「もう一枚。」
「はい。」
「サンキュー。」
『…………。』
鬼火は無言で、その様子を見ていた。
やがてピザの箱がほとんど空になる。
ダンテは椅子へ深く背を預けた。
「……ふぅ。」
満足そうな表情を浮かべる。
「生き返った。」
『…………。』
鬼火が改めて口を開く。
『腹は満たされたか?』
「ああ。」
『なら、約束通り。』
鬼火の目が鋭くなる。
『話してもらうぞ。』
ダンテはしばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと机の上を見る。
そこには、リベリオン、エボニー&アイボリー、そしてケルベロスが置かれている。
「…………。」
「そうだな。」
「まず、俺自身のことから話すか。」
オルペウスが姿勢を正す。
鬼火も静かに耳を傾ける。
ダンテは、ゆっくり口を開いた。
「俺の名前はダンテ。さっきも言った通り、デビルハンターだ。」
『それは聞いた。』
「まあ聞けよ。ここからが本題だ。」
ダンテはリベリオンへ視線を向ける。
「俺は、人間じゃない。」
「……!」
オルペウスが目を見開く。
鬼火も一瞬、言葉を失った。
『……何?』
ダンテは自分の胸元を軽く指で叩く。
「俺の父親はスパーダ、悪魔だ。そして、俺の母親は人間。つまり――俺は、悪魔と人間のハーフってわけだ。」
オルペウスが呆然とする。
「悪魔と……人間……。」
『…………。』
鬼火は黙っていた。
「スパーダってのは、昔、人間を守った悪魔だ。」
ダンテは机の上に置かれたリベリオンへ視線を向ける。
「今から約二千年前。人間界と魔界が今よりずっと近かった時代、魔界の悪魔たちは人間を支配していた。恐怖で、力で、人間を虫けらみたいに扱ってな。」
オルペウスが小さく息を呑む。
「その中で魔界の頂点に立っていたのが、ムンドゥス。そしてアルゴサクス、アビゲイル。この三体は、魔界でも特に強大な存在だった。」
「長い戦いの末、最終的に力を得たムンドゥスが魔界の支配者になった。そしてムンドゥスは、人間界へ侵攻した。」
ダンテの表情から、軽い笑みが消える。
「その時、奴に反旗を翻したのがスパーダだった。」
「スパーダは、悪魔でありながら人間を守ることを選んだ。そしてムンドゥスの軍勢を退け、魔界と人間界を結界で隔てた。」
「俺が生まれるずっと前の話だけどな。」
ダンテは少しだけ笑う。
「そして、その息子が俺ってわけだ。」
オルペウスがケルベロスを見る。
「では、ケルベロスも昔から知っていたのでありますか?」
「そういうことだ。テメンニグルっていう塔の門番をしてた。」
「俺が塔に入ろうとした時、俺をただの人間だと思って襲ってきた。まあ、俺も俺で、ワンちゃん扱いして挑発したんだけどな。」
『…………。』
鬼火が呆れたように目を細める。
『お前、昔からそれやってたのか。』
「ああ。悪魔相手には、だいたいな。」
『…………。』
ダンテはケルベロスへ視線を向ける。
「でも、ケルベロスは強かった。」
「氷を操る。三つの頭を持つ。テメンニグルの門を守る。それだけじゃない。」
ダンテの声が少しだけ真剣になる。
「奴には、悪魔としての誇りがあった。強い相手には、ちゃんと敬意を払う。」
「だから俺が勝った後、自分自身を武器に変えた。」
オルペウスが机の上のケルベロスを見る。
「……それが、この武器。」
「ああ。」
「魔具。一部の強力な悪魔は、自分自身を武器に変えることができる。」
『悪魔が……武器になる。』
「そう。ただし、誰でも使えるわけじゃない。」
「力のない奴を、悪魔は認めない。だから使い手を試すこともある。」
「ケルベロスみたいに自分から魔具になる奴もいる。逆に、力の差を見せつけられて本能的に服従し、魔具になる場合もある。」
鬼火が低い声で尋ねる。
『つまり、あの化け物はお前に負けたことで、お前を認めた。』
「ああ。そういうことだ。」
「…………。」
室内が静かになる。
ダンテは少しだけケルベロスを見つめた。
「まあ、昔の知り合いにまた会えたと思ったら、また武器になっちまったけどな。」
オルペウスが少し寂しそうにケルベロスを見る。
「……悪魔というのは、すべてそういう存在なのでありますか?」
ダンテは少し考える。
「いや、全部が全部じゃない。」
「けど、ほとんどの悪魔は強い奴が偉い。そういう考え方をしてる。」
「力のある奴に従う。弱い奴は、踏み潰す。」
「人間なんて、餌とか家畜くらいにしか思ってない奴も多い。」
「…………。」
オルペウスの表情が僅かに曇る。
「それでは、悪魔は人間を襲うために……?」
「理由はいろいろだ。」
ダンテが答える。
「支配、殺戮、血や生命力を食う奴、ただ暴れたい奴。目的は悪魔によって違う。」
「でも、一つだけ共通してる。」
鬼火が問う。
『何だ?』
ダンテはまっすぐ鬼火を見る。
「弱肉強食。それが悪魔って生き物の基本だ。」
『…………。』
「だから俺は悪魔を狩る。」
ダンテの声が静かに響く。
「人間を襲う奴を、人間の代わりに俺がぶっ殺す。それがデビルハンター。俺の仕事だ。」
室内に、再び沈黙が訪れる。
だが今度の沈黙は、先ほどまでとは違っていた。
鬼火は机の上に置かれたリベリオン、エボニー&アイボリー、ケルベロス。そして目の前に座るダンテを静かに見つめていた。
『……なるほどな。』
「どうだ?」
『少なくとも、お前がケルベロスと戦えた理由は分かった。』
「だろ?」
『だが。』
鬼火の目が再び鋭くなる。
『まだ分からねぇことがある。』
「何だ?」
『なぜ、この世界に悪魔が現れた?』
「…………。」
ダンテの笑みが消える。
鬼火は、その変化を見逃さなかった。
『そして、お前はさっき言ったな。――「この世界」って。』
「…………。」
『つまり、お前はこの世界の人間じゃねぇ。』
「…………。」
オルペウスもダンテを見る。
ダンテはしばらく沈黙した。
そして、ゆっくりと口元を吊り上げる。
「……そこまで話さなきゃダメか?」
『ああ。』
「参ったねぇ。」
ダンテは椅子へ背を預ける。
「どうやら、ピザ一枚じゃ足りなかったみたいだな。」
『…………。』
鬼火は即答した。
『じゃあ、もう一枚頼むか?』
「お。」
ダンテの目が輝く。
『その代わり、今度こそ全部話せ。』
「…………。」
ダンテは少し考えた。
「もう一枚、追加で頼む。」
『…………。』
オルペウスが思わず笑う。
「ふふっ。」
鬼火は深々とため息を吐いた。
『……ったく、とんでもねぇ男を連れてきちまったな。』
しかし、その声には先ほどまでの敵意がほんの僅かに薄れていた。
――――
――やがて、ダンテは長い尋問を終えていた。
鬼火が机の上に置かれた資料を見ながら言う。
『今後、悪魔に関する情報を確認した場合、防衛軍へ報告すること。』
ダンテは椅子に深く座りながら答える。
「まあ、俺が知ってる範囲ならな。」
『それでいい。』
鬼火が頷く。
『今回の件は未知の要素が多すぎる。少なくとも、お前の知識は役に立つ。』
オルペウスが苦笑する。
「……まあ、ダンテさんが協力してくれるなら、こちらとしても助かるであります。」
「それに、悪魔について知っている人が他にいるとは限りませんから。」
「そういうことだ。」
11号も隣で頷く。
「今回の戦闘を見る限り、お前が敵対する可能性は低い。」
「ならば、協力関係を築く方が合理的だ。」
「合理的ねぇ。」
ダンテは肩をすくめる。
「軍人ってのは本当に堅いな。」
『うるせぇ。』
鬼火が即座に返す。
『それと。』
「ん?」
『お前の事務所の住所も聞いておく。』
「…………。」
ダンテの表情が僅かに固まった。
「なんでだ?」
『連絡先が必要だからだ。』
「電話でいいだろ。」
『悪魔が関わる事件が発生した場合、直接確認に行く必要がある。』
「…………。」
ダンテは嫌な予感を覚えた。
『一週間に数回、オボルス小隊の誰かを、お前の事務所へ向かわせる。』
「……おい。」
『何だ?』
「それ、監視って言わないか?」
『情報共有だ。』
「絶対監視だろ。」
『情報共有だ。』
「…………。」
ダンテは深くため息を吐いた。
「はぁ……。」
こうしてダンテは、ひとまず解放された。
ただし、事務所の住所をきっちり聞き出された上、さらに定期的に防衛軍の人間が訪問してくるという、非常に面倒な条件付きである。
「……まったく。」
駐屯地を出たダンテは、空を見上げる。
「軍に目を付けられるとはな。ツイてねぇ。」
そう呟きながら、ダンテは自分の事務所へ向かって歩き始めた。
――――
――そして、数時間後。
デビルメイクライ事務所。
「…………。」
ダンテはソファーへ深々と身体を沈めていた。
「……疲れた。」
ケルベロスとの再会。そして、長い尋問。
さすがのダンテも、今日は少し疲れていた。
テーブルの上には、空になったピザの箱。
その横にはケルベロス。氷の装甲を纏った三節棍型の魔具が、静かに立て掛けられている。
ダンテは、それを一瞥した。
「……まさか、また会えるとはな。」
ケルベロスは何も答えない。
ただ、その氷のような魔具が照明を反射している。
「…………。」
ダンテはテレビのリモコンを手に取った。
「さて。映画の続きでも見るか。」
ピッ。
テレビの画面には、派手なアクション映画が映し出された。
「お、これ前に見たやつだ。」
ダンテは少しだけ笑う。
「まあいい。こういうのは何度見ても――」
ガチャァァァン!!
「――。」
ダンテの言葉が止まった。
事務所の扉が勢いよく開かれる。
「ダンテ様!!」
「…………。」
ダンテがゆっくりと扉を見る。
そこに立っていたのは――ヴィクトリア家政。
先頭に立つフォン・ライカン。その隣にはリナ、エレン、カリンら、ヴィクトリア家政の面々が勢揃いしていた。
全員、明らかにただ事ではない顔をしている。
「…………。」
ダンテはリモコンを持ったまま固まる。
「……よう。」
沈黙。
ライカンが一歩前へ出る。
「ダンテ様。」
「ああ。」
「少々、お話を伺いたいのですが。」
「…………。」
ダンテはテレビを見る。
映画はちょうど主人公が敵を派手に吹き飛ばしていた。
「…………。」
そして再び、ヴィクトリア家政を見る。
「後にしないか?」
「なりません。」
即答だった。
「…………。」
ダンテは天井を見上げる。
「今日俺、尋問されたばっかなんだけど。」
エレンがじっとダンテを見る。
「……軍に連れていかれた。」
「そうだな。」
「それで帰ってきた。」
「そうだ。」
「じゃあ。」
エレンが無表情のまま言う。
「今度は私たちの番。」
「…………。」
ダンテの眉が僅かに動いた。
「マジかよ。」
カリンが心配そうに口を開く。
「あの……ダンテさん、怖いことはしませんから……。」
「その言い方、余計怖ぇぜ。」
リナが優雅に微笑む。
「ご安心くださいませ。ただ、いくつか確認させていただくだけです。」
「その言い方も軍と同じだな。」
ライカンが静かに頷く。
「我々も今回の件について、少々情報が不足しておりますので。」
「…………。」
ダンテはソファーへ身体を沈めたまま、深くため息を吐く。
「はぁ……。」
そして、リモコンをテーブルへ置いた。
「分かった。話せばいいんだろ?」
エレンが目を細める。
「素直。」
「軍の尋問で疲れたんだよ。」
「なるほど。」
ダンテは天井を見上げる。
こうしてダンテは、新エリー都防衛軍に続き、ヴィクトリア家政からも尋問を受けることになった。
――この後、ダンテがヴィクトリア家政に何を聞かれ、どこまで答えたのか。
それは、また別の話である。
オルぺウスにあーんされるダンテ....