英雄に拾われた怪物   作:ちょぱえもん

1 / 1
プロローグ

 

 

東の海。

 

青く広がる海面を、一隻の軍艦がゆっくりと進んでいた。船の側面を波が撫でるたび、白い飛沫が弾ける。甲板を吹き抜ける潮風が、海兵たちの制服を揺らしていた。遠くからは、ピィピィと、鳥の鳴き声が聞こえてくる。穏やかな海。雲一つない青空。東の海らしい、平和な光景だった。

 

その甲板の上で──

 

「腹が減ったのう……」

 

海軍中将、モンキー・D・ガープが腹をさすっていた。軍艦の食料が底を尽きかけていた。ガープが一人で食料食い尽くしていたからだ。このままではフーシャ村まで持たない。仕方なく、航路上にあった島へと立ち寄ることになった。やがて島が見えてくる。

 

「到着したな! よぉ〜し、お前達、食糧を調達してこい!」

 

「えぇ〜〜ッ!!」

 

部下たちから一斉に声が上がる。

 

「ほとんどガープ中将が食べたんですから、一緒に来てくださいよ!!」

 

「えぇ〜ッ!?」

 

ガープは驚いたように目を見開く。

 

「いいよ。」

 

「軽っ!!」

 

こうしてガープは、数人の部下を引き連れて島へと降り立った。

 

「それにしても、のどかな島ですね」

 

海兵の一人が周囲を見渡す。木々の葉が風に揺れている。遠くでは鳥がピィピィと鳴いていた。海岸からはザァザァと波の音が聞こえる。

 

「そうじゃのう」

 

ガープも辺りを見渡す。

 

「東の海が平和だという証───ッ!?」

 

その瞬間、ガープの足が止まった。

 

「ガープ中将?」

 

足を止めたガープへと部下が声をかけるが返事がない。ガープはただ、じっと前方を見つめている。

 

「どうしました?」

 

「……静かにせい」

 

「え?」

 

ガープの表情から、先ほどまでの笑みが消えていた。その様子に海兵達の頭には疑問符が浮かぶ。

 

「何か……おかしい」

 

海兵たちが顔を見合わせる。

 

「何もないですよ?」

 

「いや──」

 

ガープは目を細める。

 

「──何かいる」

 

その瞬間だった。ズシン、と空気が重くなった。

 

「……っ」

 

海兵の一人が息を呑む。

 

「な、なんだ……これ……」

 

海兵達の身体が震える。呼吸が苦しい。まるで巨大な何かに、頭上から押さえつけられているようだった。

 

「ガープ中将……!」

 

そしてガープを含めた海兵達を、更に強烈な圧力が襲う。。

 

「ぐっ……!」

 

「な、なんなんだ……!!」

 

海兵たちが次々と膝をつく。ガープだけは立っていた。しかし、その顔には、焦りが浮かんでいた。

 

「……覇気」

 

ガープが呟く。

 

「しかも……覇王色じゃと?ワシ達だけに向けられているのか…!?」

 

ありえない。この島には海賊の姿などない。ましてや最弱の海と称される東の海に、これほど強烈な覇気を持つ者がいるなど聞いたこともない。

 

「警戒せい!」

 

ガープが叫ぶ。

 

「敵がいるぞ!」

 

「は、はい!」

 

ガープの呼びかけに反応し、海兵たちが武器を構える。だが──

 

「……え?」

 

──一人が倒れた。

 

「おい!」

 

ガープが振り返る。すると一人、また一人と、海兵たちが次々と意識を失っていく。

 

「…………」

 

ガープは拳を握った。

 

「ワシには効かんが……」

 

周囲を見渡す。

 

「この覇気……いったいどこから出ておる?」

 

ガープは目を閉じた。意識を集中する。見聞色の覇気で島全体に広がる気配を探る。

 

「……そこか」

 

ガープが雑木林の方を向く。一歩。また一歩。木々の間を抜けていく。身体に当たる枝など気にも留めず歩いていく。どれほど歩いただろうか、ようやく木々が途切れた。視界が開けると、そこには青い海が広がっていた。

 

波が砂浜を撫でている。カモメが一羽、空を飛んでいく。その海岸に、小さなゆりかごが置かれていた。

 

「……?」

 

ガープが立ち止まる。

 

「なんじゃ、こりゃ……」

 

ゆりかごは、ひどく古びていた。ところどころ傷がつき、潮風に晒された跡がある。しかし、その中には、一人の赤ん坊がいた。

 

「…………」

 

泣いていない。眠ってもいない。ただ静かに、青空を見上げている。ガープはゆっくりと近づいた。

 

「お前……」

 

赤ん坊がガープの方へ顔を向ける。その瞳を見た瞬間。ガープの足が止まった。

 

「……ッ」

 

背筋に、冷たいものが走る。この覇気、間違いない。この赤ん坊からだ。

 

「まさか……」

 

ガープは赤ん坊を見つめる。

 

「この覇気を出しておったのは……お前なのか?」

 

赤ん坊は答えない。まだ言葉すら話せない。それでも、ガープをじっと見つめている。

 

「…………」

 

ガープはしばらく黙っていた。そして、ゆっくりとゆりかごへ手を伸ばす。赤ん坊の小さな手に触れる。その瞬間。ギュッ、と赤ん坊がガープの指を握った。

 

「……」

 

ガープが目を見開く。先ほどまで放たれていた覇気が、嘘のように消えた。鳥の鳴き声が戻ってくる。波の音も、穏やかに響いている。ガープは赤ん坊を見つめる。

 

「……ハッハッハッハッ!!」

 

突然、豪快な笑い声が海岸に響き渡った。

 

「とんでもねぇ拾い物をしちまったのう!!」

 

ガープは赤ん坊を抱き上げる。腕の中に収まる、小さな身体。だがこの小さな命が持つ力は、もし使い方を間違えれば、世界の均衡を崩し、世界そのものを揺るがす。ガープはそのことを、本能的に理解した。

 

「……お前、こんなところに一人でいたのか」

 

赤ん坊の顔を見る。返事の代わりに、小さな手がガープの胸元を掴んだ。

 

「そうか」

 

ガープは笑う。

 

「寂しかったんじゃな」

 

そして赤ん坊を抱きしめる。

 

「もう大丈夫じゃ」

 

潮風が二人の間を通り抜ける。ガープは海を見つめた。

 

「ワシが連れて帰ってやる」

 

その言葉に、赤ん坊が小さく瞬きをする。

 

「今日からお前は──」

 

ガープは少しだけ考え込んだ。

 

そして、ニヤリと笑った。

 

「──ワシの孫じゃ!!」

 

この日。後に世界から『海軍の怪物』と呼ばれる赤子は

海軍の英雄、モンキー・D・ガープに拾われた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。