一度は投げ出してしまいましたが、もう一度だけお付き合いください
交差! 青春と"きり"札!
はじまりは、ささいなことがきっかけだった。
「学園、ミリタリー、青春‥‥‥いまはこんなのが流行ってるのか?」
マイハマ学園に通う中学2年生斬札ウィンは、スマホに表示された画面を眺めながら眉をひそめていた。肩に乗るタコアザラシの源さんも、同じように首をひねっている。彼らをそのようにさせる原因は、現在表示されているゲームのホームページだった。
ブルーアーカイブ。
デュエル・マスターズがすべてのはずのここ、マイハマ学園で突如流行し出したスマホゲームだ。男子生徒を主として話題が広がっていくなか、ブルアカの代わりにデュエプレを触っていたウィンは奇妙な感覚を覚えていた。別にデュエマ以外の趣味をもつことを悪く言うわけではない。むしろデュエマ以外の趣味がないに等しいウィンが異常寄りなのである。
さすがに疎外感を感じずにはいられないウィンは、まずは下調べとしてホームページを閲覧していた。先生が主人公となり、かわいらしい生徒たちと笑いあり、涙ありの学園生活を送る。かたわら、銃撃戦もあるというのだから変な感じだ。ゲームシステムとしては半分オートのシミュレーションRPGらしい。特にストーリーがかなり好評なのだとか。
「会話に混ざれないのも寂しいし、ちょっとだけ触ってみるかぁ」
とはいえ動機がそれだけなのでモチベーションが続くかは怪しい。基本無料とのことだし、合わなかったら消せばいいかと軽い気持ちでダウンロードを始めた。
少し時間をおいて画面上に現れたのは、マフラーをした銀髪動物耳の少女が映るアプリアイコン。ウィンは軽くそれをタップしてゲーム開始を待つ。しかし待てど暮らせど画面にノイズが走るだけで、タイトル画面どころかエラー表示すらされない始末。
(ダウンロードに失敗したのかな。いやでももう一回入れ直すのもめんどくさいなぁ)
ゲームも始まる気配がないし、アプリを消してしまおうかと早すぎる判断を下そうとした、そのときだった。
再び画面にノイズが走る、それも大量に。スマホの方がおかしくなったのかとウィンが慌てて端末を手に取ったかと思えば、次の瞬間には液晶画面から出ているとは思えないおびただしい量の青い光が、デュエマさいこークラブの部室内を包み込んでいた。眩しさに思わず瞼を閉じるウィン。
―――時間にして数秒、光の放出が終わる。ウィンの肩から振り落とされた源さんが目を開けたとき、そこに彼の姿はなかった。
△▼△
ガタンゴトン、ガタンゴトンと、心地よいリズムが耳に入ってくる。
電車に揺られ、いつの間にかうたたねをしていたらしいウィンはゆっくりと目を開けた。
「‥‥‥ここ、どこだぁ?」
涙目で大あくびをかますと、ねぼけまなこであたりをきょろきょろと見まわす。
(確か自分はクラブの部室にいたはずだ。最近流行りのなんとか、ってゲームをダウンロードして、でも起動しなかった。そしたらスマホが壊れて青い光が‥‥‥)
思い出せたのはそこまでだった。ポケットに感触があり、それを取り出すとスマホだった。どうやら壊れたというのはウィンの勘違いだったらしく、画面はしっかりとついた。ただし圏外のようで、この異常事態を友人に伝えて助けを求める、なんてことは出来なさそうだ。
「つっ立ってても仕方ないし、先に行ってみるかぁ」
ここがどこかもわからないというのに、ウィンに危機感はあまりないようだ。のんきにいまいる場所を歩き始める。見た感じはただの電車だ。広告が見慣れないものであることと、走っている場所が海の上であること以外は。窓の外を見渡すと一面の水。おぉ‥‥‥と感動を覚えて眺めるも、すぐに飽きたようでウィンは再び探索を再開した。
通路の端にたどり着き、次の車両へと繋がるドアに手をかける。開けようとしたそのとき、向こう側から話し声が聞こえた。耳をドアにぴったりとくっつけるが、詳しい内容までは聞き取れない。
ともかく自分の他に人がいたということに安堵して、ウィンは次の車両へ進んだ。直後目の前に飛び込んできた衝撃的な光景に仰天することになるとも知らずに。
二人の人物が、向かい合って座っている。その片側、水色の長い髪をした少女の肩から足元にかけて赤黒いシミができていて、真っ白な洋服を汚していた。突然そのような場面に出くわして大いに驚くウィンだが、対岸に腰を下ろす男を見てさらに驚いた。
「え、ええええええっ!!!??? 切札、勝太くんっ!?」
「なんだよお前。人の顔見るなりそんな風に叫びやがって‥‥‥てか誰だお前、俺のこと知ってるのか?」
そりゃ驚くだろう。メモッタとジェネラル絡みの事件からしばらく経ったいま、まさかフィクションの人物と二度目の対面を果たすことになるとは思わないからだ。ただしウィンがあった時の姿ではなく、それよりいくらか背が伸びている。黒い長シャツのうえに白の半そでシャツ、黄色い襟の紫ベストは「キングMAX」のときの恰好だ。つまり大人勝太、ただしアニメ版、ということになる。
片や血を流している見知らぬ少女、片やデュエマの二代目主人公。あまりにも混沌とした状況にウィンの思考は停止寸前であった。
そのとき少女の方が、ウィンの目をまっすぐに見つめた。そしてまたも衝撃的な発言を放ったのである。
「私が呼んだ人物は二人。一人は先生、ということはあなたが闇の王なんですか‥‥‥?」
ウィンの表情が一気に凍り付いた。それを知っているのは、親しい友人や学園の上層部だけ。じゃあ目の前の少女は学園の生徒か、もしくは教師? とにもかくにも得体が知れなくて、ウィンは目の前の存在に対しての警戒レベルを引き上げる。
その様子に少女は苦笑したあと、曇りのない真っすぐな眼でウィンを見た。
「ふふ、そんなに緊張しないでください。私の方に敵意はありませんから」
「‥‥‥嘘をついているようには見えない、かな。でも仕方ないだろ、初対面で闇の王だなんだ言ってくるやつなんて警戒するにこしたことない」
「それもそうですね」
なぜ自分の素性を知っているのか、それを相手が説明してくれるまでウィンの警戒が解かれることはない。突如雰囲気が変化して、勝太の方は戸惑うしかない。
「闇の、王‥‥‥? こいつがそんな仰々しいやつだってのか?」
「私だって詳しくは知りません。しかしキヴォトスを救うためには、勝太先生だけでなくこの子の力も必要なんです」
「ん? キヴォトスって‥‥‥」
先刻、その名前を見た覚えがある。額に手を当てて考えると、すぐに答えは出た。
キヴォトスとは、ブルーアーカイブの舞台である学園都市だ。
(もしかして俺、ゲームの中に入り込んじゃったってこと!?)
かつてウィンが経験した、メモッタの力により漫画の中の世界へ潜入した物語。それと同じような現象が再び起こったとでもいうのだろうか。そうだとしたところで、しかし不可解な点もある。目の前の少女がウィンのことを知っているということだ。ゲームの中から現実世界を観測するなんて芸当、可能なのだろうか? 否、何が起こっても不思議じゃないと、ウィンはげんなりしつつも考えをまとめた。
「キヴォトスを救う、ってのはどういうことなんだ。詳しく聞かせろ」
「超獣たちの襲撃を退けていただきたいのです。虚ろなる悪神、尊厳なき偽りの王、歪な水晶の頂‥‥‥なんの因果か、クリーチャーワールドとキヴォトスに超次元の通路が開いてしまいまして」
「‥‥‥なんだって!」
確かに異常事態だ。デュエマのデの字もない世界へ、突如としてクリーチャーが侵略してくるなど前代未聞。世界が悪しきように歪められ、異質な存在が現れる‥‥‥。やはりあの時と同様の事態なのだろうか、でもその件は収束したはずだ。
ウィンが困惑している間に、少女が続きを語り始める。
「幸い、生徒たちは『神秘』のおかげか、やつらに対して全くの無力というわけでもありません。しかし着実に押されている以上、あなたたち別の世界の者‥‥‥クリーチャーに関し心得がある人たちの力が必要なのです」
その声は落ち着いていたが、同時に追い詰められている様子も感じ取れた。マイハマ学園に戻る方法もすぐに思いつかない以上、ウィンに断る理由などなかった。
「わかった。その頼み引き受けるよ」
「ありがとう、ございます」
噛みしめるように、少女がお礼の言葉を口にする。それに対しウィンが歯を見せて笑い、任せておけと言わんばかりにサムズアップした。
その様子を見ていた勝太が、ウィンの方へと話しかけてくる。
「実は俺も、こいつから同じことを頼まれてんだ。キヴォトスってところを、先生として救ってくれってな」
「『先生』‥‥‥てことは、勝太くん‥‥‥いや勝太さんが主人公ってことか」
この謎空間に来る前の記憶をたどる。ブルアカのホームページで見たところでは主人公が先生となる、と書かれていた。逆を言えば、少女に「先生」と呼ばれている勝太は主人公ということだろう。
「ん、俺が主人公? ずいぶん前にジョーに交代したと思ってたんだがなぁ‥‥‥。ま、こまけぇことはどうでもいいか!」
勝太が豪快に笑い、勢いよく立ち上がる。それからウィンの方へ歩み寄ると、彼の肩をポンと叩いた。
「ってもまぁ、お前も俺とおんなじ頼みごとされてるみたいだし、闇の王とか大層な称号ついてるし‥‥‥なによりお前視点が多いんだよな、いま」
「うわ出た、メタ発言」
この二次創作でも平常運転なのか、と思うウィンは、自分も流れるようにメタ的な思考に陥っていることに気が付かなかった。
「これは俺の勘なんだけどよぉ‥‥‥この話、俺とお前のダブル主人公ってことなんじゃねぇか?」
「俺と勝太さんが、一緒に‥‥‥?」
「そうだ! 俺とお前でキヴォトスを救うんだよ。なんつーか、お前とは初めて会った気がしねぇし‥‥‥なんだか上手くやれそうな気がするんだ」
「ソウデスネ、アハハハハハ」
「なんか反応が微妙だな」
その初めてあったときというのが別媒体の彼で、しかもかなりひどい状況だったがゆえのこの反応である。さすがのウィンも苦笑いするしかない。
話が一段落したところで、強烈な眠気が二人を襲った。視界がぼやけ、意識がうすれゆくなか、声が聞こえた。
「忘れないでください。大事なのは、経験ではなく、選択であると」
△▼△
焦げ臭いにおいが、鼻をかすめる。
ゆっくりとまぶたを上げようとしたウィンは、爆発の音で叩き起こされた。どころではすまず、爆風で吹っ飛ばされる。
「うわああああああ!?」
視界が一回転し、天地がひっくり返ったかのような感覚が襲ってくる。幸い爆心地からは近くなかったようで、やけどを負うことなく軽い打ち身ですんだ。
「いっててて、何がどうなって‥‥‥っ!」
体を起こそうとして、空へ目を向けたウィンはみた。地獄の底から這い出てきた、ケタケタとした哄笑の渦。陽の光の一切を遮断する分厚い雲。そこは、デーモン・コマンドたちが舞い踊る恐怖の地と化していた。
さらに目を引くのは、先端に禍々しい口を備えた巨大な触手。思わず視線をその根本へ向けて滑らせてしまったウィンは、その脳内を驚愕の感情で満たすこととなる。最後に見た、魔誕後の姿ではない。しかしてその凶悪なフォルムは、忌まわしい記憶を呼び起こさせる。
「ヴリド、ガルド?」
相棒がかつて深淵の奥底へと封印したはずの悪神が、キヴォトスに姿を現していた。
(まさか、キヴォトスと深淵がつながったっていうのか!?)
はるか遠くに鎮座しているヴリドガルド。その目線が、こちらを向いたような気がして。
一番近くにあった触手が、まっすぐにウィンへと迫る。
とっさに手のひらから闇のマナを展開、触手がそれを喰らうのに夢中になっている隙を見計らい、よろけながらも立ち上がったウィンは安全な場所を求めて走り出した。
『‥‥‥ウマイ。モット、クワセロ!!!』
「どわぁ、こっちきたぁ!?」
息も絶え絶えになりながら、ウィンは前だけを見て走り続ける。余裕があるときに闇のマナをあらぬ方向へと放ち、本能でしか動いてない触手の気を引くので精一杯であった。しかし悲しいかな、闇のマナの扱いに長けていようと肉体は脆弱な人間のそれ。触手との間の距離はどんどんと縮まっていく。
「しまったっ!」
とうとうウィンの足が絡め取られ、バランスを崩した彼は前のめりに転倒。獲物を捕食せんと、触手が勢いよくこちらへ向かってくる。
両の腕を触手に向けて伸ばし、闇のマナを薄く伸ばして障壁を展開。しかし逃亡中に消費した分だけ扱える総量は減っており、バリアの耐久度は心強いものではなくなっていた。だんだんと押されていくウィン。絶体絶命のピンチに陥った、そのときだった。
眼前を、紫色の光をまとった弾丸が掠める。
触手が中くらいの部分で千切れ飛び、粘液がレンガの街道にびちゃびちゃと飛び散る。その光景を気持ち悪く思う間もなく、ウィンの体が宙に浮いた。
「こ、こんどはな......もがっ」
「しゃべらないで。奴に勘づかれるでしょ」
黒っぽい手袋をした手に口を抑えられる。驚いて、手の主の顔を見ようと目線を斜め上に持ってくる。
細長い吊り目に紫の瞳。白くふわふわとした髪をおでこのあたりで二つに分けている。しかしそれらよりも特徴的なのは、一対のねじくれた大きな角にコウモリのような羽。そして頭上に浮かぶとげとげしい輪っか。
要素だけとったら悪魔としか思えないが、ウィンの目に映っているのは雪のように白い肌をした美少女だった。
「き、キミはいったい‥‥‥」
「おしゃべりは後にしましょう。まずは安全地帯に向かうのが先よ」
淡々とした口調でぴしゃりと言われてしまえば黙るしかない。少女の脇に抱えられたウィンは、地を駆けつつ蹴り、その翼を広げ大空へと飛翔した彼女に連れ去られることとなった。いきなりの超展開、かなり危険な空中散歩をする羽目になっている現状を憂いつつ、されるがままウィンは謎の少女とともに飛んでゆくのだった‥‥‥。
かくしてウィンのキヴォトスでの物語は、波乱万丈なスタートを切ることとなった! ここから彼は、友人や憧れの人物たち、そしてまったく新しい仲間と出会い、数々の決闘に挑むこととなるっ!
デュエル・マスターズAX
プロローグside WIN 虚神と魔王
私服フウカの実装がなかったのひっじょうに寂しいですが、時はいっしょには悲しんでくれません。
チュートリアルでヴリドガルドという難敵を相手にする羽目になったウィンとヒナ、そしてゲヘナ学園の一同はどう危機に立ち向かうのか、乞うご期待。
最遅でも2週間後には更新しますので、よろしくお願いします。