シャングリラ・フロンティア〜世界のバグ(魔王軍)ですが、クソゲーハンターに攻略されかかってます〜 作:はとけん
「おいおい、なんだあのプレイヤー……」「全裸に鳥頭って、新手の変質者か?」
周囲の一般NPCたちがひそひそと囁き合う中、俺は宿屋の前で、木箱に腰掛けてナイフでリンゴを剥く「背景のNPC」を演じていた。
正面から、狂気を感じるほど無駄のないステップで歩いてくる鳥頭――サンラク。最高効率でステータスを割り振ったクソゲーハンターの姿がそこにあった。サンラクは俺の前を通り過ぎようとする。当然だ。俺の頭上には『!』のクエストマークすら出ていない、ただの背景なのだから。
だが、俺は剥いたリンゴの皮を、あえてサンラクの進行方向にポイと投げ捨てた。
「おっと、すまねぇな、旅の御人」
「――っとぉ!?」
サンラクの超反応。彼は一瞬でその皮をステップで回避し、空中で身を翻して着地した。
その眼光(鳥の目の奥)が、鋭く俺を捉える。
「……今、完全に俺の足元を狙って投げたろ、お前」
「まさか。ただの偶然さ。だが……『致命(クリティカル)の極意』を無意識に体現するステップを踏む奴が、こんな始まりの街にいるとは思わなかったんでね」
サンラクの肩がピクリと跳ねた。
ゲーム内のNPCが、システム用語である「致命(クリティカル)」を口にすることは通常ない。
「あんた、ただのNPC(モブ)じゃねえな? 隠しクエストのトリガーか?」
「さあな。だが、お前がその『鳥の頭』の呪い……じゃなかった、お気に入りの頭装備を被って、真の強敵に挑みたいなら、少しばかりアドバイスを仕込んでやれる」
俺は前世の知識(原作の記憶)を総動員し、サンラクが本来なら偶然遭遇するはずの「夜襲のリュカオン」の遭遇条件を、高難度クエストの仕様に見せかけて提示した。
「夜の『跳梁跋扈の森』で、あえて防具を外して『致命傷(クリティカル)を一度も受けずに5分間生存』してみな。それが奴を呼び寄せる隠しフラグ(仕様)だ」
「おいおい……マジかよ。そんなクソゲーみたいな特殊エンカウント条件があるのか。面白い、乗ってやるよ!」
サンラクは狂喜乱舞しながら森へと走っていった。
それを見送りながら、俺は影からアルテミスを実体化させる。
「アルテミス。あの鳥頭を追え。奴がリュカオンに敗北し、『呪い』を刻まれるまでの間、周囲の雑魚モブや他のプレイヤーが乱入して『仕様』が狂わないよう、外周を完全に封鎖しろ」
「御意に、我が主。影の軍勢を配置し、蟻一匹通さぬ結界を張ります」
神ゲーの歴史を正しく進めるため、最強の部下たちが、一人のプレイヤーの裏で「完璧な舞台」を作り上げていく。