シャングリラ・フロンティア〜世界のバグ(魔王軍)ですが、クソゲーハンターに攻略されかかってます〜 作:はとけん
「……おい、アルテミス。これは一体どういう状況だ? 俺の目がバグったのか、それともお前たちの頭がバグったのか、どっちだ?」
ウェザエモン討伐エリアの遥か上空。一般のプレイヤーからは決して視認できない、神代の隠密魔術で構築された不可視の結界内。
俺――レキは、目の前に広がるあまりにも荒唐無稽な光景に、本気で胃を押さえて蹲っていた。
俺の指示は「阿修羅会を排除し、サンラクたちの安全を確保しろ」だったはずだ。だが、俺の影から呼び出された魔王軍の脳筋担当『鋼鉄の守護者』アイギスは、その命令を少々「過剰」に解釈してしまったらしい。
「報告いたします、我が主(レキ)! 阿修羅会の騒ぎを聞きつけて、サンラク一行の戦場へ乱入しようとした不審な『超大型の獣型エネミー』を感知したため、主の障害になる前に……物理的に『分からせて』おきました!」
アイギスが、傷一つない大盾を誇らしげに叩いて胸を張る。
その背後、前世の魔王軍の頑丈な結界チェーンでガチガチに縛り付けられ、借りてきた猫のようにブルブルと震えている「巨大な獣」の姿があった。
漆黒の体毛、世界を滅ぼすほどの呪詛のオーラ。
間違いない。原作ではサンラクに呪いを刻み、世界中を気まぐれに彷徨っているはずの、誰も触れることすらできない最強のユニークモンスター――『夜襲のリュカオン』だった。
「クゥーン……(どうか命だけは助けてください)」
あのリュカオンが、アイギスの物理攻撃でボコボコにされ、アルテミスの魔法でバフを完全に剥がされ、野生のプライドを完璧にへし折られて従属(ペット化)している。
「世界のバランス(原作のタイムライン)が消し飛ぶわ! ユニークモンスターをペットにするNPCがどこにいるんだよ!」
デバッカーとしての俺の理性が悲鳴を上げる。だが、事態は俺の胃痛を置き去りにして、さらに最悪の方向(システムエラー)へと加速した。
【致命的な異常:世界管理システム(AIアリス)により、未定義の異常ログを検出】
【ユニークモンスター『夜襲のリュカオン』のステータス:『従属(洗脳)』を確認】
【システムエラー:該当の『規格外NPC集団』を、エラー収束のため新たな世界秩序として再定義します――】
「あ、待て、アリス! アナウンスは止めろ! ログを消せ――!」
俺の制止も虚しく、その瞬間、『シャングリラ・フロンティア』をプレイする全世界の全プレイヤーの画面に、鼓膜を揺らすような重厚な神話級のシステム音が響き渡った。
『――ワールドアナウンス――』
『プレイヤー諸君に告ぐ。世界は今、更新(アップデート)された』
『既存の七つの最強(ユニークモンスター)とは異なる、世界の「バグ(歪み)」より生まれし神話が顕現した』
『第8のユニークモンスター:【統べる宿命の影王】および【影の軍勢】が公式に認定されました』
「……は?」
ファステイアの酒場で、フレンドと作戦会議中だったサンラクの口からポカンと生気が抜けた。
ウェザエモンのエリアのすぐ近くの上空に、突如として「真っ黒な謎の巨大な影(俺たちの結界)」が出現し、そこからリュカオンの情けない悲鳴が響いてきたからだ。
「おいおいおい! 第8のユニークモンスターってなんだよ! 攻略サイトにも、原作設定資料(ゲームの裏設定)にもそんな記述一言もなかったぞ! しかもリュカオンを従えてるってどういうことだクソゲーかよ神ゲーだろぉぉお!?」
サンラクのゲーマー魂(クソゲーハンターの血)が、恐怖を通り越して狂喜乱舞し始める。
「面白れぇ……! ウェザエモンの前に、あの黒い影のボスをぶっ潰す隠しルートが開いたってことか!?」
鳥頭の変態が、目を血走らせて俺たちの結界に向かってまっすぐにダッシュしてくるのがログで見えた。
世界の崩壊を防ぎたかったバグ取り屋(俺)と、世界のバグを誰よりも愛するクソゲーハンター(サンラク)の、最悪で最高の因縁の幕が、ここに上がったのだった。