0.1%の積み重ね   作:仮面のカルメン

23 / 30
第7話 進まない修行

 

第7話 進まない修行

 

 心源流へ入門してから、フクリの生活は大きく変わった。

 

 朝は空が明るくなる前に起きる。

 

 庭へ出て、立つ。

 

 朝食を終えた後も、立つ。

 

 昼には歩く。

 

 午後は再び立つ。

 

 夕方になれば身体をほぐし、食事と掃除を済ませる。

 

 夜は念の基礎を学ぶ。

 

 そして翌朝、また立つ。

 

「武術を習いに来たはずなんですけど」

 

 入門から7日目。

 

 庭の中央で姿勢を維持しながら、フクリは言った。

 

「習っている」

 

 デスロは短く答えた。

 

「拳を打ったり、蹴ったりは?」

 

「まだ早い」

 

「歩くのも、ほとんどさせてもらってません」

 

「立てない者が歩けば、崩れた姿勢を繰り返すだけだ」

 

「生活では普通に歩けてますよ」

 

「それは移動しているだけだ」

 

「歩くことと移動することは違うんですか?」

 

「今のお前にはな」

 

 難しい話だった。

 

 フクリの足は、すでに震え始めていた。

 

 足幅は肩より僅かに狭く。

 

 膝を固めない。

 

 骨盤を傾けない。

 

 背骨の上へ頭を乗せる。

 

 肩は落とす。

 

 顎を引きすぎない。

 

 足裏の一部だけへ体重を乗せず、全体へ分散させる。

 

 指示されたことは覚えている。

 

 だが、全部を同時に行おうとすると、どこかが崩れた。

 

「右肩が上がった」

 

 デスロが言う。

 

 フクリが右肩を下げる。

 

「左へ傾いた」

 

 身体を戻す。

 

「腰が引けた」

 

「どれか1つずつにしてもらえませんか?」

 

「戦いの最中、身体は1つずつ動かん」

 

「まだ戦いませんよね」

 

「だから今のうちに覚える」

 

 正論なのだろう。

 

 ただし、正論だから楽になるわけではない。

 

     ◇

 

「まだ立ってるの?」

 

 庭へ来たビスケが、呆れたように言った。

 

「見れば分かるでしょう」

 

「入門して1週間よ」

 

「俺も数えています」

 

「普通なら、もう歩き方に進んでるわさ」

 

「普通じゃないので」

 

「また才能のせいにしてる」

 

「今回は事実の説明です」

 

 ビスケはフクリの周囲を歩いた。

 

 デスロの真似をするように、姿勢を観察する。

 

「足に力を入れすぎ」

 

「抜いたら倒れます」

 

「倒れない程度に抜くの」

 

「その程度が分からないんですよ」

 

「何で分からないの?」

 

「分からないから習ってるんです」

 

 ビスケが眉を寄せる。

 

 彼女にとっては、一度説明されれば感覚的に理解できることなのだろう。

 

 フクリが何度試してもできない理由が、本気で分からないらしい。

 

「ちょっと代わって」

 

 ビスケがフクリの隣へ立った。

 

 足を置く。

 

 膝を緩める。

 

 肩の力を抜く。

 

 動きは一瞬だった。

 

「これだけよ」

 

「それを見ても分からないんです」

 

「同じようにやればいいでしょ」

 

「同じように見えてないんですよ」

 

「じゃあ、よく見なさい」

 

 ビスケがもう一度姿勢を作る。

 

 ほとんど変化は見えなかった。

 

 立つ前と後で何が違うのか。

 

 フクリには、わずかな重心の変化しか分からない。

 

「分かりました?」

 

「全然」

 

「何でよ!」

 

「怒られても分からないものは分かりません」

 

 ビスケは信じられないものを見るような顔をした。

 

     ◇

 

「ビスケ」

 

 デスロが呼ぶ。

 

「お前が分かることを、相手も分かると思うな」

 

「でも、立つだけよ」

 

「お前は初日で形を覚えた」

 

「そうよ」

 

「だから、できない者がどこでつまずくかを知らない」

 

 ビスケが口を閉じる。

 

「技術を持つことと、教えられることは違う」

 

「なら、どう教えればいいの?」

 

「考えろ」

 

「師範が教えてよ」

 

「お前が口を出した」

 

 ビスケは不満そうに頬を膨らませた。

 

 フクリは少し笑いそうになったが、姿勢が崩れそうなので我慢した。

 

「今、笑った?」

 

「笑ってません」

 

「絶対笑ったわさ」

 

「口を閉じろ」

 

 今度は2人まとめてデスロに注意された。

 

     ◇

 

 午前の修行が終わる頃には、フクリの脚は重くなっていた。

 

 激しく動いたわけではない。

 

 ただ同じ姿勢を保ち続けただけ。

 

 それなのに、太腿と腰が熱を持っている。

 

 食堂へ向かう途中、歩き方までぎこちなくなっていた。

 

「大丈夫か?」

 

 先輩門弟の青年が声をかけた。

 

 初日にフクリたちを案内した男だった。

 

 名前はロド。

 

 心源流へ入って2年になるらしい。

 

「脚が動きにくいです」

 

「最初は皆そうなる」

 

「ビスケさんは3日で終わったそうですけど」

 

「あれを基準にするな」

 

 ロドは即答した。

 

「ビスケは何でも覚えるのが早い。見た動きを、そのまま自分の身体で再現できる」

 

「やっぱり天才なんですね」

 

「ああ。しかも、できるまでやめない」

 

 才能があり、努力もする。

 

 追いつけるわけがない。

 

 フクリがそう考えたところで、デスロの言葉を思い出した。

 

 才能を、今日できない理由のすべてにするな。

 

「ほかの人は、どれくらいかかりました?」

 

「立つ修行だけなら、早い者で1週間。遅くて2か月ほどだ」

 

「1年と言われたんですが」

 

「師範なりの脅しだろ」

 

「本当に?」

 

「多分な」

 

 ロドは一瞬目を逸らした。

 

「多分なんですね」

 

「お前の立ち方、かなり癖が強いから」

 

「自己流の10年が、悪い方へ働いてます?」

 

「働いてるな」

 

 即答された。

 

     ◇

 

 食堂では、大きな鍋に入った煮込み料理が出た。

 

 肉。

 

 根菜。

 

 豆。

 

 量も多い。

 

 心源流の食事は、工事現場で食べていたものより栄養を考えられていた。

 

 身体を鍛える以上、食事も修行の一部らしい。

 

 フクリが黙々と食べていると、向かいへビスケが座った。

 

「食べるの遅いわさ」

 

「噛んでるので」

 

「修行中は、食事も早く済ませるの」

 

「早食いは身体に悪いですよ」

 

「午後の修行に遅れるでしょ」

 

「まだ時間あります」

 

 ビスケはフクリの皿を見る。

 

「それだけ?」

 

「十分でしょう」

 

「少ない」

 

「普段より多いです」

 

「身体を作るなら、もっと食べなさい」

 

「食べすぎると眠くなります」

 

「その程度で眠くなる方が悪いわさ」

 

「身体の反応に悪いも何もないでしょう」

 

 ビスケは自分の皿から肉を2つ取り、フクリの皿へ入れた。

 

「食べて」

 

「いらないです」

 

「残したら駄目」

 

「勝手に入れたんでしょう」

 

「強くなりたいんでしょ?」

 

「そうですけど」

 

「なら食べる」

 

 理屈が強引だった。

 

 だが、身体を大きくするには栄養が必要なのも事実だ。

 

 フクリは追加された肉を口へ入れた。

 

「素直じゃない」

 

「食べてるでしょう」

 

「最初から食べればいいのよ」

 

「自分の量は自分で決めたいだけです」

 

「面倒な人だわさ」

 

「よく言われます」

 

     ◇

 

 午後は、初めて歩く修行を許された。

 

 ただし、歩けるようになったわけではない。

 

 正しい立ち方を崩さず、片足を前へ出す。

 

 それだけだった。

 

「右足を出せ」

 

 デスロが言う。

 

 フクリは右足を上げた。

 

 身体が左へ傾く。

 

「戻せ」

 

 足を下ろす。

 

「体重を左足へ移しすぎるな」

 

「右足を上げたら、左で支えるしかないでしょう」

 

「支えるのと、しがみつくのは違う」

 

「脚が地面にしがみつくんですか?」

 

「お前の身体がだ」

 

 もう一度。

 

 右足を少し浮かせる。

 

 左の太腿へ力が入る。

 

「力みすぎだ」

 

「倒れないためです」

 

「骨で立て」

 

「骨は自分で動きませんよ」

 

「筋肉を使うなとは言っていない。使いすぎるなと言っている」

 

 言葉では分かる。

 

 身体では分からない。

 

 フクリは右足を前へ出した。

 

 着地。

 

 その瞬間、上体が前へ倒れた。

 

「歩くたびに落ちている」

 

 デスロが言う。

 

「前に進むんだから、前へ倒れるのでは?」

 

「倒れた身体を足で受け止める。それは移動だ」

 

「歩くのは?」

 

「立った身体を運ぶ」

 

 意味が分からなかった。

 

     ◇

 

 庭の端で見ていたビスケが、ため息をついた。

 

「見てられないわさ」

 

「なら見なくていいですよ」

 

「そういう意味じゃない!」

 

 ビスケが前へ出る。

 

「師範、あたしがやってもいい?」

 

「好きにしろ」

 

 ビスケはフクリの後ろへ回った。

 

「何をするんです?」

 

「肩を持つ」

 

 小さな手が、フクリの両肩へ触れる。

 

「前へ歩いて」

 

 フクリが右足を出す。

 

 ビスケが肩を後ろへ引いた。

 

「うっ」

 

「倒れない」

 

「引かれたら進めません」

 

「上半身を前へ投げてるからよ」

 

「では、どうすれば?」

 

「腰から進む」

 

「腰?」

 

「足を出すんじゃなくて、身体ごと前へ運ぶの」

 

 もう一度。

 

 フクリは腰を前へ出そうとした。

 

 今度は身体全体が前へ傾いた。

 

「違う!」

 

「難しいな」

 

「何で、そうなるのよ!」

 

 ビスケは後ろからフクリの腰を軽く押した。

 

「ここを前へ」

 

「押されたら進みますよ」

 

「その感覚を覚えるの」

 

 押される。

 

 足を出す。

 

 上半身を倒さず、腰の位置だけが前へ進む。

 

 ほんの一歩。

 

 だが、先ほどより身体が軽かった。

 

「今のですか?」

 

「そう!」

 

 ビスケの声が明るくなる。

 

「もう1回」

 

 フクリは元の位置へ戻る。

 

 今の感覚を思い出す。

 

 腰を前へ。

 

 上半身は立てたまま。

 

 足は身体の下へ置く。

 

 一歩。

 

 今度は少しだけ前へ倒れた。

 

「惜しいわさ」

 

「初めて褒めましたね」

 

「惜しいって言っただけ」

 

「同じようなものです」

 

「違う!」

 

 それでも、先ほどまでよりビスケの機嫌はよくなっていた。

 

     ◇

 

 何度も繰り返す。

 

 成功。

 

 失敗。

 

 成功に近い失敗。

 

 完全な失敗。

 

 同じ動きをしているつもりでも、毎回結果が違う。

 

 10回に1回。

 

 身体が余計な力を使わず、前へ運ばれる瞬間があった。

 

「今の」

 

 ビスケが言う。

 

「分かりました」

 

「なら、もう1回」

 

 次は失敗した。

 

「何で忘れるのよ!」

 

「一度できたら毎回できるなら、修行はいらないでしょう」

 

「私はできたわさ」

 

「あなたを基準にしないでください」

 

「何よ!」

 

 言い合いながらも、ビスケは何度も姿勢を直した。

 

 腰の位置。

 

 足の角度。

 

 肩。

 

 目線。

 

 最初は、できないフクリへ苛立っているだけだった。

 

 だが、少しずつ教え方を変え始めている。

 

 言葉で分からなければ、身体へ触れて位置を直す。

 

 動きを小さく分ける。

 

 一度にすべて直そうとしない。

 

 ビスケ自身も、教えることを学んでいるようだった。

 

     ◇

 

 夕方。

 

 修行が終わる頃には、フクリは庭の端から端まで歩いていた。

 

 もちろん、正しく歩けているわけではない。

 

 数歩ごとに姿勢が崩れる。

 

 そのたびに止まり、立ち直す。

 

 普通に歩けば数秒の距離へ、何分もかかる。

 

「遅いわさ」

 

 ビスケが言う。

 

「速さの修行ではないでしょう」

 

「見てると眠くなる」

 

「先に戻ってもいいですよ」

 

「ちゃんと最後まで見ないと、また変な癖がつくでしょ」

 

「心配してくれてるんですか?」

 

「師範に任されたから!」

 

 ビスケはすぐに否定した。

 

 フクリは小さく笑う。

 

「何笑ってるのよ」

 

「少し親切になったなと思って」

 

「なってないわさ!」

 

「そうですか」

 

「そう!」

 

 顔が少し赤くなっていた。

 

 怒っているだけかもしれない。

 

     ◇

 

 修行後、フクリは絶へ入って身体を休ませた。

 

 庭の木陰。

 

 人の邪魔にならない場所へ座る。

 

 オーラを閉じると、疲れた身体が静かな状態へ移る。

 

 脚の重さ。

 

 腰の張り。

 

 肩の疲労。

 

 すぐには消えない。

 

 それでも、呼吸を整えながら休むことで、少しずつ和らいでいく。

 

「本当に、休む時は上手いわね」

 

 声がして目を開ける。

 

 ビスケが立っていた。

 

「修行が終わったので」

 

「まだ余裕あるでしょ」

 

「ありますけど、休める時に休みます」

 

「追加で絶の練習しない?」

 

「今日は嫌です」

 

「即答?」

 

「脚が疲れてます」

 

「絶なら脚を使わないわさ」

 

「頭も疲れてます」

 

「弱い」

 

「弱いから休むんです」

 

 ビスケは隣へ座った。

 

「本当に、できるようになるの遅いわね」

 

「申し訳ないですね」

 

「謝ってほしいわけじゃない」

 

「では、どうしてほしいんです?」

 

 ビスケは少し考えた。

 

「もっと悔しがって」

 

「昨日も言ってましたね」

 

「できないのに平気そうな顔してると、腹が立つわさ」

 

「平気ではないですよ」

 

「見えない」

 

「できなくて困ってます。でも、怒ってもできるようにはならないでしょう」

 

「悔しいから練習するのよ」

 

「必要だからでも、練習はできます」

 

「気持ちが違う」

 

「結果が同じなら、どちらでもよくないですか?」

 

「よくない」

 

 ビスケははっきり言った。

 

「悔しいとか、負けたくないとか。そういう気持ちが、最後のところで人を動かすの」

 

「そうかもしれませんね」

 

「他人事みたいに言わないで」

 

「俺にも、負けたくないものはありますよ」

 

「何?」

 

 フクリは少し考えた。

 

 誰かとの勝負ではない。

 

 ビスケへ勝ちたいわけでもない。

 

 武術家として認められたいわけでもない。

 

「時間ですかね」

 

「時間?」

 

「何もしなくても、歳は取るでしょう」

 

「当たり前だわさ」

 

「同じ5年を使って、何も残らないのは嫌です」

 

 メモリは増える。

 

 それだけでも、時間は無駄にならない。

 

 だが、身体も。

 

 知識も。

 

 技術も。

 

 今より少しは高い場所へ進みたい。

 

「昨日の自分に負けたくない、とか?」

 

「そんな格好いいものではないです」

 

「じゃあ何よ」

 

「5年後に、もう少しやっておけばよかったって思いたくないだけです」

 

 ビスケはしばらく黙った。

 

「地味ね」

 

「知ってます」

 

「でも、あんたらしいわさ」

 

 初めて、悪口ではない言い方だった。

 

     ◇

 

 入門から2週間。

 

 フクリは、ようやく庭を普通の速度に近い歩みで進めるようになった。

 

 完全ではない。

 

 意識を外せば、すぐ以前の歩き方へ戻る。

 

 疲れれば肩が上がる。

 

 急げば上体が前へ倒れる。

 

 それでも、最初の頃とは違っていた。

 

 立つ。

 

 重心を移す。

 

 身体を運ぶ。

 

 足を置く。

 

 1つずつだった動きが、僅かにつながり始めている。

 

「遅い」

 

 ビスケは毎日のように言った。

 

「それも聞き飽きました」

 

「でも遅いもの」

 

「昨日よりは進んでます」

 

「普通の人なら、もっと進んでるわさ」

 

「普通の人と比べても、俺が速くなるわけじゃないでしょう」

 

「そういうところが気に入らない」

 

「どういうところです?」

 

「開き直ってるところ」

 

「開き直らないと、毎日落ち込むことになりますよ」

 

 ビスケがフクリの前へ立った。

 

「私が教える」

 

「今も教えてるでしょう」

 

「もっと本気で」

 

「今までは本気じゃなかったんですか?」

 

「違う!」

 

 ビスケは拳を握った。

 

「5年後も大して強くならないかもしれないって、師範は言った」

 

「言ってましたね」

 

「でも、あたしが教えて、本当に大して強くならなかったら嫌」

 

「ビスケさんの責任ではないですよ」

 

「嫌なの!」

 

 感情の強い声だった。

 

「才能がないから仕方ないって、あんたにも師範にも思わせたくない」

 

 フクリは少し驚いた。

 

 最初は、才能のないフクリを馬鹿にしていた。

 

 できないことに苛立っていた。

 

 だが、今は違う。

 

 できないなら、できるようにしたい。

 

 自分が教えることで、才能の差を少しでも縮めたい。

 

 ビスケの中で、何かが変わり始めている。

 

「厳しくなりそうですね」

 

「今よりずっと厳しくするわさ」

 

「断っても?」

 

「駄目」

 

「決定権は俺にないんですか?」

 

「ない!」

 

 ビスケは迷いなく答えた。

 

     ◇

 

 翌朝。

 

 フクリが庭へ出ると、いつもの場所にビスケが待っていた。

 

 その横には、大きな石が置かれている。

 

「何ですか、これ」

 

「今日から持って歩く」

 

「立ち方を覚えたばかりですが」

 

「重い物を持てば、どこが崩れるか分かりやすいわさ」

 

「重そうですね」

 

「重いわよ」

 

「やりたくないな」

 

「持って」

 

「嫌です」

 

「持つ!」

 

 朝の静かな道場に、ビスケの声が響いた。

 

 デスロは少し離れた場所から2人を見ている。

 

 止める気はないらしい。

 

 ネテロはすでに協会へ戻っていた。

 

 もう助けてくれる者はいない。

 

 もっとも、ネテロがいても助けてはくれなかっただろう。

 

 フクリは石の前へしゃがんだ。

 

 両手を回す。

 

 持ち上げようとする。

 

 びくともしない。

 

「重すぎません?」

 

「持ち上げるところから修行だわさ」

 

「歩く以前の問題ですね」

 

「早く!」

 

 ビスケは楽しそうだった。

 

 フクリは小さく息を吐き、もう一度石へ手をかけた。

 

 才能のない男と、才能のある少女。

 

 進む速度は違う。

 

 考え方も違う。

 

 それでも2人の修行は、少しずつ同じ方向へ向かい始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。