第1話 天空闘技場
第1話 天空闘技場
心源流を出てから5日。
フクリとビスケは、大陸でも有数の巨大都市へ到着した。
心源流で『力は全てを凌駕する』を開発してからは、すでに21日が経過している。
能力を開発した後も、すぐに道場を出たわけではない。
身体能力が本当に7日ごとに上昇するのかを確認し、デスロから最後の指導を受け、旅支度を整えた。門弟たちとの別れにも数日を使った。
そして心源流を出発し、街道を進むこと5日。
ようやく目的地へ到着した。
天空闘技場。
遥か上空まで伸びる巨大な塔を見上げ、フクリは思わず足を止めた。
「……大きいですね」
「初めて見ると驚くわね」
隣に立つビスケは、慣れた様子で笑った。
「これ全部が闘技場ですか?」
「そう。世界中から腕自慢が集まる場所よ」
「予想以上です」
塔の先端は雲に隠れ、地上からでは見えない。
周辺には宿泊施設や飲食店、武具店まで立ち並び、大勢の人間が絶えず出入りしていた。
選手。
観客。
商人。
天空闘技場で一旗揚げようとする者。
そこで戦う者を相手に商売しようとする者。
巨大な塔を中心として、1つの街が作られているようだった。
「怖くなった?」
ビスケが尋ねる。
「少し」
「今さら?」
「道場の組手とは違いますから」
「護衛任務では、野盗とも戦ったでしょ」
「あれはビスケさんがいました」
「今もいるわよ」
「試合へ乱入するつもりですか?」
「そんなことしないわよ!」
当然だった。
天空闘技場では、リングへ上がれば1人で戦わなければならない。
相手がどれほど強くても。
予想外の技を使ってきても。
自分で判断し、自分で対処する。
だからこそ経験になる。
「低い階は、普通の武術家が中心」
ビスケが塔を見上げながら説明する。
「階を上がるほど相手も強くなる。100階を超えれば、それなりの実力者ばかりになるわ」
「200階から先は?」
知らないふりをして尋ねる。
ビスケは一瞬だけ言葉を止めた。
「別世界」
「別世界ですか」
「今のあんたが行く必要はないわ」
「俺も190階で止めるつもりです」
「本当に200階へ行かないの?」
「師範との約束ですから」
もちろん、理由はそれだけではない。
200階から先には、念能力者がいる。
フクリも念を使える。
基礎修行も受けている。
だが、念能力者同士の実戦経験はほとんどない。
何より、自分の能力を知られる危険が高い。
『力は全てを凌駕する』は、まだ開発して21日しか経っていない。
身体性能は、基準となった100から約3%上昇しただけだ。
戦闘能力を大きく変えるほどではない。
『転生(死にたくないよ)』も、戦闘へ直接使える能力ではない。
今のフクリに必要なのは、危険な念能力者と戦うことではなかった。
様々な武術家を相手にすること。
自分の間合いを知ること。
予想外の動きへ対応すること。
心源流で学んだ基礎を、実際の試合で使える技術へ変えること。
190階までで十分だった。
「190階へ着いても、欲を出して200階へ行ったら駄目よ」
「行きませんよ」
「本当に?」
「念能力者と戦いたくありません」
「正直ね」
「戦う必要がありませんから」
誰にも強制されていないのに、危険な場所へ進むつもりはない。
目標へ到達したなら、そこで止まる。
勝ち続けて気分がよくなったとしても、最初に決めた目的を変えない。
それも今回の修行の1つだった。
◇
天空闘技場の受付は、驚くほど簡単だった。
広い受付場には、試合への参加を希望する者が何列も並んでいる。
筋骨隆々の大男。
剣を何本も背負った男。
拳へ分厚い布を巻いた女。
フクリより若い者もいれば、老人に見える者もいた。
順番が来る。
受付の女性が書類を取り出した。
「お名前は?」
「フクリです」
「年齢をお願いします」
「27歳です」
「試合で使用する武器は?」
「普段は杖を使いますが、最初は素手で戦います」
「武器の使用は対戦条件によって制限される場合があります。問題ありませんか?」
「はい」
「では、登録完了です」
木製の番号札を渡される。
「第8試合場へお進みください。試合開始は約10分後です」
「もうですか?」
「天空闘技場では、登録直後に試合をしていただきます。その内容によって最初の階層が決まります」
フクリは番号札を見る。
登録した実感すらないうちに、最初の試合が決まってしまった。
「緊張してる?」
受付から離れると、ビスケが顔を覗き込んできた。
「はい」
「顔に出てる」
「隠しているつもりなんですが」
「全然隠せてないわ」
「絶を使います?」
「そういう意味じゃない!」
ビスケがフクリの肩を軽く叩く。
「負けても死なない」
「はい」
「多少の怪我も経験」
「なるべく避けたいです」
「相手を怪我させないことばかり考えない」
「努力します」
「そこは『はい』でしょ」
「できない約束はしません」
ビスケは呆れたように息を吐いた。
「本当に変わらないわね」
「5年くらいでは、性格まで変わりませんよ」
「武術の構えは変わったのにね」
それは、デスロとビスケのおかげだった。
◇
第8試合場は、想像していたより小さかった。
観客席には数十人ほど。
中央には円形のリングが設置されている。
リングから落ちれば場外負け。
相手が倒れた場合は、審判が続行可能か判断する。
低階層の試合らしく、規則は単純だった。
フクリはリングへ上がった。
向かい側から対戦相手が現れる。
年齢は30代半ばほど。
筋骨隆々の身体。
腕には何本もの古傷が走っている。
拳を使う武術家らしい。
男はフクリを上から下まで見る。
「新人か」
「はい」
「武器は使わないのか?」
「今回は素手で」
「悪く思うなよ」
「何がです?」
「すぐ終わる」
男は拳を打ち合わせた。
自信があるらしい。
体格だけを比べれば、フクリより一回り大きい。
純粋な筋力も、元のフクリより高い可能性がある。
もっとも現在のフクリは、『力は全てを凌駕する』によって身体性能が約3%上がっている。
わずか3%。
それだけで格上へ勝てるほど、戦いは単純ではない。
だが、同程度の相手なら、そのわずかな差が助けになることはある。
フクリは静かに構えた。
心源流で5年間繰り返した立ち方。
足裏へ体重を分散する。
膝を固めない。
肩から力を抜く。
相手の動きを待つ。
「始め!」
審判の声が響いた。
◇
男が一直線に踏み込んできた。
速い。
だが、ビスケほどではない。
ロドよりも遅い。
道場で何度も見てきた速度の範囲内だった。
右拳が飛ぶ。
フクリは半歩だけ身体をずらした。
拳が頬の横を通過する。
避けながら相手の懐へ入る。
すぐに殴り返すことはしない。
胸元へ肩を当てる。
接触した場所から、相手の力の流れを読む。
男は全力で拳を放った直後。
体重が右足へ乗っている。
左足は、次の攻撃へ移るため僅かに浮きかけていた。
(右足を軸にしている)
ならば、力のない方向へ動かす。
フクリは左斜め前へ踏み込んだ。
腕で押すのではない。
足。
腰。
背中。
身体全体をつなぎ、肩から力を伝える。
「なっ!」
男の身体が横へ流れる。
倒すほどの力はいらない。
重心をリングの外へ移すだけでいい。
男は踏みとどまろうとした。
しかし、体重を支えるはずの右足は、すでにリングの端へ近づいている。
もう一歩。
フクリが身体を運ぶ。
男の足がリングの外へ出た。
そのまま場外へ落ちる。
「勝者、フクリ!」
試合時間は約10秒。
観客席がざわついた。
「終わり?」
「殴ってないぞ」
「押しただけじゃないか」
「何だ、今の」
派手さはない。
血も出ていない。
倒れた相手が気絶したわけでもない。
観客が期待していた試合とは違ったのだろう。
だが、フクリにとっては理想的な勝利だった。
◇
リングを降りたフクリは、場外へ落ちた男へ近づいた。
「怪我はありませんか?」
男は立ち上がりながら、呆れたようにフクリを見る。
「変な戦い方だな」
「すみません」
「そこで謝るな」
「押し方が強すぎたかと思って」
「怪我はない」
「よかったです」
男は自分が立っていたリングを振り返った。
「拳を避けられたところまでは分かった」
「はい」
「その後、何をされた?」
「体重が乗っていない方向へ押しました」
「それだけか?」
「それだけです」
「それだけで落とされたのか、俺は」
男は少し悔しそうだった。
だが、怒ってはいない。
「次は落ちない」
「また戦うことがあれば」
「その時は殴り飛ばす」
「できれば、また怪我のない試合でお願いします」
「だから謝るな!」
男は最後に笑い、控室へ戻っていった。
◇
「お疲れ」
観客席から下りてきたビスケが、フクリを迎えた。
「勝ちました」
「見てたから知ってる」
「怪我もありません」
「そこは合格」
ビスケは腕を組む。
「でも45点」
「低いですね」
「初戦だから5点おまけしたわ」
「おまけ込みですか」
「押し出し自体は良かった」
「ありがとうございます」
「でも、相手の拳を見る時間が長い。避ける判断も少し遅い。肩を当ててから、重心を確認するまでに一瞬止まった」
「本当に細かく見てますね」
「そのためについてきたんだもの」
ビスケは続ける。
「あと、場外へ出た相手へ近づくのが早すぎる」
「怪我を確認したかったので」
「まだ興奮して殴りかかってくる可能性もあるでしょ」
「試合は終わっていました」
「終わりを受け入れない人もいるの」
バルガの顔が頭へ浮かんだ。
確かに、負けてもすぐには納得しない者はいる。
「次から、審判が間へ入るまで待ちます」
「そうして」
「あと、今日の動きは能力のおかげだと思います?」
フクリが小声で尋ねる。
周囲には聞こえないようにした。
ビスケは少し考える。
「身体が3%くらい上がってるんでしょ?」
「正確には3.0301%です」
「細かいわね」
「能力なので」
「動きが劇的に変わるほどじゃないわ。でも、最後の一歩は少し軽く見えた」
「では、多少は影響している?」
「あるかもしれない。でも勝てた一番の理由は、相手の重心を読めたからよ」
フクリは頷いた。
安心した。
『力は全てを凌駕する』は強力な能力だ。
いずれ、武術の技術差を身体能力だけで押し潰せるほどになる。
だが、まだその段階ではない。
今日の勝利は、心源流で積み上げた5年間があったからこそだった。
「嬉しそうね」
ビスケが言う。
「能力だけで勝ったわけではなかったので」
「当然でしょ。まだ3%よ」
「それでも、何もしなくても増えた3%です」
「そこが一番嬉しいの?」
「かなり」
「本当にフクリらしいわ」
◇
最初の試合の内容が評価され、フクリは一気に高い階層へ送られた。
ただし、その日の試合は1度で終わらなかった。
天空闘技場では、勝てば次の階層へ進み、希望すれば続けて試合を行える。
フクリは体力と時間に余裕がある範囲で、さらに3試合へ出場した。
2試合目の相手は、蹴りを主体とする細身の男だった。
間合いが長い。
近づこうとすれば、足先が正確にフクリの顔や腹を狙ってくる。
最初の相手のように、簡単には懐へ入れない。
フクリは数度攻撃を避けた後、わざとリングの端へ近づいた。
男は場外へ追い込んだと思い、一気に踏み込む。
その瞬間、フクリは絶へ入った。
オーラが消える。
相手の目にフクリの姿は映っている。
それでも、直前まで感じていた圧力が突然なくなり、踏み込みが僅かに鈍った。
その隙に横へ回る。
絶を解く。
相手の背中を両手で押した。
勢いを止められなかった男が、そのまま場外へ出る。
勝利。
だが、ビスケの評価は低かった。
「絶から戻るのが遅い」
「勝てましたよ」
「今の相手だからよ。戻る瞬間を狙われたら危なかった」
「分かりました」
◇
3試合目は、組み技を使う大柄な男。
腕をつかまれ、一度は持ち上げられた。
場外へ投げられそうになる。
フクリは相手の腕を無理に振りほどかなかった。
身体の力を抜く。
持ち上げられた方向へ逆らわず、空中で身体を回す。
地面へ落とされる直前に足をつき、そのまま相手の横へ回った。
腰を押す。
男は2歩進んだ。
しかし、場外までは届かない。
振り返った男が、再びフクリをつかもうとする。
今度は手首へ杖を使いたくなった。
だが素手の試合だ。
フクリは腕を取られる前に距離を詰め、相手の胸へ両手を当てた。
身体性能が約3%高まっている。
それでも、真正面から押し勝てる体格差ではない。
力ではなく、足の位置を狙う。
相手が踏み出そうとした瞬間に押す。
身体が浮く。
大男は踏ん張れず、尻からリングの外へ落ちた。
勝利。
ただしフクリも腕へ強い圧力を受け、しばらく痺れが残った。
◇
4試合目。
対戦相手は、フクリの過去3試合を見ていた。
開始前からリングの中央を動かない。
足幅を広く取り、重心を低くしている。
「押し出し狙いだろ」
「よく分かりましたね」
「3試合とも見た」
「それは困りました」
「来い。今度は俺がお前を押し出す」
相手は待ち構えている。
不用意に近づけば、逆につかまれる。
フクリは周囲を回った。
相手も身体の正面を向け続ける。
簡単には崩れない。
押し出しにこだわりすぎれば負ける。
フクリは初めて、自分から拳を出した。
顔ではない。
肩。
相手が腕で受ける。
続けて腹へ掌底。
相手は腰を落として耐えた。
「軽いな」
「そうですね」
フクリの攻撃力は高くない。
約3%上がったところで、体格差を覆すほどではない。
だが、倒す必要はない。
相手の意識を、押し出し以外へ向ければいい。
拳。
蹴り。
足払い。
すべて軽い。
相手へ大きな怪我をさせない。
それでも、無視できない場所を狙う。
男が次の拳を受けようと、腕を上げた。
その瞬間。
フクリは身体を沈め、相手の軸足へ自分の足を添えた。
肩を胸へ当てる。
上へ押す。
相手の重心が浮いた。
「しまっ――」
そのまま横へ身体を運ぶ。
男は踏み直そうとしたが、軸足の位置をずらされている。
2歩。
3歩。
リングの外へ落ちた。
「勝者、フクリ!」
4連勝。
圧勝ではない。
どの試合も、僅かな判断を間違えれば負けていた。
だが、確かな勝利だった。
◇
「今日は終わります」
受付でそう告げると、受付の女性が驚いた。
「まだ体力がありますよね?」
「あります」
「連勝中です。続ければ、今日中にさらに上へ行ける可能性がありますよ」
「今日はここまでで」
「どうしてですか?」
「反省したいので」
受付の女性は首を傾げた。
天空闘技場へ来る者の多くは、勝てるうちに進もうとする。
賞金。
名声。
階層。
勝利を重ねるほど得られるものが増える。
だがフクリの目的は、早く上へ行くことではない。
1年かかってもいい。
190階へ到達するまでに、できるだけ多くの経験を積む。
今の4試合だけでも、見直すべき点は多かった。
◇
宿へ戻ると、ビスケはすぐに机へ紙を広げた。
「今日の反省会を始めるわよ」
「食事の後では?」
「忘れる前に書く」
「すでに書いてるでしょう」
「フクリの感想も聞くの」
紙には、試合ごとの評価が細かく記されていた。
第1試合
* 相手の重心を読む判断は良い
* 最後の一歩が軽くなっている
* 試合終了直後に相手へ近づかない
* 押し出しは80点
第2試合
* 絶を使う判断は悪くない
* 絶から纏へ戻る速度が遅い
* 念の切り替えへ意識を向けすぎ、足が止まっている
第3試合
* 力を抜く判断は良い
* 持ち上げられる前の対処が遅い
* 受け身だけに頼らない
第4試合
* 押し出しを警戒する相手へ攻撃を混ぜた点は良い
* 打撃が軽すぎる
* 相手を傷つけないことへこだわりすぎ
「最後は仕方ないでしょう」
フクリが言う。
「試合で骨を折る必要はありません」
「折れとは言ってないわ」
「では?」
「相手が受けなければ危ないと思う程度には打ちなさい」
「難しいですね」
「だから覚えるの」
ビスケは紙の端へ大きく数字を書いた。
初日総合評価:62点
「45点から上がりましたね」
「4試合全体の評価よ」
「合格ですか?」
「ギリギリ」
「初日なら十分でしょう」
「満足するのが早い」
そう言いながらも、ビスケは少し笑っていた。
「でも、初日としては上出来」
「本当ですか?」
「ええ。押し出しだけで終わると思ったけど、最後は自分から攻撃もできてた」
「必要だったので」
「怖くなかった?」
「怖かったですよ」
「見えなかったわ」
「顔へ出てませんでした?」
「試合前ほどは」
実際に戦い始めれば、緊張だけを感じている余裕はなかった。
相手を見る。
動きを読む。
避ける。
押す。
次に何をするか考える。
気づけば試合は終わっていた。
「190階まで行けそうですか?」
フクリが尋ねる。
ビスケは少し考えた。
「まだ分からない」
「弱気ですね」
「100階を超えたら、今日の相手とは比べものにならないわ」
「そうでしょうね」
「でも」
ビスケは反省用紙をフクリへ渡した。
「今日みたいに、1試合ずつ考えて進めるなら可能性はある」
「頑張ります」
「焦らないこと」
「はい」
「身体能力が勝手に上がるからって、雑に戦わない」
「それは大丈夫です」
「どうして?」
「まだ3%しか上がってませんから」
「『しか』じゃないわ。普通は21日で3%も身体全体が強くならないの」
「そう言われると、かなり大きいですね」
「これが1年続いたら、今の約1.68倍でしょ」
「はい」
「技術が追いつかなくなる可能性もある」
デスロにも同じことを言われた。
力だけが増え続ければ、現在の動き方と合わなくなる。
踏み込みが強くなりすぎる。
避けたつもりで、遠くへ動きすぎる。
相手を軽く押したつもりで、骨を折る。
毎週1%。
小さい変化だからこそ、フクリはそのたびに身体へ慣れなければならない。
「試合と修行は続けます」
「私がいなくなっても?」
「いなくなる予定があるんですか?」
ビスケは一瞬だけ視線を逸らした。
「そのうちね」
「どこへ?」
「まだ秘密」
「そうですか」
「聞かないの?」
「話したくなれば話すでしょう」
「相変わらず他人には冷たいわね」
「秘密を尊重しています」
「便利な言い方」
ビスケは笑って話を終えた。
◇
その夜。
フクリは眠る前に『容量判定(メモリー・ジャッジ)』を使った。
紙へ、現在の状態が浮かび上がる。
現在使用可能メモリ:334.96
『力は全てを凌駕する』を開発した直後は328メモリだった。
そこから21日。
毎日0.1%ずつ、複利式で増えている。
そして、その下にはもう1つの数字。
現在身体性能:103.0301
次回成長まで:あと7日
能力発動時の身体性能を100とする。
7日後に101。
14日後に102.01。
そして21日後の今日、103.0301。
すでに3回の成長を終えている。
明日になって、急に数字が増えるわけではない。
次に上昇するのは7日後。
それまでは現在の身体へ慣れ、技術とのずれを修正する期間となる。
今日の試合で、最後の一歩が以前より軽かった。
組み技の相手へ持ち上げられながら、姿勢を戻せた。
その一部には、3%の成長も影響しているのだろう。
だが、それだけではない。
5年間の基礎がなければ、相手の重心を読むことはできなかった。
押し出す方向も分からなかった。
絶を使う瞬間も選べなかった。
能力と武術。
どちらか一方ではない。
5年間積み上げた基礎へ、これから身体能力が積み重なっていく。
「悪くないな」
フクリは小さく笑った。
何もしなくても増える。
眠っていても。
休んでいても。
試合へ負けたとしても。
時間さえ経てば、メモリも身体能力も少しずつ増えていく。
もちろん、それだけで強くなれるとは思わない。
身体能力が高くても、経験がなければ相手の攻撃を読めない。
力加減もできない。
だから天空闘技場へ来た。
焦らず。
1試合ずつ。
1週間ずつ。
自分の武術と身体を、同じ速度で成長させていく。
フクリは紙を畳み、絶へ入った。
明日も試合がある。
身体性能は103.0301。
目標は190階。
その道のりは、まだ始まったばかりだった。