第13話 積み重ねた日々
ジャポンを旅立ってから、季節は何度も巡った。
3人は世界各地を旅しながら、ビスケの仕事を手伝っていた。
険しい山脈。
誰も踏み入らない洞窟。
雪に閉ざされた渓谷。
火山地帯。
宝石や希少鉱石は、人が簡単に近付けない場所ほど眠っている。
そのため、依頼人がストーンハンターを頼るのだった。
◇
「フクリ、その岩を少し右へ動かせる?」
「はい」
目の前には、人の背丈ほどもある岩。
フクリは腰を落とし、静かに力を込める。
ゆっくりと岩が動き始めた。
ゴゴゴ……
鈍い音を立てながら、岩が横へ転がる。
「ありがとう」
その奥には、小さな亀裂が現れた。
ビスケは迷わず中へ入っていく。
数分後。
「見つけたわ!」
嬉しそうな声が響いた。
フクリとウイングも中へ入る。
岩壁には、透明な結晶がいくつも顔を覗かせていた。
「綺麗ですね」
ウイングが目を輝かせる。
「これは価値があるんですか?」
「十分あるわ」
ビスケは優しく結晶へ触れた。
「でも、本当に価値があるのは、その奥よ」
慎重に周囲を削っていく。
しばらくすると、握り拳ほどもある青い結晶が姿を現した。
「……これよ」
ビスケは満足そうに微笑んだ。
何年経っても、この瞬間だけは子どものような笑顔になる。
◇
旅は続いた。
依頼を終え。
次の町へ向かう。
また新しい依頼を受ける。
時には数週間山へ籠もることもあった。
その間、フクリは護衛だけでなく、採掘も手伝うようになっていた。
「フクリさん」
ある日、ウイングが尋ねる。
「前より力が強くなっていませんか?」
「そう見えますか?」
「岩を動かすのが前より簡単そうです」
フクリは少し考えた。
「慣れたからでしょう」
「そうでしょうか……」
ウイングは納得したような、していないような表情だった。
旅を続ける中で、何度か同じ違和感を覚えていた。
以前より強くなっている。
しかし、それは毎日少しずつ。
あまりにも自然な変化だった。
◇
その夜。
野営地。
焚き火を囲みながら夕食を食べ終える。
ウイングは、いつものように瞑想を始めた。
心源流へ入門してから、一日も欠かしていない習慣だった。
フクリとビスケは少し離れた場所で話している。
「最近どう思います?」
フクリが小声で尋ねる。
「そろそろね」
ビスケも小さく頷いた。
「私も何度か気付いてる」
「やはり」
「フクリを見てる時、不思議そうな顔をしてることが増えたわ」
フクリも同じことを感じていた。
ウイングは何かに気付き始めている。
まだ正体は分からない。
だが、何かがおかしいと感じ始めている。
◇
しばらくして。
「……師匠」
瞑想を終えたウイングが立ち上がった。
「何?」
「最近、少し変なんです」
「何が?」
「フクリさんです」
フクリは静かに耳を傾ける。
「一緒に歩いていると」
「はい」
「すごく強い人に見える時と、普通に見える時があります」
ビスケは静かに笑った。
「やっぱり」
「え?」
「その感覚は間違ってないわ」
「本当ですか?」
「ええ」
ウイングは驚いた顔になる。
「でも理由は、まだ教えられない」
「どうしてですか?」
「もう少しだけ早かったから」
「……」
「でも」
ビスケは優しく微笑む。
「安心しなさい」
「その疑問は、もうすぐ全部分かるわ」
◇
翌朝。
ビスケは2人を呼び集めた。
「ウイング」
「はい!」
「今日から修行を一段階進める」
「はい!」
「今まで続けてきた瞑想や基礎訓練は、この日のためにあったの」
ウイングは真剣な表情で頷く。
「今日から教えるのは、心源流のさらに深い技術」
「その内容は?」
「焦らない」
ビスケは笑う。
「これから少しずつ教えていくわ」
「分かりました!」
こうしてウイングは、新たな修行へ進むことになった。
その修行は旅を続けながら行われ、少しずつ新しい世界への扉を開いていくことになる。
◇
そして。
3人の旅は、まだ終わらない。
鉱石を探し。
依頼をこなし。
修行を積み重ねる。
恋人となったフクリとビスケも、派手に愛情を語ることはない。
それでも隣にいることが当たり前になり、お互いを支え合う毎日を過ごしていた。
積み重ねた時間は、2人の絆を少しずつ深めていく。
やがて、その積み重ねは、新たな能力を生み出す時へと繋がっていくのだった。