第14話 第2の故郷
ウイングが新たな修行を始めてから、さらに年月が流れた。
旅は変わらず続いている。
ストーンハンターとしての依頼をこなし、修行を積み重ね、各地を巡る日々。
フクリの身体も、誰にも気付かれないほどゆっくりと、それでいて確実に強くなり続けていた。
◇
ある朝。
3人は山奥の湖で休憩を取っていた。
ウイングは少し離れた場所で修行をしている。
ビスケは湖畔へ腰を下ろし、景色を眺めていた。
その時だった。
「……来ました」
フクリが静かに呟く。
ビスケが振り返る。
「1000?」
フクリはゆっくり頷いた。
「はい。」
「使用可能メモリが1000になりました。」
ビスケは自然と笑顔になる。
「おめでとう。」
「長かったわね。」
「本当に。」
16歳で転生能力を完成させてから十数年。
よくやく次の念能力だ。
◇
「今日は依頼を休みましょう。」
ビスケが言う。
「能力を作る方が大事よ。」
「ありがとうございます。」
2人はウイングへ声を掛けた。
「ウイング。」
「はい!」
「今日はここで自由訓練。」
「夕方まで好きに修行していて。」
「分かりました!」
ウイングは疑うことなく森へ入っていった。
姿が見えなくなる。
フクリとビスケは顔を見合わせた。
「行きましょう。」
「ええ。」
◇
湖の奥。
人の気配がまったくない場所まで歩く。
フクリは深く息を吸った。
「設計は、もう完成しています。」
「最近ずっと考えてたものね。」
「あなたが大切になった日から。」
ビスケは静かに頷く。
その言葉の重さを知っていた。
フクリはゆっくり目を閉じる。
頭の中には、一つの空間が浮かんでいた。
安心して帰れる場所。
誰にも壊されない場所。
時間さえ止められる場所。
そして。
いつか転生した後も残る場所。
イメージは揺るがない。
「能力名。」
フクリは静かに口を開く。
「『第2の故郷』」
オーラが静かに集まり始めた。
長い時間を掛けて積み重ねたメモリが、一気に形へ変わっていく。
周囲の空気が僅かに震える。
数分。
誰も言葉を発さない。
ビスケも邪魔をせず見守っていた。
やがて。
フクリがゆっくり目を開く。
「……完成しました。」
その声には、今までにない達成感があった。
◇
「成功したの?」
「はい。」
「入ってみますか。」
「え?」
フクリが右手を前へ出す。
何もない空間へ触れるように手を伸ばすと、景色が静かに歪んだ。
その先には、小さな部屋があった。
畳が6枚。
木の壁。
木の天井。
窓はない。
何も置かれていない、静かな空間。
「ここが……」
ビスケはゆっくり中へ入る。
「第2の故郷。」
「はい。」
フクリも中へ入った。
「広くはないわね。」
「最初は6畳です。」
「ここから育てるんですね。」
「100メモリで2畳拡張。」
「500メモリを一度に使えば、新しく6畳の部屋を作れます。」
「面白い能力ね。」
ビスケは壁へ触れる。
冷たくも温かくもない。
不思議な感触だった。
「時間停止は?」
「外へ出て試します。」
◇
2人は部屋を出る。
フクリは能力を閉じた。
景色が元へ戻る。
「これで、中の時間は止まっています。」
「便利ね。」
「まだ家具も何もありません。」
「でも。」
ビスケは微笑む。
「本当に家みたい。」
「そう思ってもらえましたか。」
「ええ。」
しばらく静かな時間が流れる。
風が湖を渡る。
「ありがとう。」
ビスケが小さく言った。
「私のために、この能力を作ってくれて。」
「俺のためでもあります。」
「俺は。」
フクリは穏やかに笑う。
「あなたと帰れる場所が欲しかっただけです。」
ビスケは少し俯き、照れたように笑った。
「そういうことを、真面目な顔で言うのよね。」
「本心なので。」
「知ってる。」
ビスケはそっとフクリの手を握る。
「この場所。」
「2人で育てましょう。」
フクリは静かに頷いた。
「はい。」
世界中を旅してきた2人に、初めて”帰る場所”ができた瞬間だった。