第15話 約束の場所
第2の故郷を開発してから数日。
3人は依頼を終え、人気のない山中で野営をしていた。
ウイングは少し離れた場所で、新しい修行を続けている。
フクリとビスケは、湖のほとりへ歩いていた。
「今日はいよいよ検証ね。」
「はい。」
フクリは右手を前へ伸ばした。
空間が静かに揺らぎ、見えない扉が開く。
「どうぞ。」
「失礼するわ。」
2人は第2の故郷へ入った。
◇
畳が6枚。
木の壁。
何もない静かな空間。
前回と変わらない景色だった。
「やっぱり落ち着くわね。」
ビスケは畳へ腰を下ろした。
「まだ何も置いていませんけど。」
「だからよ。」
余計な物が何もない。
静かな空間だった。
「まずは生活できるようにしたいですね。」
「机くらい欲しいわ。」
「布団も必要です。」
「台所も。」
「500メモリ貯まったら別の部屋を作れます。」
「寝室は別にしたいわね。」
「書庫も欲しいです。」
「本を読む場所?」
「能力設計を考える場所です。」
ビスケは笑った。
「やっぱりフクリらしい。」
◇
2人は一度外へ出た。
フクリは近くに落ちていた木の箱を持ち上げる。
「これを中へ入れます。」
箱を運び込み、部屋の隅へ置く。
再び外へ出る。
「閉じます。」
空間が静かに消えた。
それから数時間。
湖畔で昼食を取りながら時間を過ごした。
「そろそろ確認しましょう。」
再び入口を開く。
部屋へ入る。
箱は置いた時と全く同じ状態だった。
「変わってない。」
「時間停止は成功しています。」
「食べ物も保存できそうね。」
「そのための能力でもあります。」
フクリは静かに頷いた。
◇
しばらく部屋を見回ったあと、ビスケが口を開いた。
「ねえ。」
「はい。」
「この能力。」
「本当は最初から私のために考えてたんでしょ。」
フクリは少しだけ考えた。
「半分正解です。」
「半分?」
「最初は、自分だけの避難場所を考えていました。」
「転生のため?」
「はい。」
それが始まりだった。
「でも。」
フクリは畳へ腰を下ろす。
「今は違います。」
「……。」
「あなたと出会ってから、この能力の意味が変わりました。」
静かな空間に声だけが響く。
「ここは。」
フクリは部屋を見回した。
「俺が帰る場所ではありません。」
「俺たちが帰る場所です。」
ビスケは何も言わなかった。
ただ、静かにその言葉を聞いている。
◇
「私。」
ビスケが小さく笑う。
「こんな能力を考える人、フクリくらいだと思う。」
「そうですか?」
「普通はもっと強い能力を作るわ。」
「戦う能力とか。」
「敵を倒す能力とか。」
「その方が便利です。」
フクリは首を横へ振る。
「俺は。」
「帰る場所の方が大切でした。」
ビスケは小さく息を吐いた。
「負けたわ。」
「何にです?」
「考え方。」
「私は強さばかり見てた。」
「フクリは違った。」
「帰れる場所を作った。」
「だから。」
ビスケはゆっくり笑う。
「好きになったのかもしれない。」
フクリは照れたように頭を掻いた。
「それは嬉しいですね。」
◇
2人は第2の故郷を出る。
空間は静かに閉じられた。
帰り道。
森の中を歩きながら、ビスケが言う。
「次は?」
「あと400メモリです。」
「能力は決まってる?」
「はい。」
「名前も?」
「『旅は道連れ』です。」
「内容は?」
フクリは少し笑った。
「完成してから話します。」
「秘密?」
「まだ途中なので。」
「珍しいわね。」
「失敗したら困りますから。」
ビスケは頷いた。
「完成するまで待つ。」
「ありがとうございます。」
フクリは空を見上げた。
第2の故郷は完成した。
だが、それだけでは足りない。
本当に欲しかった未来へ辿り着くには、あと一つ。
最後の能力が必要だった。
その日を目指し、3人は再び長い旅へ歩き始める。