第16話 旅は道連れ
第2の故郷が完成してからも、旅は終わらなかった。
3人は変わらず世界を巡る。
ビスケはストーンハンターとして各地の依頼をこなし、希少な鉱石を発見しては依頼人へ届ける。
ウイングも旅を重ねるたびに成長し、心源流の技術を着実に身につけていった。
フクリもまた、自分の能力に頼ることなく武術を磨き続けていた。
どれだけ身体能力が上がっても、技術を疎かにはしない。
積み重ねること。
それこそが自分の強さだと信じていた。
◇
時は静かに流れる。
旅の途中、第2の故郷には少しずつ物が増えていった。
机。
椅子。
本棚。
保存食。
寝具。
調理道具。
広さはまだ6畳しかない。
それでも、そこはもう空っぽの部屋ではなかった。
フクリとビスケが帰る場所。
2人だけが知る、小さな故郷だった。
◇
ある日の夕方。
依頼を終えた3人は、小高い丘で野営をしていた。
ウイングは修行を終えると、先に眠りにつく。
焚き火の前にはフクリとビスケだけが残った。
フクリは静かに目を閉じる。
長い年月、待ち続けた感覚。
それがついに訪れた。
「……来ました。」
ビスケが優しく微笑む。
「400?」
「はい。」
「ようやくです。」
ビスケは焚き火を見つめながら頷いた。
「これで最後ね。」
「第3章最後の能力です。」
◇
翌朝。
ウイングへ自由訓練を命じた2人は、人気のない谷へ向かった。
何度も能力開発を行ってきた場所だった。
「設計は終わってる?」
「第2の故郷を完成させた時には、ほぼ終わっていました。」
「じゃあ迷いはないわね。」
「ありません。」
フクリは静かにオーラを練る。
今回の能力は複雑ではない。
空間を作るわけでもない。
身体を強くするわけでもない。
ただ一つ。
未来へ繋ぐためだけの能力だった。
「能力名。」
フクリはゆっくりと口を開く。
「『旅は道連れ』」
静かなオーラが身体を包む。
派手な変化はない。
光も。
衝撃も。
何も起こらない。
数分後。
フクリはゆっくりと目を開いた。
「完成しました。」
◇
「どんな能力なの?」
ビスケが尋ねる。
フクリは静かに答えた。
「俺が選んだ人を。」
「転生する時、第2の故郷へ迎えに行く能力です。」
ビスケは黙って聞いている。
「迎えられた人は。」
「自分の意思で断ることもできます。」
「無理やりじゃないのね。」
「はい。」
「選ぶのは本人です。」
ビスケは安心したように笑う。
「それなら安心。」
「俺も、それが良かった。」
誰かの人生を勝手に決めたくはない。
最後の選択だけは、本人に委ねる。
それがフクリの答えだった。
◇
「ビスケさん。」
フクリは真っ直ぐビスケを見る。
「はい。」
「この能力で。」
「あなたを登録したいと思っています。」
静かな風が吹く。
ビスケは少しだけ驚いた顔をしたあと、柔らかく笑った。
「聞くまでもないわ。」
「私は。」
「断らない。」
迷いのない返事だった。
「ありがとうございます。」
「でも。」
ビスケは指を一本立てる。
「一つだけ約束。」
「何でしょう。」
「まだまだ死なないこと。」
フクリは笑う。
「もちろんです。」
「第2の故郷も、もっと広くしたいですから。」
「部屋も増やしたいし。」
「宝石を飾る部屋も欲しいわ。」
「書庫も必要です。」
「台所も。」
「寝室も。」
気付けば、2人とも笑っていた。
◇
ビスケはゆっくりとフクリの前へ立つ。
「これで。」
「本当に次の人生まで一緒なのね。」
「はい。」
「長い付き合いになるわよ。」
「望むところです。」
「何回転生しても?」
「何回でも。」
ビスケは照れ笑いを浮かべる。
「じゃあ。」
「次の人生も。」
「よろしくね。」
そう言って、右手を差し出した。
フクリも右手を重ねる。
固く握手を交わす。
恋人として。
相棒として。
そして。
未来まで共に歩く約束として。
◇
夕暮れ。
2人はウイングの待つ野営地へ戻っていく。
まだ旅は終わらない。
世界には見たことのない景色があり。
見つけていない鉱石があり。
積み重ねるべき年月がある。
フクリは歩きながら空を見上げた。
能力は完成した。
未来へ繋ぐ準備も整った。
ここから先は、さらに長い物語になる。
そして。
積み重ねた時間は、いつか必ず次の人生へ繋がっていく。
第3章 完。