甲高い音は、途切れることなく続いていた。
一度、二度。やがて連続する破裂音に変わり、壁越しにも伝わる震動が、足の裏にまで届いた。
「――もう、見つかったようですね」
シヴァはそう言い残すと、四人の返事を待たずに部屋を飛び出していった。
「な、なんだよ、今の音……」
俺は壁に手をついて身構える。震動は止まらない。むしろ、少しずつ近づいてきていた。
椎花は無言のまま扉を睨み、柚乃はその隣で久龍の袖をそっと掴んでいた。
俺が動き出そうとした矢先、轟音とともに、部屋の壁が突き破られた。
何かが吹き飛ぶ音がして、青い肌をした魔族の兵士が、瓦礫とともに室内へ転がり込んできた。そのまま、動かなくなる。
砂埃の向こうから、全身を鎧で覆った、見知らぬ人間の一団が姿を現した。
「――待て、人間だと!? こんな場所に……」
先頭の一人が声を上げる。俺たちと同じ人間だ。それだけで、束の間の安堵が胸に広がった。
「た、助けて――」
柚乃が声を張り上げるのと同時に、先頭の男の視線が、四人の首元で止まった。
「……その首の代物は、何だ」
警戒するような声色だった。
「下がれ! 何をされているか分からない!」
「――やめ、待って――」
俺が言い切るより早く、鎧の男が、腰の得物に手をかけた。
だが、それより先に、俺たちの首輪が、ひとりでに一斉に赤く光った。
首元から、体の中を雷が走る。肌を刺すような痺れが、一瞬で指先まで広がった。
悲鳴にもならない声を上げ、四人はその場に崩れ落ちる。視界が白く弾け、音が遠のいていく。
柚乃の手が、伸びたまま床に落ちた。椎花の体が、力なく横たわる。久龍が何かを叫んだ気がしたが、もう言葉にはならなかった。
怒号と剣戟の音が、崩れた壁の向こうから次々と響いてくる。騎士たちの意識が、そちらへ引きつけられていくのが分かった。
崩れた壁の穴から、異形な体の兵士が幾体もなだれ込んでくるのが、霞む視界の端に映った。鎧の男たちの剣がそれを迎え撃つ。金属同士がぶつかる音が、幾度も幾度も重なって響いた。
数を減らしても、なだれ込む兵士は途切れない。怒号に混じって、誰かの呻き声も聞こえた気がした。
ぼやけた視界の中に、シヴァが戻ってくるのが見えた。一人ではなかった。同じ青い肌をした仲間を、何人か引き連れている。
言葉はなかった。ただ、力の抜けた椎花の体を、柚乃の体を、久龍の体を、それぞれが手分けして抱え上げていく。
待って――そう叫びたかったが、舌の根が痺れて声にならない。指先さえ、握り込むことができなかった。
俺の意識も、急速に薄れていく。
最後に残った俺へと、青い肌の手が伸びてきた。指先が、肩に触れる。
その時だった。
「――やめろ」
低い声とともに、何かが割り込んでくる。伸びていた手が、弾かれたように離れた。
鈍い音がして、何かが崩れ落ちる気配が、霞む視界の端をかすめた。
視界の端で、別の黒い影が動く。シヴァたちのものではない、誰かの腕が、俺の体をすくい上げた。触れた腕の感触は、シヴァの冷たさとは違う、硬く乾いた温度をしていた。
「――大丈夫だ、息はしている」
聞いたことのない声だった。
男の視線が、一瞬だけ他の場所に向く。椎花たちが倒れていたはずの場所には、もう誰もいなかった。
「――ちっ、遅かったか」
舌打ち混じりの呟きが、俺の耳にかすかに届いた。
その声の主が誰なのか、確かめる前に――俺の視界は完全に閉じた。